第六十五話 耐えててくれよ
ジリジリと距離を詰める。
この家を曲がった所に魔物がいるハズだ。
咳をなるべく出さないように、俺は注意する。
コメットはもう臨戦態勢に入っている。
俺もククリナイフに手を掛けて、いつでも抜くことの出来るようにした。
「……よし」
即座にパラライズを唱え、すぐに角を曲がった。
そこにいた魔物は……。
【ドラゴン】
青い鱗で覆われた魔物……。
巨大な図体で、長い首をキョロキョロと見渡している。
四足歩行の竜か。
……こんなでかかったのかー。
「ゲホッ……うっし! 当たれッ!」
左手に麻痺属性を付与しているため、左の掌でドラゴンの額に触れる。
しかし、獲物を見つけたとばかりに頭を振り払い、持ち前のツメで俺を引っ掻こうとする。
すぐにそれを避けて、ナイフで斬りかかる。
キィンッと甲高い音が鳴り響き、俺のナイフは通らなかった。
「ゲホッ……またかよ!」
いつもいつもいつもいつも!
なんで俺の攻撃は弾かれるかねぇッ!
「守りを破壊する力……宿れ、ダウンガードッ!」
いつものパターンで俺は相手の守備力を下げる事にする。
ドラゴンの噛みつきをヒラリと避け、顔を左手で触れる。
さらに、相手の背に乗り、ダウンガードを更に入れる。
二発くらい入れば楽に入るだろ。
俺はナイフで相手の背中を斬り込む。
「なっ……!」
弾かれた。
先程と同じように、甲高い音が鳴って。
どんだけ守備力たけぇんだよ。
「コメットッ!」
咳を堪えながら、大きな声で呼んだ。
するとコメットが宙から尻尾を回転させ凪ぎ払う。
ドラゴンの顔に当たり、少しだけ仰け反るが、それだけだ。
致命傷を与えられそうにはない。
……なら、守備力を格段に下げるまでだ。
パラライズが入ればぶっちゃけ楽なんだがな。
「つうか、麻痺耐性ありすぎだろ……ゲホッ」
ダウンガードを唱えて愚痴を溢した。
マジで、全然効かなくなってきてる。
耐性をガン積みされてるか、もしくは麻痺が成功してないかだ。
「試してみるか……?」
左手をドラゴンの背中にぶつけ、まずは守備力を下げる。
ドラゴンは体を暴れさせ、俺を振り落とそうとするものの、へばりついているため、それが出来ずにいた。
「麻痺の力……宿れ、パラライズ」
パラライズを唱え、瞬時にドラゴンの背中に掌を当てる。
……ドラゴンは一向に暴れ続けるだけだな。
麻痺に掛けるのはもうやめだ。
やはり守備力を下げていくようにしよう。
そう思い、ダウンガードを唱える。
「ゲホッゲホッ……」
視界が少しだけ霞む。
ヤバいな……頭がボーッとしてきてる。
戦闘に集中出来なくなるのは致命傷だ。
それに、このドラゴン、暴れるとなると見境なく周りを破壊していくので早めに決着をつけなければならない。
餓鬼の家や、仮面女の家が無くなったら困るしな。
「……くそ」
時間稼ぎなんていうあまっちょろい事はさせてくれそうもないな。
なんか進軍し始めたし。
俺を無視して何処に行こうというのだ。
「ダウンガード……!」
数回、ダウンガードを掛けてナイフを突き立てる。
すると、まるでスポンジを切るくらいの弾力になり、突き刺さるようになっていた。
その時、痛みに気づいたのかドラゴンがまたも、暴れ始めた。
「しまっ────」
ドラゴンに這いつくばっていたのだが、さっきの暴れ方で俺が吹き飛ばされてしまう。
「ッ────」
更に、ドラゴンの尻尾が凪ぎ払われ、遠くへと飛ばされ、家の残骸に叩き付けられた。
「ケホッ……ゲホッゲホッ……」
いってぇ……。
木材が右肩に突き刺さってるわ……。
HPが77/185と表示されている。
……おいおい……嘘だろ……。
「熱いと……ゲホッ……思ったら……ハァ……ハァ……血ぃ出てんのか……」
額から、肩から、足から……。
所々から出血しているのが分かり、苦痛に顔を歪ませる。
「ゲホッ……ゲホッ……」
なんで俺ばっかこうなるかね……。
クソッ……理不尽だわ。
そもそもなんで俺がこんなことやんなきゃなんねぇんだよ。
俺は関係無いだろ……。
あークソッ……いてぇ。
「……アイツの狙い……なんだ……」
俺を殺すワケでもなく、かといって反抗しないでもなく。
村を更に襲撃しているようにしか思えないんだが。
そう思い、観察しているとドラゴンが一瞬、大きく仰け反った。
……多分、コメットだな。
アイツ、攻撃をあまり受けないクセに自分からは攻撃を何発も与えるからな。
「いっ……つつ……」
風邪なのか、傷でなのか、どちらにせよとても重い体を引きずりながらも俺は立ち上がる。
「ハァ……ゲホッゲホッ……ゲホッ……ァア……」
口からも熱い、鮮血が出てくる。
血の塊を口から吐き出し、意識を保つ。
「まだHPはある……ゲホッ……いける……いける」
……でも、だ。
次、またあの一撃を喰らったら死ぬ可能性が高い。
失敗したら、死しか有り得ない。
……どうする?
「いける……のか……? ゲホッ……ゲホッ……」
いや、待てよ……?
俺は何のために薬草を買ったんだ?
俺は袋を探す。
腰にいつもなら提げているのだが……。
あれ、ないな。
…………。
「ゲホッ……仮面女の家か……!?」
袋を持ってきて無かったか!
最悪だ!
重い足を動かしつつ、俺は仮面女の家へと向かう。
薬草を使えば、辛うじてもう一発くらいは受けても平気だろう。
まだ、死にたくは……ないハズだからな。
「ドラゴンは……」
よし、まだ仮面女の家からも、餓鬼どもの家からも離れているな。
コメットが粘ってくれているようだ。
「もう少し……耐えててくれよ」
俺はそう呟いて、仮面女の家の扉を開けたのだった。




