第4話「穏やかな日々」(2)
部屋に戻るとリネットとルルシェがベッドに横たわっていた。
お互い根尽きたようで、頬をつついたりしても一向に起きる様子は無い。壮絶な戦いだったのだろう。
「全くルルシェは……仕方ありませんね。」
ユリンさんはそっとルルシェの体を持ち上げると、顔だけ外にのぞかせるようにポケットに入れた。ルルシェは依然としてむにゃむにゃとかわいらしく眠りこけていた。
「僕もこれで失礼しますね。夕御飯の方はこちらに持ってこさせましょうか?」
「えっと……じゃあお願いします。」
「はい、分かりました。」
そう言うとユリンさんはあたしに一礼し、部屋を後にした。
残されたあたしはポスン、とベッドに腰掛ける。
(色々あったな……)
なんだかものすごい濃密な一日を過ごした気がする。
ため息と共にあたしは後ろよりになった体を支えるように、後ろ手に手をベッドについた。
すると
もにゅ
「おりょ?」
なんだか左手に柔らかな感触ふっくらと弾力のあるこれは……
「あノ……ましろ様?」
振り返る。忘れていた。ここにはリネットが寝ていたっけ。
あたしの左手はそれはもうがっちりとリネットのおっぱいを鷲摑みにしていて……
「わあ!? ゴメンリネット!?」
慌てて飛び起きた。
頬を上気させたリネットがベッドの上に座っていた。
「いえ……少しビックリしまシタケド……」
リネットは布団のシーツをぎゅっと掴み
「イヤじゃありませんデシタシ……」
真っ赤な顔でシナを作りながらそんなことを言うので
(こ……これは……)
あたしは困惑する。
据え膳か? 据え膳なのか!? 食わないと恥なのか!? って別にあたしは女だから恥じゃないか。って今別にそう言う問題じゃなくてそんな火照った顔でオッケー、バッチコーイ!!的な発言されるとあたしどうして良いのか分からなくなっちゃうぞ!? 食べちゃうぞ? 頂きますだぞ!? 頂きますしちゃうよ? よしやっちゃおう、せーの!
「真白様、お食事の用意ができました。」
「いただきまぁぁぁぁぁすっ!! ほーらリネット御飯が来たよー!! 一緒に食べよー!!」
あっぶねえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!
グッジョブ! メイドさん!
おかげで変な空気に流されずにすみました。
落ち着いたところでリネットと夕食を食べる。
パンにスープ、野菜サラダ、何かの肉を焼いたもの、それにフルーツといった割とオーソドックスなメニューだ。
あたしはスープを口に運びながらふと思う。
(そういえば……)
あたしはリネットに聞かなければいけないことがある。それはユリンさん先ほど言われた事だ。
「ねえリネット。」
「何デスカ?」
リネットはきょとんとした表情でこちらを見る。
「その……あたしがさ、リネットの耳をつまんだ事についてだけど……」
「そのことデスカ。」
それだけでリネットには通じたらしい。
「もしかしテ誰かに聞きマシタカ?」
「うん、さっきユリンさんにね。」
「ふふ、隠してイテすいませんデシタ。エルフの耳を掴むノハ、暦としたプロポーズデスヨ。」
やっぱりかあああああっ!
何? あたしこの年で妻帯者なの?
あたしが一人でテンパっていると
「心配しないでください。マシロ様がそのことを知らないでワタシの耳を掴んだのはちゃんと分かってますよ。」
「そ……そうなんだ。」
なんだ……リネットも本気であたしの嫁さんになる気じゃなかったのか。ほっとしたような少し物寂しいような……
「デモ……」
とリネットは続ける。
「とても……嬉しかったデス……」
なおも続ける。
「早くに親を亡くしたワタシは幼い頃カラ家族というものがいませんデシタ。もちろん回りの皆はよくしてくれたデスケド……家族の間にアル血の繋がりのヨウナ……モット親密な関係というモノは知らないままに育ってきマシタ。」
あたしは、それを聞き続ける。
「だから、ずっと憧れてマシタ。いつかとってモ素敵な人が現れテ、ワタシと一緒になってくれるッテ……」
リネットは
「だから、嬉しかったデス。マシロ様のような素敵な方が現れてくれテ。」
溢れんばかりの笑みであたしに笑いかけてきた。
「あたしは、そんなリネットが言うような素敵な人間じゃないよ。」
「いいえ、真白様は素敵デス。いくら真白様相手デモそれだけは譲りマセン。」
そう言ってリネットがあたしの手を握る。
「ねえリネット。やっぱりあたしにはまだ嫁さんとか色々早いけどさ。でも……」
あたしはその手を握り返す。
「一緒にいよう、リネット。ほら、あたしまだこの世界の事とかよく分からないしさ。いろいろ手伝ってくれるとその……うれしいし……」
後半なんだか照れ気味になってしまった。
だけどリネットはただ一言
「ハイ。」
そう笑顔で返してくれた。
「よーし、それじゃあ早く御飯食べちゃってお風呂にでも行こうか。」
「ハイ、お背中お流ししマスネ。」
「うん。ありがとう。」
なんだか色々とうやむやな感じで収まったけれど、それで良いのだと思う。
このぐらいの距離がきっと今のあたしたちには丁度良いのだ。
取り合えず、今はお風呂でのドッキリハプニングでも期待しているあたしだった。




