第二十一話 知りたいから
…いつだってそうだった。
俺には…俺は自分で溜め込むタイプだった。
良いことも嫌なことも、自分で溜め込む。
自身の起こったことを全て吸収し、そのまま、吐き出すことをよしとしない。
人生で吐き出したのは、あっちの世界で一度。
それは中学の時に起きた。
中学の頃は初めての孤立で、孤独で、溜め込んだ不満が爆発。
家にあったものを乱雑に投げたものだ。
そして…こっちの世界では一度だ。
これは起きたではなく、起こされたというのが正しいか。
起こした相手が、今ベッドに寝ているヤツだ。
コイツが…ティナが裏切ったから…いや、裏切られたと勘違いさせられて…か。
それで俺は本音をぶつけた。
一度漏らしてしまった。
弱みをぶつけた。
拒絶した。
突き放した。
…なのに、ついてくる馬鹿がいた。
お人好しがいた。
今までに無かった。
本音をぶつけて、隣に来てくれたヤツなんか。
それもそうだ。
吐き出さなかったんだから。
…
だからその時だけ、信頼したんだ。
少し微小微量ちょっと。
ティナはこれまで溜め込んでいたのだろうか…
ティナは何を考えているのだろうか…
これが、知ろうとしなかったツケってか…
でもな…
溜め込んでいたのはコイツだけじゃない。
俺も一緒だった。
少しくらい、分かってやれればいい。
少しだけでも…
「…もう日が落ちてきたな…」
少しずつ、赤みがかってきている空。
それを見ながら、ティナが目覚めるのを待っている。
「借金して、延長できっかな…」
このまま追い出されるなんてこと思いたくないが、それもやむを得ないかもしれない。
…そうなったらどこで休むか…
最低、飯は抜いてもいいか。
それとも俺一人で…
いや、話さないとそれはしたくない。
何のために付きっきりでいるんだ。
「早く…起きろ」
祈るように呟く。
まったく、らしくない。
いつもなら…いつもなら叩いただろう。
いつもなら…ではないから叩く事が出来ない。
「んぅ…」
ティナが目覚めたのはそれから一時間くらいたった後だった。
「やっと…起きたか」
聞きたくねぇ…けど。
聞きてぇ事がいっぱいあるんだ。
「あれ…メイさん?ここは…」
ティナは何故宿屋にいるか、不思議がっている。
「…私…魔物と…そうだ!魔物…魔物は!?」
「お前…倒れたんだぞ?」
「…へ?」
ティナは自分が倒れたと聞いて、キョトンとしている。
覚えていないのか?
俺はティナが倒れた後の事を話した。
担いだこと。
医者に見せたこと。
今まで眠っていたこと。
「…そうですか…ごめんなさい。迷惑かけてしまって」
申し訳なさそうな表情で、ティナは俯く。
顔色は…未だ青い。
「でも、もう大丈夫ですから。それより、急いで魔物を倒さないと!」
「で、また倒れるってか。勘弁だ」
「そんなこと!私、そんなことにはなりません!」
「さっきなったろうが」
「もう…もうなりません!」
それを信じて、倒れたんだ。
…その言葉は…
「信じられねぇ…」
「…えっ?」
「信じられねぇよ。お前のその言葉は」
俺の言葉にさらに俯いて…
さらに青ざめて。
ティナは自棄的になった。
「そう…ですよね…私をまだ、信用してくれて無いんですから…」
「なっ…んな事言って…!」
「一人にして下さい」
「だから!そんなことは───」
「一人にしてくださいッ!!」
…怒鳴られたのは二度目…
ここで退いたら…
ここで退いたら結末は同じだろ…!
「…一人にはしたくない」
掠れるような声だったか…
乾いたような声だったか…
俺の口からは情けねぇ声が出た。
「出てって…いくらメイさんでも……外に…出ててッ!!」
「一人で抱え込んでたんだよな…ティナ」
「やめてッ!早く出てけッ!!」
ティナのベッドにあった、枕が投げられる。
それに俺は当たった。
体に感じた衝撃より…
何か、胸が痛んだ…
「出てけ!出てけ出てけ出てけッ!!」
「…」
「お願い…出てって…」
「…意外と、意地っ張りだな…知れたわ。ティナのこと、少しだけ」
「ねぇ…メイさん…お願い…だから」
「だが、まだまだだ。まだ、ティナのことが分からねぇ」
「メイさん…!お願い…だから…!」
「…なぁ、ティナ」
怒った声。
懇願の声。
それらを聞いて、尚問おう…
「俺を、信用してくれてるか?」
「なんで…こんなときに…」
「こんなときだからだ。さっき、俺がティナを信じられないって事、言ったろ?」
「だって…そうじゃないですか…私は信用出来ないって自分で…言ったじゃないですか…!」
「…」
言葉を…なんだが…
ティナは信用している。
だから、助けたいと思ってるし、話を聞いてやりたいって思ってる。
「…じゃあ…だ。ティナは俺の事、信用してるのか?」
「当たり前じゃないですかッ!」
「じゃ、なんでも話してくれるか?」
「なっ…」
「…卑怯と言えばいい。俺自身の事、何も話してねぇし。でも、話してくれるか…?」
何を言ってるか、定まっているか?俺は…
めちゃくちゃだが、言ってることは伝わるか…!
