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第一幕  作者: センゴアキ
第一章

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第三話 調査依頼

街の南——

人気の無い通りの一角に、その建物はあった。

『調査隊依頼受付所』——そう書かれた看板が、建物の屋根からぶら下げられている。


風雨にさらされて所々傷の付いたドアを開けると、そこには迷彩柄の服を着た男が、カウンターの奥に座っていた。


「……いらっしゃい。本日は、どんなご依頼で?」


彼は、ドアから入ってきた二人——ラオとリーサを見るなり、そう声を掛ける。


「『依頼』?」


リーサは思わず聞き返す。

その横からラオが、その人物に向かって言った。


「俺達は今日の説明会で、調査隊に入隊しようと志願してここに来た者だ。

説明会で話していた奴が、入隊したいならここにこいと言っていた」


それを聞いた瞬間、その男は心底嫌そうに顔を歪める。


「あの野郎、また……」


彼は大きくため息を吐くと、カウンターを乗り越え、二人の元へと歩いて来た。


「悪いね、そんな事になってるとは思わなかったんで。まあ、とにかく……」


彼は手を二人に伸ばし、握手を求める。


「ようこそ、調査隊へ。『俺達』はアンタらの事を歓迎するよ。

俺はロビン。ここの受付係を任されている」


彼——ロビンにそう言われ、二人は彼と握手を交わした。


「俺はラオだ。よろしく頼む、ロビン」


「私はリーサです。よろしくお願いします」


ロビンの口元がふっと緩み、二人に対し笑顔を向ける。


「ああ、それと……多分、隊服やら何やらを、向こうでもらってきてないんだろ?ちょっと待ってな」


そう言うと、ロビンはまたカウンターを乗り越え、その奥の部屋へと消えていった。

少しして、何やらガサガサという音と共に、彼は戻ってくる。


「えーと、今あるサイズだとこの服になるな。

ちょっと着てもらっていいか?

あっちに部屋があるからさ」


そう言うと、彼は左奥の部屋を指差した。

ロビンの手に持っている物を見ながら、ラオが尋ねる。


「それが調査隊の隊服か?」


「ああ、そうだ。じゃ、これを」


ロビンから迷彩柄の、少しゴワゴワとした厚手の服とズボン、そして同じ柄の帽子を手渡され、二人は案内されるがままにその部屋へと歩いて行った。


突き当たりにある木でできたドアを開けると、一番最初に、ある物が目に飛び込んでくる。

それは茶色い台の上の、湾曲した風変わりな形のナイフのような物や、刀身の短い剣、大型の槍、鎌や斧など、他にも様々ある——武器のような物だった。

それらは部屋中に、整頓されて置かれている。


リーサはそれを見るなり、目を丸くした。


「わあ、すごい。初めて見たわ……。これ、一体何の為に使うのかしら。まさか戦ったり?」


持っている服がそれに当たらないよう、彼女は気をつけながら茶色い台の間を通っていく。


「『武器がある』……ということは、きっと護身用か何かなんだろう。

だが、こんなに仰々しい物があるとはな……」


ラオは目の前の台に置かれている、大きな槍のような武器を見た。

槍は、その矛先が鋭くギラリと光っており、よく磨かれているようで、その刀身は銀色に輝いている。


二人がそのように武器を眺めていると、後ろから声を掛けられた。


「ああ、言うのを忘れてたな。そこちょっと狭くなってるから、気をつけて歩いてくれ。

それと、そこにある武器は全部、調査隊の隊員なら誰でも貸し出していいことになってる。

ちなみにこれは、どこの依頼受付所でも同じだ。

もしここにある武器を使いたかったら、俺に言ってくれ」


「そうか……。それで、ここで着替えるのか?」


ラオがそう聞くと、ロビンは言葉を付け加える。


「ああいや、ここじゃなくて。

そっちの右端に、カーテンが掛かった所があるだろ?

