第1話「あたしの望んだ世界」(3)
「ほらほら、きりきり飯作れー。」
「今作っているでしょ! 少しは待っててよ!」
姉に引きずられての帰宅後。キッチンに立って晩御飯の準備中のあたしは、野菜の入ったフライパンを火にかけながら言った。
「あとビールもー。」
「だから少しは待ちなさい! ほら、野菜炒め一丁上がり。」
野菜炒めをお皿に装い、飢えた独身27歳(料理のスキル0)の前に差し出した。続いて冷蔵庫からビールを出すとジョッキに注ぐ。そのままジョッキを電子レンジに入れてしばらく・・・
チン♪
「はい、ビールお待ちどうさま。」
「いやーこの一杯の為に生きて熱ーーーーっ!?」
いやー豪快に行きましたなー。多分6~70℃くらいあったと思うんだけど。
「真白! なによこれ!」
「あれ? 知らないの? 今流行のホットビールだよ。若い子には大人気らしいよ。ビールの風味が際立つんだってさ。」
しれっと嘘をついてやった。
「そ……そう。確かによく味わえばこう……ほろ苦さとかビール独特の甘みが……。」
ゴクゴク……とそのまま真雪はチンチンに熱くなったビールを飲みだした。
今日の朝の復讐は完了だ。(ちなみに後で知ったことによると実際にホットビールと言うものはあるそうだ。しかも本当においしいらしい。)
あたしは二人分の味噌汁と御飯を装い机に置くとテレビのリモコンスイッチを押した。画面ではNHKのニュース番組が流れており、いつものキャスターが淡々と今日の出来事を語っていた。そんな出来事達の中で
「まだ見つかってないんだな。」
真雪がひとつのニュースに反応した。それはあたしたちの住んでいる市内の出来事であった。
ニュースの流れている画面の右上には表題として『行方不明の少女、いまだ発見されず。』と表示されている。
「そろそろ1週間だよね。」
一週間前、一人の女の子が行方不明になったのだ。女の子は隣町の高校1年生で、学校帰りに忽然と姿を消したのだと言う。不審人物も見られず、遺書のようなものも存在してはいなかった。ただ、遺留品としてとある寂れた神社に女の子の髪留めが落ちていたのだと言う。
そして未だにその女の子の行方は分かってはいない。
「ここらへんも物騒になったもんだねえ。」
「そうだね。」
とはいえ隣町の子が消えたと言われても直接的なかかわりは無かったので今一実感は湧かない。道を歩いている時に心なしか警官が増えたかな? と思うくらいだ。
「まあ真白も気をつけなさいよ。はい、ごちそーさま。」
そう言って真雪は「おっふろ~おっふろ~」と言いながら出て行ってしまった。片付ける気は無いらしい。
「はぁ、まあいつもの事よね。」
あたしは二人分の食器を流しへと運んでいった。
「疲れたーーーっ。」
片づけを終え、一風呂浴びるとあたしはそのままベットに倒れこんだ。食後の適度な労働に心地よい疲労感が眠気を誘ってきたが
「だめだめ、ちゃんとやる事はやらないと。」
と、自分に言い聞かすとむっくり起き上がり、机に向かっていった。
そこで取り出したのはスケッチブックと鉛筆、そして
「あったあった。」
あたしのお気に入りの絵本だ。
「絵本の新作書く前にもう一回読もーっと。」
小さな時にお父さんとお母さんに買ってもらったものだ。ストーリーは勇者が囚われのお姫様を助けに魔王を退治しに行くと言うスタンダードなもの。
あたしは絵本を開き、その世界に没頭していく。
ページを開けば剣を持った勇者がモンスター相手に奮闘している。妖精が踊り、竜が空を飛ぶ……そんな幻想の世界。
そこに詰まっているのは夢だったり愛だったり希望だったり……。そんなものを絵本は私たちへと届けてくれる。
何時の時代だってそうだ。男の子は勇敢な勇者に憧れ、女の子は美しいお姫様に憧れる。
あたしは女のクセに勇者にあこがれるといった、ちょっぴり男勝りな感じだったけれど、あたしだって絵本から大きな夢を貰った事には変わりは無い。
やがて子供はその夢を忘れて次第に大人へとなっていくけれど、小さいころ、あの時見つけた輝きは本物だったはずだ。
だから、私は絵本作家になりたい。
子供のころ私が夢や希望を貰ったように。あたしも子供達に夢や希望を届けたい。
あの輝きを、皆にも見つけて欲しい。……なんてちょっと柄にも無いかな?
