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第七十一話 何の……準備だ?

「……ということだ。出来れば協力してほしい」


「もちろん! でも……メイさんは……」


「分かっている。流石にそこまでやってもらおうとは思わない」


 ……俺はティナと仮面女との会話の途中で目が覚めたらしい。


「分かったよ。いつ出発するの?」


「……明朝が良いだろう。準備はしておくな」


「うん」


「何の……準備だ?」


 重い体を起こして俺はティナらに質問した。

 その様子をティナは驚いたような表情で見ていた。


「……メイさんには関係無いよ。病人はちゃんと治して下さい」


「あのな……! ゲホッ……ゲホッ!」


「ほら! 悪化してる! ちゃんと寝ててよ!」


 そう言いながら、ティナが俺をゆっくりと寝かせ、ふぅとため息をつく。

 少しだけ表情を暗くしながら、何やら思い詰めているような顔をしていた。


「……何かあったのか?」


「ちょっと、ほんのちょっと、食材が足りないから私達、明日出掛けちゃうね」


「にしては……ゲホッ…………俺に言いづらそうな内容だったんじゃねぇか? なんではぐらかしたのかが説明……ゲホッ……つかん」


「はぐらかしてなんかいませんー。さ、病人は寝て寝て。ご飯の時間はまだですよ」


「あのな……!」


 凄く分かりやすい作り笑いでティナが言ってくる。


「ほら、早く治して、私を安心させて」


「ぐ……む……」


「ね?」


 ティナが少しだけ微笑みを向けてきて、何も言えなくなってしまう。


「……ゲホッ……わーった……」


「うん、よろしい!」


「……餓鬼じゃねぇんだが」


「餓鬼扱いじゃないよ。弟だと思って」


「弟でもねぇっつうの!」


 クスクスとティナが笑い、俺も毒気を削がれてしまう。

 全く……コイツは。


「ああ、その時には弟達と妹達を頼む」


「ゲホッ……おうけい。分かった」


 仮面女は微笑を浮かべ、頷いた。

 そしてティナに向かい、手を動かして何かのサインを作り出す。

 それに、ティナはコクリと頷き、俺に手を振ってからこの場を後にした。


「……さて、寝よう……ゲホッ……ん?」


 ふと、床に何か不自然な物が落ちているのに気がついた。

 キラキラと、金色に輝きながら、全くくすみも錆び付いてもいないそれを俺はベッドから出て拾い上げた。


「……鈴か?」


 首に提げる事が出来そうな、派手でもない、シンプルでいて、それでも綺麗だと思えるような鈴だった。


「……仮面女のヤツか? 落としていくとか……いや、鳴らなかったから違うか」


 チリンやリンリン等の音がしなかったから、多分初めから落ちていたのだろう。

 整理整頓くらいしとけよな。

 結構高そうな鈴なのに。

 俺は紐の部分を無造作に持ち上げ、テーブルの上に置いておこうと思った。

 ぶらんぶらんと揺れる鈴を見て、何か物足りない感じがしつつも、テーブルに置く。

 コンと、テーブルと金属の当たった軽い音が印象的だった。

 ……一度も金属音が……鈴の音が鳴っていないな。


「……鳴らしてみよう……ゲホッ」


 鈴を持ち上げ小さめに振るう。

 しかし、振っても振っても、音が鳴らない。

 ……壊れてんのか?

 こりゃ売れないな。


「……まーいいや。……俺が壊したとかないよな?」


 触れただけで壊れましたーとか最悪じゃねぇか。

 それこそ、仮面女が出してきたトラップだったのだ。

 そうだ、そうに違いない。


「俺は何も知らない……落ちてたから丁重に扱ってテーブルに置いただけだ……俺は無罪だ……」


 鈴をテーブルに適当に放り、ベッドへと戻る。

 そして、布団にくるまり、寝ようと試みる。


「……アイツの思い出の品……とかじゃないよな」


 ……仮面女があの鈴を見つける……。


『こんな所にあったのか……久し振りに音色を聴いてみよう』


 そして、仮面女が鈴を振るも音が鳴らない。

 おかしいと唸りながらも何度も、何度も鳴らす。

 それでも音は出ない。

 しまいには悲しげな表情で鈴を見て、こう呟く。


『大切な物が……私にとっての宝物が……』


 そのまま元気を無くし、笑顔を失う。

 ……すると、その目に怒気が混じり出す。


『いや、私は保管していたハズ……ならば誰か』


 といって俺に矛先を向ける。

 無実だと言い張っても、疑いが晴れることはない。

 そして、


『命を持って、償え……変態』


「誰が変態だ!」


 アイツ、妄想の中でも変態とか言ってきやがった!

