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「ここは…」
瞼がゆっくりと開く。
「さむっ…」
冷たい水を全身に感じ、ハッと目を覚ます。
…っ!あいつは…!?
思い出すと同時にものすごいスピードで周囲を見渡す。
いない…。
さっきまで目の前にいたはずの化け物の姿はどこにもなく、突き破られたお風呂場のドアの破片が水とともに散らばっていた。
洗面所にも化け物の姿はなく、俺はただ呆然と座り込んでいた。
どのくらいボーッとしていたかわからない。
俺は、ふと我にかった。
俺は恐怖で震える足で全身を支えながら、ゆっくりと立ち上がった。
ここで俺は気づく。
……あれ脚。
爪が貫通していたはずの脚に痛みがなかった。
しかし、痛みの消失とは相反して、爪の貫通で破けたズボンとそこに染み込んだ血が怪我の存在を裏付ける。
……なんで直ってるのか、なんて今考えたところでわかるわけもないか。
恐怖を感じながらもお風呂場を出ようとする。
「あ、水…」
俺は振り返って、シャワーから出る水を止め、再び振り返って洗面所のドアに向かう。
ドアノブに手をかける。
恐怖がまだ消えない。
恐怖を抑えながらドアノブを回す。
ゆっくりとドアをほんの少し引き、隙間からリビングを覗き込む。
しかしそこには何の気配もなく、窓から月光が床を明るく照らしているだけだった。
そこで俺の頭に違和感が入り込んでくる。
ん…?月明かり…?
そう俺はさっき起きたばっかりのはず。
そんなに長い時間気絶していたのかと焦り、ドアを開け、ベッドにあるスマホを取りに歩く。
月明かりに照らされた床から1メートルほど手前、スマホを手に取るよりも先に、俺の目に窓の外の光景が飛び込んできた。
同時に俺の頭の中には『死』の一文字が浮かんでいた。
「う、うそ、だろ…」
俺の目に映っていた景色には、もともとあったはずの街は跡形もなく消え去り、何もない平坦な地面が地平線まで続いていた。
そして、地平線まで続く地面には無数の影。
化け物。
姿、形が違えども、謎の靄を纏い、気配に狂気を宿している姿は、アイツと同じ存在だという事実を俺の頭にねじ込んでくる。
もうスマホで時間を確認しようとしていたことなど、思い出せるはずもなく、リビングにはただ立ち尽くす俺がいた。
しかし、今度の俺の呆然とした時間は長くは続かず、驚きと恐怖を打ち砕くように玄関のドアが勢いよく叩かれた。
—ドン!、ドン!
一瞬の驚きに身体が包まれた。
が、俺の足は無意識に玄関に向かっていた。
何が俺の足を動かしていたのか。好奇心か、なにかへの期待か。
そしてその足はドアの前で止まった。
と同時にドアを叩く音も止まった。
俺はドアのスコープから外を見た。
そこには案の定化け物。
スコープから覗き返す化け物の視線が俺の視線とぶつかる。
「うぁぁ!」
—ドン!ドンッ!
俺の叫び声に対抗するようにドアの音がなる。
腕の長い化け物とは違う化け物だった。
が、やはり気配にはとてつもない狂気を宿していた。
俺の足に先ほどまであった無意識な活力は消え去り、俺は地面を這いながら後退した。
そんな俺の耳に聞き慣れない音が入り込んできた。
—スパッスパッ
…な、なんだ?
その瞬間ドアを叩く音が止んだ。
やっと止んだ、そう思ったのも束の間、またドアを叩く音がなった。
しかし、今度の音は狂気を帯びた音ではなく、規則的なただのノックだった。




