第六十九話 ベッドの上にて
「ゲホッ……ゲホッ……」
俺は今、仮面女の家のベッドで寝ている。
腕を治したばかりの俺に無理をするなと、ティナに言われたからだ。
ティナは俺の腕を治した後、仮面女のもとへ行くと言って出ていってしまった。
「つか……風邪……また酷く……ゲホッ……なったか?」
俺は苦笑いをしながら、呟いていた。
しかし、最近らしくない行動ばっかしてる気がするな。
異世界に来た当時では全くしないような行動だった。
……ティナと逢って変わったのか?
それとも自分をよく見せようとする気になってるのか?
後者だとしたら馬鹿馬鹿しいな。
俺はふぅっとため息をついて、熱っぽい額に腕を乗せて天井を見上げる。
「ゲホッ……あり得ねぇよ」
なんでこんな世界で恋をせなならんのだ。
しかも相手はあんな子供っぽい考えをした歳上だぞ?
ったく……でも、なんで俺はアイツを意識し始めたんだ?
この前までは普通に何ともなかったのにな……。
「はぁ」
ため息を更につきながら、俺は眠ることにした。
どうだって、良いことだ。
俺にとって、アイツにとって、なんともない、なんでもない、どうでも良いこと……。
そう、思い込むことにした。
抑え込む事に……。
「……なんとも、ねぇんだ」
・
『…………き……え……』
これは……またあの夢か?
現実にしては軽く、そして色も全く分からない世界。
そして夢にしてはハッキリとしていて、気持ち悪い夢だ。
こんなもんを覚えたままとか、少し気味が悪い。
どうせなら富士や鷹や茄子が出て欲しいもんだよ。
『さん………………』
殆どを雑音に変えられてしまい、この声が何を言っているのかが分からない。
唯一、分かるのが喋っているという事実だけだ。
いい加減、伝えてきてくれねぇかな。
こんなんじゃ、ただ鬱陶しいだけだ。
全くよ。
『…………にん…………へ』
あークソッ!
イライラするなぁ!
もっとハッキリさせろよ!
怒鳴ろうと思ってもこんな場所では怒鳴ることも出来ない。
夢の中なのに、不便だな。
『…………』
雑音、ノイズが徐々に小さくなっていき、最終的には静かになった。
それに俺はため息をつく。
結局、なんで出てくんだよアイツは……。
夢の中で頭を巡らせながら、俺はこの声の事を考えていた。
・
「……ん」
「あっ……ごめん、起こしちゃって」
俺が目を開けると、ティナが覗きこむようにして俺の事を見ていた。
ふと、額にはひんやりと冷たい何かがあるのに気付く。
「冷たいな……」
「気持ちいいかな?」
「……ああ」
頭の熱が少しだけ下がっていくような事を感じながら、ティナを再度見る。
……相変わらず、綺麗な容姿に不思議と合っている銀の長髪が眩しくも感じる。
目を離そうと思うものの、中々離れずにいた。
「……どうしたの? 何か欲しいものでもある?」
「……い……や」
「もしかして私とかー? なんて!」
笑いながら冗談っぽく言ってくる。
ティナの頬が少しだけ赤く染まっていた気がしたが、やはり気のせいだろう。
「……もう少し……ゲホッ……寝るな」
「うん、早く善くなってね」
そんな言葉を聞いて再び意識を闇に手離した。
早く、治さなければ。




