第五十六話 無力化
「それ以上入ってみろッ! 四肢を切り裂き、堪えることの出来ない程の痛みを味あわせてやるッ!」
降り注ぐ雨と共に、後ろから引っ付いて来てる仮面女が俺に向かって言ってくる。
マジ切れってヤツだ。
「ならお前が止めてみろッ! 捕まえてみなぁッ!」
俺は煽る。
ティナとコメットの方に向かわれたらそれこそ台無しだ。
まぁ、村に入ってる時点でその可能性は低いけど。
因みに村に入った俺は村の廃家をくまなく探している。
殆ど木で作られており、かなり昔の木造建築を思わせるような家々だ。
俺が家に入ると、仮面女はその家の前で待ち伏せしていることが多かった。
まぁ、俺が窓から出てきた時の顔は傑作だったな。
その後、激怒して襲い掛かってきたが。
「……しかし、無事な家は少ないな……」
色々と家をまわっては、中を物色するも、中はボロボロ、挙げ句には穴が空いていて容易に外に出れる家もあった。
「やめろ……! やめてくれ……!」
ついでに仮面女にも変化があった。
先程までは脅していたような口調だったのに、家色々とまわってを調べていく内に、懇願するような口調になっていた。
……何かあるな。
「止めてみろ……っと」
次の家は……今まで見た中では比較的無事な方の家だ。
扉も無事、内装も無事、今度もゆっくりと物色していこうと思っていた所だった。
「やめろォオッ!!」
「いっ!? なんでだ……!?」
扉をバンッと壊れるほどに強く開き、入ってきた仮面女がいた。
「また私から……大切なものを奪うのか……人間……ッ!」
「っく……」
逃げるのも考えたが、コイツが入ってきたんだ……。
この戦いをやめさせる切り札があるかもしれない。
いい加減、雨風凌げる家で泊まりてぇんだよ!
俺はいいが、ティナが不憫だ。
コメットは知らん。
「……こいよ?」
「ッ……出てけ……今すぐに……」
こんな狭い中でさっきの技とかは使えないのだろうか。
いや、槍だから室内とかでは扱えないのだろうか。
俺はこの家の奥へと進む。
「出てけぇえええッ!!」
槍を投擲しそうな構えをしだしたぞ?
俺はすぐにしゃがみ、槍は仮面女の手から放たれ、家の壁を破壊しながら外へと出てしまった。
武器すら投げてくるとか、何を考えてるんだ……。
「……これでお前は詰みだろ……ッ!?」
「はぁあッ!」
今度は素手で戦ってくるのか!?
だが、慣れてないようで、掴んでこようとしたり、力の入っていない拳を振り下ろしたりするだけのようだ。
つまり、素手で戦ったことは殆どないと取っていいか。
なので、足を払い、ソイツの足を引っ掻けようとする。
しかし、跳躍でソイツはかわした。
……ので、もう一度、足払いをして相手の足を引っ掻ける。
「っあ!?」
仮面女は宙で無防備になり、仰向けになって倒れる。
そのスキに奥へと向かう。
そして、くまなく部屋を調べることにする。
あの女が入ってきたんだ、絶対なんかある。
本棚……机……椅子……ベッド……窓……。
何か、何かあるはず……ソイツを俺が手にいれれば、アイツを無力化出来る。
そして、うまくいけば今日くらいは雨風は凌げるだろう。
「……ん?」
チラッと見てみると、床に開きそうな蓋があった。
倉庫っぽいんだけどな……もしかしたら、ここにアイツにとって何か大切なもんがあるのかもしれない。
取手のような所を手で掴み、引き上げる。
ググッと持ち上がっていき、パカッと縦に開いた。
階段になってるみたいだな……。
俺は気を付けてかつ迅速に降りていく。
「……リューナ?」
降りていった先に、子供のような声がする。
ようなではない……そこにいた、子供の声だった。
「だ、誰?」
「リューナのお友達ー?」
「もしかして、リューナが好きな人ー?」
「でもこの人なんか変」
「ツノも尻尾もないよー」
「ホントだホントだ!」
餓鬼が7人か……。
男3に女が4。
しかし、なんでコイツらこんな所に……。
「リューナは? どこ?」
「ここに来たって事はリューナのお友達なんでしょ?」
餓鬼どもが質問をしてくる。
なんか結構鬱陶しいな……。
コイツらに構う前に、上から急ぎ足で階段を降りてくる音が聞こえた。
……来たな。
仮面女が、階段を降りて来たのだ。
「遅かった……! 人間……その子達には危害を加えないでくれ……」
乱れた息を整えながら、仮面女が言ってくる。
「あのな……お前が俺にやってきた事、忘れたワケじゃないよな?」
俺は仮面女に向けて睨みを効かせる。
自分だけ助かろうなんて甘いんだよ。
俺らに危害を加えておいて、コイツには加えるな?
