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第二十二話 意識する

「…話さなきゃ駄目ですか…?」


俺の問いに、ティナはそう言った。

言いたくないことなのだろう…

それでも、聞かなきゃならん。


「…話してくれないか……」


いつも以上にトーンが低くなる。

悪いことをしているような感覚だな…

だが…だ。

聞かなきゃならねぇ。


「…聞いて…くれますか…」

「お、おう!なんでもこい!」


ティナの言葉に俺は意気込む。

なんでもぶちかましてこい!


「…はい、私…その…実はこの城下町出身なんです」

「…ここが、故郷…なのか…」


ティナの故郷がこの城下町…

故郷に帰ってきたのになんであんな…

寂しそうな顔を…


「…はい」

「だ、だったら両親に会えば…」

「…嫌…」

「…?」


俺が両親に会うのを提案すると露骨に嫌そうな顔をティナはした。

そういや、両親のことは話したりしなかったなコイツ…


「何があったんだ…?ティナのお父さんと、お母さんに…」

「…金…」

「ん…?」

「お父さんも…お母さんも…私を見てくれなかった…!」

「…おい…?」

「金…金…金…金金金金ッ!私なんかァッ!見てくれなかったッ!!」

「…」

「…学校から帰って…言われたんです…お前は、売り物だ…って…」


子どもが…売り物…?

自分の子どもがぁ?


「分からない人に…捕まりました…そして、暗い場所に…とじこ…め…ら…した…」


ティナが尋常じゃないほど震える…

…思い出すことは恐怖を感じさせるのか…?


「わ…たし……こ…かった…こわかっ…た…」

「ティナ、大丈夫か…少し、休むか?」

「…」


俺の言葉にティナは首を横にゆっくり振る。

大丈夫…なのか…?


「すこ…し……たって…だれ…か……たす…けて…」


呼吸が荒くなる。

息が苦しくなっている。

俺は…何をすりゃ…

俺は…


「だれか…たすけて…だれか…たすけて…だれか…!たすけて…!」


ガタガタと震えだし、ティナは身を丸めてしまう。


「ティナ!おい!大丈夫か!?」

「ッ…!」


震えるティナは俺の声に気づき、ビクッと肩を震わせた。

そして、俺の方をじっくり見ると、安堵したような表情をした。


「…ごめんなさい…続けますね…」

「怖くなってもその…俺がいるからな…」

「……ありがとう…」


ティナは優しげな笑みを浮かべて目を閉じる。

そして、表情を一変。

真剣な表情になった後、目を開けて俺を見た。


「捕まっていた、私は何日か分からないほど…なき続けました。そして、泣き止んだ後、希望を待ち続けました。待ち続けた後、絶望しました。そして…ついに…私は奴隷として商品にされる事になりました…」

「…奴隷…!?」


ティナが…奴隷…?


「…奴隷の魔人はツノを一本、折られるんです…怖い人が私のツノを折ろうとしました…」


…ツノを…?

でも、ティナのツノは元々は折られてなんかいなかったぞ…?


「…その時、私は助けられたんです…逃げろって、誰か言ってくれました」

「…なるほどな」

「こんな…町から一刻も早く逃げ出しました…こんな町…嫌いだったからッ…!」

「…」


ティナは…この町が嫌いだったのか…

そしてなんやかんやであの村にいたんだろうな…


「…放浪の旅なら、この城下町に来ると分かってました…でも…」

「ティナ…」

「ごめんなさい…ごめんなさい…!分かってたのに…!こんな…こんな…情けない姿で…!」

「…」


この城下町に来てから…

ティナはずっとそのことを思い出していたのかもしれない。

それでも無理をさせたのは俺の…俺のせいだ。

ティナが強がっていたのに。

ティナは無理をしていたのに。


「ごめんなさい…!」

「謝んなよ…こっちが、すまん…気づいて…やれないでよ…」


…思いやり…

少し前まで鼻で笑っていた言葉だ。

そんなもん、なくても他者とやっていける。

あったらあるだけ無駄になるものだと。

でも今は違う。

思いやり。

それが無いだけで、ティナはこんなに苦しんでいた。

辛いことを少しでも汲み取ろうとしなかった為、ティナはこんなにボロボロになっていた。


「…え…?」

「やっぱ、お前が意地張ってても止めるべきだった…止めて…やれなくて、すまなかった…」

「メイさんが謝ること…!」

「謝ることだろうが。だってよ?気づけなかったんだぜ?こんな近くにいるヤツのこと」


普通、気づいてやれるだろう…

いや、気づいてんのに気づかないフリしてたんだぞ?

外道過ぎんだろ…


「気づかなくたって…当たり前じゃないですか…」

「仲間の事なのに、当たり前とか思えるかよ…」

「…なか…ま…」

「大切な仲間だ。お前が苦しんでんなら、少しでも助けてぇんだよ…それに…」


俺は鼻のしたを指で擦りながら言う。


「お前はそんな不細工な面より…笑ってた方がいいからな」


悲しんでて…苦しんでて…

そんな姿はやはり見たくない。

出来るなら、笑ってて…楽しんでて…たまに怒ってて…たまにぶすっくれてて…

そんな表情がいい。

でも、辛くて、苦しくて、悲しくて、泣くなんてのは合わない。


「…ふふ…今度は…その…本当…?」


ティナが顔を赤らめて言ってくる。


「じょ…冗談なわけ……」

「…ふふ…あははッ!」

「ぁ……」


これまでの笑顔よりも素敵な…満面の笑み…

じっと見ていると、なんか…ドキドキしてきて…

それに、綺麗で…

一瞬…ほんの一瞬だけ、見惚れてしまった。


「…ふふ…ありがと…メイさん…」

「ぉ…おう…」


…一瞬だけティナを意識してしまった…

だけれど、今は平常…

いつも通りだ。

少しだけもやもやというか…何かを感じなくない。


「…」

「少し、気分が楽になりました…話を聞いてくれて、ありがと」

「ぁ…お、おう。こんなのお安いご用ッ」


…気づけば…

気づけば、ジッとティナを見ている俺がいた。

俺はブンブンと頭を振り回した。

有り得ないッ!

かわいい、綺麗、そんなことは思ってるが、恋心とかいうのはぜってぇねぇッ!

気のせいだ!

気のせい!

なんかの間違いだ!

もやもやを頭の隅っこへ追いやり、俺はこれからの事を考えることにした。


「…そうだな…」

「どうしました?」

「俺は魔物をちょっくら討伐しに行くが、ティナは休んでるか?」


こんな暗い中でも俺はやるっきゃねぇ。

そうしないと宿賃も、飯代も稼げねぇ…


「いいえ…私も、行きます!」

「…そか」


僅かに俺は頬を緩める。


「…じゃあ…ちょっくら行くかぁッ!」

「はい…!」


ティナの心の荷は下ろせた…

そう思いたい。

そして、これからも、彼女が荷を背負うことになったなら、俺が…

僅かでも背負ってやりたい。

この、どこからくるのか分からない思いやり…

…断じて!

恋心ではねぇからなッ!

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