第五十一話 本当……こんな奴等ばっかだな
「……んーッ! ふぅ」
背伸びをしたティナが何故か項垂れている。
何かあったのか?
「どうした。んな格好して」
「お別れするのって……こんな悲しい事なんだなぁ……って」
辛気臭い表情で言ってくる。
心なしかため息をついていて、いつものティナではない。
「……えーっとな」
腕を組み、頭をかき、悩んだ末に思いついたのが、
「また会えるっつうの」
という一言だった。
根拠なんてねぇのに、無責任な事言ったな……
自覚しつつ、後悔もほんの少しする。
「……分かってるけど……なぁ」
空を見上げて目の前を見ないように歩いてる。
下も前も見ないとかぶつかるぞ。
案の定、足元の何かに引っ掛かったようで、体勢を崩す。
「ひゃっ!?」
反射的に動いた俺の手は、ティナが倒れないよう、支えていた。
……ティナの目の前に来て。
「気をつけろって。不細工な面になんぞ」
「…………」
倒れかかっていたティナはジッとこちらを見つめてくる。
……なんだ?
「……おい?」
「う、ううん……ありがと。目の前も下も気をつけなきゃね」
サッと顔を逸らして、ティナは俺の顔を見ないようにする。
……俺の事……
嫌いなのか?
少しだけなんか……
傷つく。
ティナの体勢が元に戻ったところで手を離す。
ついでに手を離したところでティナが頭をブンブンと横に振っていたのを確認する。
何がしたいんだ?
「い、行こう! 今日も野宿になっちゃうよ!」
「ギャウッ!?」
「痛ッ!?」
何を思ったか、後ろにいたコメットが走り出したのだが、ティナと同じ様にして脚に引っ掛かり俺に向かって転がってきやがる。
「お前はなにしてんだ!?」
「ギャアッ!」
「あ、逃げんなコラッ!」
ぶつかった俺に対して反省するような素振りを見せずにコメットが逃走する。
そうはさせまいと、持ち前の速度で回り込もうとした矢先、
「痛ッ!!」
「メイさん!?」
俺が横転して、ティナが駆け寄ってくる。
なにが起きたんだこれ?
「いつつ……」
「怪我は? 痛くない? 今回復を……」
「大丈夫だって……あーくそ……一体何なんだ」
「ギュウ……?」
何事かと、逃走したコメットも戻ってくる。
自分でも何が起きたのか分かってない。
「いきなり転んだから……何かに足を引っ掛けたの?」
「……そんな感覚じゃなかった」
あえて言うなら……
振り回されそうになったときの感覚に似てたな……
「何かに引っ張られたような……」
「……誰かいるの?」
「ギャウ?」
「いや、んな感覚だったが……違うと思う」
……嫌な予感がする。
走ったらなった……
さっきは回り込もうとしていた。
……俺は回り込めず横転。
「慣れてねぇからか……?」
「メイさん?」
「いや、なんでも……」
少なからず先程は全力疾走だった。
……曲がるのに相当な負荷が掛かったとかじゃねぇよな……
だったら不便だぞ。
しかもだ。
視界が目まぐるしく変わっていた為、目が回る。
「少し……肩を貸してくれ」
「勿論……本当に大丈夫?」
「少し休めば気分は楽になるハズだ」
気持ち悪ッ……
本当になんなんだこれはよ……
「あ、じゃあここで野宿しない? まだ、村とか見えないし。それに私、練習したいこともあるから」
「分かった。……が、雨降らねぇといいな」
さっきまでの晴々としていた天気はなんだったのか。
俺はうんざりする……
一気に雲行きが怪しくなったからな。
俺が薪を集め、ティナが魔法で火を焚こうとする。
ここら辺でいいかと、コメットが穴を掘ったのでそこに薪をくべて、焚き火した。
「……地よ……巻き上がれ……ストーンブレイク!」
自由時間になったと思ったら、ティナは真面目に魔法の練習を行っている。
ティナの前方の何も無いところから、石が巻き起こり、その部分を崩す。
「んじゃあ、俺も俺で行ってくるな」
「うん、遅くならないでね?」
「……寂しいのか?」
嫌な笑いを浮かべ、ティナに言う。
その言葉に笑いながら、
「うん!」
と応えたので苦笑する。
焚き火があるから、少しくらい遠くに行ったって大丈夫だろ。
「……さて」
まずはゆっくりと走ってみる。
……前の全力疾走より、ちょい遅い程度か。
じゃあ今の全力疾走を……
「おぅぁ!?」
風に叩かれたような感覚を味わい、目まぐるしく景色は変わる。
それに長いこと目を開けてらんねぇ。
ゴーグル的な奴がほしい。
そして、旋回しようと……
「ッ……!」
また体が横転した。
もうHP100代なのか……
あぶねぇな。
出血しそうだ。
つかここどこだ?
ティナのいた場所は?
