第四十三話 そして逃げ出す
「ギャウルルッ!」
コメットの威嚇行動が始まる。
牙を剥き出しにして、体勢を低くして当に、今襲い掛かろうとしている寸前だ。
目の前にいる魔物は、ワイルドベア。
いや本当、コイツの出現率はおかしい。
いつもの場所に来たから仕方無いけどさぁ!
「よっ」
慣れた手付きで麻痺に陥らせ、首もとをかっ斬り、コメットの追撃が入る。
いつもならここでティナが攻撃を入れるのだが、今回はいない為、俺が入れる。
胸の辺りを一突き……
躊躇なくやる俺はなんなのだろうか。
本当に現代っ子なのか?
手に血が付着しつつも、ククリナイフを食い込ませる。
ワイルドベアが痙攣し続けるが、徐々に弱まっていく。
その時にナイフを取りだし、後退。
ワイルドベアは力無く倒れ、絶命する。
「作業ゲーと化したか……」
一連の流れで終わってしまうので、ゲームでいうレベリングとなんら変わりない。
それにティナには学習装────
いや、パーティの共有をしている為、経験値は入るみたいだ。
取りあえず馬車にティナがいるみたいな感覚。
いや馬車ねぇけど。
「ギャアァ……ゥ」
退屈そうにコメットが欠伸している。
……作業だからな。
退屈なんだろうな。
かといってここより強い所なんか行きたくない。
ティナもいないのだから、無理もできない。
つうか、いつも道具屋とかスルーしとるな俺は。
薬草とか回復薬とかありそうなのに。
「……少しだけ日が傾いてきたし、そろそろ帰るか」
俺は今回の魔物討伐を切り上げる事にする。
道具屋に覗きたくなったんだ。
「ギャウッ」
コメットも俺の隣につき、同じ歩調で……
いや、同じ歩調より、少し速いスピードで歩く。
それを追い越そうとはや歩きする。
……即抜いた。
はや歩きに全力疾走で追い掛けて来やがる……
「……」
「ハッ! ハッ!」
コメットの息継ぎが聞こえる……
そんなに疲れるか?
……全力疾走なら疲れるか。
俺はそんな感じで城下町へと帰っていく。
……城下町についたコメットは息が荒くなっていた。
対する俺も少しだけ息が荒い。
運動不足はこれだから嫌だ……
まぁ、仕方無いんだろうけど。
俺らはまずは道具屋に向かう。
ついでに井戸の水で喉の渇きを癒した。
井戸はここにあったんだな……
正門からさほど遠くない位置にあった。
息を荒げているコメットも水を飲んで……
……ボタボタと口から水を垂らしている。
こっちみんな……
一息ついたところで、そろそろ道具屋へと向かう。
討伐ギルドの周辺に確かあるとか言ってたか?
俺はその記憶を頼りに、取りあえず討伐ギルドの場所へ向かった。
……が見当たらない。
意味不明な記号の羅列が並んでいる場所が多すぎる……
こんなとき人間辞書がいればラクなのに。
辺りの話し声から盗み聞きしても、道具屋のことは一切語ってない。
それにもう夕方だ……
仕方無い。
俺は道具屋の発見を諦めて、ティナのいる屋敷へと向かう。
……ティナのHPはまだ減ってない。
何も起こってない証だろう。
つかなんで視界にHPとか映ってるのに違和感ないんだ?
今更だけど。
……俺は屋敷に向かい、屋根伝いで待機する。
敷地の真ん前じゃ警戒されるだろうしな……
つか夜目に早く慣らさねぇと……
片目を閉じて、もう片方の目で屋敷の敷地とティナのHPを監視する。
ついでにコメットは、宿前で留守番中だ。
流石に連れてきたら面倒になるしな。
「……さて……待つとすっか……ぅう……寒……」
少しずつ風が冷たくなっていく……
その中で俺は見張りを行う。
杞憂であってくれればいいのだが……
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「ふぁあ……」
俺は欠伸を噛み殺す。
しばらく夜更かしなんてしてないから……
っていっても昨日はしたか。
しかし、何もないと自然と眠くなるもんだな……
辺りに夜の帳が下り、今も尚、何も起こらない。
杞憂だったかーとかここで寝ても帰っても意味がない。
これから何が起きても不思議じゃ無いのだから。
「……しっかし誰もいないな」
誰も出たり入ったりしないな……
敷地を見て、そう思う。
誰かが入るにしても、出るにしてもあそこしかな────
「待て……出入り口は本当にこれだけなのか?」
……裏から出入り出来る扉があっても不思議じゃない。
そもそも、夜中にしても昼にしても、そっちから通ればなんでも出来るじゃねぇか!
敷地とは逆の方向を見ると、屋根で下が見えない……
タンッと下に降りると……
「クソッ……しくった……!」
ティナのHPが減っていないからと油断しすぎていた。
屋敷の裏側にも扉があり、裏路地が続いている。
しかも、その扉は少しばかり開いてるのだ。
バンッと扉を開け、不法侵入を犯す。
異世界なんだからこんなん法律破ることにはなんねぇ!
「な、何事ですか!?」
タタタッと、階段から誰か急いで降りてくる音が聞こえる。
「……ッ! 貴方は……!」
「ティナを……俺の連れを何処にやった……」
静かな怒りが沸き上がる……
ほんっと、期待を裏切らねぇな……!
降りてきたのは屋敷で出会った使用人だった。
俺を見るや否や、顔面蒼白になり、口をパクパクさせている。
「言わないなら力尽くでも……」
「奴隷市場です! お願いです! 見逃して……見逃して……!」
……即吐いたな。
ま、いいだろ。
行き方を教えてくれるか?
