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ようこそ、異世界ホテル"Aequitas"へ  作者: 嘯江 新(ウソブエ シン)


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11/17

第11話「この宿を。次に守る者へ」

「――“この宿を、次に守る者へ”」


私がそう読み上げた瞬間。


部屋の空気が、完全に止まった。


ブラッドリー。


黒衣の客。


そして私。


三人とも、目の前の封書を見ている。


黒い封蝋。


古びた紙。


Hotel Aequitasの現在の紋章とは少し違う、簡素な天秤の印。


そして何より。


そこに書かれている文字。


英語。


私がいた世界の文字だ。


「…………」


私はもう一度見る。


見間違いじゃない。


どう見ても英語。


いや。


今までこの世界で見てきた文字は、なぜか自然に意味が分かった。


でもこれは違う。


“読める”のではなく。


“知っている”。


学校で習って。


街で見て。


仕事でも使っていた。


私の世界の文字。


「ナナサキ」


ブラッドリーが静かに聞く。


「間違いありませんか」


「はい」


私は頷いた。


「これは、私のいた世界で使われていた言語です」


「言語の名は?」


「英語です」


「エイゴ……」


ブラッドリーが小さく復唱する。


黒衣の客は。


何も言わない。


ただ。


封書を見たまま。


微動だにしない。


「あなた」


私はそちらを見る。


「これ、知ってるんですよね?」


「……」


返事なし。


「さっき、“ありえない”って」


「……」


「知らないとは言わせませんよ」


黒衣の客が、ゆっくりこちらを見る。


「ホテルマンが客を追及するのか」


「今それ使います?」


「便利だな」


「絶対わざとですよね」


この人、最近こちらの扱いに慣れてきている。


いや。


慣れなくていい。


私はため息をついて、ブラッドリーへ向き直った。


「これ、どこにあったんです?」


「地下保管庫です」


「昨日までなかった?」


「正確には」


ブラッドリーが封書を見る。


「存在自体は以前から把握されていました」


「え?」


「ただし」


「はい」


「開くことができなかった」


私の眉が上がる。


「開かなかった?」


「封が解除できませんでした」


ブラッドリーが封蝋へ指を向ける。


「魔術的な封印が施されています」


「魔法の手紙……」


異世界らしい。


いや。


中身英語だけど。


「じゃあ何で今」


ブラッドリーが。


私を見る。


嫌な予感。


「本日」


一拍。


「封印が消えました」


「…………」


「私が来たから?」


「可能性はあります」


「可能性で済ませます?」


私が来た。


数日後。


古い封印が解除された。


偶然にしては。


出来すぎている。


「ナナサキ」


ブラッドリーが言う。


「開封していただけますか」


「私が?」


「はい」


「総支配人が開ければ」


「万が一、何らかの仕掛けが残っている場合」


「…………」


私はブラッドリーを見る。


「今、私を実験台にしようとしてません?」


「まさか」


「間がありましたよね?」


「気のせいです」


「このホテル、“気のせい”多すぎません?」


黒衣の客から。


微かな笑い声。


「そっちは笑わない!」


「面白い」


「認めた!」


ブラッドリーが咳払いする。


「冗談はさておき」


「冗談だったんですか?」


「半分ほど」


「半分本気なの!?」


この総支配人。


油断できない。



結局。


場所を移すことになった。


黒衣の客の客室で、Hotel Aequitas最古級の資料を広げるのはさすがにどうかという話になり。


私たちは。


総支配人執務室へ。


黒衣の客も一緒。


「…………」


私は廊下を歩きながら。


隣を見る。


黒ローブ。


その反対側。


ブラッドリー。


何だろう。


この並び。


新人ホテルマン。


総支配人。


正体不明の超長寿危険人物。


(絶対、新人研修のメンバーじゃない)


