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第六十八話 腕を治すのは苦

 ……ドラゴンを倒され、少しだけ虚しくなる。

 あれだけ頑張って削っていたのに、呆気なく仮面女に討伐されてしまった。

 なんだか、なぁ……。


「……仮面女が特別強い……ゲホッ……だけか、俺が弱すぎる……か」


 湿った草原の中、俺は自身の腕を探しに来ている。

 何処に吹っ飛んでいったのか、分からないので手当たり次第だ。


「ゲホッ……しっかし、本当、腕飛びすぎだって」


 これで三度目だろうか?

 しかも今回は両腕だ。

 流石に不便すぎる。

 主に痒いところを掻くのに不便だ。

 そして、奇跡的に左腕を発見し、俺は急ぎでその場所へ駆け寄る。


「ゲホッ……よしあった……素材袋に……どうやっていれんだ?」


 見つけたはいいが、どうやって入れるか分からない。

 というか、入れたら最後、出せないような気がする。

 ティナも仮面女も今は別行動中だしな。

 餓鬼どもの様子を見に行っている。

 怪我をしていたらと念のためにティナをあちら側へと行かせたのだ。

 ……あーくそ……どうしような。


「ギャウッ」


「……お、コメットか。無事だったか?」


「ギャアッ!」


 まるで頷いているかのような鳴き声でコメットが返事をした。

 ふと見ればいつの間にかいるよなお前。

 不思議なヤツだよ。


「俺の腕、持っててくれねぇか? 持てねぇんだ」


「ギャアッ」


 パクッと俺の腕はコメットにくわえられる。

 なんか凄い絵面だな。

 俺の腕をくわえてる狼と一緒に歩くとか。

 更に俺はもう片方の腕を探そうとした時、コメットが鳴き、ついてこいと言わんばかりに先行して振り返る。


「……頼む」


 コイツ、鼻も勘もいいからな。

 任せておこう。

 コメットはそれなりの早さで、原っぱを駆け、それを余裕でついていく。

 しばらく走ると、もう片腕が落ちている場所についたようだ。

 コメットはそれさえもくわえると、俺の方に駆け寄ってくる。


「……すまねぇな。ゲホッ……帰るか」


「フゴッ!」


 吠えているの……だろうが、くわえていて違う吠えかたになっていた。



 ・



 ・



 ・


 ・


 ・

 ・

 ・


「メイさんッ……!」


「ティナ? 餓鬼の様子を見に行ったんじゃ……」


「皆無事だったから、急いでこっち来たの!」


 慌てて、コメットから俺の腕を受け取り、ティナが指示を俺に出し始めた。


「……リューナちゃんの家のベッドで治そう。そこのが安心だから」


「へいへい」


 気のない返事をしながら、俺はティナの後へとついていく。

 その様子をティナはムッとしたような表情で見ていたが、何も指摘はしてこなかった。



「ほら、そこに寝て」


「わーってるって」


 ティナに催促され、俺はベッドへと寝る。

 ゲホッと咳をしながら倒れこんだ。


「……右からいくね」


「の前にタンマ。なんでティナ、俺の上に乗ってんの」


「動かないようにって決まってるよ」


「……」


 心なしか、顔が熱くなってきているような気がする。

 そうにも関わらず、ティナは真剣な表情で俺の右腕とにらめっこを始めていた。

 真剣な表情のティナも何処か惹かれるような気がする。

 ……と考えた瞬間、


「ッ……!!」


「我慢して……」


 堪えきれないほどの激痛が俺の体を襲う。

 痛い、の一言で片付ければいいのだが、その痛みが尋常じゃない。

 神経が強制的に覚醒させられているような変な錯覚が流れ込んでいるみたいで、身がよじれてしまう。


「ッ……ぁあッ!」


「我慢して……」


 堪らず、起き上がろうとするも、ティナが邪魔で上手く起き上がれない。


「動かないで! ああ、もう!」


「イッ……って……ゲホッ!」


 しきりに激痛が体を巡り、我慢しろと言われても出来る訳がない。

 腕が飛ばされた時は一瞬の痛みだった。

 これはその痛みを一生味わっているかのような気分だ。


「失敗……しちゃった……」


「ッ……てぇ……」


 涙目になってるのを自覚しながら、ブンブンと頭を振る。

 強引に目を乾かし、頭をハッキリさせる。

 痛みは少しずつ和らいでいき、それと同時に冷静さも取り戻していった。


「痛いのは分かるけど……でも我慢しなきゃ」


「……すまん」


 あークソッ……みっともねぇ……。

 異性の前で喚きながら、言われた事も出来ないなんてな。


「……ううん、こっちこそごめん……メイさん、頑張ったからこうなったのに……」


「頑張った……ゲホッ……から……か」


 頑張ったうちに入るかよあんなん。

 仮面女にかかれば速攻で片付いてたじゃねぇかよ。

 何処かに力が入ってる気がする。

 なんでだ……?


「……嫌かもしれないけど、動かないようにさせちゃうね」


「……って何を────!?」


 ふわっと柔らかい感触が俺の体を包む……。

 ドキドキと、心臓が高鳴り、うるさいほどに聴こえてくる。

 顔は熱くなり、目は見開き、何が起こったか理解する前に羞恥と嬉しさを感じた。

 そして、ハッとなってようやく理解する。


「……」


 動かないように、抱き締めてくれている。

 そして、そのまま、また治療を再開される。


「イッ…………」


 不思議と先程の痛みを我慢出来るようになり、数十秒という、長くて短い時間を耐え抜く事が出来た。

 ……片腕の治療が終わると、抱き締められていたのが無くなり、少しだけ寂しい気持ちになるが、それを心の中でぶん投げる。


「な、なにしてんだ!?」


「う、動かないようにしたの。お姉ちゃんだから、こういうのしなきゃ駄目でしょ!」


「えっ……あっ……はぁ……ゲホッ」


 お姉ちゃんだから、か。

 ……お姉ちゃん……ねぇ。

 俺は一度たりとも弟だと思ったことはない。

 一度たりとも、姉だと慕ったことはない。

 むしろ、好意を寄せる人としか最近では想えてないような気がする。

 気づいてくれなくていいのだが、それはそれでなんか寂しい気もする。


「じゃ、じゃあ、もう片方も。じっとしててね」


「……おうよ」


「我慢出来なかったら……その…………だ、抱き締めていいから」


「絶対やらねぇッ!! ゲホッ!」


 こっ恥ずかしい!!

 そんなんやったら!

 ティナがなんか、笑ってるが、少しだけその笑いは曇っている気がする。

 気のせいか。

 いや、まぁ、俺の為に無理をしてくれているからか?

 だったら絶対しねぇ。

 決めた、絶対に我慢してやる。


 そして、治療が始まり……、


「いだだだだッ!?」


 ベッドのシーツを握り締めるという、新しい避け方を手に入れた。

 ……まるで出産のような光景になるが。


「はぁ……はぁ……終わったよ」


「……すまねぇな、嫌だったろうに」


 申し訳ない気分になる。

 別に好きでもないヤツに抱き付いて、誰が嬉しいんだよ。

 俺が好意を持っていても、ティナは絶対持っていないハズなんだ。


「ううん、それに、忘れたの? こんなときは謝らないで……」


「……そうか、そうだったな……その、あ、あ、ありがとう……」


 面向かって、お礼を言うのはやはり慣れないな……。


「ふふっ……」


 そんなお礼なのに、ティナは笑いながら受け取ってくれたのだった。

 本当、俺はコイツに救われてばかりだ。

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