そこの中で着替えてくれ」


「分かった」


二人は、二つあるカーテンの掛かった部屋にそれぞれ入ると、中で渡された服に着替え始めた。

二人が早速、そのゴワゴワとした隊服に袖を通してみると、意外にも見た目よりその生地は薄く、その上軽い。

しかも外側の生地とは違い、中の生地はとても柔らかくて、肌触りも良かった。

着た後で服を更によく見てみると、服の前側には拳が余裕で入るくらいのポケットが六つ、ズボンには腰から膝にかけて合計で六つ付いている。

ポケットが様々な位置にある事で、ある程度の利便性がありそうだった。


服とズボン、帽子を身につけた二人は、その部屋を出てまたカウンターの前へと戻ってくる。

そこではロビンが、最初と同じようにカウンターの奥で座っており、二人が来るのを待っていた。

彼はやってきた二人を見て、満足したように頷く。


「うん、よく似合ってるな。

それじゃ早速、俺の方からいくつか『調査依頼』の事について説明する。

それと同時に今、ここで依頼も受けてもらう事になるんだが、いいか?」


「ああ」


「よし、これを見てくれ」


ロビンは、下から一枚のくすんだ色合いの紙を取り出すと、カウンターの上に置いた。

そして紙に書かれている事柄を、一つずつ指差しながら話す。


「これが依頼人の名前、そしてアンタらが行く場所、これが依頼の内容、そして日付と時間だ。

そんでここに、依頼主がサインをする枠がある。

依頼書に書いてある依頼内容を達成したら、必ず依頼主本人のサインをもらってきてくれ。

これを忘れたり紙自体を無くしたりしたら、報酬を渡せなくなるから気をつけろよ。


ちなみに日付と時間に関しては、指定されている時と指定されていない時がある。

今回は指定されてるみたいだから、この時間までにはこの場所へ行ってくれ。

場所は——この街の出口だから、ここからだとそんなに時間はかからないな。

んで、指定時間まであと一時間くらいか。

今からだと少し早いかもしれないが、まあ早めに行っておいて損はないだろ。

それと……」


ロビンはそこで言葉を止め、下からもう一度、今度は少し厚みのある雑誌のような物を二つ取り出す。


「これは世界各地にある調査隊の、『依頼受付所』の場所が書かれた地図だ。

入り組んでる街なんかは、そこへ行く為の詳しいルート説明だとかが書かれてる。

それで『依頼受付所』についての説明をするんだが……。


ここでは、主に依頼を受ける事と、依頼の達成を報告して報酬をもらう事の二つができる。

アンタらが今ここで受けた依頼……つまり、この紙に書いてある依頼を終わらせていざ報告するってなった時に、ここへ戻って報告しなければならないと思うかもしれないが、そんな事はない。

ここで依頼を受けたからといって、わざわざここに戻って来て報告をする必要は無いんだ。

ここではない場所で報告するとしても、そこが依頼受付所であれば、どこでも同じように報酬を受け取ることができる。

だからアンタらはこの地図を見て、どこで報告するのかを好きに決めていい。

よくあるのは……そうだな、現在地から一番近い場所での報告だ」


そう言うと、彼は二人に地図が書かれている雑誌を手渡した。

ラオとリーサはそれを受け取ると、ページを何枚かめくりその中身を確認する。

彼らの前で、ロビンが言葉を続けた。


「ちなみに、受付所がある場所に関しては、毎年更新されてる。

例えば、今まで受付所が無かった街に、それが新しくできたり、とかな。

隊員にはその都度、『本部』からお知らせとしてあの紙が発行されてる。

受付所であれば必ず置いてあるから、行った時に貰っておくといいぜ」


ロビンは、先ほど二人が入って来たドア付近の、紙がたくさん入っている棚を指差す。

その棚には、『調査隊広報』という文字が大きく書かれた冊子が、何枚にも重ねて置いてあった。


「ああ、分かった。それを貰おう」


ラオはおもむろに歩いて行き、それを一つ手に取る。

そこには質素な色合いのインクで、隊員向けのお知らせなどが書かれていた。


「おう。あと、これだな。

調査隊隊員用のリュックと、野宿の時に使う寝袋だ。

寝袋はリュックの中に入ってる」


ロビンは、カウンターの横に重ねてあった、大きなカバンと袋のような物を二人に手渡した。

そして彼は言葉を付け加える。


「最後にもう一つ」


ロビンの表情が、ふいに険しくなった。


「まだアンタらは、一隊員として依頼を受けていく事になるだろうから、しばらくの間は必要ないと思うが……。

いつか『これ』を言うことになった時の為に、一応覚えておいてくれ」


彼は一度息を吸うと、重々しく言い放った。


「『調査隊隊員の一人として、お前への抹殺任務を遂行する』」


リーサはその言葉を聞いて動揺する。


「ま、『抹殺』……!?