数日前まで。


私は。


客に荷物を持っていいかどうかで失敗していた。


成長が急すぎないだろうか。


いや。


成長というより。


巻き込まれているだけな気もする。



執務室。


テーブルの中央。


例の封書。


ブラッドリー。


私。


黒衣の客。


さらに。


「何で私まで呼ばれたんです?」


副支配人。


ナナリー。


そして。


「面白そうだから来た」


支配人。


サンディー。


「帰ってください」


ナナリーが即答。


「酷くない?」


「業務があります」


「支配人だぞ?」


「だからです」


「アラタ、助けて」


「私に振らないでください」


何なんだ。


この管理職たち。


ブラッドリーが一言。


「サンディー」


「はい」


「座ってください」


「ほら!」


「ただし発言は必要な時だけ」


「……はい」


強い。


やっぱり総支配人。


ナナリーは封書を見る。


「これが?」


「はい」


ブラッドリーが答える。


「ナナサキにしか読めない文字です」


ナナリーが私を見る。


「本当に?」


「本当です」


「では」


「はい」


「開けてください」


あっさり。


「ナナリーさんまで」


「何です?」


「もう少し心配してくれても」


「封印は消えています」


「現実的だなあ……」


私は椅子へ座る。


封書を手に取る。


軽い。


紙。


本当に。


ただの紙にしか見えない。


でも。


何百年。


何千年。


もしかしたら。


それ以上。


この世界に残っていたもの。


私の世界の文字で。


書かれた手紙。


「…………」


指を。


封蝋へ。


触れる。


何も起きない。


「大丈夫?」


サンディー。


「今のところ」


「爆発しない?」


「縁起悪いこと言わないでください」


「サンディー」


ナナリー。


「黙ります」


早い。


私は。


ゆっくり。


封を切った。


紙を取り出す。


一枚。


いや。


二枚。


文字。


英語。


筆跡。


少し崩れている。


でも。


読める。


「……」


全員。


こちらを見る。


「読めます?」


ブラッドリー。


「はい」


私は。


最初の一行を見る。


そして。


声に出した。


「“To whoever keeps this inn after me.”」


一度。


意味を頭の中で整理する。


「――“私のあとに、この宿を守る者へ”」


沈黙。


次。


「“If you are reading this, then this place has survived longer than I expected.”」


「“もしこれを読んでいるのなら、この場所は私が思っていた以上に長く残ったということだ”」


サンディーが。


小声。


「軽いな」


確かに。


古代の重大文書。


もっと。


こう。


“選ばれし者よ――”


とか。


“世界の運命は――”


とか。


来ると思っていた。


なのに。


妙に普通だ。


私は続ける。


「“Good. That means at least one of my stupid ideas worked.”」


「…………」


止まる。


「何て?」


ナナリー。


「えっと」


もう一回見る。


間違ってない。


「“よかった。少なくとも、私の馬鹿な思いつきの一つは上手くいったらしい”」


沈黙。


サンディーが吹いた。


「創設者、面白いな」


「創設者とはまだ決まってません」


ナナリーが訂正。


黒衣の客。


「……あいつらしい」


全員。


そちらを見る。


「今」


私が言う。


「“あいつらしい”って」


黒衣の客が。


しまった。


そんな空気になる。


珍しい。


「知ってるんですね」


「……」


「逃げられませんよ」


「客だぞ」


「今は会議参加者です」


「…………」


勝った。


少し嬉しい。


ブラッドリーが。


黒衣の客へ。


「続きは、まず手紙を」


「……好きにしろ」


観念したらしい。


私は。


次の文章へ目を落とす。


「“I never wanted to build a kingdom.”」


「“私は王国を作りたかったわけじゃない”」


「“I never wanted to create a place where everyone agreed.”」


「“全員が仲良く意見を合わせる場所を作りたかったわけでもない”」


少し。


空気が変わる。


「“People disagree. Species disagree. Countries disagree. Sometimes they hate each other.”」


「“人は意見が違う。種族も違う。国も違う。時には互いを憎むこともある”」


私の声が。


少しだけ。


ゆっくりになる。


「“I learned very quickly that telling people to understand each other is mostly useless.”」


