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第四十七話 図書館

「……読めん」


 再度、今の言葉を繰り返す。

 やはり記号の羅列にしか見えない。

 なんて書いてあるのか分からない。

 でも、これをティナに言うとなると……


『え? 読めないの? 困ったな……あ! なら読んであげようか?』


 それはそれで屈辱だ……

 いや、プライドどうのこうのの問題じゃないってのは分かってる。

 それでも……なぁ……


「あれ? どうしたの? メイさん」


「い、いや!? 別に!? あ、俺あっちの見てくるわ!」


 ティナに悟られないよう、俺はそそくさと別の場所へと移動する。


「くそー……もう文字も日本語にしとけっつうの……」


 本棚を見ながら、ありもしないことを言っている。

 まぁ……話せるだけマシなんだけどよ。


「……取りあえず、パラパラとめくってみよう」


 何も分からず、詰んだままではいかないと思い、俺は本をパラパラとめくり始める。

 うん、読めん。

 絵は……なんか地面から刃が突き上げている物だ。

 他にも、岩を投げたり、地割れを起こしたり等の事が描いてある。

 あー……一応魔法の本なのね。


「読めれば意味が分かるが……今見ても分からんな」


 パタンと本を閉じて俺は本棚に戻す。

 うーん……

 どうしたものか。

 ふらふらと歩いていく俺……

 案外途方に暮れてんな……


「……お?」


 見覚えのある文字が表紙に書いてある……

 いや、絶対これそうだ。


「やーっぱな! 俺以外にも居なきゃおかしいもんな!」


 ……日本語で、『私と同じ境遇の者へ』と書かれている本を俺は手に取った。

 それなりに分厚く、読むのに一日では終わらないだろう。

 中身をパラッとめくると、日記のような物だ。


 異世界へ招かれたのが2017年4月8日……

 因みに俺は2018年4月8日だ。

 ……でもなんでだ?

 日記っつう割に何年も書いてあるし、それに歳も取ってるらしいじゃねぇか。

 ……地球とは時間の流れが違う的なヤツか……?


「あ、いたいた! メイさん……って何を読んでるの?」


「ん? ちょいとな」


「うわー……変な記号ばっかり……読めるの?」


「さてな」


 ティナの方の返答を適当に受け流しつつ、また日記に目を戻す。

 ……うわ、帰る方法を模索してやがったみたいだ。

 召喚したヤツを捜しつつ、一人で戦っていったみたいだ。

 つかいいなコイツ……

 レベルとかの上昇が早いらしいじゃねぇか。

 天寿全う前には237レベルまで上げてたらしい。

 名前は……日比谷ひびや 孝則たかのりか。

 タカノリ ヒビヤ……よし、覚えた。

 自慢話とかになってねぇか?

 この日記……

 魔人の王を倒したとか、うわ、のろけ話とかもありやがる。

 十数年、捜したようだが、見つからなかったらしい。

 裏表紙の裏に、初めからこの世界で生きようとするべきだったとか書かれてる。

 まじでか?

 帰れねぇって。

 俺には関係無いけども。

 金あれば居心地いいし。

 唯一風呂が無いのがなぁ……


「メイさん? 悪属性の本どうするの?」


「……初耳なんだけど、なんだそれ」


 悪属性って何……


「え、ああ、パラライズとか、ダウンガードとか。そういう類いを属性で表すとそうなるの」


「……あ、そうなの」


 悪って……

 もうちょいマシな名前はないのか?


「後で見てみる」


「分かった。じゃあ、はい」


「…………おう」


 日記から目を外し、その本を持とうと片腕だけ、差し出した。

 ……ものっそい分厚かった。

 ティナは容赦なくその本を俺の手に置く。


「ぬぁ!?」


 右手で日記を読んでいた為、左手しか出さなかった事に原因があるのだろうが……

 俺の体は左手の本の重さに耐えられず、膝を折って必死に堪えようとした。

 ……結果、左手は潰された。


「ぅおぁあああッ!?」


「ちょ……だ、大丈夫?」


 めっちゃ痛い!

 くそ痛い!

 手ぇなんとも無いよな!?

 無事だよな!?

 ティナは急いで先程渡した本をどかし、俺の左手は露になる。

 ……まぁ、赤くなってるよな。


「いってぇ……」


「ごめんごめん……次からは気をつけるから」


 笑いながら小さな声で言ってくる。

 ついでに言うと、俺を睨み付ける影が奥から幾つも見つかった。

 ……悪かったっつうの。

 俺は先程の日記に目を落とす。

 要点だけ見ればそれほど掛からんでもない……か。


「称号……パッシブ……異世界人には……固有スキルがあるかもだって?」


 俺は鼻で笑う。


「コイツ……俺TUEEEEしてやがったな……」


 見ろ、俺を。

 初期ステータスのHP、MP、素早さが高くて案外困りもんだぞ。

 少しでも格上になるとダウンガード入れたり、攻撃受けないよう注意せなアカンのに。

 それにな……

 経験値の量が半端じゃねぇんだよッ!


