第3話「白き雪のプリンセス」(3)
本当に1時間半放って置かれた。
しかも廊下には本当に誰もいなかった。浴場も当然誰もいない。
その間あたしとリネットは御飯を食べ終えると、まあせっかくなので浴場へ行って一風呂浴びた。そしてすぐに戻ってきた。以上!特に何もありませんでした!
何も! ありません! でした!!
「えーつまんないですー。」
「だまれ、蚊。」
パンッ!
「スリジャヤワルダナプラコッテェェェェェッ!?」
どっかの国名?を叫んだ。
「で、どうだったんですかー、リネットさん?」
げっ、1秒で復活しやがった。
「ええ、隅々マデしっかり食べていただきマシタ。」
「おやまあ。」
御飯の話ね。
「あと……すごい……熱い体験デシタ……。」
「それはそれはお楽しみでー。」
お風呂のことね。
「それになんだかワタシ高いところに上り詰めて、なんだか気分が高揚してきて……そのあとはマシロさまの一撃で真っさかさまに落とされていって……衝撃で頭がふわぁって……幸せでした。」
「あなた、やりますねえー。」
「だー、もう! 高いところって言うのは何故か知らないけど浴場にあったウォータースライダーの事! よくこんなのあるわね流石は王城! そして気分が高揚してたのはそのときリネットが結構のぼせ気味だったから! あたしの一撃って言うのは怖がって滑ろうとしていなかったから少し背中を押してあげただけ! 落ちていって頭がふわぁってのは滑りおえてお湯にダイブしたら頭がふらふらしたって事! 幸せでしたって言うのはお風呂は言ったらそんな気分になるでしょ! 女の子だし! 以上! 説明終了! なんかある!?」
ぜぃ……ぜぃ……あーなんかすごいしゃべったわー。と息を切らしているあたしに向かってルルシェが
「あなたバカですか。そんな夢のないこと淡々と語って……あなたは空気の読めない人ですねー。風の精霊としては大失格です。」
「うるさい。黙れ。潰すぞ。」
「ユリン様ー、助けて下さいー。」
ひゅーん、とルルシェはすばやくユリンさんの背後に隠れていってしまった。
ユリンさんはおやおや、といったような穏やかな顔で事の成り行きを見届けると
「さて、それではキリも付いたようですしそろそろ団長のところへ参りましょうか。着替えも持ってきましたのでどうぞお着替えください。」
すごい、この人今までの流れを全てスルーした。
その後、団長に挨拶に行く事になったあたしだが、今廊下を歩いているのはあたしとユリンさんの二人だけだった。部外者は遠慮してもらいたいとの事だったので、リネットとルルシェは部屋に残してきたのだ。
部屋を出た後に何度か手を叩く音と断末魔が聞こえてきていたが、果たして仲良くやれているのだろうか……。
「それにしても。」
と、ユリンさんが口を開いた。
「リネットさんでしたか。あのエルフの子はとてもあなたに懐いていらっしゃるようですね。」
「はは、そうですね。」
確かにまだ出会ってそんなにたった分けでもないのに、やけに懐かれているなと言う印象はあった。何か懐かれるような事をしただろうか?いや、むしろ……
「嫌われそうな事ならしたんですけどね、驚かせたり耳を掴んだり……。」
「耳をですか?」
ああ、なるほど。といったような感じにユリンさんの顔に笑みが浮かんだ。
「真白さん。あなたはエルフについてどれくらい知っていますか?」
「えっと……そんなに詳しくは知りません。」
精々、耳が長い。狩りをする。といったようなイメージくらいか。
「エルフというのはですね。昔は奴隷として扱われていたんですよ。」
「奴隷……ですか?」
「ええ。貴族たちの労働力として物のように扱われていた時代があったんです。そしてその時にですね。貴族がエルフたちに自分が支配者である事を襲えるために行ったのが……。」
ユリンさんが両の拳で何かを握るような動作をした。
「エルフの両耳を力任せに握ると言う行為です。これによって当時は『お前は私の奴隷なのだ』ということを表していたんですね。」
「え……ということは……。」
やっぱりあたしはリネットにひどい事を?