「“互いを理解しろと言うだけでは、ほとんど意味がないことを、私はすぐに学んだ”」


サンディーの笑みが。


消える。


ナナリーも。


静かに。


聞いている。


「“So I decided to ask for something smaller.”」


「“だから私は、もっと小さなことを求めることにした”」


「“One night.”」


一拍。


「“一晩”」


黒衣の客の手が。


わずかに動く。


「“Just one night without killing each other.”」


「“ただ一晩だけ、互いに殺し合わないこと”」


私は。


止まった。


雨。


廃屋。


敵同士。


黒衣の客が話してくれた。


Hotel Aequitasの始まり。


繋がる。


「続けてください」


ブラッドリー。


私は頷く。


「“Eat under the same roof.”」


「“同じ屋根の下で食事をして”」


「“Sleep under the same roof.”」


「“同じ屋根の下で眠り”」


「“Leave in the morning if you still want to hate each other.”」


私は。


思わず。


少し笑った。


「“朝になって、それでも互いを嫌いたいなら、好きにすればいい”」


「……すごい理念ですね」


ナナリーが呟く。


「雑とも言う」


サンディー。


「でも」


私が言う。


「分かりやすい」


仲良くしろ。


理解しろ。


許せ。


ではない。


今夜だけ。


殺し合うな。


それだけ。


「続き」


私は読む。


「“But while you are here, you are not soldiers.”」


「“ただし、ここにいる間、お前たちは兵士ではない”」


「“You are not enemies.”」


「“敵でもない”」


次。


一行。


私は。


そこで。


完全に止まった。


英文。


短い。


とても。


短い。


「……ナナサキ?」


ブラッドリー。


「これ」


喉が。


少し乾く。


私は。


読み上げた。


「“You are guests.”」


静かに。


訳す。


「――“お前たちは、客だ”」


誰も。


喋らなかった。


Hotel Aequitas。


この扉をくぐった者に。


敵はいない。


現在まで。


受け継がれてきた理念。


その。


原型。


私は。


次の一文を見る。


「“And if you enter as a guest, then you will be treated as one.”」


「“客として入ってきたのなら、客として扱う”」


「“No matter who you are outside.”」


「“外で何者であろうとも”」


「…………」


私の胸が。


少しだけ。


熱くなる。


黒衣の客。


周囲から恐れられていた。


でも。


泊めた。


VIP。


一般客。


種族。


文化。


違い。


でも。


客としての価値は。


変えない。


私が。


この数日で。


学んできたもの。


その根っこ。


全部。


この手紙に。


ある。


「……この人」


私は。


小さく言う。


「ホテルマンじゃなかったんですよね」


黒衣の客。


「最初はな」


「最初は」


また。


その言い方。


「じゃあ」


「続けろ」


止められた。


「はいはい」


私は。


続きを読む。



二枚目。


文字が。


少し。


乱れている。


「“If this place survives, it will not be because of me.”」


「“もしこの場所が残るのなら、それは私のおかげじゃない”」


「“It will survive because someone after me decided it was worth keeping.”」


「“私のあとに、この場所を残す価値があると思った誰かがいたからだ”」


ブラッドリーの表情が。


ほんの少し。


変わる。


総支配人。


Hotel Aequitasを。


今。


守る者。


「“So to the next keeper:”」


私は。


一呼吸。


「“だから、次にこの宿を守る者へ”」


「“Do not protect the building.”」


「“建物を守るな”」


「……?」


サンディー。


ナナリーも。


少し驚く。


私は続ける。


「“Protect the reason people are allowed through the door.”」


「“人々が、この扉をくぐることを許される理由を守れ”」


静か。


私は。


読み進める。


「“Walls can be rebuilt.”」


「“壁は建て直せる”」


「“Rooms can be replaced.”」


「“部屋も作り直せる”」


「“But once you decide that someone is not worthy of shelter simply because of what they are…”」


