第3話「白き雪のプリンセス」(1)
(よかったな真白。)
誰かがあたしに語りかけてくる。
あのときの少女か? いや、違う。聞こえてくるのはそんな幼い声ではなかった。
(君の望んだ世界に来れて。)
五月蝿い、黙れ。何があたしの望んだ世界か。
(何が違う。エルフがいただろう? 剣があっただろう? モンスターがいただろう? きっと魔法だってあ るぞ。美しいお姫さまだっているかもしれない。)
確かにあったよ。私が望んだもの。でも……
(戦いだってあったじゃないか、憧れてたんだろう? 剣を持って、モンスターを倒す事に。)
確かに憧れてたよ。でも……
(モンスターが現れたとき、ワクワクしただろ?)
違う、あたしは怖かった。
(モンスターを倒した時、爽快で気持ちよかっただろ?)
違う、あたしは気持ち悪かった。
(ここは、君の望んだ世界だろう?)
違う……あたしが望んだのは……。
(君が望んだのはあくまで夢だ。幻想という夢だ。)
そう……夢……。
(ここは夢じゃない。幻想という現実だ。木々も、風も、人の命も。全て君のいた世界と変わらない。)
分かっている……分かっているよ……。
(それを理解したなら今は良い。さあ、目覚めの時間だ。)
待って……待ってよ!
(バイバイ)
待てって言ってるだろ……コンチクショー!!
あたしの叫びが木霊する。最後にチラッと影が見えた。それを見て理解した。今あたしに語りかけてきたもの。それは
あたし……自身だった。
「はっ!?」
あたしは飛び起きた。
「夢……?」
今見ていたのは一体なんだったんだろう。なんだか気分が悪い夢だった。寝汗もひどいし息も荒かった。
「あれ……? ここは……。」
あたしは今、どこかの部屋の中にいるようだった。周りを見渡してみる。あたしが今寝ていたベッドのほかにはテーブルと椅子が置いてあるだけの簡易な部屋だった。窓からは陽光が差し込んでおり、鳥のさえずりが聞こえてきた。今は朝なのだろうか。
「あたしは一体……」
確か屍食鬼を倒した後にそのままエルフの集落で気を失ってしまったはずだ。だが今あたしがいる場所は明らかにエルフの集落ではない。
それにあたしが今着ているのは学校の制服ではなくて、薄い寝巻きのようなものだった。
一体誰があたしをここに……と、思ったところで、コンコン、と部屋のドアがノックされた。
あたしが返事をして良いものかどうか悩んでいるとガチャリ、とドアノブが回され
「おや、おっめざめですねー!」
ほんの少し開いたドアの隙間から、ひらりと羽根の生えた小さな人間が入ってきた。その姿は
「妖精!?」
「はいー。妖精のルルシェですよー。おっ加減いかかですかー?」
ひらひらり~とあたしの目の前をポニーテールを揺らしながら飛び回ルルルシェ。なんだかその様子が夏によく見るあの虫を想像してしまって……両手で、
パンッ!
「びぎゃあああああっ!」
女の子にあるまじき悲鳴が聞こえた。
「な……何するんですかーっ!?」
「あ、ごめん。」
合わされたあたしの両手から顔だけ出して憤慨しているルルシェ。その様子がなんだか可愛らしく思えた。
「ルルシェ、何を騒いでいるんですか?」
と、ルルシェの叫び声を聞いたのか、誰かが入ってきた。
「おや、お目覚めですね。」
「あ、ユリン様ー。」
入ってきたのはユリンと呼ばれた人物だ。年は私より少し上くらいだろうか?端正な顔立ち、セミロングの髪は後ろでちょこんと結ばれている。そしてその身に纏っているのは甲冑だ。
「初めまして、ユリンと申します。お体の方は大丈夫ですか?」
礼儀正しく頭を垂れて挨拶をしてくれるユリンさん。格好からして騎士の人だろうか。美人な上に礼儀正しい。
「あ、初めまして、真白といいます。体の方は何とか大丈夫で・・・」
グウウウッ
言い終わる前におなかの虫が盛大に鳴いた。
「……すいません……。」
すごく恥ずかしい。ユリンさんはそんなあたしを見てクスクスと笑いながら
「ふふ、すぐに御飯の方を持って来させますね。ルルシェ、頼めるかな?」
「おっまかせくださ~い!」
ユリンさんの言葉を受けてヒューン、とルルシェは飛んでいってしまった。
「はは、忙しない子ですいません。」