「ですが今はそんな習慣はなくなりましたし……むしろその行為は別の意味を持つものに変わりつつありますね。」
「別のものって……?」
そしてユリンさんはその答えを告げる。
「『あなたは私のものです。』つまり、プロポーズですね。」
「えっええええええええっーーー!?」
ああああああああたしはなんてことをーーーー!?
「大事にしてあげてくださいね。」
「おっおおおおおおお!?」
責任! 責任取らないと駄目なのか!? 駄目なのか!? なのかー!?
あたしが脳内でそんな堂々巡りを引き起こしていると
「と、着きましたよ。ここが団長の部屋です。」
どうやら目的の場所に着いたらしい。
コンコン、とユリンさんがドアをノックする。すると
「入れ。」
渋めの男性の声が聞こえた。
ユリンさんはドアノブを回し
「失礼します。光をもたらす者の真白さんをお連れしました。」
さあ入って、とユリンさんに目で合図をされ、あたしは部屋の中に入る。部屋の奥、そこには大量の書類の置かれた机の後ろで、深く椅子に腰掛けながらこちらを見つめている壮年の男性が座っていた。
「僕ら、守護騎士団の団長、ギルナークさんだよ。さあ、ご挨拶に行って。」
と言われ、あたしは一人団長の前に立った。
白髪の混ざった髪。鋭い目つき。堀の深い顔つき。
歴戦の勇士を思い立たせるようなその風貌に圧倒されそうになる。
「は……初めまして、月宮真白です。」
やや緊張気味にそう言うと、ギルナークさんは表情も変えずに口を動かし
「こちらこそ。私はブランノエル王国守護騎士団団長、【銀の守護者】ギルナークだっちゃ☆」
世界が凍りついた。
………………
………………
あたしは助けを求めるようにユリンさんのほうを見た。だが、ユリンさんは引きつった笑いを浮かべ、困った様子でひたすら首を横に振った。
向き直る。
そこにはまったく表情の変わらない厳ついギルナークさんの顔。
………………
………………
やばい、どうしようこの沈黙。目の前のギルナークさんは表情を崩さずその鋭い目でずっとこっちをを見てきてるし……あれはギャグか? ギャグだったのか!? あそこで笑えばよかったのか!? でも今更笑ったらものすごい間が悪いし……うわあ、オラなんか変な汗出てきたぞー。いや、でもこの沈黙をどうにかするにはやっぱり笑うしかないのか? ほら、じわじわ来る笑いだって有る筈だし……よし! 今からでも遅くない盛大に笑ってやろうじゃ……
「すまない。私はブランノエル王国守護騎士団団長、【銀の守護者】ギルナークだ。」
言い直されたーーーっ!?
すいません!なんだかよく分からないけどすいません!
と、あたしが一人心の中でテンパっていると
「それではいきなりだが本題に入らせてもらおう。」
ギルナークさんは何事も無かったかのように話し始めた。
「は……はい!」
なんだかすでにドッと疲れたが……そんなあたしにお構いなく、ギルナークさんは本題とやらを告げる。
「君に、我らが守護騎士団に入ってもらいたい。」
「今、この国は危機的状況にある。」
ギルナークさんは続ける。
「長年にわたって平穏と繁栄を保ってきたこの国に、敵が現れたのだ。」
「敵……と言うと?」
「あなたがこの間戦った相手ですよ。」
と、ユリンさんの言葉で思い出す。あの黒く、醜い化け物を。
「屍食鬼……。」
「そう、その通りだ。」
ギルナークさんは言った。
「4年ほど前だったか。そのころよりこの国の至る所で人間の死体である死兵や魔物の死体である屍食鬼が出現したのだ。そしてその支配者だと思われる人物も出現し、奴らは自らをこう名乗った。ノワールベル王国軍と。」
「ノワールベル?」
どこかで聞いたような響きだ。そういえば髭面の男が叫んでいたっけ。
「ノワールベルとはとある国の名前です。そう、僕たちの国ブランノエル王国の前にこの大陸を支配し……。」
ユリンさんは告げる。
「400年前、初代ブランノエル王、ブランレイク・N・クリードが滅ぼした国です。つまり僕らのブランノエル王国はノワールベルを滅ぼして建国されたんです。」
「既に滅んだ……国?」
つまりブランノエルに滅ぼされた国が復讐のために、また再び国を立ち上げる為に立ち上がったと言う事だろうか。
