第三十七話 心を抉る
ザンドルを退けた俺達だったが……
その後の処理にカートナードらは追われたようだった。
革命軍となり、王の洗脳みたいな魔法を解いたというのが理解されず、結局は国王……確かレイトナイドというカートナードの実の兄が公の場で説明したらしい。
少なからず、城の騎士達を殺してしまったのは事実。
それをどう裁くかで揉めていたらしい。
結果、この城下町の討伐ギルドへの貢献をすることが条件となったようで、カートナード達も喜んでいた。
裁いてねぇじゃねぇか。
ティナもあちら側につくだろう。
本当に短い間だったが、最後に会って挨拶でもしねぇとな。
俺は長い、長い一日を終えて、宿屋へと戻る。
一日延長して、今回も同じ場所で泊まるのだ。
……会うのは明日でいいだろう。
眠いし。
それになんか疲れたし。
「……しっかし……」
ステータスが足らない。
攻撃力が足らない。
攻撃が入らない。
ザンドルとの戦いで思い知らされた。
レイジが攻撃力を上げる魔法を唱えたから良かったものの、あのままではジリ貧だっただろう。
「本格的に称号集めなきゃ不味いか……?」
称号を獲得するごとに、ステータスが上昇する。
それが今の俺の唯一のステータスアップ方法である。
「面倒だなー……普通にレベル上げてきゃ良いのにな」
その方がシンプルで俺好みだったのにな。
敵を倒しまくって能力値を上げていく。
それが出来ないのが俺には歯痒かった。
ま、コメットのレベルは上がるか。
「……ふぅ」
考え事は明日にしよう。
今日は色々ありすぎだ。
あんなことするつもりじゃあ無かったのにな……
今頃、俺は自分のしたことの馬鹿さ加減にイライラする。
本当に何故、動いたんだ俺は……
ベッドに寝転がって、天井をボーッと見る。
本当、俺は何をしてんだ……
・
・
・
・
・
・
・
「ん……むぅ……」
朝の陽光が顔を照らした……
また、いつの間にか寝てしまったらしい。
「ふぁああ……」
すっかり規則正しい生活リズムになっちまった。
今は、まだ日が昇っている途中だ。
つまり午前……
「んなヤツじゃなかったろ……」
そう言いながら、ベッドから起き上がる。
そして、窓を見た……
「……お?」
少し騒がしいと思っていた外を見ると、何やら人の群れが通りにある。
群れっつうのもおかしいか。
人混みっていった方がいいな。
それに、屋台らしきものもまばらまばらにあって……
「祭りか?」
……いやいや、昨日の騒ぎがあったのに祭りなんてやるのか?
だが、賑わいを見せる路地には人々の笑顔があった。
そもそもなんの祭りなのか……
なんて考えてたら埒があかないな。
「……起きてるもんは楽しまなきゃなんねぇだろ!」
似合わない笑顔が表情に浮かび、荷物を持って、屋台を荒らそうと決める。
久し振りの祭り、それを楽しむために。
部屋から出て、宿から出る。
「遅かったね。メイさん」
「グゥゥ……」
「……なんでこんな所にいんだ?」
足取りが軽くなっていた俺は、コメットを連れようとした所で足が止まっていた。
銀色の髪の少女……ティナが、コメットを撫でて座っている。
こちらを向きながら、笑いかけてきた。
「いつもの宿にいるんだろうなって思ったから」
「いつものって……」
確かにこの宿しか知らないけどよ……
俺はため息をついて繰り返した。
……別れの言葉を言うのはこの時しか無いのだろうか。
「……な、なぁ」
「早く行こう! 私、待ってたんだから!」
「お、おい?」
ティナが立ち上がり、俺の右手を引く。
手を掴んだのを確信すると、ティナは走り出し、俺もつられて走り出す。
コメットは俺の後ろをついてくるように走る。
いきなりの事で何がなんだか、分からないが……
取り合えず、ティナのやりたい事をさせてから別れの言葉を言おう。
そう思ったのだった。
しばらく走り、この城下町の中央通りだろうか。
大きな通りは人混みで溢れ、賑わいを見せている。
平民層から城までをこの一本の道が通っているのだ。
「やっぱり多いなぁ……」
「いつまで掴んでるんだよ……」
「つくまでちょっと待ってね」
含み笑いをして、ウィンクをしてくる。
その姿を少しだけ不思議に思いながらも、振り返る。
……コメットはこれだけの人混みの中だというのに、興味が無さそうについてきている。
普通なら嫌がったりしそうなもんだが……
「あーん……人、多すぎだよ……」
「祭りならこんなもんだろ……って俺がいた場所の方もここまで酷くないな」
小さな箱の中に、まるでぎゅうぎゅうに詰め込まれているかのように錯覚する。
唯一、穴が空いている所はコメットの所だ。
流石に魔物となると、近づく人はいないらしい。
「よいっしょ! ごめんなさい……よっと……」
「……」
ティナは人混みを掻き分けて、ゆっくりと歩いていく。
そこまでしてこっちに何の用だ?
