第三十五話 称賛の声
黄緑色の剣と、紫色の剣が振るわれる。
互いに交差し合い、それでも尚、二人が傷つく事はない。
国王はひらりとかわし、カートナードは盾で攻撃を受け止めているからだ。
しかし、避けるのも受け止めるのもそろそろ限界に近いだろう。
国王の方はほぼ、紙一重状態になり、カートナードの方も、盾が既に歪んできている。
盾はあと少しで役目を終えるかのように、刃に耐えた分だけ変形する。
「負けれねぇ、絶対になぁ……」
攻防戦は続いていく。
しかし、どちらも一歩も譲る気配はない。
「それに分かるぜ……兄貴が何も考えていねぇのが」
10年以上も一緒に剣を振った相手の呼吸を呼んで行動しているカートナード。
不幸か幸いか……
殺られもせず、殺れもしないというのは。
本気の兄ならばカートナードを一瞬で打ち倒す事が出来ただろう。
物事を考え、頭を回転させ、すぐに行動する。
それが兄……レイトナイド・レーヴァンであった。
「……」
光のない、双方の瞳からは感情というものを無くし、それでも尚、止まることをやめない。
大剣は凪ぎ払われ、それをカートナードは盾で防ぎ、スキができたところを剣で突く。
すると、先程までは当たらなかった剣が、レイトナイドの頬をかすった。
「甘いんじゃねぇの? 兄貴ぃッ!」
これは好機と攻めこむのを止めようとはしない。
盾で大剣をおさえ続け、突くのを止めない。
そして、
「うっしゃあっ! 入っ────」
グサッとレイトナイドに剣が突き刺さった瞬間、バキッという音と共に、盾が砕ける。
油断をしたカートナードはそれに一歩遅れて、直撃を……
「スコールッ!!」
喰らわなかった。
叫び声と共にカートナードの体は宙を舞い、斬撃の挙動とはズレが生じる。
「のぁあああああッ!」
受け身をせずに、顔から路へとダイレクトに着地した。
「いったた……ちょっとー! シュルネイルさーん!? もうちょーい優しくやって貰えませんかね!?」
「助かっただけありがたいと思うですよ。カート」
緑の長髪が風で舞い、彼女の顔が露になる。
シュルネイルはしてやったりとにんまり、笑みを浮かべていた。
「……」
無言のまま、歩いてカートナードを狙うレイトナイド。
「ああ……ありがと……よっ!!」
キンッと、高い音が鳴り、刃がぶつかる。
カートナードはその時、乱雑に壊れた盾を捨て、剣を両手持ちした。
「剣だけで勝てた覚えはねぇーけど、やってやりますかー!」
ジリジリとカートナードは押されるが、踏ん張って、それ以上押されないようにする。
そして、レイトナイドの剣から逃れてまた素早く打ち込む。
その攻撃すらも防がれ、またつばぜり合いになる。
「っく……」
『やはり、甘いな。カートナード』
「っへ……どっちが……」
過去の情景と重ね合わせ、反論を行う。
昔、行った模擬戦の情景だ。
『ステータスの差を考えなくとも踏み込みが足らない。行動が遅い。そして、剣に全霊を捧げていない』
「……兄貴はどうなんだよ……今、捧げてんのかよ?」
『我は捧げている。だから、カートナード……お前には負けない』
「……やってやるさ……兄貴の得意分野で……初の勝ち星、取ってやるよォッ!!」
大剣を小さく弾き、懐に入り込む。
肩を少しだけ貫き、振るわれた大剣を防ぐ。
単調な動きだ。
しっかりと見ていれば受け止められる。
「そこは振るった後にもう一発打ち込んでるだろー?」
いつものレイトナイドなら……だ。
黄緑色の剣が紫色の剣を防ぎ、火花が散る。
そして、弾き凪ぎ払う。
今度もカスッた程度だ。
「無駄に弾かれる真似はしねぇだろー?」
……いつもの兄貴なら。
そう毒づき、一度退く。
『やるようになったな……流石、我の弟だ』
「……俺だって……ただボーッとしていたワケじゃねぇよ……必死に剣を振るってみたのさ」
