第五十三話 染まりたい
顔に当たる、冷たい何かで目が覚めた。
辺りはまだ薄暗い……
ポツ……と自分の頬に水が当たる。
……雨か?
ティナはまだ眠っている。
そりゃそうか……
俺のせいで疲れちまったんだから……
「ギャァウッ」
「お前は……寝てても危険を察知出来るのか?」
なんか確実に寝ていそうな体勢をとっていたコメットに聞いてみる。
「ギャウッ」
……コクッと頷いてくる。
本当、お前は万能だよ……
「つうか、雨降ってきたな……」
どうすっか……ティナはまだ寝てるし。
素材袋から俺は何かを探す。
……ワイルドベアの毛皮に、そこら辺のやや長めの棒をなん本か……
傘みたいにしたいのだが、長さが……
これでいいか……
……待て、傘作るっていってたのに違うの作ろうとしてないか?
まて……
そもそも傘って棒の部分四つも必要だったか!?
「……絶対違う」
俺が作ったのは、なんか屋根だった。
丁度、ティナがすっぽり入るくらいの。
ギリギリあと一人くらい入れそうなスペースに、コメットが入りこむ。
「……」
「……」
俺の目を見ないまま、眠ってしまう。
……コイツ……!
ため息をつきながら、俺は俺でワイルドベアの毛皮をカッパがわりにする。
……燻すんだっけか?
使うときは。
まぁいい。
雨が強くなっていく中、俺は全力疾走に慣れる事にする。
が、段々早くしていったほうがいいのか。
そうした方が慣れるのも早いだろ。
まずは前の全力くらいの速さ。
ここはギリギリいけるんだよな……
次はもう少し速め……
「うっ……」
風の抵抗がやっぱ強いな……
ゴーグルみたいなのがないと厳しいか?
生憎、この世界にゴーグルなんてものがあるかが疑問だが。
眼鏡はあったんだがな。
「目がツラいな……」
しょぼしょぼする、まるでドライアイのような感覚。
ものっそい早さで目が乾燥していく。
しばらく慣らしていくと、体感速度には慣れてきた。
まぁ、やっぱりゴーグル……
この際ヘルメットでも可。
どちらかが必要だ。
「……少し明るくなってきたか?」
俺は空を見る。
まぁ、雨降ってて天気は悪いが。
夜は明けたとみて良いだろう。
そろそろ帰ろう。
「雨の中、歩きたくねぇなぁ」
愚痴りながら俺はティナとコメットの元へと向かった。
戻ってもティナはまだ目覚めてはいなかった。
余程疲れていたのか……
寝息を立てて眠っている。
「……こうして見ると」
美人というか可愛いというか……
なんか惹かれる……
「なに考えてんだ俺はッ!」
頭をブンブンと振り回し、考えを打ち消す。
あーったく……
何なんだこれは……
ピクッとコメットの耳が震えるのを見た。
そして、すぐに顔を上げ、辺りを見渡す。
俺とは正反対の方に顔を向けたので、俺もそっちへと向かう。
「ギャウルル……!」
威嚇の構えを取ったコメットの前に現れたのは、魔物だった。
【眠り姫】
「女形の……」
見掛けは小さな女の子だ。
だが、この魔物何処かで……
「~♪」
咄嗟に耳を塞いだ。
耳障りのいい音、声。
眠気を誘うメロディ……
間違いなく、一度会ったことのあるヤ……
「ギャアッ!」
「!?」
……あ、経験値0獲得って出てくる。
コメットが、容赦無かったな。
いや、どうすんの?
まじで人に似てて素材剥ぎ取るの嫌なんすけど。
近くで見ても、まるで人間の少女だ。
……しかもコメットの噛みつきで首を噛まれてはい、終わりだったからな。
……っち。
こんな魔物も居るのかよ。
「……衣服も対して価値なさそうなボロ切れだし、放っておくか」
俺は見てみぬフリをしながら、ティナの元へ戻る。
「……まだ眠ってるか」
……あの魔物は、俺達に害があったのだろうか?