そんな恐ろしい事、どうして……」


「相手に『お前は調査隊、ひいては人間の敵である』、という事を知らしめる為にこれを言うんだ」


「その『相手』というのは?」


「人の平和な生活に、害をなす者達だ。

そういうのが居て、被害がデカくなった時にはそいつらへの討伐依頼が街、もしくは本部から出される。

只これに関しては、アンタらみたく新米や一隊員の状態では、依頼を受けることができない。部隊に入ってからじゃないとな。

だから、その時までこれを言う事は無いだろう。

……只、そんな事をする暇があるなら、何も言わずに任務をこなしていく方が早いんで、そもそも誰も言ったりしないんだよな。

まあでも一応、頭に入れておいてくれ」


ロビンはそこまで話すと、二人に尋ねた。


「これで俺からできる説明は以上だ。何か質問は?」


「いや、無い。ありがとうロビン」


「私もです。ありがとうございました」


「いいよ別に、お礼なんて。たいした事はしてないし……。

まあ、アンタらの依頼が無事に終わる事を、ここで祈ってるよ」


「ああ、それじゃあ行ってくる」


「おう、いってらっしゃい。機会があったらまた会おうな」


「ええ、またいつか会いましょう。ロビンさん」


二人はロビンに見送られ、依頼受付所から出ていった。

歩きながら、今貰ったばかりの依頼用紙を確認する。



依頼人 行商人のアンドレ

場所  街の出入り口付近 馬車が目印

内容  荷車の後ろ側の見張り

    目的地は『ルニナクースカの町』



それを見て、リーサが呟く。


「『行商人』って、様々な所を移動して商売をする人のことよね。一体どんな人なのかしら」


「街の入り口には、よく馬と荷車が並べられている。

おそらく、それの持ち主達の内一人が、その人なんだろう」


二人がそう話しながらしばらく歩いていると、家や建物が段々少なくなっていき、少しずつ街の出入り口である大きな門が見えてきた。

と、ふいに視界が開け、広々とした場所に出る。


二人が辺りを見てみると、奥の方では街の出入り口である門が厳かに立っており、その手前側には、馬が入れられている馬小屋がいくつかあった。

そして近くには、馬が繋がれている馬車が一つだけ置かれている。


その馬車の付近をよく見てみると、そこでは暗い赤色をした髪の男が、馬車の荷車の前で何やら作業をしていた。

ラオとリーサは辺りを見回すが、その人以外に、荷馬車と行商人らしい人物の姿は見当たらない。


おそらく、そこにいる彼がそうなのだろうと二人は思った。

ラオは彼の元へ近づくと、荷車の前で作業を続けているその男に声を掛ける。


「こんにちは、仕事中にすまない。

俺は調査隊の隊員で、ラオと言う。

あなたが調査隊に依頼をした、アンドレという人か?」


ラオにそう聞かれ、行商人は作業をしながら答えた。


「おおー、もう来たのか。そうだ、俺が……」


彼はそう言って振りかえると、二人の姿を見るなり目を丸くする。


「なんだあ?夫婦で来てんのか?」


「へっ?」


リーサが思わず声をあげた。


「おいおい、そうならそうと言ってくれよ〜。

まさかハネムーンが『これ』だなんてさあ。

俺、ちょっと申し訳なくて気が引けるぜ」


言葉の意味を理解して、リーサが慌ててそれを否定した。


「ち、違いますよ!

