第五十九話 甘いんだよ……お前は……
「……ここか?」
俺はティナを捜しに、仮面女と餓鬼が居やがった家へと来た。
家らしい家っつうとここか、仮面女の家しかねぇんだよな。
ノックなしに俺は扉を開ける。
「……人間か。先に食べていいとセレスティナに言われたので、弟と妹が食べているが……食事にするか?」
仮面女が餓鬼の食事の風景を見ながらそう言ってくる。
アイツ……何考えてやがる……。
「……ティナ……セレスティナは何処に行ったか分かるか?」
「さぁ……少し前にここに来たばかりだが、何処へ行くとも言わず、行ってしまった」
「そう……か。邪魔したな」
「食事はどうするんだ?」
「ティナのヤツを連れてきたら頼む」
結局、ここにはいないか。
仕方ない……そう遠くへ行ってない事を願って捜すとしよう。
俺はこの場を後にして、ティナを再度、捜しにいく。
壊れた家とかも一応、念入りに調べたり、隠し部屋等を見つけてみたりしたが、いない。
……てか隠し部屋にいたらいたで怖いな。
ティナが知ってるハズがない。
俺は何を考えてたんだ……。
「……あまり外にいないで欲しいが……」
雨が未だ降り続いているので、こんな中、外に出てたら風邪を引いてしまう。
そうなったら面倒な事になるぞ。
主に看病がな。
そんな事を考えている間にも、俺はティナを捜す。
仲間の位置が分かれば便利なんだがなぁ……そんな都合よくいくわけも無いので地道にやるしかない。
「……いた」
雨の中、佇む一つの人影と一匹の動物……。
流れるような銀の髪は雨に濡れ、尚も光沢を放っている。
不思議な髪だな。
無意識に足は動き始めたので、ゆっくりとティナの元へ寄っていく。
聞かねば。
何故、あのような行動を取ったか。
聞かなければならない。
「……ティナ……」
「……来たんだね……」
俺がティナを呼ぶと、俺と面向かい、そう言った。
「本当に自分が何をしたか分からないの?」
「俺にゃ、なんの事言ってんのかサッパリだ」
「……やっぱり……最低じゃない」
何故、俺を睨み付ける……意味が分からない……。
俺がティナになんか悪いことしたのか?
「悪いことしたのなら謝る……」
「……私に謝られても困るよ」
依然としてティナは俺に敵愾心を見せつけてくる。
いつも接しているティナとは全くもって違う一面だ。
正直、こんな事をするヤツではないと思っていた。
「じゃあ……誰に……」
「……なんで気づかないの」
ティナは握り拳を作り、ふるふると震える。
俯き、顔がよく見えない。
何が気づかないんだ?
気づくも何も、俺はティナに……いや、悪いことはなんもしたつもりないぞ。
「気づくも何も、悪いことなんざした覚えがないが?」
「……間違ってる……貴方……間違ってる」
先程よりも睨みを利かし、俺は少しだけ怯む。
威圧感はないハズなのに、何故か体が硬直したかのように動かない。
「なんで……人の命を秤に掛ける様な真似したのッ!!」
ティナの怒声が俺を襲う。
人の命を秤に掛ける……?
どういうことだ?
「子供達の命をなんだと思ってるの!? それが人のやること!?」
ティナの怒りがここまで届く。
それもそうだ。
俺が怒られているのだから。
子供達の命……?
ティナは何を……?
……まさか仮面女に……!
「リューナさんから聞いたの。必死に隠してたけど、私が無理を言って聞かせてくれた」
「……そういうことか……あーそういうことかよ」
仮面女がティナに話をしたと。
なるほど、ティナなら反対しそうな内容だったもんな。
餓鬼どもの命が惜しけりゃ寝床と食事を提供し、俺らに危害を加えるな。
そんな内容のハズだ。
一種の強迫ってやつだった。
「自分がやったこと……自覚してないなんてッ! メイさんがそんな人だとは思わなかった!!」
「……じゃあ……どうしろと……?」
もし、餓鬼どもがいなかったら危なかったのは俺の方だ。
いずれは仮面女に殺られていたかもしれない。
それなのにコイツは……。
ああ、そうか。
「そうだよな……お前、俺に……」
遠回しに死ねって言ってんのか……。
「ハッキリ言って。そんなんじゃ聞こえない!」
「……もうどうだっていい」
クソジジィ……クソババァ……こんな時までうっせぇよ……。
俺は嫌なんだよ……こんなの……。
ティナ……お前の思い通りになってやる。
それに自分からじゃないなら、約束を破ったことにはならねぇだろ……?