いや、魔物だからあったハズ……
だからコメットが行動を取ったんだ……
そう思うことにする。
「……はぁ」
ふざけるな……
なんで朝っぱらからこんな思いしなきゃならんのだ。
……だが、この世界で生きていくには仕方ないのだろう。
これがこの世界の普通……
日常だ。
「まだ慣れてないのか己は……」
人を殺すのは慣れてきている。
が、あまりグロい死に方されると、少しな……
やはり、子供や女性が死ぬのは後味が悪い。
「……早く染まりてぇ」
どんなヤツが死んだって、悲しくならず、どんなヤツが襲い掛かってきたって躊躇しないように……
そんなヤツに俺はなりたかった。
いつまでもこんな本嶋 命でいるわけにはいかない。
異世界に来た奴等はなんだかんだ、色々変わっていったじゃねぇか。
ライトノベルの読みすぎだけども……
俺が変わらない訳にはいかないだろ。
「とは思うが……中々上手くいかないもんだ」
はぁ……
こっちもこっちで大変だな……
しばらく、ボーッとしていると、ティナの方からがさごそと音が聞こえる。
「……あれ……雨? コメット? メイさんは……いた!」
毛布がわりの毛皮をどかして、ティナが外へ出てくる。
「怪我は? 良くなった?」
「んなことより、濡れるぞ。きたねぇけど羽織っとけ」
先程まで着ていた毛皮をティナに渡す。
「メイさんは?」
「まだあっから大丈夫だ」
ワイルドベアの討伐数は本当に多いからな。
ここら辺では出なそうだが。
素材袋から新しい毛皮を取りだし、羽織る。
「それに、あれ……」
ティナは俺が作った傘? を指差して言う。
そりゃあ不思議に思うだろ。
傘の原型なんて無いのだから。
「雨が降ってきたからな」
「……ありがと、メイさん」
お礼を言われる筋合いは無いのだが。
ティナが疲れていたのは俺のせいだし、当然のことしただけだ。
「そろそろ行こう? 遅くなっちゃったでしょ?」
「いや? いつも通りだ」
むしろ、いつもよりちょっと早い程度だ。
ティナは自分用の道具袋等を腰に提げ、準備を終える。
剣とかの新調はしてないが大丈夫だろうか……
今更になって、武器屋に寄らなかった事を後悔する。
道具屋で薬草を無一文になるまで買ってしまった俺と違い、ティナはまだあるだろうに。
因みに薬草っつっても一種類だけしか買わなかったワケではない。
HP回復用、出血止め用、毒消し用、麻痺消し用、眠気覚まし用、火傷治し用、疲労回復用等々……
MP回復用が無いのは高価だったからだ。
一つ3000シルドとかおかしい。
てか、疲労回復用の薬草があったんだよな……
後でティナに分けよう。
「……よし、行こ!」
「おう」
「ギャアッ」
俺とティナとコメット。
二人と一匹は次の村へと向かう。
……しばらく進むとサイスドラゴやら、眠り姫やら、後は眠り姫の男バージョンの睨み王子が現れていた。
睨み王子は目が合うと体が動かなくなる特徴を持っていた。
しかし、眠り姫同様、耐久力は無しに等しかったので空いてる二人がスキをついて倒していた。
一番辛いのはサイスドラゴだな。
鎌の攻撃がいやらしい。
横に切ってきたと思ったら引いて、尚も切ってこようとする。
懐に入る俺には少し辛い。
逆に魔法とかになると、楽だろうな。
ティナがそんな風に戦っていて羨ましかった。
「私達の勝ちだね!」
サイスドラゴを見事に倒して、ティナが笑う。
「ま、半分はティナのお陰としとくか」
「じゃあ残りの半分はコメットね」
「ギャウッ!」
「……俺は役立たずってか!?」
そんな俺を見て、ティナは更に笑う。
……最近、よく笑うな。
前は控えめだったのに、今では年がら年中、この調子だ。
そんなティナを見ていると、こっちまで頬が緩む。
「そろそろ行こうぜ」
「うん!」
サイスドラゴから鎌やら牙やらを剥ぎ取り、ティナが燃やす。
残して置いても仕方ないからな。
戦果も上々、懐もこれで潤っていくだろう。
そう思いながら歩いていく。
……歩いていく内に見覚えのある、場所に来る。
先程までは草っぱらだったのにこちらには何もない。
荒れ地といった方がよいか。
そんな場所。
……待て。
これはまずい……
「どうしたの? メイさん?」
「いや……」
確信が持てないので言うのに戸惑う。
そうだ!
もしかしたら、違う……
そう、違う場所だ。
「なんでもない」
「……なんか嘘ついてるような素振り」
ティナにジト目で見られる。
「本当だって」
「そう? なら分かった」
絶対分かってないだろと言いたいが、我慢する。
疑うのも無理は無いだろうし。
更に歩いていくと、物凄い嫌な場所が見えてくる。
確信した。
仮面女と戦った場所だあそこ!
「……はぁぁ」
「凄い深いため息だね。大丈夫?」
「仮面女と出会わないことを祈るぞ」
ティナが何か話し掛けてきたが、今はそれどころじゃない。
本当、仮面女と接触する事だけは避けたい。
俺はまだいいが、ティナにまで被害を被られると……
いや、ティナには近づけさせないようにしねぇと。
自分の中でそう決まる。
よし……いける、俺ならいける……
「……本当、何も教えてくれないんだから」
「ん? なんか言ったか?」
「いい、それより早く」
少しだけ機嫌を悪くしたように見えたが……
何なのだろうか?
不思議に思いながらも警戒は怠らないよう、細心の注意を払いつつ、俺らは進む。