辺りはまっさらな場所だった。
先程までは草原だったのに。
「クソッ……ここ、何処だ?」
俺だせぇぞこれ。
一人で突っ走った挙げ句、迷子とか。
取りあえず……
「急いで捜そう……」
俺は方角も分からないまま、ただ、突っ走る。
しばらく走ると、なんか村みたいな所が見えた。
……ぜってぇこっちじゃねぇ……
早くティナの所に戻らねぇとなんねぇのに。
「あー……くそ……引き返さねぇと」
頭を乱暴に掻いて、イライラを発散させる。
発散出来てねぇけど……
ふと、足音に気づく。
気配がなく、全然分からなかったが、近くに人がいるらしい。
「誰かいるのか……?」
誰もいないハズの俺の周りに話し掛ける。
本当は何にもいねぇのが良かったのだが……
「……人間の癖に私を見つけるなんて……屈辱……ッ!」
金色に輝く髪をした少女だった。
顔を隠す仮面をつけており、口元しか見えない。
露出が多い服装で、俺をどうみても敵視している。
右手に軽々と持っている槍を俺に向かって突き立ててきやがる。
「友好的な態度じゃねぇな……」
「当たり前じゃない……! 人間のせいで……私がどんな目にあったと思ってる……ッ!」
ギリッと歯を食い縛り、矛先を俺に向ける。
はぁ……なんでまぁ、こんなに敵が多いのかね。
「そんなん知らねぇよ……じゃあな。俺、こう見えても急いでるんで」
面倒な事にならない内にと、俺は逃走する。
悪いことしたワケでもねぇのに、いつも逃げるよな。
俺は。
「待て……! 人間ッ!」
槍が振り回される……
その軌跡は俺に向かって描かれ、俺は跳躍で避ける。
「んだよッ! 俺がなんかしたか!?」
「人間だから殺してやるッ!」
「なん……はぁ……」
振るわれる槍は勢いを殺さない。
跳躍、ステップ等で避けていくが、流石にこんなにされると掠り傷も出来てくる。
「所詮は人間ッ! ここで死ねぇッ!!」
「黙れ仮面女ッ! つうか俺はなんもしてねぇだろ!!」
「人間だからこそ殺さなきゃならないッ!」
話通じねぇえッ!
いつもこれだよ!
なんだっつうんだ!!
イライラして、少しだけ油断してしまったのだろうか……
「はぁあッ!!」
「ッ……」
……左手が、取れる。
鮮血が飛び散り、虚空へと舞った。
うわ、またか……
うんざりしつつ、痛みに堪える。
こんくらいなら、歯を食い縛るくらいで我慢できるからな……!
「……あーもう……面倒くせぇなッ!」
行動を早く、速くする。
ステップの距離を少しだけにするかわりに、相手に接近する機会が増える。
槍っつっても、懐に入ればただの棒切れ……
戦いづらいハズだ。
「っく……!」
「麻痺の力、宿れッ! パラライズ!」
右手に麻痺属性を込めて、腹部を殴る。
それに仰け反り、仮面の女は腹部を抑えた。
……あ、コイツ効いてねぇッ!
失敗したみたいだ。
なので、即座にククリを抜き、縦に切り裂く。
「っぐぅッ! 舐めるな人間ッ!」
「うへっ!」
槍を巧みに操り、近距離での攻撃を可能にしていた。
それをギリッギリでかわす。
本当、ロクな奴じゃねぇなコイツ!
戦闘スタイルといい、ステータスといい、技術といい……
俺より格上だろ!
「逃げるのか!? 人間ッ!」
「それもありだが……!」
……違和感を感じる。
俺が仮面女をかっ捌いた時に出来た違和感……
「……あ」
服が切れて、その……
胸が露出してる……
「図星か人間ッ! そんなの認めないッ! さぁ! 戦えッ!」
「……その……な……すまん」
とにかく、謝っておく。
俺は仮面女から目を逸らした。
顔が心なしか熱くなったような気がする……
「何を訳の分からない事を!」
「……」
無言で指を差し、気づいてもらうようにする。
案外、ティナよりあるから目の保養に……
変態か己はッ!
「……ッ……こ、こんな事でわ、私が怯むとで、でも!」
左腕で隠し、右手だけで槍を構えるも、さっきより絶対動きづらいだろ!
あ、いや?
俺と同じ条件になっているのか?
左手ねぇし。
「わ、分かった……んじゃあ、容赦なく」
素早く、相手の懐に入った所で、女らしい小さな悲鳴を上げていた。
「……な、何故攻撃しない……」
「なんかこれやってて気分わりぃわッ!」
ほぼ裸の女を野郎が襲う。
男としてじゃない。
もはや、やる事事態が変態だ。
「早く着替えてこいよ……待っててやるから」
「……! い、良いのか?」
仮面女が、驚いたように言ってくる。
それにため息混じりに答える。
「ああ……」
「……分かった、すぐ着替えてくる……それまで動くんじゃないぞ!」
ビシッと俺に指差し、疾風のごとく、この場を走り去った。
女の着替えってどんくらい掛かるのだろうか?
……まぁいい。
俺は自分の吹っ飛んだ左手を拾う。
あーあ……
治っかなぁ……
貴重品袋に無造作にぶっこんだ。
よし……
「帰ろう」
見ると空は暗くなってきている。
しかも曇りだし。
俺は村とは逆の方向へ走り出す。
仮面女が出てきたら面倒だしな。




