第三十九話 ぶつかる刃が生んだもの
「皆……聞いてほしい」
国王の第一声に聴衆のざわめきが一斉に止まる。
ここは中央通りの円形の広場。
そこで国王が国民達に向かって言葉を発している。
国王の後ろには青髪、緑髪、スキンヘッドの魔人と共に、茶髪の人間も姿勢正しく直立をしている。
「我は自制とは関係なく、この六年間……体を操られていただけに過ぎなかったのだ」
国王自身から発せられた言葉は、事実なのだろうが、多くの人は今一ピンと来ていない。
「今まで我が公共の場でこのように、話をした事があっただろうか!」
手を広げ、国王は皆に問い質す。
その声に答える者はいない……
答え自体は分かっているのだ。
それでも、口に出すものはいない。
「答えは否である!」
聴衆の様子はコクッと頷いたり、首を傾げたりする者もいて、この状況が何なのかさえも分からない者もいる。
「我はこの六年間、自分の意志で聴衆を前に話した事など、一度もない!」
繰り返される言葉に国民は頷き、他の町村から来たものは黙って事の顛末を見届けようとする。
「代わりに、聴衆を前に話をした者はザンドルという男だったハズだ!」
国王の言葉に熱が込められる。
そして発言の嵐は止まらない。
「そのザンドルが! 我を裏から操り、我が国の政治を掻き回したのだ!」
拳を固めて、国王は聴衆に向けて怒声を上げる。
その声量に身を縮める者もいる。
「そして、我を助けてくれたのは……こちらの革命軍であり、この中には人間もいる!」
国民は人間という言葉に反応したように騒ぎ立てる。
何故、人間がいるのか……
疑問の声、轟く罵声、不安の声に国王への怒声。
「改めて言おう! 非道のザンドルを退け、我を助けてくれたのは革命軍と人間であるッ!!」
国王の力強い声に押し切られて、国民は言葉を発せられなくなる。
それも当然だ。
国民の発言なんかよりも、もっと力強かったのだから。
「……声を荒くしてすまない。だが、事実は事実だ」
静かになった聴衆は、今度は騒ぎ立てたりはしなかった。
だが、いくらか不満な顔をしている者も多い。
「不満に思うのも仕方ないだろう。今まで、我が国は人間を軽蔑してきたのだから」
その人間に助けられたのは屈辱ともいえる感情。
多くの聴衆はその感情を持っていた。
「だが、どうだ? ある人間は身を賭して我を救ってくれた。そしてある人間は自身の事などお構い無しに魔人を救った」
国王の言うことは事実なのか。
それすらも疑う者が出始める。
「人間にも少なからず、心優しき人間がいるのだ!」
「ふざけるな! 人間が我等にしてきた事を王はお忘れか!!」
ついに国王に向けての罵声が飛び始める。
しかし、その言葉に怒りはしない。
それどころか、その言葉に打って出た。
「忘れてなどない。人間によって、我等は酷い傷を……癒えない傷を負ってきた」
「だったら心優しき人間など────」
「いる! では何故、身を賭して我の為に戦ってくれた者がいる? 何故、自身より魔人を大切にする者がいる?」
「……」
「偏見を捨てよッ! 現実を見よッ!! 過去だけを見るな! 今を見、未来を見よッ!」
反論をした者は押し黙る。
国王の気迫に押されてしまったからだ。
国王は止まらずに続ける。
「過去を忘れろ等、言わない! ただ、その過去に囚われたままでいいのか? 魔人族の誇りは! この程度の過去にすら負けてしまうのか!?」
国王の勢いが最絶頂になる。
青い髪はなびき、国王の意志を持つかのように揺れる。
「考えろ! 我が! 国王が操られてしまった要因を! 人間のせいか!? 違うであろう! 我らの敵は他にいる!」
……革命軍のメンバーは少しだけ困った様子をしている。
まるでこんなことになるとは分からなかったと思っているかのように。
その中で国王と同じ髪の色の男だけが呆れた顔をしている。
「……こりゃ兄貴……スイッチ入っちまったな……」
青髪の男の言葉は誰の耳にも入らない。
「ぶつかる刃は火花を散らし、削るだけだッ! 我らは人間と手を取り合うべきなのだッ! これからの未来を笑って過ごせるようにッ! 我らのッ! 平和な未来を築けるようにッ!!」