「……ついた!」
ついたのは、平民層にある、中央通りにあった円形の場所だった。
中央に噴水がありそうな場所は、何故か人がいない。
いや、その中央に数人の人影が見える。
「カートさん! 国王様! 皆!」
ティナに連れられて近づくと、そこには二人の青髪の男……
カートナードとレイトナイドが一緒にいた。
それに、革命軍の皆だ。
「おー! メイ!」
「うげ……」
いつになってもカートナードは苦手だ……
悪いとも思っていないかのように親しげに接してくるヤツは……
格段に嫌という訳ではない。
それでも苦手意識があるのだ。
「君が、メイ……か。弟から聞いている」
今度は青の長髪を揺らしながら、レイトナイドは話す。
……落ち着いて接する姿は、カートナードにはない部分だ。
本当に兄弟なのか、疑いたくなる。
「……革命軍と共に、我の為に動いてくれた事……感謝する」
「は?」
レイトナイドの言葉に呆気に取られた。
誰が、誰と一緒に、誰の為に動いたって?
「待て、俺はあんたの為に動いたとはこれっぽっちも思ってない」
これは本当だ。
誰が見ず知らずの相手を助けなきゃならない。
……見ず知らずじゃなきゃ助けるのか?
自分の考えが新たに疑問を生じさせる。
「それでも、貴公が動いてくれたお陰で、大きな被害を出さずに止まった」
「……」
大きな被害って……
出てんじゃねぇか……
主に騎士団によ。
「騎士団の事は気にしないでくれていい。こうなることは覚悟の上だっただろうからな。それよりも」
レイトナイドは一息置いて、続ける。
「人間という貴公が動いてくれた事が何よりも重要な事だ」
「人間ならレイジもいるだろ……」
「そうだな……しかし、貴公もである。それで、公の場で感謝の意を示したいのだが……」
「な……! 冗談じゃねぇ! 俺はごめんだ!」
声を大にして俺は反発する。
そんな恥ずかしいのは嫌だ!
それに本当に俺は関係ない。
……でもマジで俺はなんであんなことしたんだ……
ティナが心配だからだった……
「やっぱなー! だから無駄だって言ったんだよ兄貴」
「う……む……仕方ない……レイジ・カーバーニにやって貰うとしよう」
「消去法とかやめてくれませんか!? 王様ッ!」
レイトナイドの歯切れの悪い言葉にレイジが弁解を求める。
その言葉にクスクスとティナとシュルネイルが笑い、和やかな雰囲気になる。
「んじゃ、公の場で感謝の言葉を受け取るのは革命軍の皆ってワケだなー」
「んぁ? なんでそんなもんやる必要があるんだ?」
昨日の説明で国民には知れ渡っているんじゃないのか?
革命軍がしたことは。
「革命軍が王様の助けになったことを証明するために皆の前でそうするんですよ」
「未だに疑う奴らはいるからな。仕方ないさ」
答えたのはシュルネイルとリドルグだった。
……疑う国民の為に注目されるように……か。
王が直々に感謝の言葉を投げれば信じる的な魂胆か。
「……そうか……そうだよな」
誰にも気づかれないように呟く。
考えれば分かることだったのにな。
「それでは何か礼だけでもせねばな」
「いい……って言っておきたいが、お言葉に甘えさせて貰うか」
「うむ、なんでも言ってくれ。出来ることならなんでもしよう」
王なら簡単に出来る……だろうか?
ダメ元で頼みをする。
「ティナに家をあげてくれ」
レイトナイドの言葉に即座に甘える。
前の約束、今、果たそうと思う。
「メイさん! 言ったよ? 私、そんなの望んでないって」
「ふむ……?」
ティナは望んでないといい放った。
……何故だ。
「メイさんと旅するのに、家なんてあったら大変だよ」
「あっ……? コイツらと一緒にいるんじゃないのか?」
普通に革命軍の奴らと共に過ごすと考えていた。
単純に俺とはここで別れるのかと思った。
「私が来ちゃ駄目?」
「……」
上目遣いに、ティナが言ってくる。
だって……
「……なんで……あの時、俺を捨てたのに」
「捨てた……? やだな、そう思われてたなんて……」
少しだけ機嫌を悪くしながら唇を尖らせて、
「捨てたじゃねぇかよ……だったらなんであの時……」
俺を選ばなかった……
そう言いたかった。
しかし、ティナの言葉によって遮られる。
「メイさんが、私を後押ししてくれたんじゃない。だから、決められないでいる、私をパーティから追い出したんだよね」
「……ち……が」
「だから、覚悟を決められたの。でも……信じてない訳じゃないけど、怖かった……置いてかれると思って」
「……おい……て」
言葉が出ない。
口から空気が漏れ出す。
違うんだ……
俺は置いていこうとしたんだ……!
ティナ、お前を……
「杞憂だったみたい……私の事、また押してくれた。震えてる私に力をくれた。私の事、迎えに……来てくれた」
違う……
迎えにこようとしてたんじゃない!
俺はただ、心配なだけだった……
迎えに行こうなんて……
一度も思ってなかった……ッ
「だから、メイさんと旅を続けるのは当たり前じゃない?」
ティナの笑みは、深く俺の心を抉る。
俺にとって、これ程、残酷な勘違いはない……
違う……
俺はそんなに出来た男じゃない。
「……そうか……そうだな」
……自分の中身を溢さず、相手の勘違いを逆手に取った。
自分でも、外道だとか、屑だとか、自覚している。
救いようがない。
本当……
俺に生きる価値は……
他人に接する権利はあるのか……?
「そうだよ。メイさん」
「……」
反論する言葉は、出せなかった。
俺は……
打ち明ける事が、出来なかった。




