第1話「あたしの望んだ世界」(2)
高校から徒歩で10分ほど。町の片隅にその施設はあった。星峰孤児院、身寄りの無い子供達が保護を受けている場所だ。
「そこで勇者マシロは剣をとってドラゴンの首を切り裂いた。ずぶしゃああ!」
「わー」「きゃー」
そこにいるのは小さな子供達だった。子供達は施設のベンチに群がっており、その中心には真白がいた。
「『マシロ! ここは俺に任せて先にいけ!』『ア……アンソニー!』」
「アンソニー!」「死なないでー!」
真白は本を片手に身振り手振り大振りで何かを披露していた。子供達もそれに反応して騒いでいる。
「アンソニーは遠い目をしながら『なあマシロ。俺……この戦いが終わったら……結婚するんだ。ラ○プラスの愛○と。』マシロは言った。『アンソニー! 駄目だ。2次元とは結婚できない!』」
「目を覚まして、アンソニー!」「二次元の為に死亡フラグなんて悲しすぎるぜ!」
それは絵本だった。真白は自作の絵本を子供達に読んで聞かせていたのだ。
真白は学校帰りによくこの孤児院によると子供達の相手をしてあげていた。絵本を読んであげるのもその一環だ。
「『マシロ、危ない!ぐふっ。ふ……マシロ……俺……お前の事……イソギンチャクの次くらいに好きだったぜ……』アンソニーがマシロを庇い敵の凶弾に倒れる! ドサッ! マシロはアンソニーに駆け寄り『ああ、私も……君のことガガンボの次の次くらいに好きだったよ。』と優しく語りかけた。」
「ケンカは駄目よ!」「仲悪いなこいつら!?」
こんな内容ではあったがなかなか子供達には好評のようで。
「こうして勇者マシロとお姫様は末永く幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし。」
「ハッピーエンドでよかった……」「アンソニーも無事にマ○カデラックスを買えたんだな……」
パチパチパチ、と読み終わると同時に盛大な拍手が起こっていた。
「本日も満員御礼! ご清聴どうもありがとう!」
あたしは立ち上がって子供達の拍手喝采を浴びた。
「ねえねえ次の新作はー。」「続編は無いのー。」
子供達からは早くも次回作のおねだりだ。うんうん。やはりあたしには絵本作りの才能があるようだ。と
「確かに話は面白いけどよー。」
ぶっきらぼうな声が一つ。
「絵のほうはどうにかならないのかよ。」
孤児院の少年、健太だった。
「線がぐちゃぐちゃなのは言うまでもないとして、勇者は目が三つあるし、アンソニーが禿げてるし、お姫様は角が生えているし……」
「勇者の額にあるのは目玉じゃなくて冠の宝石! アンソニーは禿げてるんじゃ無くて防具を着けているの! お姫様のは冠だよ!!」
くそ、好き勝手言って……この絵は下手なんじゃなくて前衛的なの! そのうちこの絵一枚に数十万とか付くんだから。みてなさいよ!
「あとさー、勇者に自分の名前をつけるのってどうなの?」
「い……良いじゃん別に。」
「真白ねーちゃんってもしかして自分の願望を絵本にしてるだけ?」
「い……良いじゃん別に。」
「もう高校生なのに……」
「ムキーーッ!!」
待て待て私、子供相手に我を忘れるな。そうだ、落ち着いて……
「良いじゃない別に。」
と、女の子が一人話入ってきた。
健太と同じ孤児院の子供の理子だ。
「真白の絵本、何だかんだ言って健太だっていつも楽しみにしてるじゃない。」
「え……ま……まあな。」
おや、いつも文句ばかり垂れるからあんまり気に入ってないのかと思ったが……そうか、これがツンデレか! 別に萌えないな。
「お話だって面白いし、色々勉強になるじゃない。」
うむうむ、その通り。私の絵本は子供に勇気と希望を与えるだけでなく、社会の厳しさや人間関係の大変さなんかもしっかりと教えてあげられるような教育的な絵本なのだ。理子は良く分かっているなあ。かわいい、かわいい。
「いい年こいてこんなメルヘンチックな絵本ばっかり書いてるような大人になっちゃいけないって勉強になるでしょ!」
「理子ちゃーん? ちょっとお話しようかなー?」
た……耐えろ私。小さな少女の頭を鷲摑みにせんと動き始めている私の手よ静まれ!
「なに? 真白。……はっ! もしかして……」
私の呼びかけに振り向いた理子は私の表情を見て何かを感じ取ったようだ。自分の過ちについてどうやら分かってくれたか。物分りの良い子はあたしは好きだよー?
「私との将来について話し合おうっていうことね! 大丈夫、真白は私が養ってあげるから。ずっと今のままのメルヘン脳な真白でいいのよ。」
「う……うん……ありがとう……」
ポッ、と顔を赤くする理子。こんな8歳の子供にまで将来を心配されている私っていったい……
とほほ、と悲しみにくれながら時計を見るとそろそろ5時近くだった。そろそろ帰って夕御飯の準備をしないといけない時間だ。
「さてと、そろそろ帰りますかね。」
「えーもう帰っちゃうのー。」「もっと遊ぼうよー。」
「ははゴメンね。帰ってこわーい鬼ババアの御飯を作んないといけないんだ。」
両手の人差し指を立て、拳を頭にくっつけ鬼の角を再現してみせる。
「ふーんそんなに怖いの?」
「怖いぞー。男なら見境無く食おうとしちゃうような行き遅れの女だからね。健太も気をつけなよー。ちょっと気を許すとガブッ!って……」
「へー……誰が行き遅れの色情魔だって?」
こ……この声は……
ギギ……ギギ……と壊れたおもちゃのように後ろを振りむくとそこには……
「うふ♪ 一緒に帰ろうかと思って迎えに来たら……なかなか言ってくれるじゃないか?」
「あは……あはは……」
「ちなみに私のストライクゾーンは精々高校生まで……な。」
「それでも十分犯罪ぐふっ」
一連の惨状を健太は見ていた。
拳を脳天に振り下ろされ、気を失った真白を真雪が「お邪魔しましたー。健太君、5年たったらよろしくねー(じゅるり)。」と言い残し、ずるずると引きずって帰っていった。
まるで死体のように運ばれていく真白を見て、健太は思う。
(女って……怖いなあ……。)
健太このとき9歳。
まだまだ女を知るには早い時期であった。
第1話その2です。
しばらくはストックがあるので定期的に更新していけそうです。
異世界トリップといいながら全然行く気配が無いですね・・・展開遅くてすいません。
プロローグ的な存在の第1話はあと2回ほど続いてしまいますが、よろしければお付き合いください。
また感想、アドバイスなどいただけるとうれしいです。




