第六十二話 風邪
「ハックションッ! ゲホッゲホッ……はぁ……ゲホッゲホッ……」
頭いてぇ……熱っぽー……だるぅ……。
結局、餓鬼どものお守りをリューナが来るまでやっていた。
ああークソ……。
晩飯はいいや……寝よう……あーいてぇ……。
重い……。
「あー……疲れた……ゲホッゲホッゲホッ……」
鼻水も止まらん……。
咳も止まらん……。
熱は確実にあるし、動くのがダルい。
風邪になって良いことはなんもねぇよ……。
「……やっとついた……ゲホッゲホッ……」
扉を開けると、コメットが出迎えた。
コメットの頭にポンッと手を乗せただけで対応を終わり、俺はベッドに潜る。
喉乾いた……だが、仮面女に迷惑がかかる……。
いや……こんな人の事考えるようなキャラじゃねーだろ……。
風邪で思考回路パッ壊れたか?
「ゲホッゲホッ……うぅ……さみぃ……」
毛布を掛けても寒さが退くことはない。
ゾクゾクする……いや、体温的に。
「……喉乾いた……熱い……寒い……あークソッ……ゲホッゲホッ……」
もう寝よう……いや、寝よう。
そうすりゃ、少しは楽になる……。
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「……さん……メイさん……メイさん!」
「んぁ……ゲホッ……なんだよ……」
折角、寝つけていたのに……。
頭にガンガンと音が鳴ってる……。
ダルい、重い、辛い……。
「何って……晩御飯の時間だけど……顔色悪いよ? 大丈夫?」
「晩飯はいらねぇや……ゲホッゲホッ……放っとけ……」
「……風邪引いたの?」
「……みっともねぇよなぁ」
ティナを休ませる為に居させて貰おうとしてんのによ……。
俺はティナに背を向け、眠りにつこうとする。
「仕方ないよ……何か欲しいもの、ある?」
「……水が……ゲホッ……飲みたい」
「分かった、すぐ持ってくるね」
「……悪い……」
情けねぇ……。
あーなんでこうなったんだよ……。
あの仮面女をまぁ?
信じることにはした。
しかしそれでも不安要素は幾つもあるだろ……。
もしも、襲撃されたらとか。
もしも、魔物が襲いかかってきたらとか……。
本当……間が悪いな。
「俺が……しっかりしねぇと……なんねぇのに……」
「ごめん! 待った? お待たせ!」
バンッと勢いよく扉が開け放たれ、ティナが入ってくる。
息を乱しながら俺の方に近づき、水の入ったコップを渡してくる。
「……悪い」
本当に申し訳ない気持ちだ……。
こんな状況で俺が風邪引いちまうなんてな。
弱っちいんだよ……。
無意識に拳に力が入るのを感じた。
……なんでこう、なるかね……。
「……何が?」
「風邪……引いちまって……ゲホッ……迷惑掛ける……」
「なんだ……そんなこと?」
「そんなことって……」
迷惑だろ……。
俺が風邪引いちまったら、戦いも出来ない……。
ティナとコメットだけで戦わせるなんて物凄い不安だ……。
「メイさんは大人しくしてればいいの。私がちゃんと看病するから」
ニコッと笑い、俺に言ってくる。
……看病……ねぇ……。
そういや、看病とかいつぶりだろうか……。
大抵、家に籠ってても誰も入らねぇし。
親はいつも仕事で遅いし、風邪引いてるときはとにかく寝てたっけか……。
そもそも看病なんざしてもらった覚えが……。
まぁ、ともかく水を飲み、空になったコップだけをティナに渡す。
「……ゲホッ……」
「苦しいよね……ゆっくり寝てて? 」
「……ああ、すまん」
「いいってば」
俺はティナに背を向けて、ゆっくりと眠りにつく。
不思議と、ティナが居るのが分かると寝つきが先程よりいい気がする。
……安心してるってか?
……有り得ないな、そんなことは。
目を閉じ、俺は微睡む。
ゆっくり寝てて……ねぇ……。
・
ここは……夢の中か?
不思議とそう思えてしまう、謎……。
真っ白なのか真っ黒なのか、はたまた色がついている空間なのか、それすらも分からない。
ただ、ここに意識だけがあった。
『……あ…………さ……ね……』
なんだ……?
誰の声だ……?
『……き…………て……ま……』
ノイズが入りすぎて、何を言ってるのやら……。
つか、まず誰よ、話してるの。
もう一人の俺とか言うなよ?
俺の人格は俺だけで充分だ。
『……つ……が…………か……』
あーもう、通信状況悪いなら光にしろよ。
フ○ッツ。
Wi-Fi飛ぶからあれ。
『…………に……く……く……』
つうか、こういうシーン、よくアニメとかで観てて馬鹿にしてたけど、自分に降りかかるとイラつくな。
何言ってんのかわかんねぇんだから。
『……』
あ、聞こえなくなった。
……なんだったんだ?
・
「メイさーん、晩御飯だよ?」
「……ゲホッ……あ?」
折角、寝ていたのに……ティナの声で目が覚めてしまった。
「ほら、何かお腹に入れないと」
「……いらねぇ……食欲ねぇから……ゲホッゲホッ」
「駄目、食べないと良くならないよ?」
そう言って、スプーンですくって俺に食わせようとする。
……スープのようだ。
嫌々ながらも、俺はそれを口に入れる。
「うん、いい子ね」
「餓鬼扱い……ん?」
「あ、気づいた? 久し振りに作ってみたんだ」
ティナは微笑みながら俺に向かって言ってくる。
このスープ……俺が異世界で初めて食べた物だ……。
あの時とは違い、塩っからくは無くなっていて、とても旨い。
「……懐かしいな」
「旅の中で少しだけ、練習したんだ。美味しい?」
「……ああ、旨い……ゲホッ……」
あの時は本当、辛かった……。
腹が減るのがあんな辛いとは思ってもみなかった。
思えば腹が減ったらすぐに食っていた毎日……それが急に変わったのだから仕方なかったんだろうけど。
それでも、本当に苦しかった……。
「……そういや……ティナも変わったよな」
「メイさんだって、少しずつ変わっていってるんじゃない?」
「……かも……な」
「……私は分からないけど」
「……え?」
小さな声だったので聞き逃してしまった。
しかし、ティナは首を横に振って何でもないと言ってくる。
「もう寝ないと。治らないよ?」
「……だな……ゲホッ……お休みだ……」
「うん、お休み……」
俺は目をゆっくりと閉じ、夢の中へと入っていく。
少しだけ幸せだと感じたのは……なんでだろうな。
自分で自分が最近、分からなくなっていた。
「……早く信頼されるように……ならないと」
少女は焦燥感に襲われていた。