『いいだろう……カートナード。この一撃を受けるがいい……!』
レイトナイドが剣を自身の目の前に構える。
みるみると黒いもやのようなものが大剣に纏い、禍々しく染めていく。
『これが、ミスティックの最大の利点……』
「暗黒剣」
レイトナイドが機械的な口調でそう呟き、振りかざす。
そして、まるで抜刀するかのように横凪ぎを放つ。
斬撃がそのまま漆黒の衝撃波となり、カートナードに向かって飛んでくる。
カートナードは盾のように片手剣で受ける。
『……受け止めたのは褒める……が、甘い』
レイトナイドの大剣が首を狙い、滑る。
そして、刃が当たる寸前でカートナードは含み笑いをする。
「そうくると思った……だから……」
「スコールッ!」
突如、レイトナイドに向かって横殴りの風が吹き、大剣が宙を舞う。
剣を離したレイトナイドは無防備になった。
「結局……兄貴の得意分野じゃなく、仲間を頼った勝利になっちまったよ……だが」
片手剣を振り上げ、全霊を込めた一撃を準備した。
「これで帰ってくんなら、安いもんだろ? 兄貴……」
雄叫びを上げながら、カートナードは実の兄を斬りかかった。
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空を見上げていると、自分がちっぽけだと思わせられる。
青く、広く、雲なんかはそう、自由だ。
「……またこんなところにいたのか……カートナード」
「兄貴か……」
城の中庭で青い草の絨毯に寝転がりながらカートナードは、レイトナイドに応えた。
模擬戦用の防具を身に纏い、如何にもこれから稽古をするかのように。
カートナードの方は私服……といっても王族が着る、身を着飾った服装だ。
「よし、ここにいるなら模擬戦でもやるか。真剣で」
「ここまで模擬戦で木刀を使わないヤツは初めて見たわぁ……」
カートナードは軽い口調で言った。
いつも、強制的に模擬戦につれられては真剣で戦いを行っている。
城には模擬戦用の木刀があるのにだ。
「よし、行くぞ」
「やるっていってないんすけどー……」
「行くぞ。終わったらなんか食わせてやるから」
「……そんなんで釣られると思ってんの? じゃあなんか精のつくやつで」
カートナードは立ち上がり、伸びをして、レイトナイドの後についていく。
安い男だった。
「そいじゃあ、お手合わせ願いますかね」
カートナードは真剣と盾を持ち、気のない言葉を発した。
「いい加減に一本……どんな手を使ってでも取ってみろ」
レイトナイドの方はというと、紫に煌めく、大剣を手に持って構えている。
「うっせぇー! 大体、俺ぁ戦うの苦手なんだ……」
「はぁッ!」
「ギャンッ!?」
刹那、レイトナイドの持っていた刀身がカートナードに当たり、飛ばされる。
宙を舞いきりもみしながら草場に着地する。
腹から。
「……油断しすぎだ」
「どんな手って俺が喰らってどーすんだよ!」
「……? カートナードがやるならば我がやらないワケないではないか」
「なんか違くねぇ!?」
カートナードの怒鳴り声が城に響き渡った……
「……よし、パーティは出来たな」
「あのままやられたらカートナード様が無惨な死体に……」
「安心しろ。王位継承権は俺の方が上だ」
「わーってるって……それに異議申し立てはしませーん」
分かりきっていることだ。
政治についても、剣術についても、ましてや王家に伝わる秘術の扱いも。
レイトナイドの方が上だった。
「そうか……では、かかってこい。カートナード」
「おうよ」
カートナードは剣と盾を持ち、準備をする。
既にレイトナイドの方は準備済みだった。
「いっくぜー!」
地面を蹴り、レイトナイドに向かって斬りかかる。
「やはり、甘いな。カートナード」
