第三十三話 当てにはしてねぇ
「……は?」
ティナの思いがけない返答に呆気を取られる。
何故……?
「私なんか……足手まといなの……私なんかがいたから……」
「……足手まとい……ねぇ」
立ち回り的に考えてか?
それとも精神的にか?
レベル的にか?
「ティナ……お前、一度でも戦ったか?」
俺はティナに聞いた。
戦ってないなら論外だしな……
「戦ったッ! 戦ったの! それで殺したの!! 人殺しになっちゃったんだよ!!」
声を荒げ、ティナは答えた。
俺の言葉にまるで反応したかのように。
俯き、涙を流して……
「なんでこんな思い……しなくちゃならないの……メイさん……私……こんなの……したくない……」
懇願し震えた声。
俺はその言葉を聞いて……
イラッとする。
「……自分で決めたことだろうが」
自己中で、自分の意見を貫こうとするのは悪い癖だ。
しかし、それでも言うのが俺だ……
「メイ……さん……」
「自分でやるって決めたことだろぅがよッ! なんでもかんでも誰かにすがろうとすんじゃねぇよッ!」
呆れた。
幻滅した。
甘ちゃんだとは思っていた。
だけどデメリットが現れた時点でこんなんなるとか……
「……ぁ」
「もう……てめぇの助けなんていらねぇよ……! クソッ!」
こうなりゃ俺とコメットの二人でやってやらぁ……
使い物にならんコイツなど……
コイツなんか……ああっ……クソッ!
俯きやがって……!
「いつまでも下向いてたきゃ向いてなッ!」
「……そんなの……嫌ッ!」
ティナは叫び、俺の隣に立つ。
そして、震える手で剣を構え、兵士へと向ける。
「ワガママで……ごめんね……あと、ありがと……メイさん」
「……当てにはしてねぇからな」
「うん……分かってる……これからの私を見て、当てに出来るか判断して……ね」
ティナは目をつむり、深呼吸。
そして目を見開き、決意を固めたように震えを止めた。
「私、貴方に当てにされるように……頑張るから」
「……やっぱ変なヤツだよ……お前は」
短剣をいつでも抜けるように柄を持つ。
コメットも、いつでも戦闘に参加できるように遠吠えをした。
「シュルちゃん……私達に任せてッ!」
「……期待してるですよ。セレスティナちゃん」
「……俺はされないのな」
シュルネイルとティナはクスリと笑い俺は苦笑する。
コメットも少し悲しそうな声を出していた。
「っく……今、隊はどうなっている!!」
「死亡したものが数名ッ! 重傷者が大半ッ! 残りもHPが半分近く削られています!」
兵士達の声が聞こえ、俺らも相手の状況を把握する。
「……っく……魔法使いを狙えッ! 意地でも次の魔法を撃たせてはならんッ!」
「ハッ!」
先程までとは違い、大勢の軍で、ではなく、個人個人が攻撃を仕掛けてくる。
「無茶はすんなよ……」
「メイさんも……ね」
「ギャウッ!」
「あ、勿論、オオカミちゃんも」
ティナは微笑み、そう言ってくる。
本当に無理だけはしないでもらいたいものだ。
HP見れないし。
……コメットのHPはまだ7割は残っている。
少し注意していけば俺らでもやれる……!
「うっし……ちょいとやってみるかぁ……」
俺はパラライズを用意……
「……よし……よし……行くよッ!」
一足先にティナが切り込み、その後ろはコメットがついていく。
兵士を前にして、ティナは刃を振るい、攻撃を仕掛けている。
ティナは攻撃回数は少ない。
懸命に人を殺さないように、加減をしている。
加減せんでもいいんじゃねぇの……
ティナの後ろはコメットが守り、深追いせず、兵士達を近づけさせないようにしている。
「負けてられねぇな」
変な闘争心を少しだけ燃やし、目の前の兵士の顔に左手をぶちこむ。
ふらっと一人は倒れ、その後、俺は跳躍。
「こうして考えると空中戦が主流になってきてんな」
兵士の群れを空から見ながらそう呟く。
大多数は戦闘に参加せず、傷口を抑えていたりや、倒れこんだままになっている。
しかし、こちらに攻めこんでいるのもまだまだいるのは事実だ。
躊躇は愚策だな。
それに俺の場合は切る数が確実に二桁はいくしな。
「それもそれでいいか……っと」
兵士の上に着地し、また跳躍する。
すると兵士の多くが今度は剣を縦に持ち、上へと掲げる。
「うぉっと……」
学んじまったか……
クソ面倒だな。
エリアルステップで二段階跳躍をした後、兵士が休んでいる中へと侵入する。
「……っく……卑怯……なっ……!」
傷を癒している兵士が俺に吐き捨てる。
「卑怯でいいだろ。それが戦ってもんだ」
この口で何を語るか……
俺自身、こういう戦争っぽいの初めてだわ。
どこぞの戦争ゲームとは違うしな。
そもそも生き返れないし、多分……
試すつもりはねぇけど。
「くっそ……!」
負傷していた兵士達は剣を杖にして、立ち上がってくる。
やっぱ兵士とかそういう連中は違うな……
「はぁあッ!」
「よっ……」
威勢のいい、兵士の一人が俺の正面から斬りかかってきた。
見た感じ、結構な腕かもしれない。
「麻痺の力、宿れ……パラライズ」
誰が正々堂々するかァッ!!