「くそー……コイツ、運いいな……」


 初期ステータスは平凡だが、必要経験値が低いとか。

 まじで羨ましいわ。


「メイさん……本当に読めてるんだ」


「ん、ああ」


 読めないヤツの前で悩んでても仕方ねぇしな。

 今は読めるヤツから情報を得るとしよう。


「っち……あとはのろけと自慢話だ……」


 収穫なし。

 本をこのまま投げ出したい衝動に掛けられるが、グッと堪え、本を元の場所へ戻す。


「何て書いてあったの? 30字以内で答えなさい」


「うぇ!? えーっと……他者のプライバシー、つまり日記が書いてあった」


「日記かぁ……! ねぇねぇ……恋愛話とかもあった?」


「あるんじゃね? 興味ないから読んでないけど」


 目をキラキラさせながら、ティナは言ってくるも素っ気ない態度で俺は受け流す。

 俺の言葉を聞いてさらに目をキラキラさせてきやがる。


「……読んで!」


 少しだけ溜めて、ティナが言い出してくる。


「は?」


「お願い! 私、そういう本あまり読んで来なくて……その……」


 何故か言いにくそうにしている。

 心無しか、その頬は染まってるように見える。


「はぁ……じゃあ貸してもらうか……許可とかいるんだろ?」


「うん、でもその本、タイトルも読めないけど……」


「……無断で持ってってもバレないんじゃ……」


「駄目だよメイさん。ルールは守らないと」


「……へいへい……真面目だな……」


 俺は日記と、悪属性の魔法の本を借りる事に。

 ティナの方は……


「……重くないのか?」


「だ……いじょぶ」


 分厚い本をティナの身長を越すほど持っている。

 ……本当か?


「少し分けろよ……そのままじゃどっかぶつけるぞ」


「あ、ありがとう……」


 俺は自分の本を下ろし、ティナの持っている本を3冊ほど持ってやる。

 ……おっもッ!

 俺が持てるか怪しくなってきた。

 よく持ててたなッ!


「大分楽チンになった」


 笑いながらティナはそう答える。

 ここで俺が持てないとなると、絶対この表情は変わるな。

 申し訳ないという顔に。


「……俺、何してんだろ」


 本を重ねてみると、目の前が見えない。

 横から覗くしかないな……

 それに腕がぷるぷるする。


「……あれ? メイさん、大丈夫?」


「だ、だ、大丈夫だ……んなもん、ら、ら、楽勝だ」


 ものっそい辛い。

 顔は余裕の表情と見せかけて口がつり上がって、辛そうにしてしまってるだろう。


「お、重いなら無理しないでも……」


「バカ野郎ッ! 女に負けたら男として駄目だろッ!」


「……女……」


 俺はティナより先に図書館のカウンターへと持っていく。

 ここから入り口辺りまでを全力疾走しながら速攻でついた。

 受付であろう人か目をパチクリとさせていたが、気にしない。


「今から一週間以内に返却してくださいね?」


 と受付から言われて質量保存の法則を無視した黄色い袋に入れる。

 ……その手があったかとそれを見て地面に手を着きたくなった。


「私の方もお願いしますー」


「はいはいー……セレスティナちゃん?」


 俺が終わったと同時に受付が声のトーンを変えてティナを呼ぶ。

 何かあったか?


「あ、イオナちゃん!? 久し振り! 覚えててくれたんだ!」


「そっちこそ! 忘れられてたかと思った! 今まで何してたの!? 長い間顔を見せないで!」


 ……昔話に花が咲くってヤツか。

 そういやティナが通ってたんだから、当たり前か。

 俺は一足先に図書館から出ていく事にする。



「ふぅー……しっかし不思議な袋だよな……」


 下手に突っ込んではいけないことを俺は知ってるが……

 やっぱり疑問には思う。


「おい……そこのお前」


 図書館から誰か出てきやがる。

 ……なんだ?


「お前……うざすぎて全然勉強に集中出来ないんだけど」


 出てきたのは幼い……

 本当に幼い、小学生くらいの背格好をした少年だった。

 餓鬼か……


「……あー……悪かった」


「何その態度……謝り方も知らないの?」


 餓鬼が灰色の髪を撫でながら皮肉を言ってきやがる。

 俺はその態度にイラッとしつつも、平常心を心掛ける。


「はいはい……」


「知らないみたいだね……なら、オイラが叩き込むよ。ついてきな」


「は?」


 餓鬼がそう言って、引っ張って来やがる。

 何処にいくっつうんだ?

 そもそも俺は待たなきゃならんのだが。


「ついてくって……思いっきし引っ張ってんじゃねぇか」


「逃げるのか? なら謝れよ。ちゃんと」


 このムカつく餓鬼……

 何なんだよ……!


「わーったよ……ついてきゃあ良いんだろ?」


 餓鬼が俺をどこぞへと連れていく。

 ……本当に何処に行く気だコイツは……


 しばらく餓鬼の後ろを歩いていくと、何やら体育館のような広い場所へと来た。

 体育館……なのか?

 ここは。


「……よし、模擬戦だ。お前が勝ったら許してやる。負ければ……」


「模擬戦? 模擬戦ってルールはなんだ?」


 餓鬼が俺の言葉にキョトンとする。

 なんだ?

 おかしなこと言ったか?


「っぷ……かははッ! 模擬戦のルールも知らないとかお前、何年この学校に居るんだよ!」


 馬鹿にしたようにして言ってくるが……

 いや、今日来たばっかですとしか言いようがない。


「いいからルール教えろ。糞餓鬼」


 あっ……

 言葉に出ちまった。

 まぁ、いいやと思って見てみるとムッとした表情で餓鬼が俺を睨み付けてくる。


「道具使用禁止であとはなんでもやっていいルール。

 ただし、逃げるのはこの部屋だけ。勝敗はどちらかのHPが50パーセント以下になった時。血が出た方の負けってこと」


 はーん……

 そんなルールなのね。


「……わーったよ。んじゃ、やるか」


「……後悔させてやる」


「餓鬼にやられるワケにゃあいかねぇよ……」


 相手の餓鬼は杖を、俺は短剣を抜き、戦闘準備を行う。

 魔法と近距離の対決か?

 距離を詰めれれば俺が圧倒的に有利か。

 俺は杖を振るう餓鬼を見ながら考察する。

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