 クソッ……腹立つわー。

 ……にしても、こんな妄想、絶対に当てにならないな。

 しかもだ。

 大事な物ならもっと別の場所に保管するし、それか肌身離さずに持つハズだ。

 あんな所に落ちていたなら、どうでも良いものか、ずっと持っていたい程大切な何かだな。


「ゲホッ……よし、一人芝居終了。俺は寝る」


 こんなどうでもいいことで悩んでるワケにはいかねぇんだよ。

 風邪が治らねぇのを悩め馬鹿。

 あまり、眠くもない。

 しかし、目を閉じて意識を闇へと溶け込ませる。

 眠くなくても、寝なければ治りは遅くなるだけだ。


「……すぅ……」


 いつの間にか俺は眠ってしまった。

 眠くなくても、意外と眠れるものだな。


 ・


 また、あの夢だ。

 ノイズの酷い、何者かの声。

 トーンも一定では無く、男だか女だか分からない。

 それになんか耳鳴りっぽい状態も続いてる気がする。

 音声なんか聴こえるワケもない。

 なんつってるのかは分からん。

 こっちから干渉しようとしても、声はでない。

 まるで、夢の中で金縛りにあってるような感覚だ。

 まったく……出来るならこう……会話をすれば何か分かるかもしれない。

 夢と言えば、予言とか、神のお告げとか、あとはもう一人の自分だったり。

 ……ゲームやアニメやライトノベル等の展開だけども。

 あ、また小さくなってきたな。

 そして、完全に音が無くなると、俺の意識はまた手離された。


 ・


「……ん」


 体のダルさが少しだけ和らいで、俺は起き上がる。


「あれ、起きたの? 丁度起こそうと思った所なの」


 開いた扉から、ティナが入り込みお碗を持って此方へと来た。

 微笑みを崩さずに俺の隣まで来てくれる。


「ゲホッ……」


「まだ少し咳が出てるね……熱っぽくない? 体はダルくない? 鼻は? 喉は?」


「楽になった。大丈夫だ」


 そう言うと、ホッとしたようにしてお碗に入っていたスプーンを取り出して、食べさせようとしてくる。


「……一人で食えるぞ」


「そう……なの? ちょっと残念」


「は? なんでだよ」


「弟の面倒を見るのがお姉ちゃんの仕事だから」


「あのな……」


 いつまでもポジションが弟なんだが。

 一歳違いでここまで扱いを露骨に変えてくる姉はいねえよ。

 俺はお碗を受け取り、独りでに飯を食い始める。

 ……ティナのいつも作ってるものとは違う、少し酸っぱくて癖になりそうなスープだった。

 中には野草が入ってる。

 匂いもいいし、流石ティナだな。


「どう?」


「ん、旨い」


「良かった」


 満足そうに笑っているので、少し顔を逸らす。

 直視なんか出来ない。

 なんか……ハズい。

 黙々と食べ続け、ご馳走さまと言ってお碗を帰した。


「……メイさんってさ……」


「ん?」


「……」


「……」


 ティナから話を振られたので、話すまで待つ。

 しかし、言いにくい内容なのだろうか。

 口を開けては、思い止まり、また話そうと思って思い止まったりしているようだった。


「どうし……ゲホッ……た?」


「ううん、ごめん。なんでもないや」


 ぎこちない笑顔で俺に向かって言う。

 ……何かあったのか?

 気になったなだが、何を言えばいいか分からず、そうかと言って会話は終わった。

 ……また俺はこの後、ベッドに入ったままだった。

 何故か餓鬼どもの乱入があったが。

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