第六十話 契約の破棄
「邪魔する」
俺はティナとコメットを連れて、仮面女と餓鬼がいる家へと来た。
餓鬼どもは食事を終えて、昼寝をしているようだ。
「……来たか。食事を用意しよう」
「折角だから場所変えようぜ。ここじゃお前と話をしたくても出来ねぇ」
それに仮面女は悪いなと言って、食事を持ってくる。
トレイに飯を四つ分か。
……なぜに四つだ?
まぁ、その辺は後でボチボチと分かりゃいいか。
俺らは仮面女の家に場所を移す。
「さて……食べるといい。と言っても、冷めてしまっているが……」
仮面女は机に食事を三つ置き、一つをコメットの前に置いた。
勢いよく、コメットは飯に飛びつき、食べ始めた。
その様子に仮面女は微笑み、椅子に座る。
俺らも椅子に座り、食事を取る体勢になる。
「……食べる前に……契約の破棄だ」
食事の前に俺はそんな事を言った。
それを聞いた仮面女はガタッと席を立ち、槍を構える。
「……弟と妹を……殺すのか……!」
「初めはそうしようと思ってたけどなー」
「メイさん!」
俺の言葉にティナが注意を諭す。
わーってるって……。
「普通に契約の破棄だ。餓鬼は勿論狙わない。それは約束する。だから飯とか、寝床の用意はしなくていい」
「……どういう風の吹き回しだ……」
「ちーっとコイツがうっさくてな……イテテテ痛い痛い!」
「人を指差さない」
人差し指でティナを指差すと、ティナは俺の耳を千切れんばかりに引っ張りやがった。
「……だから、こっちはお願いになんだがよ……」
頭を掻きながら、俺は言った。
「ティナだけでいい。せめて、今晩だけでも泊めてやってくれ」
「……メイさん?」
「……お前はどうするんだ?」
「俺は男だ。そんじょ其処らの餓鬼や女より柔じゃねぇよ」
「……どうすると?」
「あれ? 伝わんなかった系?」
野宿って分かるように言ったんだが……伝わんなかったか?
「外にいるさ。心配しなくても、いい」
「メイさんが野宿なら私だって!」
「……ほお」
ティナが言ってきたと同時に仮面女が感嘆の声を上げる。
「セレスティナの言う通り、根は優しいのだな」
「誰が優しいってぇ!? ティナ!!」
「ほ、本当の事言っただけだし!」
俺を優しいとか言うティナの目は節穴か?
自分でも分かるくらいにうざいヤツだというのは自覚している。
「……楽しそうだな」
仮面女が微笑みながらこちらを見ている。
このやり取りを普通に見てるのかよ……なんか恥ずいわ……。
「ねぇ、リューナちゃん。メイさんも泊めてくれないかな?」
「俺は別に……」
いいと答えようとした瞬間、ティナの指で遮られる。
「悪い人じゃ……ないでしょ?」
ティナがニッコリと笑い、リューナに見せる。
それにリューナは小さく笑いながら答えた。
「……そう……かも……な」
「だから……お願いします。私達を一晩だけでもいい……泊めて下さい」
ティナは頭を下げた。
俺も、変な意地は捨て去って、頭を下げる。
「……人間を泊める……か。それも無償で……」
「別に……泊めてくれんなら料理以外何かやるぜ。料理以外」
「何故二度言った?」
苦手の前に出来ないっていう次元だからだよ。
言わせんな。
「……では、弟と妹達の面倒を頼む」
「ゲッ」
「セレスティナは料理の手伝いを頼みたい」
「リューナちゃん……」
「……餓鬼のお守りかよ……」
俺は項垂れた。
どうも餓鬼は嫌いだ。
というのも、なんでかは分からんが。
ウザいのが苦手なのかもしれない。
「では食事にしよう」
「仮面女も食べてないのか?」
「ああ、変態と同じでな」
「それ、定着したんだからな。称号として」
青筋を浮かべながら、仮面女に言う。
すると、何故かティナに小突かれ、
「……変態」
と言われる。
「あれ!? 俺、ティナになんもしてねぇよ!?」
「やはり、私には自覚を持ってしたのだな」
「……えー! えー! そうですよねー! メイさんは大きい方が好きなんですもんねー! メイさんのスケベ! 馬鹿! 変態ッ! ロクでなしッ!!」
「イッ! タッ! イッ! ッテ! なんで四発も叩いたッ!」
なんでこうも暴力を振るわれなきゃならないんだ!?
「自分の胸に手を当てて、考えてみれば!?」
「しかもお前はなんで怒ってんだ!? ティナ!!」
「つーん!」
「なんか言えやッ!」
俺が何をしたっていうんだ……。
「……はぁ」
なんでこうも疲れなきゃなんねぇんだ……。
まぁ、悪い気は……しない……のか?
「あははッ! いやー……面白いな」
「あん!?」
いきなり仮面女が笑いやがったので俺は矛先を向けた。
何が面白いんだこのアマ……。
「……そうか、笑顔か……」
「……?」
「リューナちゃん?」
いきなり感傷に浸るような素振りをしていたので、ティナが名前を呼んだ。
「ああ、すまない。さぁ、食べてくれ。私とセレスティナが作ったんだ。美味しいハズだぞ」
俺らは食事を頂く事にした。
お椀には蓋がされていて、それを開けると香ばしい匂いが少しだけ香った。
……冷めているのは本当らしいな。
フォークで食べるのか。
そういや箸はやっぱ見当たらないな。
ぶっ刺して食うのが基本らしいし。
「んじゃあいただきますっと」
「いただきます」
俺とティナが食事の挨拶をし、仮面女が不思議そうに見ていた。
まぁ、気にしない。
それなりに腹が空いていた俺は胃へとかき込み、流し込んだ。
……おお、肉だ。
味は肉だが、食感が不思議だ……。
サラダばかりで肉が食いたかったんだよ。
「……美味いな!」
「だろう?」
「良かった!」
俺はすぐに食べ終わり、それに仮面女はビックリしていた。
そんなに驚く事なのか……?
ティナはいつもの事だからと言っている。
「さて、食器を片付けよう。セレスティナ、手伝ってくれるか?」
「もちろん! メイさん、行ってくるね」
「おう」
「ああ、そうだ変態。弟と妹が起きたら頼んだぞ?」
「…………おう」
本当は餓鬼のお守り、嫌なんだがな。
「スゴく間があったけど、メイさん、しっかりね?」
「わーってるっつうの」
ったく……ティナは俺を餓鬼扱いし過ぎだ。
俺はそんな子供じゃねぇっつうのに。
仮面女とティナがこの部屋を出ていった。
「……つうか餓鬼どもが起きたらっていつになったら起きんだ?」
そんな事を呟きながら、ボーッと上を見上げた。
「……なんか少しボーッとすんな……」
しばらく天井を見上げていると、頭が少しクラクラとしてきた。
「寝てぇ……」
少しだけ熱っぽい気がする……。
風邪か?
いやいや、こんな異世界来てまで風邪に掛かることはないだろう。
「……あー……しんど……つうかいきなり来るかよ……」
椅子から立ち上がるのもダルい……。
あー……くそ……。
「少しだけ休もう……少しだけ……餓鬼どもが起きたら……少し、遊んでやろう……」
俺は目を閉じ、仮眠を取ることにする。
体調がいきなり悪くなったとか、馬鹿じゃねーの……。
少しでも寝て楽になればいいが……。