私達は……、べ、別にそういう関係じゃありませんっ。

ただ依頼を受けて、『二人で』来ているだけです!」


「ええ、そうなの?そっか、違えのか」


リーサがそう言うと、行商人は残念そうな顔をする。

するとまた、彼は荷車の方へ体を向けて、荷造りの作業を再開した。


彼らの横で、それを無言で聞いていたラオが口を開く。


「とりあえず、あなたが調査隊に依頼をした、『アンドレ』という人で間違いないな?」


彼は荷造りをしながら答える。


「そうだ、オイラが行商人のアンドレだ。隊員の人、今日はよろしくな」


——と、彼は荷車にかかったロープの結び目をキツく絞めて、そこで行商人——アンドレは手を止めた。


「よし、これで終わりだ。

じゃあ早速だけど、こっちの準備が終わったから出発するよ。

お二人さん、この中に乗ってくれ」


「分かった」


「はい、よろしくお願いします!」


二人がそう答えると、アンドレは荷車の中を指し示した。

彼に促され、二人は白い覆いが掛けられている、荷車の中へと入って行く。


荷車の中は、二十人は余裕で入れそうな程広かった。

しかしその中は、行商人の荷物であろう袋や小包、木箱などが所狭しと置いてあり、そんな広々とした空間でも、それらのせいであまり広さは感じられない。

二人はその狭い中から空いたスペースを見つけて、その場所に座った。


荷車に二人が乗ったのを確認すると、アンドレは馬車の前側へ行き、そこに乗る。


「目的地は依頼書に書いた通り、『ルニナクースカの町』だ。

アンタ達は向こうに着くまで、この馬車の後ろ側の見張りをしてもらうよ」


アンドレはそう言うと、馬の手綱を手で持ち、上から下へとそれを振り下ろした。

すると、繋がれていた馬が歩き出し、それと同時に馬車の車輪が、軋む音を立てて動き始める。


三人を乗せた馬車は、馬に引かれて街の門をくぐっていくと、傾きかけた橙の日差しを受けて、ゆっくりと目の前にある道を進んでいった。


————————————————————————


車輪が地面を踏み締め、小さな段差から馬車が音と立てて揺れる。

リーサは荷車の中で、目の前にある荷物の山をぼんやりと眺めていた。

そして、その手にはペンと手帳が握られており、手帳には真新しい黒インクの文字がびっしりと書かれていた。


今、荷車の外ではラオが見張りをしている。

リーサは彼と交代する時間になるまで、荷車の覆いにもたれかかりながら、その場所の中で静かにそれを待っていた。

出発した時よりも静かになっている外の音に耳を澄ませ、それを聞いていると、辺りからは風に吹かれて、木の葉が擦れ合う音がする。


「もうそろそろかな……」


そう呟くと、リーサから見て右側、荷車の後ろの方にある白い覆いが持ち上げられた。

その奥から、ラオが顔を出す。


「リーサ、見張りの交代の時間だ」


「あ、うん。分かったわ、今行く」


手帳とペンをポケットにしまうと、荷車の中を歩くラオとすれ違い、揺れている馬車の中で足元に気をつけながら、リーサはその端まで進んで行く。

彼女は白い覆いの前まで来ると、ゆっくりとそれを持ち上げた。


(あ……)


覆いをくぐり外に出ると、リーサはその視界の中に入ってきたものを見て、恐怖を覚えた。

 

————暗い。

いや、暗いなんてものではない。

一寸先も見えないような暗闇が、そこには広がっていた。

周囲は全て、周りにある木々で隠されてしまっており、道の上までその枝が伸びているせいで、上にある月や星、夜空の光さえもほとんど入ってきていない。

辺りは、本当に真っ暗だった。


リーサの目の前にある道の奥は、きっと今通ってきたはずなのだろうが、そこに道が本当にあったのか怪しく思ってしまう程、真っ暗で一切の光が無く、その上不気味だった。

そしてその暗闇は、自分自身が今にもそれに覆い尽くされてしまうのではないかと思う位、目の前まで迫っている。

そんな暗闇に、彼女は強い恐怖を感じて、思わずそこから逃げ出したくなった。


——しかしそうなっても、リーサはそれをどうにかして抑える事ができた。

そこには逃げ出さずに済むような、恐怖を和らげる物が一つだけあったのだ。


それは——リーサの頭上に取り付けられた、小さなランプだ。


そのランプはこの暗闇の中、まるでその周囲だけ全く別の世界であるかのように、黄色く煌々と辺りを照らし出している。


だが、その光は本当にその周囲しか明るくなく、その上それは馬車が少しでも揺れれば、その度に光が大きく明滅して、今にも消えてしまいそうな程に弱々しい光であった。


しかしそんな光であっても、目の前に広がる暗闇を見れば、縋ってしまいたくなる程リーサにとっては明るく、そして心安らぐものであるように感じた。


そんな光に乞うようにして、リーサはランプの真下へ行くと、後ろの荷車の覆いにその背中をピッタリとつけた。

彼女はその体をランプの光に照らされながら、目の前にある暗闇に目を凝らし、見張りを始める。


馬車はそんな彼女を乗せ、時折大きく揺れながら、今までのように暗い夜道を進んでいった。


ラオはリーサが外に出たのを見届けると、荷車の中を歩いて行き、白い覆いを開けた。

目の前を見てみると、そこではアンドレが、出発した時と同じように手綱を持って座っている。

ラオは彼に尋ねた。


「アンドレさん、あとどのくらいなんだ?」


「うーん……。大体あと二、三時間くらいかな。

まだしばらくかかる」


「そうか」


そう言って荷車の中へと戻ろうとするラオを見て、アンドレは呼び止めた。


「そうそう、ちょっと聞きたい事があるんだけどさ」


ラオは振り向いて、アンドレの方を見る。

彼は言葉を続けた。


「お前はさ、あの女の子とは付き合ってないのか?

