第四十話 悪くない
「……すげぇここまで聞こえてくるな」
広場から結構離れた場所に俺はいる。
ティナに連れていかれるがままに、大通りを歩いていたのだ。
しかし、途中で……レイトナイドの演説のようなものが聞こえ、ティナは足を止め、俺も止まる。
……少しだけ手を繋いでるのを意識し、顔が熱くなる。
「……本当……祝い事でこんなに静かになるなんて」
ティナが驚いている。
多分、異例の事態……ってヤツだろう。
不思議と周りの人達も広場の方へ顔を向けている。
挙げ句には子供も見ているようだ。
「ついてきてくれ! 我が国民達よッ! 必ず、皆が笑える世界を作るためにッ!」
レイトナイドの今日一番の声が聞こえた。
かなり離れている俺達の耳に入るって事は、正門まで聞こえていたりするかもな。
しばらくは沈黙していた聴衆だが、ぽつぽつと同意の声が広がる。
最後にはほぼ全員の声が入ったのだった。
「おー!」
「……」
俺だけ耳を塞いでいる。
うっさい。
コメットは関心が無さそうに自分の尻尾を追い回している。
ティナだけが、口をしていた。
「……メイさん……! 国が人間族と手を取り合うって!」
「へぇ」
キラキラと目を輝かせながらティナが言う。
それに、顔がかなり近い。
俺は目を逸らして、コメットの方向を見た。
尻尾をガジガジと噛み、座っているコメットの姿が目に入った。
「私、嬉しいッ! 魔人族が人間族と一緒にいられるなんて!」
「……」
ティナは微笑み、俺は後ろへ下がる。
顔がドンドン近づき、ぶつかりそうになったからだ。
「人間は嫌いじゃなかったのか?」
……言葉にした時、少し後悔した。
そんな言葉は言うべきではない。
それが分かったからだ。
だが、ティナは答える。
「人間も……魔人も。容姿は変わっちゃうけど、でも……同じなんだって思えるようになったから」
目を閉じて、思い出に更けるようにしてティナは言う。
……何を思い出しているのだろうか。
「……」
「そう教えてくれたのも、メイさんだよ……」
……教える?
こんな俺が?
「冗談はよせよ……」
「冗談なんかじゃない……」
「……」
俺は黙る。
ティナのペースに乗っかりそうだ……
大きな声が続く中、俺らは声が収まるまで、この場にずっと立っていた。
・
・
・
・
・
・
・
約10分くらい経ったか……
人々が動き始め、騒ぎが多くなったのは。
騒ぎといっても、事件やなんかじゃない、祭りを楽しむ声や笑い声等が絶え間無く混じっている。
「……んで、これからお前はどこに……」
「いいからいいから」
鼻歌を歌いながら、ティナは決めているかのように道を進む。
「あ、やっぱり出てる!」
ティナが指差したのは、屋台……
だが、如何せん文字が読めん。
それでも、何を売ってるのかと、除きこんでみると、何やらパンを売っている……?
「……パンか?」
「って思うでしょ?」
自慢気にティナは言いつつ、屋台へと向かう。
コメットはというと、何故か子供達の標的となり、逃げている。
単純に触りたいだけなのだろうが、それを察しているのか、はたまた防衛本能なのか、逃げ出したのだ。
まぁ、パーティから状態は見えるから、危なくなることはないな。
「ってそうだ、パーティ組み直さないとな」
「あっ! うん、そうだね」
ティナをパーティに招待している間に、ティナはパンを買ったようだ。
……正確にはパンを輪切りっつうのか?
そうしたものが袋に数個ずつ入ってる。
因みに3つ買ったらしい。
「はい。一袋あげるね! 食べてみて」
早く早くとティナに急かされ、俺は袋をあける。
……思えば紙袋なんてあるのか。
ビニールは、まぁないよな……
「早くっ早くっ」
「へいへい」
輪切りのパンを口にして、歯で……
「……かったっ!?」
力を入れても噛めなかった。
その様子を見て、ティナはおかしく笑ってる。
「あははっ……ははっ……! おっかしぃ……!」
「……コイツ、謀りやがった……」
少しだけイラッとしつつも、噛んだそれを見る。
……ラスクだ。
これ、めっちゃ固いけど、ラスクだ。
確か普通のパンよりカリカリとしてて、菓子になってるやつだ。
「ごめんごめんっ! どんな反応かなーって思っててつい……ふふ」
「くそ……まんまと乗せられたか」
固すぎんだろこれ。
歯が立たないぞ?
「焼きパンっていうみたい。焼いたパンをもう一度焼いたからだって」
「焼きパン……ねぇ」
今度は奥歯で削るようにして食べる。
……パンだな。
味は。
しっかし、もう少し小さく切れば丁度良さそうなのに、何故こんなに太くした。
小学の国語辞書の厚みくらい、大きい。
それがあと2つ袋に入ってる。
腹がふくれるぞこれ。
「あむ……」
ティナがでっけぇラスクを頬張る。
食えんの?
