第二十六話 刈り取る
俺は相変わらず駆け回る。
対人戦は魔物とは全然違う。
魔物は殆どが本能に従って行動し、攻撃してくる。
だが、人はどうだろうか?
例えば目の前に炎、そしてその先に目当ての物があるとする。
魔物ならなりふり構わず突っ込んで焼き死ぬか、怯えて逃げるだろう。
人ならば。
人ならば、その炎を消して目的の物を得る…また、遠くに届く棒を手にいれ、そして引っ掛ける…等々…
言わば悪知恵が働くのだ。
目的の為ならなんでもする、頭の回転をするのだ…
なので…
「麻痺らせて貰ったぜこの野郎…ッ!」
うん、綺麗に麻痺ったな。
俺の目の前に暗殺者がぶっ倒れている。
麻痺に耐性が無いのだろう。
戦力外通知がきそうだこれ。
「ついでにコイツでブスッと…」
「ぎゃッ!」
小さい悲鳴を上げて、暗殺者の腹部にククリナイフをぶっ刺す。
…なんの躊躇いもしねぇ自分がおかしい…
今まで…いや、あのクズのツノや尻尾を取ったときと同じで躊躇が本当にない。
心ではどこかおかしいとは思っているのだ。
心では…
だが…なんで何も感じないのだろうか…
「刺したのに血が出ねぇな…」
おいおい30秒このまま経つんじゃねって思った矢先、ククリナイフがぶっ刺さってるところから血が滲み出る…
こんくらいでいっかと思い、乱暴にククリを抜いた。
ブシュッと勢いよく液体が噴出する。
死ぬかどうかの手前だがいいか。
とりま、ティナの方をかたそう。
「来ないで…来ないで…来ないで…!来ないで…ッ!」
「はぁぁッ!」
ティナの願いも虚しく、暗殺者は突っ込んでくる。
未だ防御の姿勢を崩さないティナは流石に剣を振るう訳にはいかないのだろう。
何せ甘いヤツだからな…
自分も生きて相手も生きる方法を大方考えているのだろう。
「ま……て……」
後ろから声がする…
振り返ると倒れたハズの暗殺者が気力を振り絞り、三本の足で立っている。
残りの手にはナイフが力強く握られている。
「…」
無言のその目には殺意、憤怒、憎悪、色んなものが入り交じっているようだ。
…逝かせてやるべきか?
「…はぁぁぁッ!!死ねぇッ!」
「おうけぃ…逝かせてやる」
暗殺者の攻撃をひらりとかわす。
もはや手慣れたものだな。
そして、暗殺者の後ろへと回り込み…
首を…
刈り取った。
ごく普通のことかのように。
まるで他人事のように。
ああ…取れたんだな…と。
「…っと…」
暗殺者の首から上は…何処かへと消える。
それを見て、少しだけ不快な気分になる。
だがそれだけだ。
それ以上は何も感じない。
仕方ないじゃないか…
だって、コイツらは屑だろう?
そんな考えが…
いや違うな…
それはただの嫌悪感だ。
殺しの罪悪感は、元々感じない。
感じないのだ。
「やめて…くださ…ッ!」
ブスッと…変な音がした…
「ぁっ……」
「…おい…?」
ティナは剣を落とす…
腕から…手からは力が抜け、足にも力が無くなる。
体を支えきれなくなり、膝から落ちる…
腹部が見えた…
刺さって……る…?
「…っざけんな…ざけんな…!」
させねぇ…
四年前の出来事のようなチキンな真似…
ぜってぇしねぇ…!
俺はタンッと地面を蹴り、跳躍…
そして空を駆け、暗殺者の後ろにと回る。
「死ね…ッ!」
音もなく首をかき斬る…
が、首は吹っ飛ばない。
「いつのま…」
「知らなくていいだろ…?」
ティナから無理矢理遠ざけるため、後ろに引き寄せ、縦に、横に、斜めに斬り込む。
効果的だったのか、相手は仰け反り、攻撃する素振りが見えない。
すぐにパラライズを唱え、顔面に掌を触れる。
そして今度こそ、首を…
刈り取った。
「ッ─────────」
声にもならない悲鳴。
それは単なる雑音…
気にしなくていい対象。
んな事より…ティナだ…
「ティナッ!」
腹部に刺さっていたナイフ…だろう。
それを抜いて、ヒールで傷を癒すティナがいた。
「め……い…さん」
「無事だったか!」
俺が肩に触れようとした…
…触れる事は出来なかった。
パシッとティナの手によって弾かれたのだ。
「…ぁ…悪い…」
「ぁ……ごめ…ん…だ…いじょうぶだから」
心なしか、ティナの顔は怯えにも似た表情を含んでいる…
…何があったんだ?
「そうか…?」
そして、なんか胸が痛む…
これはなんだ?
手が弾かれたから…か?
「…」
無言のまま、ティナは俺を見ようとしない。
俺が何か…したか?
「どうした?」
「…死んじゃった…の…?」
「ああ、ちゃんと殺したぞ?」
まさか息を吹き返すとか言うんじゃないだろうな…
ないない…んなのない…
「別に生き返ったりしねぇって…」
「そうじゃない…そうじゃないの…」
ティナは首を横に振る。
何が違うんだ?
そもそも何に怯えてるんだ?
「…立てるか?」
そう言って手をさしのべた。
「大丈夫だから…自分で立てるよ…」
「…おう」
手を引っ込めると、ティナは腹を抑えながらゆっくりと立ち上がった。
一人で立てるくらいに回復はしたみたいだな。
そして、2対4になっていた青髪とスキンヘッドは特に疲れた様子もなく、勝ちどきをあげていた。
「はい俺の勝ちーッ!」
「…じゃあカート…竜の鱗のツケをだな…」
「…ちょっとヤバい感じ……?…にげろッ!」
「まてカートォォオオッ!!」
青髪とスキンヘッドがおいかけっこを始める。
俺とティナはボーッとその様子を見ている…
なにしてんだあいつら…
「…いました…!カートさん!リドルグさん!」
まだ人数が増えるのか…
見ると、通りから茶髪の少年と緑髪の少女が近寄ってきた。
「あれ…君は…人間…」
茶髪の男は俺を見るとそんなことを呟いた。
人間で悪いか?
と反射的に言いそうだ…
「カートッ!リドルグッ!やめるですよーッ!」
バタバタと緑髪の少女は青髪とスキンヘッドの仲裁に入る。
本当…なんなんだ…
「……すみません、あの…人間族の方ですよね?」
茶髪の少年は俺に話し掛けてくる。
「だったらなんだ…?」
突き放す様な口調で言ってしまう癖…
中々直らないな…
「…少し来てくれませんか?お付きの方も」
「私も…ですか?」
ティナは敬語モードで対応するようだ。
…断りてぇな…
「残念だが──────」
「よぉーしッ!行こうかーッ!」
「んがっ!?」
突然、後ろから肩を抱かれ、寄りかかられた。
…青髪の野郎だ。
「な、なんなんだよお前ら…」
「そんなん今は良いじゃねぇか!いくぞいくぞ!」
「ちょっ…力ッ…強ッ…!?」
ちょっとやそっとじゃ全然抜けねぇ!
「君も来なよ!早くッ」
「あ…はっ…はぁ…?」
ティナは疑問符を浮かべるが、渋々とついてくる。
「クソッ!行くなんて言ってねぇッ!」
「堅いこというなってぇー!ほらほら!行くぞッ!」
「はぁなぁせぇッ!!」
首を絞められた感じで俺は引きずられていった…
くそ…!
なんなんだっての!




