第四十四話 激痛
こんな狭い中、戦闘なんざしたことねぇけどやるしかねぇ……
ククリナイフを握り締め、野郎達を見る。
剣に短剣に鎌に……
いっそのこと同士討ち狙うか?
考えていると、ティナも剣を構える。
深呼吸して、目を野郎達に向ける。
心無しか、少し震えている。
……やはり怖いのだろう。
「いくぞぉおお!」
野郎どもが雄叫びを上げながら、小さな通路で俺らに向かって走り出す。
ともかく、俺とティナは迎え撃つ準備だ。
「死んでも……化けて出てくんなよォオオッ!」
俺は突っ込み、ナイフで野郎を斬る。
やはり、血はまだ出ないか。
ダメージをある数量与えれば、人体にも被害が出るのは分かった。
正確な数値が分からんが……
多分、HPが何パーセント以下になったらとかだとは思う。
逆にその数値以下にならなければ怪我とかを気にせずにバンバン攻められるからな。
俺は野郎と距離を取り、再度攻撃を仕掛けようとする。
「イッ……!?」
突如、背中に刺激が走る。
見ると、野郎とは他のヤツが俺に短剣をぶっ刺していた。
123/150
と表示される。
27も減ったっつうのか……!
「め、メイさん!」
「自分の心配しろッ! 馬鹿ッ!」
舐めてた……
攻撃らしい攻撃なんざあまり受けた事が無かったから、舐めてかかっていた。
俺をぶっ刺さしていた短剣が抜かれ、激痛が走る。
「いってぇえ……!」
血でも出てんじゃねぇかっていう感覚に襲われる。
背中を抑え、痛みを堪える。
っちぃ……
「余裕ぶっこいてらんねぇな……」
血はやはり出ていない。
異世界に来て、俺もこの世界の仕様にされたっつうわけだ……
俺は天井にぶつからない程度の跳躍で、一度退く。
「くそ! おらぁッ!」
退いて、また突撃。
先程狙った人物に斬りかかり、鍔迫り合いにする前に相手の武器を弾く。
そして、腹部を突き、蹴りを入れる。
相手は少し後退し、奥の人物も武器を構えることが出来なくなった。
が、隣にいた人物が俺に鎌で斬りかかる。
急いで懐に入り込んで、胸を突く。
……が、引かれた鎌が俺の肩に食い込んだ。
「グッ……!」
いてぇ……
ついにHPが90代になった。
やべぇぞ……
「アクアガンッ!」
ティナの方は、水の塊を相手に放ち、スキをついて攻撃を仕掛けている。
俺なんかより、安全な戦い方だ。
「メイさんッ! 無理しないで!」
「無理なんざしてねぇよッ!」
食い込んだ鎌を自力で引き抜き、相手の首をかっ切る。
なんでんな事……
こんなことになってまでやんなきゃなんねぇかなぁ……!
クソッ!
「麻痺の力……宿れ……パラライズ!」
左手に麻痺属性を付与、俺に襲いかかってきた一人に向かって顔面に触れる。
痙攣を起こしたソイツを引っ張り、振り回して前方へと投げる。
数人はその下敷きになり、倒れこんだ。
「ざまぁ……!」
倒れているヤツから、短剣を奪い取り……
左手にも構える。
二刀流……
大勢を相手取るなら、手数が多い方がいいハズだ。
因みに構えているのは対称的な刃になっている、ダガーというヤツだ。
「よし……」
タンッと地面を蹴り、風を切るようにして、ククリを振るう。
一人の頬を切りつけ、体を捻らせ、ダガーも突き刺す。
すると、隣にいた野郎が俺の右腕に向かって剣を振り上げた。
「ッ……ぁぁああッ!」
痛い……
痛い……!
痛い!
なんだ……!
さっきとは比べ物にならない痛みは……!
「ッらぁああッ!!」
ダガーで相手を切りつけ、俺は距離を取る。
右腕を抑えようとした所で気づく……
「……まじかよ」
HPは74……
半分を切った……
そして……
右腕はない。
「……」
どくどくと流血する、右肩から先はどこへいったか?
切り上げを喰らった時に、飛ばされたんだろう。
……それで、現状を見て冷静でいられる俺はなんだ?