それ。
「……大丈夫か?」
豪快な食べ方に俺は少し退く……
膨らんだ頬は少しつつけば割れそうだ。
なので指先でつつく。
「ぶぉっ!?」
「がっ!?」
ティナがラスクを吐き出して俺の方に飛ばす。
まるで弾丸を受けたような衝撃だった。
HPが3くらい削られる。
……ヤバイな……
やってから後悔するのはこういう事を言うのか。
「ケホッ……ケホッ……」
「いつつ……」
落ちたラスクは犬……
いや、狼にくわえられていく。
……逃げてたコメットが拾っていったみたいだ。
「ひ、酷いですよ……メイさん」
「まさか……吹き出すとは思わねぇよ……」
それに、そのラスクで3削られるとかヤバイだろ。
「こ、心の準備が……ちょっと」
「準備が必要なのかッ!?」
顔を少し赤らめたティナが言いづらそうにしていた。
ただつついただけでなんつう反応だよ……
「……ほら、一つ返す」
取りあえず、袋からラスクを一つ取り出して渡す。
「いいの?」
「ま、いいだろ」
「……ありがと」
渡したラスクは再びティナの口の中へダイブしていった。
すげぇな。
やっぱ丸ごといくのな。
「みっけたぁッ! メェイッ!」
「あだっ!?」
突如、首を絞められ、HPが微少に減る。
こんなどうでも良いことでダメージ受けんなよ!
「ふぁ……ふぁあふぉふぁあふぉふぁん」
「……!?」
ティナが何を言ったのか分からず、ビックリする。
口に頬張ったまま食うからだろ……
「よー! 俺らも混ぜろってー!」
「カートナードかッ!」
いきなりで分からなかったが、声をよく聞くとカートナードの声だった。
「ティナちゃん!」
「ふふふぁん!」
未だにラスクを頬張るティナの隣にシュルネイルが近寄っていった。
相変わらず表情が分からんヤツだ。
「つうか離せってッ!」
首を絞めてる腕を無理矢理引き剥がし、カートナードとの距離を取る。
「かてぇこと言うなってー」
「こちとら苦しいんだよッ!」
首を抑えながら、カートナードを見る。
いつもの様に笑みを絶やさないな。
……やっぱコイツは苦手だ。
「……んで? レイトナイドの演説はどうなったんだ?」
殆ど聞こえていたが、近場にいたヤツに話を聞いた方がいいだろ。
「……目的以上の形で終わりましたよ」
カートナードの後をついてきたレイジが答える。
目的以上か。
「まー……少しばっかりヒヤッとしたけどなー」
「お前でもヒヤッとすることあるんだな。ねぇと思ってた」
「酷いぜーメイー。んなこというなよー。カートナード様、傷ついちまうよ」
「ならいっぺん傷ついて黙っててくれよ!」
いい加減ウザくなってきたぞこの野郎……
まぁ、変なこと言い出した俺が原因だが。
「それじゃあ、俺らはあっち行くぞ」
「んぁ!?」
「うおぉっとぉ!」
リドルグが後方から引きずるようにして俺とカートナードを連れていく。
「うむ、我も一緒させて貰おう」
国王のハズのレイトナイドが何故か混じってる。
「ティナちゃん! 私達も行くですよ」
「ふん!」
「ギャウァッ!」
祭りは騒がしいが、ここはもっとやかましいなッ!
……だけどまぁ。
たまにはこういうのも悪くない……か。
俺らは月が昇るまで町を回りまくった。
騒いだり笑ったり、色んな事があって時間はあっという間に過ぎ去っていき、ついに祭りは終わりを迎える。
「さて……そろそろだぞ」
レイトナイドが俺らを城の一番上の階まで連れていってくれた。
今はベランダっつうのか?
そんな感じの場所にいる。
「んでここで何が起きるんだ?」
「うわぁ……綺麗だねー……」
「楽しみですよ」
「もう終わっちまうのかー……はぇー」
「あっという間でしたね」
「楽しんだから良いじゃねぇか」
それぞれの疑問、感想を口にする。
俺だけ分かってねぇみたいなの止めてくれよ……
「お前らは何やるのか分かってるのか?」
聞くと、全員が頷く。
俺だけが知らないのか!
「っく……何があんだ!? ヤバイやつだったら逃げたいんだが!」
「大丈夫だよメイさん。とても……綺麗だから」
「ぁあ……?」
言ってる意味が分からんぞ?
「……始まる」
レイトナイドの呟くような声が俺らの口を閉ざした。
すぐに、何かボンッと破裂したような……乾いた音がする。
「……こっちにも……あるのか……」
バンッと大きな音と共に、俺らの見ている夜景に綺麗な光の花が咲き誇った。
一つだけではなく、無数に撃たれたそれは……
花火だった。
「……へぇ」
「綺麗……」
「ですよ……」
「いつ見ても良いものですね」
「職人頑張ったなー……こりゃ」
「今年もいい出来だ」
皆、花火に感嘆の声や称賛する声が上がる。
俺らはそれを最後の一発まで撃たれるまで、夜景から目を逸らさなかった。
……今日みたいな日もたまには……
悪くない……