「そうだ。今はなき国の亡者が、死んだ国の旗を掲げ現世を闊歩している。食らい、略奪し、我らが国を脅かしている。死したものはただ朽ちて再び輪廻の輪に戻るのが世の習わしだ。それを破るものに対し、我らは生けるものとして奴らをこの世から往生させねばならん。そのために我々、守護騎士団と守護者は存在する。そして、更なる戦力のため光をもたらす者である君の力が必要だ。」
ギルナークさんは椅子から立ち上がり、あたしの前まで歩いてくると
「我々、守護騎士団へ入団してくれるかね?」
あたしを見下ろしながらそう言った。
そうだ、あたしは勇者としてこの世界に呼ばれているんだ。守護騎士団へ入り、守護者となって戦う為にここにいるんだ。そして敵を倒して世界を救う。それがあたしの役割なんだ。
あたしはギルナークさんへの答えを返す。
「ごめんなさい。あたしには無理です。」
ユリンさんの顔に少し驚きの表情が浮かんだ。だが、目の前のギルナークさんは眉一つ動かさない。
「どういうことかね。」
変わらずの渋い声。感情すら感じられない。だけど怒っているんだろうな、とは思う。
「だって、あたしはただの女子高生なんです。剣が触れるわけでもないし、魔法が使えるわけでもない。弱いんですよ。きっとスライム以下です。」
「これから鍛えれば良いだろう。きっとすぐに上達する。それに君は力を持っているはずだ。ナイフ一本で屍食鬼を倒せるような力をな。」
「そんな、あの時はもうがむしゃらで……必死で……どうやったのかも覚えていませんし……。なにより……。」
あたしは……
「……怖いんです。」
ぶちまける。
「怖いんです、魔獣が。気持ち悪いんです、刃が肉を絶つ感触が。泣きたくなるんです、どうしてあたしが……って。」
あたしはギルバートさんの顔を見た。やはり表情は変わらない。だけどあたしは言い続ける。
「無理です。無理なんです。無理なんですよ。こんな……こんな……。」
認める。あたしは……
「臆病者には。」
知らず俯いていた。顔を上げる気力もない。だから、今ギルナークさんがどんな顔をしているのかも分からない。
「……君には、国中が期待を寄せているんだぞ。光をもたらす者が来てくれた。これでもう大丈夫だ。この国は救われる。と。」
「はい……。」
「君は、世界を救いに来たのではないのかね?」
何も、言えなかった。
沈黙が訪れる。
お互いこれ以上何も言えなかった。
どれだけ時間がたっただろうか。
「今はもう下がって良い。」
ただ一言、ギルナークさんがそう言った。
あたしは言葉も発せずに深くお辞儀をすると、ギルナークさんに背を向けた。
「ユリンは残れ、大事な話がある。」
「はい、分かりました。……帰り道は分かりますか?」
「はい……。」
力なく返事すると、あたしはドアを開け、部屋を後にした。
パタン、とドアが閉じる。
部屋から出たあたしはそのままふらりと廊下の窓辺に寄りかかった。
(情けないなあ……。)
空が青い。雲はさざ波のように流れている。
あたしは景色を見渡した。遠くには山が。その内側には森が。さらに内側には城下町の景観だ。そしてあたしが顔を出す窓の直ぐ真下、そこにはこの王城の庭だろか?花畑が広がっていた。
(…………行ってみよう。)
きっとこの時のあたしは少しでも救いが欲しかったのだろう。花の蜜に誘われるミツバチのように、あたしは花畑へ向かって廊下を歩き出した。
そのころの騎士団長室
「で、君はどう思ったかね。」
真剣な面持ちでギルナークは問う。
「どう……といいますと?」
ユリンが真剣に問い返す。と
「『ギルナークだっちゃ☆』は、駄目だったかね?」
「…………少々唐突過ぎたかと思われます。」
「そうか……。」
反省会が行われていた。
今回の話はひとつの山場だと個人的には思っています。
ここから真白がどうやって立ち直っていくのか、その鍵が次回第3話の最終回に出てくる予定です。
サブタイトルの意味もようやく出てきます。
このシーンはやっぱり重要なシーンになる予定ですので、じっくりと時間をかけて書きたいので少し投稿が遅れるかもしれませんが、よろしくお願いします。