私の声が。


少し。


低くなる。


「“だが、その者が何者であるかという理由だけで、泊まる価値がないと決めた瞬間――”」


次。


「“This place is already gone.”」


「“この場所は、その時点でもう失われている”」


沈黙。


長い。


誰も。


何も言えない。


私は。


Hotel Aequitasのロビーを。


思い出す。


あらゆる種族。


敵同士。


身分。


文化。


外では。


相容れない者。


それでも。


ここでは。


客。


公平。


公正。


Aequitas。


そういうことか。


「……すごいですね」


サンディーが。


珍しく。


真面目な声。


ナナリーは。


静かに。


「ええ」


ブラッドリーは。


何も言わない。


ただ。


手紙を見ている。


私は。


最後の方へ。


目を落とす。


「まだあります」


「お願いします」


一行。


「“One more thing.”」


「“最後に一つ”」


次。


「“If another human ever finds this…”」


私の声が。


止まった。


「……」


全員。


私を見る。


「何です?」


ナナリー。


私は。


ゆっくり。


もう一度読む。


見間違いじゃない。


「“もし、いつか別の人間がこれを見つけたなら”」


空気が。


変わった。


黒衣の客が。


完全に。


こちらを見る。


ブラッドリーの目も。


鋭くなる。


「続けて」


サンディー。


私は。


喉を鳴らす。


「“Tell them I’m sorry.”」


「……」


「“伝えてくれ”」


少し。


間。


「“すまなかった、と”」


「…………」


何が。


すまなかった?


私の手が。


紙を強く握りそうになる。


慌てて。


力を緩める。


古文書だ。


破いたら。


歴史的大事件。


「次は?」


ブラッドリー。


「……あります」


一文。


「“And tell them…”」


「“そして、伝えてほしい”」


次。


最後。


そこを。


読んだ瞬間。


私は。


息を止めた。


「……ナナサキ?」


ナナリー。


私は。


ゆっくり。


訳した。


「――“今度こそ、帰れるといいな”」


沈黙。


一秒。


二秒。


三秒。


「…………帰る?」


私の声。


誰よりも。


小さかった。


何を。


言っている。


この手紙を書いた人間も。


こちらの世界の。


生まれではなかった?


帰る。


どこへ?


まさか。


「私と」


一拍。


「同じ……?」


黒衣の客が。


椅子から。


立ち上がった。


「違う」


強い声。


私が。


そちらを見る。


「違う?」


「あいつは」


黒衣の客の声が。


わずかに。


震えている。


「あいつは……!」


その瞬間。


バンッ!