と、ユリンさんは椅子を一つ持ってくると、あたしの前におき腰掛けた。そして、
「さて、お目覚めのところすいませんね。まだ色々と困惑されているところでしょうが……少しお話などよろしいでしょうか。」
「……はい。」
ユリンさんの目が優しげなものから真剣なものへと変わる。
「あなたは・・・この世界の人間ではありませんね?」
いきなり核心を突く質問だった。
「どうして……そう思いましたか?」
問い返す。
「まずはあなたの身なりですかね。あなたの着ていた変わった服……あれはこの世界の衣服とは少し違ったようですから。あ、ちなみにあの服はちゃんと洗濯して取っておいてあるので安心してください。後で持って来させます。」
「ありがとうございます。」
「あとは……エルフたちの証言ですかね。」
「ソラビト……ですか?」
よく出来ました、と言わんとするようにユリンさんの顔がはにかんだ。
「エルフ達は空からやってきた人、という意味でそう呼んでいるようですね。ですが、僕たちはあなたのようなものをこう呼んでいます。」
ユリンさんは告げる。
「光をもたらす者と。」
「光をもたらす者……。」
「光をもたらす者とは光と共にこの世界へと現れる人間の事です。まあ、このあたりはあなたが異世界の人間だと考える最後の理由と共に説明しましょう。」
「最後の理由ですか……?」
「ええ。あなたは……。」
ユリンさんは一息つくと
「この世界に呼ばれたんです。姫様によって。」
そう言い放った。
「光をもたらす者とはこの世界に召還した異世界人を指すんです。はるか昔のことではありますが、幾度となく光をもたらす者はこの世界へ召喚され、この世界を平和に導いてきたんです。そしてあなたは今回僕たちが召喚した光をもたらす者だという事です。ですからあなたが異世界の人間だと言う事は僕たちにとっては周知のことなんですよ。」
途方も無い話だった。
ただ一つ分かったのは、あたしは本当に勇者としてこの世界に呼ばれたのだということ。そして
「あの、一つ気になる事があるのですが……」
「はい、なんですか?」
「主に5行前と6行前と20行前のことなんですが。」
「ちょ……ちょっと待ってくださいね……はい、なんでしょう?」
あたしは告げる。
「『僕』ってどういうことですか?」
「……はい?」
沈黙
「……え?」
「え?」
沈黙
「あの……真白さん。もしかして僕のこと女性だと思っていました?」
「え? 違うんですか?」
だって見た目も声も……
ズウゥゥゥゥゥゥゥゥン
「ああっ! 分かりやすい効果音を上げてユリンさんが盛大に落ち込んだ!?」
「ふふ……そうですか、まあよく言われますけどね・・・。」
「あわわわわ……。」
ユリンさんにとってタヴーな話題だったらしい。
「昔からそうです……男らしくない、女々しい、女より萌える、ミスコン優勝候補筆頭……色々言われましたよ……ええ……。」
ユリンさんがその熾烈な過去を語り始めた。
「暇さえあれば女物の服を着せられ、競泳大会では僕の水着姿を見て鼻血を噴出す人が現れ……ついこの間も男性に求婚されて……。」
うわあああ……ユリンさんの目が死に始めた!? な……何とかフォローを……
「だ……大丈夫です!ユリンさんはよく見るとすごい男らしいです! ほら、二の腕の筋肉とか超ガチムチしてます。」
「そ……そうですかね。」
パアッとユリンさんの顔に微笑みが戻った。
言えない……二の腕も色白でスベスベしていてまるで女性のようだなんて……
と、ここで
「おっまたせしましたー。御飯ですよー。」
ルルシェが戻ってきた。その後に続いて給仕の女性が御飯の乗ったキャスターワゴンを押してきた。
それを見たあたしのおなかが再び
グウウウッ
……ものすごく恥ずかしい。
「ふふ、続きの話は食べながらといきましょうか。」
ありがたい気遣いと、目の前に差し出される御飯を目にして三度あたしのお腹が鳴るのだった。
第3話開始です。
ここの話でようやくこの世界についてが語られていきます。
さらに言えばタイトルの通り、ようやくメインヒロインも登場します。(もちろん今回出てきた蚊ではないです。)
これから諸事情で少し投稿ペースは落ちるかもしれませんが、またよろしくお願いします。