考えがあまっちょろ過ぎんだよ。
「私がやってきて、今更虫のいい話だと笑ってくれ……それでも……お願いだ……」
仮面女が足から崩れ落ち、頭を垂れる。
そして、頭を下げながら話を行う。
「頼む……! 私の大切な、弟と妹を……助けてくれ……私をどうしようとも構わない……なんでもやる……!」
頭を地に付けながら、懇願をする。
「だから……頼む……ッ!」
「なんでも……ねぇ? とか言ってよ、お前……俺がスキを見せた瞬間、首をかっ切ろうとしてんだろ?」
見下すように俺は仮面女を見る。
わかってんだよテメェの魂胆は。
ナイフを抜き、餓鬼どもに突き立てる。
「お兄ちゃん誰なのー?」
……無邪気な質問だな。
全くよ……だから餓鬼は嫌いなんだよ。
ナイフを突き立てられてもなんの反応も示さねぇ。
「……私を殺してもいい……だから……お願い……だ……!」
「……殺してどうすんだよ……」
ボソリと俺は呟く。
殺したところでなんの意味も無いだろ。
つうか、今この状況を続ければコイツは無力化出来る。
それに一人でも人質を取ればコイツを利用できる。
そっちのが良いだろう。
こっちに利益も出るしな。
「俺らを襲うな。俺らに雨風凌げる場所を数日提供しろ。それが守れるなら助けてやる」
カチャッとククリナイフを土下座している仮面女に向ける。
すると、仮面女は顔をゆっくりと上げていく。
……うわっ……泣いてんのかよ……止めてくんねぇかなぁその顔……。
「い、良いのか……? それだけで……許してくれるのか……?」
「誰が許すっつったんだ? 餓鬼どもを助ける条件だ。許す許さないの問題じゃねぇ」
勘違いをしていた仮面女に向けて言い放つ。
「それと、それだけっつうならもう一つ追加するか?」
「……なんでも呑もう……言ってくれ」
「食事は用意してくれ。その際、餓鬼どもと食卓を囲む。食べた時にHPが減っていたり、状態異常にかかったらまぁ……分かるな?」
「……それで、私の弟と妹を見逃してくれるんだな?」
「ああ。それは約束する」
外道だなとは思うさ。
でもな、異世界だからこそ、こういうのはしっかりしなければならない。
この世界の奴等を見てそう思った。
自分に利益のないことばかりをしていくと、どんどん自分が不利になっていく。
無償の手助けなんざない。
ましてやこんな取引は無論だ。
確実に自分の手柄を多く掠め取る。
そして、相手は相手の満足がいくような結果にすればいい。
ギブアンドテイクってやつよ。
「……リューナをいじめないで!」
いきなり、後ろから子供の叫び声が聞こえる。
……なんだ?
「そうだそうだ! いくらおっかないからって泣かしちゃ駄目なんだぞ!」
「オイラ達の為に一生懸命なんだ! だから止めてよ!」
あーあー……うっせぇな……。
こうやらなきゃ俺が殺されちまうんだよ……。
そもそも好き好んでこんな事やってるわけじゃねぇっつうの。
「お前たちやめろ……! ゆ、許してくれ! 全部私のせいだ! 許せないなら私を……」
「わーってるよ……餓鬼のうざさでも陰口よりはマシだ」
俺は餓鬼の一人を小突き、ソイツらに向かって言う。
「大事な事なんだ。だからすまんな。仮面女……もう、襲わないんだな?」
「ああ……二言はない……」
立ち上がり、仮面女が言う。
目元の雫を指で拭い、顔をしっかりと戻す。
「……じゃ、そういうことで、またすぐに来るからな」
「……えっ……あ、ああ」
俺は階段を上がり、外へと出る。
未だに雨がザァザァと降っている。
面倒くせぇなぁ……外でたくねぇなぁ……。
「さて、ティナとコメットを連れてくるか……」