大剣とは思えないほどの斬撃の早さで、カートナードの剣は弾かれ、斬り込まれる。
一歩遅く、盾で防ごうとしたカートナードはまたも、吹っ飛ばされた。
「ステータスの差を考えなくとも踏み込みが足らない。行動が遅い。そして、剣に全霊を捧げていない」
「……兄貴は……なんなんだよ。捧げてるって?」
「我は捧げている。だから、カートナード……お前には負けない」
剣にだけに捧げて、カートナードには負けないといい放った。
それに、カートナードは微笑する。
「……そんじゃ、俺は、兄貴とは違うやり方で勝ってみるさ」
「ほぅ……楽しみにしていよう」
「でーも今はまだ、コイツで頑張ってみるけどなー!」
愛用の軽盾と、真剣を見ながら軽く言う。
「よく言った。ではこちらからも行くぞ!」
「えっ……ちょ……タンマタンマッ!」
刃が鈍い音を立てて振り払われた。
それから年月は経ち……
中庭には剣舞を行う二人の姿があった。
「……よっ……とぉッ!」
「ッ……はっ!」
剣を交える、カートナードとレイトナイドの姿があった。
片手剣と盾を持つ、カートナード。
大剣を軽々しく振る、レイトナイド。
いつしか、二人の模擬戦が日課になっていた。
「スキありゃあっ!」
威力を乗せた横凪ぎを行い、レイトナイドを狙う。
しかし、その剣は届かず、大剣に防がれる。
「我は弾かれるような真似はしない」
そして、大剣でカートナードの剣を弾き、斬りつける。
それをカートナードは軽盾によって防ぐ。
「はぁっ!」
「ッ……!」
片手剣を強引に動かし、連続で放たれた斬撃を防ぐ。
しかし、衝撃を全て受け止めるには重すぎ、後退し距離を取る。
「やるようになったな……流石、我の弟だ」
「……兄貴」
初めて聞いた、誉め言葉。
それに少しだけカートナードは胸が高鳴った。
「いいだろう……カートナード。この一撃を受けるがいい……!」
「はっ?」
高揚したカートナードが呆気に取られたような声を出した。
「これが、ミスティックの最大の利点……」
まるでレイトナイドは抜刀するかのように大剣を構える。
漆黒に染まる刃は禍々しくはなく、何故だか不思議と見惚れるような美しさだった。
「暗黒剣だッ!」
放たれた斬撃はこちらへと飛んでくる。
必死に防御の構えを取り、暗黒剣の一撃を耐えた。
「っぶぅ……」
「……受け止めたのは褒める……が、甘い」
「ぬぁ!?」
構えを解いた瞬間に、カートナードは吹き飛ばされていた。
レイトナイドは暗黒剣を放った後に、カートナードに近づいていたのだ。
「……まだまだだな」
「ぐぉおお……クソー……兄貴それ反則だろー……!」
「……カートナード」
「なんだよ……」
レイトナイドはいつも以上に真剣味を帯びた声で話す。
それにカートナードは少し違和感を持っていた。
「もしも、俺が王になって何か間違いを犯した時……」
すぅ……っと息を吸って、レイトナイドは続ける。
「止めるのはきっと、お前だ」
「……何言ってんだよ、兄貴は」
そんなことあるはずもない。
剣に全霊を捧げると言ったレイトナイドも今や国民を第一に考える存在だ。
「そのときが、お前の初勝利ってことだ」
「……手加減してたもんな……兄貴は」
そのレイトナイドにどう勝つのかがカートナードは疑問だった。
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「らぁッ!!」
黄緑色の刃は白色の輝きを放ち、レイトナイドを斬った……
血飛沫が上がり、レイトナイドが鮮血に染まる。
「……カートナード……流石……」
「……!」
数年間、聞いていなかった声が聞こえた……
「我の……自慢の弟だ……」
初のレイトナイドへの勝利を称賛する声は……
実の兄のものだった。
表現方法一部変更




