第六十一話 実太郎
「ゲホッゲホッ……」
はい、見事に風邪、悪化しましたー!
じゃねぇよ!
「あー……くそダルい……頭が重い……鼻がぐじゅぐじゅしてるし喉がイガイガだわぁ……ゲホッ……」
咳をしながら、俺は悪態をつく。
悪態をつくくらいの元気はあると取って良いだろうか……。
「あー……あれからどんくらい経った……? ゲホッ……餓鬼が起き……ゲホッ」
餓鬼が起きたくらいの時間になったか?
「……あー……気は乗らんが、やってやる……ゲホッ……」
それが、約束だから……。
俺はダルい体を起こし、家を出る。
まだ雨は降り続く……。
「餓鬼どもー……ゲホッ……起きたか……?」
扉を開き、かすれ声ながらもそんな言葉を出した俺は、目の前の光景に地味にうろたえる。
十四つの目ん玉がこちらを見た。
「……」
結構恐怖感があんぞ……。
「「「「「「「変態だーッ!」」」」」」」
「てめぇらッ! しばくぞこのやろッ……ゲホッゲホッ!」
無理に声を出して咳き込んでしまう。
さっきまでこんな不調じゃなかったろうに……。
つうか変態ってなんだ!?
アイツ……仮面女!
変なこと吹き込みやがったな……!
「変態がどうして来たの?」
「……リューナは?」
「あーあー……うっせぇ……ゲホッ……」
ぞろぞろと来やがって……。
餓鬼はこれだから嫌いなんだよ……。
「大丈夫ですか?」
「風邪ー?」
「……こっちの世界にも風邪っつう概念あるんだな」
はぁ……変なとこが元の世界と似てるな……。
未知の病じゃなかっただけマシか。
「はぁ……面倒を見るっつったって何やんだよ……ゲホッ……」
体がだりぃ……とりま座ろう。
そして、座った時に一人の餓鬼から本を渡される。
「読んで?」
「……お、おう、任せとけ」
その本を受け取り、パラパラとめくる。
……読めん。
「……」
「早く……早く」
「早くしてー!」
「わーってる……ちょい待て……ゲホッ」
咳を餓鬼に向けないように、手で口を覆いながら考える。
どうするか……絵だけで判断するっつうのもなんかな……。
てか何の話だあれ?
太陽みたいな絵や一人のヤツが何かに立ち向かってるような絵があったけど。
俺が改編してやろうかとも思ったがやめよう。
話の筋が絶対通らなくなる。
「……ゲホッ……なぁ、ちょっと……お前らの名前教えて貰えないか……ゲホッ」
「はいはーい! オイラ、ヨータ!」
うるさい位に言い放った男児はヨータか。
茶色のボサボサの髪に大きい笑顔。
鬱陶しそうだな……。
「次、あたしー! クロナミって言うんだよ!」
次が黒のポニーテールをした髪の女児のクロナミ。
コイツもコイツで疲れそうだ……。
「次はワタクシです。ワタクシはヒュウナと言います」
礼儀正しそうなのはヒュウナね。
ピンク髪のツインテール。
真面目っぽそうだからコイツはよしと……。
いや、でもコイツが本持ってきたよな?
「僕でいいかな? 僕の名前はテテ。よろしくお願いします」
しっかり者っぼい印象のヤツがテテな。
緑の特徴のないストレート。
なんだか覚えづらそうだな……。
「……ゲホッ……全員……じゃないよな……」
「ほら、紹介してください」
「そうだぜー!」
ヒュウナとヨータがまだ自己紹介を行っていない奴等に向かって言う。
おずおずと出てきたのが、チビだった。
「……シンラ」
周りのヤツよりも一際小さいヤツがシンラね。
黄色のショート……いや、セミロングか?
「ほら、シラも早く」
「え、えー……でも……」
クロナミって餓鬼が、白髪の餓鬼を引っ張りながら、説得している。
「……く、クロナミの妹の……しら、シラナミです……」
と答えた瞬間、クロナミの後ろへ隠れた。
人前に出るのが苦手なのか?
コミュ障のシラナミと……。
んで最後が……。
「……んー……? あー……ボクぅ?」
「ゲホッ……ああ」
少し掠れ気味の声で必死に応える。
喉がやられてんなぁ……。
「ロンー……だよぉ」
目がトローンと垂れ下がり、今にも眠りそうな顔をしている。
ムカつく表情だな……!
水色のストレートって感じか……。
寝ぼけてるロンな。
「よし……覚えられ……ゲホッ……られるかは分からねぇが、よろしくな」
俺は作り笑いをして、対応。
仕方ないだろう……餓鬼と戯れるのは慣れてねぇんだから。
そんなことを考えてると、ちょんちょんと隣からつつかれる。
「お兄さんの名前は……?」
ヒュウナが俺の名前を聞いてくる。
……そういや、言ってなかったか。
「変態ー!? 」
「あはッ! 変態ー!」
「うっせぇ! 言うな!」
ヨータが火種となり、クロナミという藁に燃え移った。
まじでやめてくれよ……頭が痛くなる……。
「ゲホッゲホッ……ゲホッ……俺の名前は……メイだ」
「よろしくーメイさーん」
「よろしくお願いします、メイお兄さん」
「兄ちゃん、よろしく!」
「よろしくお兄さん!」
テテ、ヒュウナ、ヨータ、クロナミから挨拶を受けるが、他の三人からは来なかったな。
……まぁ、いいか?
