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第4話「穏やかな日々」(1)

「クリスが……ブランノエルの王女!?」

 きっと今のあたしの顔は驚くほど間抜けなんだろうと思う。そんなあたしを見てクリスはクスクスと口元に手を当て笑っていた。

「良かった、期待道理の反応です。」

「ほえ……?」

 また間抜けな声が出た。いやだって、さっきはまるでいち使用人みたいな格好してたじゃん!?

「あのときはお花を手入れしていたので……ドレスでは汚れるといけないので使用人の服を借りていたんですよ。」

「はあ……?」

「それであなたは私が王女だと知らなかったようなので……使用人のフリをしてあとで驚かせちゃおうかなって。」

 えへ。とかわいらしく舌を出すクリス。可愛いなあもう。

「おや、お二人はもう面識があったのですか?」

 ユリンさんが会話に入ってくる。

「ええ、先ほど庭園で会いました。」

「はい、そこでクリスにお茶をご馳走になっていて……」

「庭園ですか……」

 ユリンさんはツンツン、とあたしの方をつつくと

「あの……大丈夫でしたか?」

 耳元でささやいた。

「何がですか?」

 なにやらクリスには聞かせたくないような話みたいだったので、あたしもクリスに聞こえないように小声で返す。

「その……実はですね……」

 とユリンさんが話そうとしたところで

「すまない、待たせたね。」

 奥の扉から初老の男性が現れた。厳かな衣装に金色の王冠……もしかしなくてもこの人が……

「いえ、お疲れ様です。ブランノエル王。」

 ユリンさんが姿勢をただし、頭を垂れていた。あたしも慌ててそれに習う。

「初めまして、月宮真白です。」

「ああ、君が真白君か。体の方はどうかね?」

「はい。おかげさまで。」

「それは良かった。」

 そういって王様ははにかんでいた。優しい笑みだ。クリスのそれと変わらない。やっぱりこの二人は親子なんだなと思った。

「だが真白君、まだ疲れているだろう。今日はまあ、城のなかでゆっくりしてくれたまえ。」

「はい、ありがとうございます!」

「…………」

「…………」

 あれ? 何だ今の間は?

 見れば王様が少し残念そうな顔をしている。あたし何かやらかしたか?

「ああ、それと……」

 王様は続ける。

「どうか、娘と仲良くしてやって欲しい。」

「クリスとですか?」

「ああ、齢も近いだろうから話も合うだろう。姫という立場上、城の中にいることが多くてあまり同年代の友人がおらんのでな。どうか友人になっていただけるとありがたい。」

「それはもちろん。」

 願っても無い事だ。あたしはクリスに視線を向けた。王様の横で静かに話を聞いていたクリスはあたしの視線に気付くと朗らかに笑みを返してくれた。

「はっはっは、そうか、ありがとう。クリスは私にそっくりすぎて少し天然なところがあるからなよろしく頼む。」

「はい、ありがとうございます!」

「…………」

「…………」

 あれ? 何だ今の間は?

 見れば王様が少し残念そうな顔をしている。あたしまた何かやらかしたか?

「ごほん、取り合えず今日は顔見世のつもりだったからな、これくらいにしようか。また色々な話は明日以降にでも聞かせてもらうよ。今日は部屋でゆっくりと静養してくれ。」

「あ、はい分かりました。」

「それでは真白様、お疲れ様です。」

 ひらひらとクリスが手を振ってきたので、あたしも小さく手を振りながら

「うん、お疲れ様クリス。それでは失礼します。」

「僕も失礼しますね。」

 ユリンさんと共にお辞儀をするとその部屋を後にした。

 扉を閉めて廊下を歩き出す。

「優しい人ですね。あたしが光をもたらす者(レイグラント)であることについて、何も触れてきませんでした……。」

 この国の最高権力者としては、そこが最も重要なところだろうに……

「真白さん。確かに光をもたらす者(レイグラント)としてあなたをここに呼んだのは我々です。ですが、王も……姫もあなたにその役目を押し付けたくは無いのですよ。ただ、あなたにはあなたの望むようにこの世界で過ごしてほしいのです。ですから……」

 ユリンさんの手があたしの肩に置かれた。

「あなたはあなたの選択をしてください。それが、王と姫の望みです。」

「……はい。」

 なんだかあたしはこっちの世界に来て、本当にいろんな人に助けられている。

 人の温かさというものを身にしみて感じられる日々だ。

「あ、それと……」

 ここであたしはもう一つ、とても気になったことを口にした。

「あの、王様の上からぶら下がってたのは何なんですか?」





「ツッコンでもらえなかったな……」

「父様……」

 場所は王様の私室。今、王様が見つめているのはとあるL字を象(かたど)った小さな装飾だ。それには糸が括りつけられ、装飾はいわば宙吊りの状態にある。ではその糸の先はどこに括りつけられているのかというと、それは小さな釣竿のようなものの先端にあった。そしてその釣竿のようなものは王様の被る王冠に取り付けられている。

「一応聞かせていただきますが、その父上の目の前にぶら下がっているものは何ですか?」

「いや、Lがぶら~んとしているだろう?」

「ええ……」

「だからLがぶら~ん→ぶら~んのL→ブランノエル……どうだ? 良いネタだろう? さっき思いついたんだ。」

 王様は自慢げに言う。この時クリス、部屋の扉まで4メートル。


「…………」


 ススッ(扉まで3メートル)


「………」


 ススッ(扉まで2メートル)


「……」


 スススッ(扉まで0.5メートル)


「…」


 スッ(扉の前)


「では私もこれで、失礼しました。」

「ああ! 出て行くならせめて何かリアクションを!? リアクションをー!?」




「……まああれは王様なりのお茶目と言うか……まあ気にしないでください。」

「はあ……」

 なるほど、あれで場を和ませようとしてくれていたのか。きっと緊張しているだろうあたしに気を使ってくれるなんて……やっぱり王様は優しい人だ。

 そんなことを考えながら、あたしはユリンさんと廊下を歩き続けていた。




 その頃王の私室

 扉際での攻防

「せめて評価をくれ。何点だ!? 何点だった!?」

「3点です……」

「ガーン!?」

「1000点満点で」

「ガガーン!?」

 こんなやり取りが行われている事を真白は知るよしもない。


4話です。

この4話は嵐の前の静けさ的な話になると思われます。

ただ色々書くことが多いので長くなりそうですが……

まあ今後も一定のペースを保って更新していけたらナと思っています。

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