執務室の扉が。


勢いよく開いた。


「総支配人!」


スタッフ。


息を切らしている。


ブラッドリーが。


即座に。


仕事の顔へ戻る。


「どうしました」


「正面玄関で!」


「何が」


スタッフの顔が。


青い。


「武装した一団が」


室内の空気が。


変わる。


「Hotel Aequitasへ」


一拍。


「例のお客様の身柄を引き渡せと!」


私たちは。


同時に。


黒衣の客を見る。


本人は。


静かだった。


驚いていない。


まるで。


いつか来ると。


分かっていたように。


ブラッドリーが。


ゆっくり立ち上がる。


「人数は?」


「二十名以上!」


「所属」


「聖騎士団です!」


黒衣の客の。


光る瞳が。


細くなる。


サンディーが。


表情を変える。


ナナリーも。


すでに。


扉へ向かっている。


私は。


手紙を見る。


今。


人間の秘密。


自分の転生。


帰る。


その意味。


全部。


聞きたい。


聞かなければ。


でも。


ブラッドリーは。


私の横を通る。


「ナナサキ」


「はい」


総支配人は。


静かに。


言った。


「手紙を保管庫へ」


「でも」


「今は」


ブラッドリーが。


黒衣の客を見る。


そして。


「ホテルの仕事です」


その一言で。


私は。


止まった。


そうだ。


今。


Hotel Aequitasの玄関に。


武装集団。


そして。


宿泊客を。


引き渡せ。


と言っている。


手紙。


過去。


謎。


大事。


でも。


このホテルにとって。


今。


優先すべきもの。


「……分かりました」


私は。


手紙を。


慎重に。


封筒へ戻した。



Hotel Aequitas。


正面ロビー。


そこは。


異様な光景になっていた。


入口。


巨大な扉の外。


銀色の鎧。


武器。


二十名以上。


翼を持つ者。


角を持つ者。


種族は。


一つではない。


全員。


同じ紋章。


剣。


その背後に。


光輪。


「聖騎士団……」


私は。


小さく呟く。


宿泊客たちも。


遠巻き。


ざわめき。


スタッフが。


安全な位置へ。


誘導している。


玄関中央。


ブラッドリー。


サンディー。


ナナリー。


そして。


私。


「何で私まで」


「研修」


サンディー。


「この状況で!?」


「冗談」


「分かりにくいですよ!」


こんな時でも。


少しだけ。


緊張が抜ける。


騎士団。


先頭。


白銀の鎧。


長い翼。


男。


一歩。


ホテルへ入ろうとする。


ブラッドリーが。


手を上げた。


「恐れ入ります」


男が止まる。


「Hotel Aequitas総支配人、ブラッドリー・シュチュワードでございます」


「話は必要ない」


騎士の男。


低い声。


「我々は罪人を追っている」


「罪人」


「このホテルへ逃げ込んだ」


ロビー。


客たちが。


ざわめく。


ブラッドリー。


表情。


変わらない。


「お名前は?」


騎士が。


黒衣の客の名を告げる。


私は。


初めて。


その名前を。


はっきり聞いた。


だが。


意味は。


まだ分からない。


「確かに」


ブラッドリー。


「当ホテルへご宿泊中です」


騎士団。


動く。


「ならば引き渡せ」


即答。


「お断りいたします」


静か。


だが。


ロビー全体に。


響いた。


騎士の目が。


鋭くなる。


「何?」


「当ホテルの宿泊客でございます」


「罪人だぞ」


「それは」


一拍。


「当ホテルの外でのお話です」


騎士団。


ざわつく。


私は。


手紙を思い出す。


――外で何者であろうとも。


――客として入ってきたのなら、客として扱う。


偶然じゃない。


何百年。


何千年。


受け継がれている。


「貴様」


騎士が。


一歩。


「国家に逆らうつもりか」


ブラッドリー。


「いいえ」


「なら」


「当ホテルは」


一拍。


「国家に従属する施設ではございません」


ロビー。


静まり返る。


強い。


いや。


怖い。


総支配人。


本気モード。


「この扉をくぐった者に」


ブラッドリーが。


騎士団を見る。


「敵はいない」


私は。


隣で。


息を止めた。


騎士の男が。


剣の柄へ。


手をかけた。


「ならば」


一拍。


「力づくでも」


その瞬間。


サンディー。


ナナリー。


周囲のスタッフ。


空気が。


一斉に変わった。


私。


新人。


完全に場違い。


(いやいやいやいや)


(待って)


(ホテルマンって)


(ここまでやる仕事だった!?)


ブラッドリーは。


それでも。


笑顔だった。


「お客様」


騎士団長らしき男へ。


そう。


呼んだ。


騎士が。


眉をひそめる。


「何?」


「現在」


ブラッドリーが。


正面玄関の外を示す。


「皆様はまだ」


一拍。


「当ホテルの敷地外にいらっしゃいます」


「……」


「武器を収め」


「……」


「ご宿泊、あるいはご面会の正式な手続きを行われるのであれば」


完璧な一礼。


「歓迎いたします」


私は。


ぽかんとした。


この状況で。


チェックインを勧めた。


この人。


本物だ。


「ですが」


ブラッドリーが。


顔を上げる。


「武器を手に」


一拍。


「当ホテルのお客様へ危害を加える目的で入館されるのであれば」


笑顔。


消える。


「一歩たりとも」


声。


低い。


「お通しすることはできません」


Hotel Aequitas。


正面玄関。


ホテルと。


騎士団。


その境界。


一歩。


ただ。


一歩。


でも。


その一歩が。


今。


大きな意味を持っている。


私は。


息を呑みながら。


思った。


数日前まで。


ホテルなんて。


もう嫌だと。


思っていた。


なのに。


今。


自分は。


Hotel Aequitasの側に。


立っている。


そのことに。


驚くほど。


迷いがなかった。


――第11話 完

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