……辺りに静寂が落ちた。
その様子を唖然として革命軍は見ていたのだった。
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「んん……兄貴、兄貴? なんか壮大な事言っちゃってませんかね?」
カートナードは静寂に包まれた中、それを破らないようにレイトナイドに近づき、そう耳打ちした。
本来ならば感謝を示すだけでとどまった所、いきなり人間との関係を修復する等と言い出したのだ。
「……す、すまない……が、退くに退けん」
「言っちまったもんな……あーあ……俺しらねー」
小声でやり取りをしていく内に、カートナードは半目になる。
これで王の座から退けられたらどうすんだと、思っていた。
「……ほ、ほんとうに、にんげんと、なかよくできるの?」
静寂を破ったのは一人の小さな少女だった。
その言葉には不安と期待とが、混じりこんでいた。
それを受け止めたレイトナイドがしばらく間を置いて、返答する。
「そうしたいのだ。いや、するのだ。皆が一致団結すれば叶わぬ夢などではない」
優しく、それでいて固い口調になる、レイトナイド。
子供相手に話した事があまり無いため、砕けた口調には出来なかった。
「……しかし、ついてこれないのであれば、見ていてくれ。例え我が一人になろうとも、皆を……必ず笑って過ごせるような未来を作り上げてみよう。これが、今まで自分の意志で政策を行わなかった我の……罪滅ぼしである」
レイトナイドは少し寂しげな顔をしたが、すぐに戻す。
弱味を見せては王として失格だと、自分に鞭を打って。
「あ、あー……んん! コイツを一人なんかにして、またへーんな魔法で操られるのを見ているだけかーッ!!」
真面目な雰囲気だった場所から軽い口調の言葉が発せられる。
……見ると、カートナードがレイトナイドの少し前で仁王立ちを行っている。
「か、カートナード……」
呟くレイトナイドを無視し、カートナードは続ける。
「こんな頼っりない国王、一人にさせたら突っ走っておっちんじまうぜッ!」
トントンと地面を足で鳴らし、視点を変える。
「俺は誰よりもあ……国王の事を知っている! 後ろに背負ったもんがあればあるほど、ソイツを一人で背負っちまう、馬鹿なんだよッ! そんな馬鹿、一人にさせちまったらすぐに潰れちまうッ!」
カートナードはレイトナイドを指差す。
「そんなやつに国民全員、背負えると思ってんのかッ! 無理無理ッ! そんなのできっこねぇ!」
「カートナードッ! 何を言うかッ!」
ついにカートナードの言葉にレイトナイドが口を出す。
「だが、ついてきたもんに後悔はさせねぇッ! そんなヤツでもあるッ! だからよ! 皆で背負ってやってくれねぇかッ!! この、馬鹿兄貴の荷物をッ! 少しだけでもよ!」
レイトナイドの言葉を完全に無視した、カートナードは自身の言いたい事をさらけ出した。
兄の事はそこらの人よりは分かっているつもりのカートナードでも、ハッタリをかましてしまったようなものだ。
それでも、頑張る兄の背中を見続けるだけではなく、弟として、支えようと彼なりに足掻いたのだ。
「カートナード……」
「……俺は、兄貴の味方さ」
ニヤッと頬をつり上げて、小さく笑っていた。
レイトナイドは息を吸って吐き、そして言う。
「ついてきてくれ! 我が国民達よッ! 必ず、皆が笑える世界を作るためにッ!」
「「「「おおーッ!!」」」」
革命軍の言葉が響く。
しかし、革命軍の言葉しか響かない。
「おーッ!」
少し遅れて、小さな少女の声がした。
「おー……!」
小さな声だったが、青年の声だった。
「おおーッ!」
治療中の若い兵士の声だった。
「おおーッ!」
「おー!」
「おーッ!」
「おおー!」
やがて、賛同する声は広まり、全体へと広がってゆく。
「……兄貴と、刃をぶつけて良かったな……こんな光景が見れたんだから……」
人々が全員、雄叫びを上げるような光景を見ながら、男は小さく、それでいて嬉しそうに笑っていた。
一部分の表現変更