「どこだ? 奴隷市場っつうのは」
「は……はい……ええと」
路地裏に出て、左へ。
突き当たりを右、二つ目の角を左の突き当たりの扉……
なるほどね……
左、右、二度目の角を左、突き当たりゴールか。
「嘘だったら……」
「嘘じゃありません……ありませんから……!」
今にも泣きそうな顔して言ってくる。
つか、簡単に裏切って良いもんなのか?
この使用人、普通にクビになるだろ。
ま、相手にしててもしょうがない。
俺は急いで裏から出て、奴隷市場とやらに全力疾走する。
突き当たりの扉まで来たが、その扉の前には誰かがいる。
が、関係ねぇ!
「パラライズッ!」
「ぐぉぁッ!?」
刹那、詠唱を素早く終えたパラライズで扉前の誰かを左腕でみぞおちを打った。
それを受けて蹲り、痙攣を起こす。
蹲った野郎を無造作にぶん投げて、扉から退かす。
……うっし……侵入だ……
脱出するときはどうにかなんだろ。
扉を開けると、地下へと続く、階段がある。
その階段を下ると、不自然に長い通路になっていた。
その延々と続く通路を走っていく。
うわっ……
分かれ道多すぎるだろ……
多分、地下を通じて多くの出入り口があるんだろう。
俺は適当に迅速に捜しまくる。
……うわ、行き止まりもあんのかよ!
「時間食ってられねぇのに!」
路を蹴り、急ぐ。
先程から上りの階段が多く、それを見つけたら引き返す事にしている。
幸いなのか、追手は来ていないようだ。
大方、増援でも呼んでいる事だろう。
「……下り……か?」
もう自分が何処にいるかさえ分からない辺りで、下へと続く階段を見つける。
……この下の可能性が高いな。
「よし……よし」
息を吸って吐いて、行ける……!
俺は階段をゆっくりと歩き、降りる。
……
牢屋だ……
通路の側面に、牢屋があり、多分奴隷なのだろう。
鎖で繋がれている、人達がいる。
その殆どの目に光がない。
ある人はというと、周りの人よりも健康状態が良さそうな人だけだ。
「とりま、奥か……」
牢屋の奥のモノには目もくれず、俺は進む。
関係無いしな。
……少し歩くと、広い部屋へと出る。
カウンターがあり、ここに奴隷を扱う商人がいるのだろう。
右、左、カウンターの後ろと通路があり、カウンターの後ろの通路だけ、頑丈な扉がある。
……開いてないからソコではないことを祈る。
「こっちか……?」
俺は左の通路へと向かう。
その両サイドにも牢屋のような区間がある。
ここらへんは比較的、うるさい人が多いな。
多分、最近入れられたりしたのだろう。
目もまだ死んでない人が多い。
「……見てても気分は良くならねぇな」
サッと目線を戻し、目の前の事に集中する。
助けを求める声が聞こえるが構ってられない。
だって、商品になった奴等だろう?
そんなの助けても俺には利益がない。
「……そうですな」
鉄格子ではなく、壁になっている場所からそんな声がする。
……ここは……部屋だな。
どこから入るのか……ああ、少し先に扉がある。
「この状態ですと50万シルドは出しても買いたいですな」
「そ、そんなにいいのか!?」
「流石、私達の娘だわー……!」
「んーッ! んーッ! んんんーッ!」
……明らかに人身売買の現場だ。
ティナの両親は実の娘をまた売ろうとしてやがんのか……
本当……ティナが不憫だ。
何度捕まるんだよ……
さて、これ以上待つのは仲間としてどうかと思うんで……
「突っ込むか……」
ククリナイフに手を置きバンッと勢いよく扉を開ける。
瞬時に状況の把握を行う。
手を縛られ、口には布を巻かれているティナ。
俺の存在に驚きを隠せない両親と奴隷商……
「俺の……仲間に何しやがる……ッ!」
俺はこれでもかと思うくらいに睨みを効かす。
効いてる効いてないの問題ではなく、単に気に入らないからだ。
「お、お前は……!」
ティナの父親が声を出す。
それを無視して、ティナの元へ素早く移動し、手を縛っている縄を切り、布を取ってやる。
「……また……助けて……くれたの……?」
涙目で聞いてくるティナがそこにはいた。
「んな事より逃げるぞ」
「まっ……待ちなさい! なんなんですか貴方は!」
奴隷商であろうヤツが言ってくる。
うっせぇなぁ……
逃げるのにそんなん言わなくていいだろ……
「走るぞッ!」
「え、う、うん」
ティナは戸惑いながらも、頷く。
そのティナの手を取り、俺は入ってきた扉に向かってダッシュする。
ティナが気にかかったが、無事についてきてくれている。
「せ、セレスティナッ!」
「セレスティナ! 行かないで!」
後ろから声が聞こえるが俺は止まらない。
ティナが止まるかが心配だったが、そんなことはなく俺についてきてくれる。
どこでもいい……
上へ……
上へ上がれれば……!
「はぁ! はぁ!」
「頑張れ!」
息切れを起こし始めたティナを励ます。
辛いのはお前だけじゃねぇんだから!
「この部屋を右で進めば……!」
……俺は足を止めた。
奥から人影が見えたからだ。
最悪なパターンだな……ここで追手登場か?
「居やがった……! コイツだ! コイツが入り込んできた賊だ!」
「……嫌だろうが、斬るぞ……ティナ」
「に、逃げるためだから……仕方無いよ……」
いつになく、自信が喪失したようなトーンでティナは応えた。
それもそうだなと受け取り、ククリナイフを抜く。
案外狭いけど……いけるか?
前方で構えを行うのは3人……
後ろに何十いるんだ?
そんな事を考えつつも、戦闘準備に入る……