「……契約違反だ……俺は餓鬼どもを殺しにいく」
ククリナイフを抜いて、俺は刃をティナへと見せつける。
「メイさん……本気なの……!?」
「当たり前だろ? お前に止められる筋合いはない」
「……」
カチャッとティナの方から音がする。
コメットは……この状況を見ている。
どうしてよいか、分からないのだろう。
落ち着かないようだ。
「させない……貴方は……間違ってる……!」
音がしたのは、ティナが剣を抜いたからだ。
構え、刃を俺に向けてくる。
その様子を俺は鼻で笑った。
「やれるもんならやってみろよ……セレスティナァッ!」
パーティを解散……俺以外のステータスが見えなくなる。
俺はククリナイフを滑らせ、ティナの喉元を狙う。
それをティナは剣で防ぎ、弾く。
俺は一旦後ろへ下がり、眼前の敵を見据えた。
「メイさん……やめてよ……こんなの……」
「だったら邪魔すんなよ……クソアマッ!」
俺は懐に潜る勢いでティナへと突っ込む。
それをティナは見切り、刃で突いてくる。
刃は俺の左肩に突き刺さり、出血する。
「……!」
「イッ……てぇなぁッ!」
俺はバックステップで刃を強引に抜き、再度突っ込む。
鍔迫り合いになり、押し合いが始まるが、やはりステータス的な影響だろう、俺が押され始める。
一度、刃を弾いて撤退、そして俺は雄叫びを上げながらティナの首を狙った。
そんな俺をティナは……。
「……馬鹿」
「……なんで……斬らねぇんだよ……」
ティナは剣を地面に落とし、首を差し出していた。
俺は初めから首を取るつもり等無く、その前で刃を止めていた。
なんでコイツは俺を殺さなかった……。
「それはこっちの言葉だよ……なんで本気で来なかったの……?」
「俺は……俺は本気だった……」
短剣を下ろし、ティナと面向かう。
しかし俺は目をあわせる事が出来ない。
「それだったら鍔迫り合いになんてならない。私を後ろから攻撃したり、麻痺にしたりするもん」
「……あ?」
「これでもメイさんの仲間だもん……戦い方、少しは分かってるから」
……なんでバレた?
俺は殺意は本気で出してたつもりなのに……。
殺そうという勢いはつけていたつもりなのに……。
なんで……。
ティナは回復魔法を俺にかけ始める。
そんなティナの手を払いのけ、俺はキッと睨み付ける。
「本当は、もうあの子達を狙おうなんて考えてないんだね……」
「そんなワケねぇ……! 俺は今からだって……」
「だったら……私の首を落として、いけば良いじゃない……」
その言葉に俺は押し黙った。
そんなの……出来るわけねぇ……。
刃と刃がぶつかる度に、胸が締め付けられるような感覚を味わってたんだ。
そんなのやれるわけねぇ……。
「なんで、私に斬られようとしたの?」
「……」
相変わらず目があわせられない。
今、見てしまうと後悔するような感覚になったから。
それでもティナの手は俺の顔を触れ、意地でも顔をあわせる事になった。
……ティナの目からは水滴が流れ落ち、頬が紅い……。
「……答えて」
声は震え、それでいてハッキリと聞こえていた。
俺は……俺は答えようとする。
だが、何を言えばいいのか。
本当に伝えても良いのだろうか。
ティナに殺される為だと。
「……」
「私が貴方の手加減に気づかなかったら……私が一生後悔してたんだよ……私が大切な友達の……仲間の命を……奪っちゃうところだったんだよ……?」
そうしてほしかった。
お前が遠回しに死ねというなら、直接殺してほしかった。
その方が気がラクだった。
俺は……もうこんなの嫌だった。
死にたい……死なせてくれ……せめて、少しでも惚れた相手の近くで……死なせてくれよ……。
「そんなの嫌だよ……一緒に過ごしてきた、仲間を……私が……」
「……殺してくれ」
生きるのなんか馬鹿馬鹿しい。
この世界に来たのは、楽しむためでもない。
ましてや俺が最強になるわけでもない。
俺の命をここで絶つ為……。
それが俺がこの世界に来た理由なのだと、先程分かった。
だから、せめてと……ティナの傍で死にたかった。
いつの間にか大切に思ってしまっていた、その存在に見られて死にたかった……。
「なんで……! そんなこと……!」