「終わ……」
「やァッ!」
タイミングが合った……
俺は横に……斬られる。
刃は俺の腹をかっ捌き、傷口が……
「かはっ……」
「うぁっ!?」
……なんとも……な、ないか……?
激痛が走って、腹に何かが入り込んだと思うような感覚に陥ったが……
見るとHPは、ほぼ満タンから8割ほどに減っている。
……ダメージは喰らっているんだ……
でも、外傷はない……?
それはそれで好都合か。
幸い、先程の兵士はパラライズの影響で、立つのが精一杯のようだしな。
「トルネイドッ!」
遠くから叫び声……
即退避だな。
シュルネイルの元へと直ぐ様、移動しどうにか竜巻が作られる前に逃げることが出来た。
「っと……」
「はぁ……はぁ……はぁ……」
「これで、全員倒せればいいですよ……」
「ギャウッ」
俺はいつも通りの顔を。
ティナは顔を真っ青に。
シュルネイルは相変わらず見えず。
コメットは楽しげに鳴く。
「……ま、気分か良くなるわけねぇか……大丈夫か。ティナ」
青く辛そうな表情のティナは肩で息をしている。
「……三人……やっ……ちゃっ……た……」
「……そう……か」
剣を見ると、既に血糊がついており、元の色さえも識別出来ない。
俺はなんとなく人を殺っているようなもんだが、ティナは違うもんな……
甘いからこそ、他人の顔色を見て、心配をする。
そんなティナが戦ってるのは、カート達の役に立ちたいからだ。
手伝おうと思ってその手を血に染めているのだから、本人には堪えるだろう。
そんならさっきの言動も分かるかもしれない。
「……」
ポンッとティナの頭に掌を置く。
「め、メイさん……大丈夫だよ。私は……」
「そうか」
手を引っ込め、兵士達を見る。
悲惨な状態だ……
路は赤く染まり、傷を負っていない者などいない。
皆、所々、抑えており、押さえていない者は全身をやられているか、息をしていない。
取りあえず、勝ちだな。
「……ここは占拠したな」
「はいですよ。早くカートの所にいくですよ!」
小走りに、カートがいるであろう方向へ走りだし、ティナと俺とコメットは取り残される。
「……私達も行こう」
「ギャウッ!」
「……おう」
カートが戦っているのは、大きな剣を構えた青髪の青年……
それに盾と片手に持てる程度の大きさの剣で応戦している。
互角の勝負……だ。
大剣も大剣で使いこなしていて、何もない隙間を狙って入れている。
それに反応しているのがカートで、隙間を塞ぐように盾で防御し、受け流した後は片手剣で斬り込む。
斬り込むのはいいが、それを即座に見切って避ける大剣使いも手強い。
「つか、いい勝負だし放っておいてもいいんじゃね……」
あんな勝負に水を差すのは気が引ける。
代わりにリドルグの方を見やる。
……うぇっ!?
兵士が殆ど全て、倒れている。
リドルグの姿は……というと、兵士ではない……何かと戦っている。
攻撃も入っていないようだし、疲れも見える。
カートの方はシュルネイルに任せておこう。
「メイさん……私はリドルグさんの方へ向かいます」
「俺も行く。なんか……相手がなにもしてないのが癪に障る」
自分もしていた事だが、相手にやられると腹立つ。
だが、俺はちゃんとアクションは起こすぞ。
パラライズやら斬りかかったりやら……
「ギャアッ!」
「じゃあ、早く行こう!」
ティナの呼び掛けに俺は応じる。
そして、足を動かしリドルグの元へと向かう。