あんな可愛い子、放っておいたら勿体ないぜ。今の内に囲い込んどかないと」


ラオはそれを聞くと、静かに答えた。


「いいや、俺はそんなことをするつもりはない」


「ええ〜、そうなのかよ。

まあ好きにしたらいいと思うけど、そんな事を言ってると、俺みたいになるぞ?」


そう言うと、彼は聞いてもいないことを突然語り出した。


「俺はさ〜、未だに結婚するどころか、彼女さえ居ないんだぜ?

まあそれでも昔、働き出す前は彼女っぽい子達も何人か居たんだけど、自然と離れて行っちゃってさ〜。今は完全に独り身なんだよ。それでさ〜」


彼は馬の手綱を握りしめながら話し続ける。

しばらくの間その話を続けていると、ふと残念そうにため息を吐いた。


「はあ……多分仕事ばっかりで、他の事に手を回してなかったからかな。

俺、もうそろそろ結婚したいよ」


アンドレはもう一度大きくため息を吐く。

それを黙って聞いていたラオが、口を開いた。


「アンドレさんみたいな気のいい人なら、きっといい相手が見つかる。

だがその為には、努力をしなければならない。

まずは一歩踏み出すんだ。そうすれば、望みが叶うだろう」


アンドレは少し嬉しそうな顔をする。


「ほんとか?

だったら俺にも、まだ希望がありそうだな」


彼はそう言って、満足したように笑った。

そして後ろにある荷車を指差す。


「話を聞いてくれてありがとな。

交代するまでの間、この中で寝ててもいいぞ」


「ああ、ありがとう」

 

ラオはアンドレに礼を言うと、背後にある白い覆いを持ち上げ、荷車の中へと入っていった。


人が一人横になれるだけのスペースを見つけ、ラオはそこに寝転がる。

そうして目を閉じると、眠気が徐々に押し寄せて来た。

彼は、馬車の後ろにいるリーサのことを気にかけながら、時折大きく揺れ動く馬車の中で、静かに眠りについた————。

 

——————————————————————

 

「着いたぞ、起きろ」

 

アンドレにそう言われ、ラオは目を開ける。そして、その身をゆっくりと起こすと、辺りを見回した。

荷車の覆いの隙間から、所々白い光が差し込んでおり、その中が、寝る前の時よりも明るく感じる。


ラオが荷車の外に出て空を見上げると、いつの間にか空には朝日が昇っており、昨日の暗闇が嘘のように、辺りは明るくなっていた。


そして、目の前には白い石畳みの地面が広がっており、その周りには同じ色合いの建物がいくつも連なっている。


どうやら目的地の、ルニナクースカの町に着いたようだった。

 

町には色取り取りの花々が、家の窓や地面のありとあらゆる場所で咲き誇っており、それらは白い石畳みに、同じ色の建物とのコントラストによって、その街並みの美しさをより一層引き立てていた。


ラオがその景色を眺めていると、後ろから肩を叩かれる。

振り返ると、そこではアンドレがペンを持って立っていた。

 

「これで俺の依頼は終わりだ。

さ、依頼用紙を出してくれ。そこにサインする」

 

ラオは『用紙』と聞いて理解し、自身のリュックから受付所でもらった、あのくすんだ色合いの紙——『依頼用紙』をアンドレに渡す。

アンドレはそれを受け取ると、ペンでそれにサインした。

 

「ほい」

 

紙を手渡され、ラオはそれを受け取る。

紙には、若干黒いインクが滲んだ、『アンドレ』という文字が書かれていた。

 

「じゃあな、機会があったらまた頼むぜ。

……それと、お前は俺のアドバイス、ちゃんと守るんだぞ」

 

「ある程度はな。また」


アンドレは馬の手綱を引き、街の奥へと歩いて行く。

それをラオが見送っていると、後ろからリュックを背負ったリーサがやってきた。

 

「ラオ、サインはもらえた?」

 

「ああ」

 

ラオはリーサに、サイン付きの紙を見せる。

 

「これを各地にある依頼受付所で見せれば、そこで報酬と交換してくれるらしいな。……もう行くか?」

 

「ええ。ここからだと、一番近いのは『オリストロ』っていう町みたいね。

そこへ行きましょ」


「分かった、ならそうしよう」

 

ラオはそう言うと、街並みに沿って歩き出した。

同じくリーサも、それにならって歩き始める。


一先ずは、これで最初の依頼が完了したようだ。

二人の顔は寝不足で少しやつれ気味だったが、それでもどこか満足したように、その表情は明るかった。

朝の日差しが辺りを照らす中、二人は一歩ずつ、着実に目の前にある道を進んで行った。

相対的にマシに見えるアンドレ

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