「さてと……ゲホッ」
どうするか……。
絵本を再度パラパラ捲るも、やはり読めない。
こういうときは……どうする……?
「読んでくれないですか?」
「……ゲホッ……別の話でもいいか?」
もう読めないなら作ればいい……。
俺のいた世界で、知らない人はほぼいないであろう、あの童話を少し弄るぜ……。
幸い、俺の言葉に殆どが頷いてくれた。
「ゲホッ……ゲホッゲホッ……あーあーんん……よし」
俺は口を開き、語り始める。
昔々……あるところにお爺さんとお婆さんがいた。
お爺さんは川へ洗濯へ、お婆さんは山へ狩猟に行きました。
洗濯をしていたお爺さんの元に、どんぶらこ……どんぶらこと川から大きな大きな木の実が流れてきました。
お爺さんはその木の実をお家に持ち帰り、大豊作のお婆さんと一緒に食べようと木の実を割りました。
すると、そこから出てきたのは、木の実から生まれた小さな小さな男の子でした。
その子供は実太郎と名付けられ、大切に育てられました……。
月日は経ち……。
実太郎は立派な大人になり、とてもたくましい者となりました。
その時、村を襲う、人間が現れたのです。
その人間と戦うも、実太郎は大きな攻撃を受けて、とても深い傷を負い、命からがら逃げ出してしまいます。
しかし、このままではいけないと思い、実太郎はあることを思いつきました。
自分一人で倒せなきゃ、仲間を集めよう。
この間にも人間は他の村を襲ってしまう、急いで集めなければ……。
しかし、上手くはいきません。
人間は恐ろしい程の力を持っていたからです。
「ゲホッ……ゲホッゲホッ……ゲホッゲホッ……」
あークソッ……続き言おうと思ったが、辛いなこりゃ……。
つかこれ○太郎のパクリなんだよな?
なんか全然違う話になってる感するんだが。
どうすんだこれ?
いや、まぁ続きは思い浮かんでるがよ。
「大丈夫?」
「ゲホッ……だい……ゲホッゲホッ……じょうぶ……」
アカン……クラクラしてきた。
少しだけ……少しだけ仰向けになりたい……。
でも……だ。
「すまん……続けよう……ゲホッ」
恐ろしい人間と戦う、勇気のある者は中々集まりません。
それでも実太郎は諦めなかった……。
必死に、必死に探し続けた結果、ついに仲間を見つけました。
実太郎は人間に勝つために、魔人……ではなく、魔物……を従えたのです。
一匹は空を飛び、一匹は地を駆け、一匹は今を考える。
そして実太郎は人間とまた、戦いました。
見事、実太郎は人間に打ち勝ち、平和を取り戻しました。
「かっけぇえええ!」
男性陣には好評のようだ。
ヨータは勿論、テテとロンも目をキラキラさせている。
「ゲホッ……ゲホッ……だろ?」
普通に桃○郎の話をしようとしたのに何故こうなった。
桃とかあるか分からないから木の実で代用しただけだし……。
……つうか冒頭から間違えてね?
お爺さんが川だっけか?
お爺さんが山だっけか?
「……あの……」
おずおずと手をあげたのはチビ……。
シンラだった。
「人間さんはなんで村を……襲ったんですか?」
「……おう、それはだな」
もう、オリジナルだからなんでもいいよな……。
実太郎は倒した人間に聞きました。
何故、君はこんなことをしたのかと。
そして、人間はこう答えました。
私たちの国は今は食料不足になっているのです。
だから、あなたたちの村を襲ってしまいました。
と。
その事に実太郎は怒りました。
なんでそれを話さないんだ……と。
実太郎は人間に手を差し伸べ、こう言います。
食料を私達の国が分けましょう。そして、今度は私達の国が危なくなったら助けて下さい……と。
人間はそれを快く受け、魔人と手を取り合いました。
そう、人間も魔人も、お腹も減るし、平和を望みます。
ですから手を取り合う事も出来るのです。
これから魔人のあなたたちは人間に会うでしょう。
しかし、差別をしてはいけません。
魔人も人間も同じように生きています。
それを忘れないで下さい……。
そうすればいつかきっと、魔人と人間の間にも、笑顔が生まれるハズだから……。
「ゲホッ……」
道徳の間違いかこれ?
なんか桃太○じゃねぇな。
なんだこれは?
「……」
餓鬼をどもが難しい顔をしている。
そりゃ、こんな事言われたんじゃ……な……。
「これも、違うカッコよさ……ゲホッ……だろ?」
「すっっっげぇええええ!!」
ヨータがやはりオーバーだな……。
「僕も実太郎になれるかな」
「……さぁな」
どうやら餓鬼どもには好評のようだな。
俺もコイツらの笑顔を見て、少しだけ頬が緩んだ気がする。
風邪は酷くなったが。