「お前が死ねっつったんだろうがッ!!」
俺は今までの感情の渦を爆発させる。
思いのありったけをぶつける。
「人の命を秤に掛ける? ああ、掛けたよッ! だからどうした!? そうしなきゃ俺が殺されてたッ! そうしなきゃお前もコメットも殺られてたかもしんねぇんだぞ!?」
拳を握り、ティナとは距離を取って、叫びに叫ぶ。
「あんときの俺は正しかったッ! そうじゃなきゃ全滅してたろッ!? ステータス的に上のヤツを負かすにはどうしたらよかった? 俺らで倒せっつうのかァッ!? そんなの無理だと判断したから逃げ出したんだろうがよッ!!」
俺の言葉は雨の中を走り、響き渡る。
その様子をティナはどんな顔で見ているだろうか。
「人の気も知らねぇで、正義面しやがってよッ!! 甘いんだよ考えがよッ! こうでもしなきゃ安全な場所を確保出来なかったッ! そうしなきゃ……」
ティナを休ませてやれなかった……。
俺の旅に嫌な顔一つもせずに着いていてくれたんだ……。
彼女くらい安全な場所で寝ていてほしかった。
大切な存在だから、休ませてやりたかった……。
雨風凌げる場所がここにはあったんだ……せめて……ティナだけでも……。
「……やっぱり間違ってるよ」
「……」
ポツリと溢したティナの言葉に俺は反論すら出来なかった。
間違ってる……だろうか……俺は……間違ってるのだろうか……。
「私達が安全な場所を取るのに……人質を取るのは、いけないことだよ」
「は……ぁ……?」
「メイさんが疲れてたのは分かるよ。でも駄目なことは駄目。いくら疲れてても、人の命を自分の手の中で転がしちゃ、駄目」
ティナは真剣な表情で言ってくる。
その一つ一つの言葉が本気なのだ。
「それに、リューナちゃん……とてもいい人だった。私が料理のお手伝いを失敗しても、コツを教えてくれた。私の話を聞いて、一緒に笑ってくれたり、話してくれて一緒に楽しくなったり……」
ティナは話していた。
偽りのない仮面女と。
友人のように接して、過ごす時間を楽しいものにしていた。
……そうだ……別に俺は休まなくたっていいだろ。
俺はいい……せめてティナを……。
「だからもう……人の命と引き換えにっていうのは……やめよ? そして、私と一緒にいるときの、メイさんをさらけ出して」
ティナの微笑みは俺を苦しめる。
どうしたらいいんだ?
何をしたらいいんだ?
お前のいう通りにしたらいいのか?
それで……悪い方向に進んだら……。
「……こんな俺……俺じゃない……」
「ううん、どんなメイさんもメイさんなんだと思う。だから……ね」
目と目があい、俺は涙腺を刺激させられる。
かすかに瞳が潤ってしまっているのが分かる。
「少しはリューナちゃんを信じてみよう? 私も……手伝うから」
なんで……お前はそんな…………。
甘いんだ……!
「……俺……は……」
「ほら、行こう? ちゃんと謝って、ちゃんと話をして、ちゃんとお願い、してみよう?」
ティナが近づき、俺の傷口に手を触れる。
不思議な温かみが傷を包み込み、治っていくという感覚を味わう。
「甘いんだよ……お前は……」
「……ごめんね? でも、もしもメイさんが襲われる事があったら……もしも本当にそんな事があったら……その時は」
一息置いて、ティナは言葉を発した。
「私がメイさんを守るから。お姉ちゃんとして……命を懸けて……」
満面の笑みを見せながらそう言ってくる。
本当……コイツは、俺の気持ちを分かってはくれてないよな……。
「俺は……弟かっつーの……」
「私にとってはそうだよ?」
俺は小さく笑い、鼻を啜る。
……初めて本気で怒られたな……そういや……。
自分が間違ってると意見を否定された事は数知れない。
なのに、俺を叱ってくれるヤツがいなかったのはなんでだったろうか。
……本当……ティナはロクな事しねぇし……いつだって甘い答えをぶちまけてくるよな……。
現代っ子の俺もビックリだわ。
「でも……それが一番いいよな……」
恨まれる事なく、相手に損をさせず、こちらも利を得る。
そんなティナの考えを俺は……。
一ヶ所だけリューナさんと言っていたので
リューナちゃんに修正致しました。




