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第七十三話 案外頑固だな

「……っち……またか」


 コメットの後をついていって数分置きに魔物と遭遇する。

 今回はジャイアントラットという、大きな牙が特徴の巨大ネズミだ。

 いつもなら喜んで狩りをするものの、今は少し急いでいるのでイライラするだけだ。

 短剣を抜こうとして、ハッとする。

 ドラゴンとの戦闘で、ブロンズククリは全壊、拾うことも出来ずに武器がない。


「素手ってか?」


 リドルグじゃあるまいし、そんなことすんのかよ。

 ……しなきゃならないか。

 武器が無いのだから。


「ギャアッ!」


 コメットが先制攻撃を仕掛け、ジャイアントラットにダメージを与えている。

 コメットに任せるというのも出来そうだが、少しでも時間を短縮するために俺も参加した方がいい。


「……らぁっ!」


 速度をつけた拳を振るう。

 ジャイアントラットにヒットし、少し仰け反る程度のダメージを与えた。

 ……不思議と手への痛みは少ない。


「にしても……速度を乗せて威力が上がるとか、ねぇのか?」


 ダメージは本当に攻撃力依存なのだろうか。

 素早さは全然関係ないのだろうか。

 そりゃ、素早さが高ければ手数は増えるが、堅い敵にはどうしても詰み確定だ。

 そんな事を考えてる間にコメットがトドメを刺していた。

 尻尾での攻撃でジャイアントラットが絶命する。


「ギャウッ!」


「よくやったな」


「ギャアッ」


 俺はコメットを撫でながら言うと目を細めながら気持ち良さそうにしていた。

 ……コメットも、強くなってきてるもんな。

 俺が弱いままでどうすんだよ。


「……行くか」


 コメットは俺の言葉に反応し、先導する。

 俺はそのコメットの後ろを走り、ひたすらに考え事をしていた。

 ……強くなるにはどうしたらいい。

 ステータスの上昇面はもう、称号に頼りきるしかない。

 それとは他に、スキルがあれば……。


「どうすれば覚える……? 何を、すれば」


 ……つうかあっても素手でやるようなヤツになりそうだな。

 武器を使って戦う方が良いんだが。

 短剣のスキルとか、そういうのがほしい。

 ……って、今、武器がないから素手でのスキルの方が良いか。


「あーくそ……考えがごっちゃになるな」


 そもそも、今まで短剣を使ってきたのに、スキルが出ないって事は無いんじゃないか?

 武器スキル。

 ……いや、仮面女は使ってたよな?

 五月雨槍だっけか。


「後で聞いてみるか……どうやって覚えたかを」


 そう考えつつ、俺は足を止めることはなかった。

 コメットも無論、走るのをやめない。

 流石コメットか……。

 これまで、一度も振り返ったりせずに、走ってくれる。

 多分、もう分かっているのだ。

 ティナのいる場所を。


「……今は、ただ走るだけってか」



 ・



 ・



 ・


 ・


 ・

 ・

 ・


 しばらく走ると、小さな音が聴こえた。

 まるで、ドラゴンの咆哮のような……しかし、ドラゴンとはまるっきり違う音。

 ……なんか居やがるのか?

 コメットの走る方向から聴こえてる気がするが……。

 ……まさか……!


「コメット! 俺は先に行ってるからな!!」


 まだ慣れてもいない、全力疾走を行う。

 視界がぶれ、辺りの景色が目まぐるしく変わる。

 吐き気等を感じ、当たる風も痛い。

 そんな思いをしながらも俺は走る。

 遅れたらシャレにならない。

 まじでシャレにならない。


 見えたのは、黒い鱗を纏った、ワニとそれの巨体に吹き飛ばされ、宙を舞う…………、


「ティナ……ッ!」


 ティナだった。

 くるくると、きりもみ回転しながら徐々に落下していく。

 俺は間に合うように、全力疾走を続ける。

 間に合う……間に合う……間に合え……間に合わせる……!


「らぁっ!」


 跳躍でティナの体を受け止め、俺が下敷きになる形で地面に落下した。

 ミシッとか音がしたのは気のせいだろう。


「まに……あったな」


「…………幻覚……でも見てる……のかな…………メイ……さんが……」


 力のない声で、ティナが言ってきやがる。

 額から血が流れ出ていて、目は開いていないような程細目になっている。


「……でも、まだ……私……手伝わなきゃ…………うっ……!」


「無理すんなッ! 今は怪我を治すことに集中しろ!」


 HP残量を見ると、1/4を切ってるじゃねぇか。


「私が手伝わなきゃ……リューナちゃんが……!」


「わーったから。俺が行ってくる。お前は……」


「駄目……! 貴方が行くと、また無茶するから……!」


 ティナが掠れた声で言ってくる。

 それに少しだけ、声が出せなくなる。


「駄目……私が……私が行かなきゃ……私が……」


 手を使って強引に立ち上がろうとしている。

 腕は震え、脚もガクガクしてるじゃねぇか。

 そんな状態で立てるハズもなく、俺が支えることにする。


「お前はどうなんだよ。……お前は、無茶して良いのかよ……」


「私はいいの……! 私は、メイさんを守る……私が……メイさんを守る……だから、メイさんは私の後ろに……守ってあげるから……大切な弟だもの……それ……それくらい」


 意識……しっかりしてるか?

 顔の向きが定まっていない。

 キョロキョロと周囲を見渡している形になっている。


「……」


 俺は道具袋を漁り始める。

 そして、無言でそんなティナに薬草を口にぶちこんだ。


「……むぐっ」


「寝てろ。無茶すんな馬鹿」


 そう言って、俺はティナを担ぐ。

 沼地の近くじゃ、あのワニにやられそうだからな。

 この近くにあった、岩の影にティナを避難させる。


「私が……私が……」


「……」


 ティナが必死に俺の服を引っ張り始める。

 力は案外強く、ビリッと袖が破ける。

 ……そろそろ服変えないとな。

 いつまでも、俺の世界の服じゃ駄目だ。


「手伝うの……私が……」


「案外、お前って頑固だな……」


 そう言い残して俺はティナの傍を離れる。

 ティナは何かを掴もうと必死に空を掴む。


「駄目……駄目……私が……」


 涙が流れ、それでも何かに掴まろうとしている。

 ……その手を掴む。

 こんな姿、見ていて辛いからな。


「バトンタッチだ。ティナ。俺を信じろ」


「……信じ……ろ……?」


 それだけ言うと、素早く手を離しワニの元へと向かう。

 バトンタッチって言っちまったからな。

 こりゃ、倒さなきゃなんねぇなぁ。

 拳を構え、俺は目の前の敵を見据えた。

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