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第三十八話 俺の……願い

「それで、どうするのだ? 貴公の願いは」


 レイトナイドが、俺とティナの会話が終わるまで待っていたようだ。


「……あ、ああ、んじゃあ俺の願いは……」


 ……駄目だ……なんも思い浮かばねぇ……

 ……何か……何かあるか……?


「そうだな……欠けた人体の一部って、元に戻るか?」


「む……治療か? 大抵の怪我は魔法で治るが、欠けた……か……」


「腕が千切れたりとか、足が無くなったりとか」


 俺はレイトナイドに質問する。


「切断は離れた部位があればなんとかなるが……無くなったものはこの国の治療師にはどうにもならぬな……」


「離れた部位があれば? だな?」


 俺の貧乏性が役に立ったか……

 幸い部位はある。


「……どこか怪我をしているのか?」


「ティナのツノを治してほしい」


「……え?」


 何故か心配そうに俺を見ていたティナは自分の名前が出たことにキョトンとしている。

 罪悪感が全く無いわけではなかったのだ。

 俺にはない部位だ。

 しかし、魔人族というヤツの誇りらしい。

 それを出来ることなら治してあげたい。


「部位なら……ほらこれだ」


 大事なものなので、素材の入っている袋とは違う袋から小さめのツノを取り出す。

 いけ好かない、野郎がかっ切ったティナのツノだ。

 野郎のツノと尻尾は素材に入れてあった。

 今は売ったけども。

 ティナのツノだけは、売れるわけがなかった。

 ついでにいつ取ったかと聞かれると、鎧を剥ぐ前に野郎のツノと尻尾を入れている時に、別の少し小さめのツノがあったのでティナのだと確信し別の袋に入れたのだ。

 ……その事をティナに言おうとしたものの、なんか変な疑いが掛かりそうだったので、言えなかったのだった。


「な、なんで!? メイさんが持ってるの!?」


 ティナが疑問を口に出す。


「別にどうだって良いだろ……んで、治るよな」


「無論だ。しかし……驚いたな。人間にも貴公の様な者がいるのだな」


 レイトナイドは感心したように微笑む。

 俺は周囲には見えないように小さくガッツポーズをする。

 これで、自分の罪が無くなるなんて言わないが、楽にはなってくれるハズだ。


「コイツが俺の願いだ。お礼をしてくれるならそれがいい」


「承知した……しかし、本当にそれでいいのだな?」


「聞き直したって変える気は毛頭ねぇよ」


 それに、他には何も無いしな。

 金も自分らで稼ぐし、食事もティナがいるなら料理をしてくれる。

 そもそも、ここに長期滞在はしないつもりだしな。


「……メイさん、本当に……いいの……? 治して……くれるの……?」


「治せるなら治す。それだけだろ」


 それに、内心はホッとしている。

 もし、治せないとか言ったら俺の罪は一生、軽くはならなかった。

 人道など、捨てたつもりだったハズなのに、こういうことは何故か忘れる事が出来ない。

 ましてや形があるものだから。


「分かった。ではすぐにでも準備しよう」


「ああ、頼む」


 レイトナイドに任せて、ティナを治療して貰うことになった。

 レイトナイドは治療院にティナの事を伝え、そして治療院の人達が来て、回復魔法でティナのツノを治す。

 まるでボンドみたいにくっ付けているみたいだな。

 しかし、治した所を見ても繋ぎ目らしき物は無い。

 流石、魔法だな。


「終わりました。それでは私達はこれで」


 役目を終えた、治療院の人達は、いそいそと帰っていく。

 つか、休みとか無いのか?

 それともシフト制でめっちゃ当たりが悪かったのか?


「……あっ」


 ティナは治して貰った後、恐る恐る頭に手を近づける。

 そして、ツノに触れると小さく言葉を漏らす。


「ある……メイさん……あるよ……メイさん! ある! ツノが! 戻ってるッ!」


 涙目になりながらティナは俺の元に駆け寄って来る。


「ありがとう……本当に、ありがとう……! もう元には戻らないと、ずっと思ってたのに……!」


「……」


 どれだけ大切なものか、この反応を見れば分かる。

 手で胸を抑えて俯き、俺に感謝を述べる。

 ……不思議だ。

 こうなったのは全部が全部、俺のせいだと言うのに。

 何故、お礼を言うのだろうか。


「礼はしなくていいだろ。元凶は俺なんだから」


「違います……自業自得なんです……」


 何が自業自得なんだ?