「なんで…言わなきゃなんですか…」
「…今更って…笑えよ…」
頭をかき乱して答えた。
「セレスティナ…お前を…その…」
重要な場所で口ごもった。
出せ…
声に…
口に…
出しやがれ…!
「…知りたいからだッ!!」
……大声を出した…
やべぇ…恥ずかしい…
「…な、なんだよ…」
ティナが俺の事を見てくる。
「…私の…事…を…」
「…ああ、ティナを…その…知り…たい」
「…そんなこと…思ってない癖に…」
「…」
こうなるのは…
信頼してくれてないから…
…こんなもんか…
俺らの…関係は…
「メイさんは…そういう人だもん…」
「…断定されるとは…な」
「そうじゃないですか…こんな短い間でも…分かりきってる事です…」
「…俺を…結局は信頼してくれてないのな」
駄目だな…俺…
いざとなったらこんな腰抜けになんのかよ…
らしくねぇ…
どんなこと言われても平気じゃねぇのかよ…
慣れたんじゃねぇのかよ…!
「信頼してますよ!!」
「じゃあ…なんで…」
「それとこれとは別じゃないですかッ!!」
何が別なんだ…?
何が信頼してるんだ?
やべ…
また考えが、思考が、クラクラしてくる。
「…なぁ…」
「出てってよッ!早くッ!メイさんッ!!」
「…ぁ」
声が出ない…
何も浮かばない…
俺はベッドから立ち上がった…
そして、扉に触れて、ティナを見た…
「…泣くのには…理由があんだろうが…!」
ティナの顔は赤くて…
涙がぼたぼた垂れていて…
とても不細工な面して…
…助けたかった…
「話して…くれよ…ティナ」
「出てってって!」
「泣いてる理由…教えてくれよ…」
「出てって…出てってよ…お願い…だから…メイさん…!」
「…落ち着いたら…話してくれよ…」
…ティナのベッドに腰をかけた。
「…こんなの…こんなの…やだよ…!なんで…やぁ…!」
「…」
「見られたくないの…こんな…姿…!」
「わーった…落ち着いたら言ってくれ。それまでは見ない」
「なんで…なんで…なんで…!」
俺は振り返らない。
たとえ嗚咽混じりの声が聞こえようと。
たとえ泣いているのが分かったとしても。
ティナが落ち着くまでは見ない…
「落ち着いたか?」
「ううん…まだ…まだ…駄目…」
「…そか。分かった」
まだ駄目か…
焦るな…まだ焦るな…!
「…落ち着いたか?」
「えへ…へ…まだ…少ししか経ってない…ですよ」
「す、すまん…」
落ち着け…
俺が落ち着け…
俺の足の貧乏揺すりが激しくなっていて、ティナの泣き声なんか、耳に入らなかった…
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・
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・
・
それからすっかり暗くなってしまった時…
やっとティナは落ち着いたようだ。
「…メイさん、良いですよ…」
「お、おう…落ち着いたか…」
「…はい」
ティナは偽りのない…笑顔を見せてくれた…
作り笑顔ではない、笑顔を久々に見た気がする。
「…ふふ、その…ありがとうございました…私の為に…」
「別に…その…仲間…だしな…」
自分から言い出した、仲間という言葉…
「仲間…私…が…」
「ったりめぇだろ…その…何だかんだで…その…」
「…」
「…お前を…仲間だって思ってる…」
「…ふふ…」
「なっ…!笑わなくたっていいだろ!」
「そうですよね…ぷっ…ふふふ」
「あのなぁ…!」
恥ずかしいから言いたくなかったんだ…!
クソッ!
「でも…夢みたいですね…信じられないです」
「何が…」
「だって…メイさんから仲間って…言ってくれたの、初めてですもん」
そう言って笑ってらぁ…
…そんな言わなかったかぁ?
「…」
そうかもな…
ともあれ、だ。
俺の目的はまだ続いてる。
ティナの…腹のうちを見なけりゃならねぇ。
「…あの…ティナ。その…な」
「…はい」
自分の事を聞かれるのに感付いたのか、ティナの顔は少し怯えたような顔つきになる。
「…この城下町で昔、何があった?」
答えてくれるか…
もしくは………