「さてと、頑張ろう!」
パタンと絵本を閉じ、あたしは鉛筆を握ると物語を書き始めた。
今回も最高のハッピーエンドにしてやろう。と決めながら。
早朝、いつものように朝7時に起床。睡眠時間が足りていないけど、それは学校で補うとして、私は着替えを済ますと朝ごはんを作りに台所へ向った。
すると机の上に一枚の紙が置いてあった。そこには『今日は会議があるので先に行きます。By真雪』と書かれていた。
今日は一人での朝食らしいので食パンを一枚トースターに入れる、フライパンでベーコンと卵を炒めてちょっとした朝食の完成だ。
そして朝のニュースを見ながら朝食を食べ終えると、片づけを済まし、あたしは家を出た。
いつも通りの道を歩きながらいつも通りの速度で学校へと進む。だけど
「…………」
とあるところであたしは足を止めた。
見上げる。それは長い長い薄汚れた階段だ。その先には赤い大きな鳥居が見えた。
そう、あの女の子の遺留品が見つかったと言う神社だ。
いつも何とはなしに通り過ぎている神社だったが、何故だか今日はそこがものすごく気になってしまっていた。
なんだろう、こんなこと言ったらまた茜に電波女呼ばわりされそうだけど・・・
何かが、あたしを呼んでいる気がする。
しばらくあたしはその階段を見続けていた。そしてあたしの足は自然と神社へ向かって一歩を踏み出そうとして
「おっはよー! ましろん!」
茜の足払いによってあさっての方向に突き出され、そのままバランスを崩したあたしは背中から倒れこんだ。
「ってなにするのよ!」
「いやーなんだかバランス悪そうだったからさ。」
茜は悪びれもせずに
「で、一体なんですっと階段なんか見ていたの?」
「ん?えっと……」
どう言った物か……
「もしかして頭「おかしくなってなんかいないからな」…………頭おかしくな「なってないって言っているだろ!」。」
ちぇー、とふてくされた顔になる茜。
ああ、朝っぱらから疲れる……
「もう良いでしょ。早く学校行こうよ。」
「そうだねー。もう遅刻確定だけどね。」
は? 今なんて言ったコイツ?
「ほら、もう8時20分だよ。」
「…………」
あたしは一体どれだけ階段の前でボーッとしていたんだろうか……
「言い訳を聞こうか?」
27歳独身教師がすごい形相で睨んでくる。
「あたしの授業に遅刻するとは……良い度胸だな。」
茜も一緒に遅刻したのに何であたしだけ……と思ったらそういえば茜は隣のクラスだった。読者のみなさまもあたしと同じクラスだとお思いだったとは思うが。
「えーとですね……」
今はとにかく言い訳を考えなければ……ここはまあシンプルに
「実は自転車がパンクしまして……」
「お前は徒歩だろ、電車通学だろ。」
そうだった! この言い訳は使えないか……いや、だったらあたしがいつも乗っている乗り物に変えれば
「実は電車がパンクしまして……」
「お前の一言で大災害が起こったぞ。」
駄目か……くそう、こうなったら
「実はあたしがパンクしまして……」
「真白の頭パンクしてるのはいつものことだろが。もういい、廊下に立ってろ。」
ガラガラピシャン
「それじゃあ授業再開するぞー。」
と扉越しに真雪の声がする。
教室の外に締め出されたあたしは両手に水の入ったバケツを持ちながら廊下に立っているという何とも古典的な罰を実行中だ。朝からついていないなあ……
「あ、そういえば茜は?」
茜も完全に遅刻したはずだ。きっと私と同じく廊下に立たされているに違いない!と、隣のクラスのほうを見れば
「いやー先生遅刻しちゃってねえ。」
「先生ーーーーっ!!??」
隣のクラスの先生(42歳、男性、妻子もち、不自然な頭の毛は植えている)がバケツ両手に立たされていた。
長々としたプロローグ的な第1話も後1回で終わりです。
今日の夕方までには投稿できると思いますのでよろしければ読んでいただけるとうれしいです。