「また……メイさんから教わりました」


「へ?」


「運命は変えられる……って事をです」


 運命は変えられる……か。

 下らない……

 運命なんか信じちゃいない俺は鼻で笑った。


「私、数年前、奴隷にされかけたんです」


「そうだな。知ってる」


 これは前、ティナ自身の口から聞いた事だ。

 思えばそれが、他人の事を知ろうとした第一歩か。


「奴隷はツノを一本折られるって言いましたよね」


「言ったな」


「でも助かった……ツノは折られずにすんだから」


 ちょんちょんとツノに触りながら言う。


「でも、この旅で一度、両方のツノは折られました……」


「それとこれとは関係ないだろ……」


 第一、俺が招いた事だしよ……


「……私はそういう運命なんだ……とずっと思っていました」


「んなこと────」


「でも、そんな運命からもホラ……変えられたんです」


 ティナは手を広げる。


「私、ずっと諦めてたから……吹っ切れてたから……それでも」


 一息ついて、ティナは言葉を続ける。


「ありがと、メイさん……ツノを元に戻してくれた事……この感謝の思い……それだけは、絶対に忘れない。……忘れない」


 祈るように言葉を発して、俺に言ってくる。

 正直、ここまで言われるとは思ってなかった。

 ただ、一言で済まされると思っていた。

 だから、なんというか……変な気分だ。


「本当に……ありがとうございました」


 泣きそうな表情だった。

 恥ずかしさに身を横にして、ティナとは目を合わせなかった。

 ……馬鹿だ。

 相手がこんなに感謝をしているのに、面と向かえない俺は何様だ?

 本当……自分が嫌になる。

 これ以上、嫌にならないように、俺は面と向かう。

 そうすると、何か胸の鼓動が高鳴る……


「この体……使って下さい……ボロボロになるまで……なっても……使って……くだ……さい」


「……んなつもり、さらっさらねぇよ……」


 泣きじゃくるティナにそう言った。

 何に泣いてるのか、定かではない。

 想像は出来るが、確かではない。

 それに、泣いてるヤツをコキ使うのは趣味の範囲外だ。


「それに、今更敬語か? そっちの方が俺は嫌だ。ティナは……いつものティナで良いだろ」


「……変な人……人がこんなに、感謝してるのに……」


「生憎、人の善意を踏みにじる事が多いからな」


 その善意で漬け込んでくるヤツが多すぎなんだよ。

 都合悪くなったら切り捨てやがる、ヤツが。


「だから……その……いつもみたいにいてくれよ。俺はその方が気楽でいい」


「いいの……? こんなにしてもらったのに……いつもの、私で……」


「それで良いんだよ」


 それが、良いんだ。

 俺の前で仮面を付けるよりも、外してくれた方が接しやすい。


「やっぱり……あなたは優しい人」


「優しくねぇっつうの!」


「……ふふ、そうしとく」


 涙を止めて、ティナは笑う。

 笑ってくれる。

 面と向かってされると、なんか苦手だ。


「でも……本当に感謝してる。ありがとうって何回言っても足りないくらい」


「……おう」


 ツノだけで大袈裟だろ……

 なんでこうも真面目になるのかね。


「礼はこれだけで良いのか? 正直まだ足りないくらいだが……」


「仲間のコンプレックス治してくれたんだ。もう充分受け取った」


 よし、貸し借りの関係はもうおしまいだ。

 これで、コイツらとはただの他人……


「そうだな……では我からは一つ……この先、何か困った事があれば、我を訪ねてきてくれ。出来る限り、力になることを約束する」


「……分かった」


 力になる……か。

 しかも国からか。

 キタコレ、異世界もんのテンプレ。

 絶対、必要になるパターンだ。


「俺らもなー。メイ。忘れんじゃねぇぞー?」


「忘れてぇけどな」


 カートナードの言葉にげんなりする。

 こんな騒がしいヤツ、忘れたくとも忘れられねぇよ……


「そんなこと言うなってー! 俺とお前の仲じゃんかよー!」


「抜かせ! そんな良い関係、結べてるとは思えねぇ」


「またまたー!」


 笑いながら言って来やがる。


「それでは、メイ。それに、セレスティナ……一日遅れた我の生誕祭……そして、貴公らと革命軍の、感謝の意を示した祭りを……存分に楽しんでくれ」


 最後にレイトナイドが締めて、終わる。

 ……どうやら、レイトナイド達が作業に入るようだ。


「あの、何かお手伝いを……」


「良いですよ、ティナちゃん。じゅーぶんに想い人と楽しんで下さいですよ」


「しゅ、シュルちゃん! 茶化さないで!」


 ティナはありもしないことを言われてご立腹だ。

 ……ったく。

 んなことはありえねぇんだよな……


「ん、んん……め、メイさん? 今のは……」


「気にしねぇよ別に……んじゃあ、行こうぜ」


「……はぁ」


 何故、ため息をついたんだ……?

 その顔は赤く染まっていたが、徐々に元に戻っていく。


「行こう。メイさん! 楽しもうッ!」


「ギャウッ!」


「うおぅ」


 ……コメットいたの忘れていた。

 退屈だったのか、座って耳を脚で掻いていた。


「そうだな……楽しむか」


 似合わない笑顔を浮かべながら俺は言う。


「ふふ」


 楽しげに、足取りを軽くするティナに腕を掴まれて俺は後を追う形になる。

 そして、俺らは人混みの中へと消えていったのだった。

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