「め……いさん……!」
なるべく致命傷を与えないようにしていたティナの動きが変わる。
急所を狙う動きに変わり、相手を労る様子がない。
「メイさんを……傷つけるな……ッ!」
今までに聞いたことのない、ティナの声に俺は背筋がゾッとした。
一瞬だけ、ほんの一瞬だけティナから光が放たれた気がする。
「迸る雷……ライトニングッ!」
ティナの左手から閃光が放たれ、俺の腕を切ったヤツが狙われる。
それに直撃し、その周りにいた奴等も飛び火した。
つ、つえぇ……
そして、
「こえぇ……!」
「メイさん! 傷口を見せて! 早くッ!」
「……あ? んなもん後で────」
「ダメッ! 出血だけでも止めないとッ!」
そう言って、俺の傷口に手をかざしてくる。
相手はまだ体制が立て直せていないようだ。
「傷を癒せ……ヒール」
淡い、光がティナの手を覆う。
その光が接する程、俺の肩にティナは手をかざしている。
思えば俺に回復魔法をするのは初めてだな。
いつも、俺は攻撃を喰らわないからな。
「もう、大丈夫だ……」
HPは97。
普通に痛みは無くなり、出血も収まった。
腕が生えてこないのは残念だけどな。
俺の油断で生じたもんなのだから、仕方無い。
「駄目……まだHPが……」
「大丈夫だっつうの。今度はこんなヘマしねぇ」
左手でダガーを構える。
さっきは突っ込み過ぎたな。
大した技術も無いのに突っ込むからだ……
俺は安易に距離を詰めるのを止めることにする。
牽制し、相手との距離をジリジリと詰める。
相手が動き出したと同時に後ろを取り、攻撃、そして退く。
しかし、そうやっていられるのも今のうちだけだろう。
ティナも俺も少しずつ疲労が溜まっていく。
そうなれば、こんな簡単にはいかない。
「なッ! うわぁあ!」
「ぎゃあああ!」
「ぬぉおおッ!」
突如、相手側の陣営の後ろから、叫び声が聞こえる。
……何があったんだ?
そう思った瞬間、ものっそい音と共に何人か上空を飛び、天井にぶつかっていた。
「ギャウルルルッ!」
「……コメットちゃん!」
ティナが叫ぶと、ギャウッと嬉しそうに鳴きながら、尻尾を武器に振り回す。
それで、人は宙を舞う。
……まじかぁ……
あの尻尾、飾りじゃ無かったのな。
「ひぃいい!」
戦意が喪失した者も多く、ティナと俺も先程より早いペースで撃沈させていく。
コメットは尻尾の攻撃をメインにして、噛みつき、引っ掻きも行っている。
「ッ……まただ」
右手を使おうとして、腕がないのに気づく。
あると錯覚するのだ。
あるのが当たり前だとおもっているからだ。
「不便だ……なっ!」
ダガーで切りつけ、相手を倒れこませる。
残るは数人だ。
その数人を倒せば、脱出が出来る……
「はぁあああッ!」
ティナの凪ぎで一人、切りつけられ、さらに連撃をかまして、沈黙させる。
サッと一度後退した後、すぐに攻めに入る。
「やぁッ!」
……本当、何があったよティナ……
さっきまで人を前にして震えていた奴とは別人だぞ。
「ギャウッ!」
ティナの切り上げと、コメットのテールスイングが決まり、前方と後方に人が飛ばされる。
……全員を片付けたのだ。
俺が浮いてたけどな……
「……あっ……メイさん! 大丈夫!? 痛まない? フラフラしない!? 気分は!? 意識は!?」
「大丈夫だっつってるだろ……」
ひょいっと自分の腕を拾い上げて大事な物用の袋に入れる。
取りあえず治療出来るか、治療院に持ち込む為だ。
「本当に大丈夫!? 支えようか!?」
「お前は過保護過ぎんな! 大事だっつってる!」
「本当!? 嘘じゃ……」
「嘘じゃねぇって! ともかく、ここを離れんぞッ!」
俺はダガーとククリを道具袋に入れ、ティナを掴む。
ティナはそれを受け入れて、一緒に走り出す。
コメットは先陣を切り、道の案内もしてくれるようだ。
「……腕が……」
「部位はあっから心配すんな」
「心配するよッ! いくら切られた場所があるからって……!」
……?
何をそんなに心配してるんだ?
レイトナイドが言ってたじゃねぇか。
「本当……もう無茶はしないで……」
「知らんな。この体は俺のもんだし、無茶した覚えはない」
心配し過ぎなんだよティナは……
そんなティナを引き連れて、俺はコメットの後を涼しげについていった。
自身のおかしさを自覚しないで……




