第六十六話 負けてねぇ
「ゲホッ……袋……袋は……」
右肩を抑えつつ、俺は道具袋を探す。
ここら辺に出てくるような敵じゃねぇよアイツ……。
自分のベッドの近くを探すも、ない。
キョロキョロと周りを見るとテーブルの上に袋が三つあった。
間違いなくこれだな。
素材、道具、貴重品袋。
その中から道具袋を見つけ、無造作に袋の中身を漁る。
出血止め用の薬草を強引に傷口に塗りつけ、HP回復用の薬草を噛み、飲む。
傷口に沁みるし、めっちゃ苦い。
HPは少しずつ回復し、どうにか100を越えた。
よし、これで一発くらい……運が良ければ助かるな。
俺は薬草を服用しつつ、ドラゴンのもとに向かう。
体のダルさを我慢しながら、俺は跳躍で屋根の上へと飛び乗った。
……コメットが苦戦しているのが分かるな。
いつもなら相手の攻撃を避けて、飛び掛かるハズなのに、ドラゴンの攻撃は止むことがなく、攻撃出来ずにいる。
「……苦戦……じゃなく、誘導してるのか?」
思えばこの建物からも、餓鬼どものいる家からも離れていた。
頭が回るなコメットは。
「ゲホッ……」
だりぃ……重い……それでも。
「なんで動くんだろうか」
自分自身に飽きれ、自分自身を笑う。
こんな痛い思いしながらなんで……。
体が動くんだ?
「ったく……ケホッ……よぉ」
俺は足を踏み出し、コメットのもとへ急ぐ。
全力で……とはいかないものの、腕を、足を振り俺は走る。
ドラゴンを……倒す。
コメットのもとへと行くと、忙しそうに回避行動を行っていた。
ドラゴンの攻撃は止まず、足を踏み鳴らし、尻尾を振るい、ツメで引っ掻いてきている。
それをコメットは危なげに、しかしどれも紙一重で避けていっている。
「よし……コメット! 行くぞッ!」
「ギャアッ!」
俺の考えが分かっているかのように、コメットが高らかに鳴いた。
ナイフを抜き、即座にドラゴンに乗り移る。
ターゲットは未だにコメットに向いているので、今のうちにありったけのダウンガードを掛ける。
どのくらい下げられるのかは分からないが、俺の攻撃が入るくらいには下がったんだ。
それ以上下がる可能性もあるかもしれない。
「ゲホッ……はぁッ!」
ナイフでドラゴンの背を横に切り裂く。
更に突き、斬り、また突きを繰り返す。
そんなことをやっていたからだろう。
ドラゴンが俺の事に気づいたようで、暴れ始める。
跳躍でドラゴンから待避し、息を整える。
本調子じゃないぶん、やはり体が重い。
「まだ浅い……か?」
まだ十数発しか当てて無いからな。
仕方ないだろ。
ナイフを握り締め、俺はドラゴンが暴れなくなるのを待つ。
しばらくすると、ドラゴンは疲れたように息を吐いたようで、それを見た俺とコメットはドラゴンに向かって攻撃を仕掛ける。
「ギャォオオオオオオオッ!!」
攻撃を仕掛けようと思った直後、鼓膜が破れそうな程の雄叫びがドラゴンから発せられ、耳を咄嗟に塞いでしまう。
コメットは驚いたように、後ろへと仰け反ってしまう。
直後、俺の体に衝撃が走った。
それは重く、鈍く、それでいて、痛みを伴うものだった。
吹き飛ばされ、更に衝撃が俺を襲う。
「ガホォッ!」
口から血反吐を吐き、体から力が抜ける。
ククリナイフは手から抜け落ち、体のありとあらゆる所の感覚がない。
何が起こった……俺は……どうした……。
「ゲホッ……ゲボッ……ガハッ……」
口から出てくる熱いものを吐き出し、荒い息を整えようと心掛ける。
しかし、それでも息は乱れたまま、元の呼吸になんかならない。
「ゲホッ……ぁ……ぁ……」
視界にHP15/185と表示されている……。
「へっ……へへ……カッコ……悪ぃ……ゲボッゲホッ!」
咳をするたびに血反吐が喉の奥から競り上がってくる。
なんで笑ってられるんだ……?
俺は……なんで逃げないんだ……?
今こそ逃げる時だろうよ……。
こんな敵に敵いっこない。
だから、逃げろよ……!
「……まだ……だ……」
思っていることと違う言葉を口にして、何故と思う。
だってそうだろう。
逃げようとしたいのに、なんで諦めない。
「俺はまだ……負けてねぇ……ゲホッ……」
負けなんだよ。
こんなにやられて、こんなに傷だらけになって、血反吐をこんな吐いて、何が負けてないなんだ。
勝てるワケねぇんだよ。
「俺が……負けねぇ……限り……ッ! 勝ちはまだ……あんだろ……!」
……こんな啖呵を俺は切る。
全く、不思議だよ。
諦めようと思ってんのに、なんで戦うか分かってねぇのに。
こんなことを勢いに乗って口に出すとは。
足は動く。
ガクガクと、震えながらも、立つのが精一杯であろうと、足は動く。
拳を握り、ナイフを手に取る。
一度は力を無くしたハズの手には再度、力が込められている。
「すぅ……ふぅ……ッ!」
目を閉じ、集中する。
音を聞き、精神を集中し、覚悟を……決める。
「行くぜ……! ゲホッ……」
ガタのきている足を動かし、俺は必死に走り出した。
「うぉおおおッ!!」
雄叫びを腹から出し、跳躍し、ドラゴンの背を駆け回る。
斬りつけ、凪ぎ払い、突き刺し、傷をつけ、俺は攻撃をする。
それにまた反応したような、ドラゴンは直ぐ様に暴れだす。
必死にへばりつき、俺は振り落とされないようにする。
ここで手を離せば死ぬ!
ここで落ちたら死ぬ!
攻撃を受けたら死ぬ!
滑るな、転ぶな、落ちるな、踏ん張れ!
「ッらぁッ!」
ナイフで突き刺し、それを支えにへばりつく。
先程よりも固定されたような感覚になり、俺はそのままへばりついていた。
しばらくして、揺れが収まり、それと同時に攻撃を開始。
いつまでも守ってばかりと思うなよ!
「死に……晒せぇええッ!!」
おもいっきりの一撃をドラゴンに叩き込んだ。
……ブシュッと小さいながらも何かが漏れだしたような音がする。
と同時に俺の体に液体が付着する。
……やっと……HPの半分切ったかッ!
「まだ……まだ!」
拳に力が入り、俺は睨み付ける。




