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第2話「幻想へようこそ」(4)

 ズンッ!

 と、轟音が響いた。

 巨大な破壊音と地を揺らす振動にあたしの意識は覚醒した。

「何!?」

 飛び起きる。見ると、周りではエルフたちがなにやら慌しく走り回っていた。と、

「ソラビトの譲ちゃん。こっちにクるんダ!」

 髭面の男が慌てた様子であたしのところに走ってきた。

「何があったんですか!?」

「魔獣(モンスター)ダ、しかもノワール・ベルの紋章付……屍食鬼(グール)ダ!」

 ズゴオンッ!

 すぐ近くで再び轟音が聞こえた。見れば、木造のエルフの家の一つが粉々に粉砕されていた。そしてそこには

「チッ、もうキやがっタ!」

 巨大なトカゲの化け物がいた。巨大な頭、体から生える六本の足。真っ黒な皮に覆われた全身からは異臭が漂っている。

 これが……屍食鬼(グール)。

 あたしがこの世界に来て初めて見る魔獣(モンスター)だ。実際に魔獣(モンスター)が見れたらすごい迫力なんだろうなーなんて暢気に考えていた自分を笑ってやりたい。

 今、あたしの目の前に鈍重と聳える巨大な魔獣(モンスター)は迫力があるなんてものじゃない。威圧、殺意、享楽……そんなものが魔獣(モンスター)から感じ取れる気がした。

「リネット! 何が何デモ、ソラビト様を守レ!」

「ハイ! マシロ様、こっちデス!」

 男の呼びかけに、リネットがあたしの手を引いて走り出した。髭面の男は弓を手に取ると屍食鬼(グール)に向かって走っていく。

「今のウチに逃げまショウ、マシロ様。」

「でもっ!」

 皆が・・・とあたしは背後を振り返った。

 エルフたちが巨大な屍食鬼(グール)相手に戦っている。あるものは弓を放ち、あるものは斧やナイフで切りかかっていく。だが、巨大な屍食鬼(グール)はエルフたちの猛攻に怯みもせずに暴れまわる。

 尾を振り回し、足で踏みつけ、巨大な顎で食いちぎる。

 屍食鬼(グール)の周りには瞬く間にエルフたちの血の海が出来ていった。

 遠くからでもはっきり見えてしまった。人の形をしたものがあっという間に只の肉塊になる光景を。

「うぷっ……。」

「マシロ様!?」

 思わずその場にしゃがみこんでしまった。胃の中が逆流してきそうだった。胸が焼けるように痛い。涙がこみ上げてくる。

 初めて見た、人がバラバラになって死んでいく光景。そうだよ、何を考えていたんだ。ここは確かに幻想の世界だ。だけどあたしが見ているものは


現実だ。


「リネット! お譲ちゃん! 逃げロ!」

 髭面の男の叫び声が聞こえた。

 エルフたちを跳ね除けて、屍食鬼(グール)があたし達に向かって突進してくる。その巨体から繰り出される突進は、想像以上に速い。

 あたし達と屍食鬼(グール)との距離はあっという間に縮んで

「マシロ様!」

 リネットがあたしを抱いて横に跳んだ。間一髪、グールの突進を避けてあたし体は地面に無残に転がった。

「げほっげほっ……うえぼっ……。」

 あたしはそのまま地面に温かいものを吐き散らした。

 ぜぃ……ぜぃ……と息を整え隣に倒れているリネットに振り向くと

「リネット!」

「無事……デシタカ……。」

「リネット……足がっ!?」

 リネットの右足が赤黒く腫れ上がっていた。屍食鬼(グール)グールの突進をよけ切れなかったのだ。

「ワタシは大丈夫デス……それヨリも早く逃げテ……。」

 ズシン……ズシン……

 方向転換を終えた屍食鬼(グール)がゆっくりとこちらに近づいてくる。

リネットを抱えて逃げるか?無理だ。あの突進力を見ただろう?あっという間に追いつかれて終わりだ。だったら……

 スッ、と一人あたしは立ち上がった。そして

「ちょっと借りるよ。」

 と、リネットの腰に下げられていたナイフを抜き取った。

「マシロ……様……?」

 そのまま歩き出す。一歩……二歩……そして屍食鬼(グール)の前に一人立ちふさがった。

 ナイフを屍食鬼(グール)に向ける。

「さあ来なさいよ……この化け物!」

 覚悟を……決めた。

「駄目デス! マシロ様!」

「お譲ちゃん! ヤメロ!」

「ソラビト様!」

 リネットやエルフたちの声が聞こえた。だが、それらは全てあたしの目の前に立つ屍食鬼(グール)のうなり声によってかき消されていった。

 足が震えた。手も緊張でおぼつかない。周囲の時間の流れが緩く感じられる。すごいな、これが命を賭けるって言う事か。今にも心臓が止まりそうなほどのプレッシャー。そんなものを背負いながらあたしの意識の全ては目の前の敵に向けられている。

 やがて屍食鬼(グール)が一際大きな方向を上げ、あたしに向かって突進してきた。

(来るっ!)

 あたしは小さなナイフを両手で握ると、大きく上に振りかざす。

 屍食鬼(グール)の顔が目前に迫る。その大きな赤い口が開き、白い牙があたしを切り裂こうと光っていた。

 激突する。

 あたしは屍食鬼(グール)に向かって躍起にナイフを振り下ろした。そして



 ズシャアアアアッ



 あたしの視界が真っ赤に染まった。血だ。血飛沫が空中に浮かんでいるかのような錯覚さえ見える。あー、やっぱりナイフじゃ無理があったかな?生暖かい血があたしの体中に纏わり付く。口の中も鉄の味でいっぱいだ。

「あ……」

 足元がふらついた。手に力が入らない。体が冷たくなって意識が遠のいていく。

 そんなあたしの視界に移るのは血の海。


 そして、真っ二つに両断されて地面に横たわっている屍食鬼(グール)の姿だ。


(あれ?あたし……やれてるじゃん。)

 そうだった。あの時あたしは確かに屍食鬼(グール)を切り裂いたんだった。何でこんな小さなナイフ一本でそんなことが出来たんだろう。分からないや……

 だけど、この結果は間違いなくあたしがもたらしたものだ。

(すごいなあたし、魔獣(モンスター)を倒しちゃった。)

 まるで勇者みたいだ。と思う。


 刃が肉を絶つ感触。


 屍食鬼(グール)の断末魔の叫び。


 目の前の魔獣(モンスター)の死体。


 ああ……なんて……なんて……




 気持ち悪い。




 ドサッ

 と、あたしは血まみれの地面に倒れこんだ。

 リネットが泣きながらあたしを呼ぶ声が聞こえた。

 だけど、あたしの目はもう開いてはいられなくて、ゆっくりと視界に幕が下ろされる。

 薄れ行く意識の中、再びあたしはあの少女の声を聞いた気がした。



(幻想(ファンタジー)へようこそ。)



 今はそれが、ひどく薄気味悪く聞こえた。


第2話もようやく終了です。

展開遅いですね……

でも次回でようやく物語の軸となる場所での話が始まります。

ここからだんだんと明るい雰囲気が少なくなっていくかもしれません……(とはいえ主人公が基本バカなのでそこまで暗くはなりませんが。)

3話以降でだんだんとタイトルの意味にも近づいていくと思いますので、またよろしくお願いします。

まだまだ未熟な作品ですが、感想、アドバイスなどいただけるとありがたいです。

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