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第一幕  作者: センゴアキ
第一章

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2/7

第二話 「調査隊」

「ラオ!」

 

第二ホールへと歩みを進めている人物——ラオはそう呼ばれ、先程よりも足早にその建物の前まで歩いて行った。

そこには、昨日会ったばかりの少女——リーサが居る。

 

「おはよう、ラオ」

 

リーサはそう言って笑顔を見せる。そんな彼女に応えるように、ラオも微笑みかけた。


「おはよう、リーサ。……待たせてすまない」

 

「ううん、全然」

 

二人はそうして、朝の挨拶を交わす。


 

朝の日差しが、目にまぶしい。

二人は昨日約束した通り、街の第二ホールの前に来ていた。

第二ホールは、人が百人以上入れそうなくらいには大きく、赤い壁に金細工の装飾が施されており、煌びやかな外観をしている。


しかし、その見た目とは裏腹に、その壁は掃除されていないのか薄汚れており、しかも所々穴が空いている。

そんな壁の前で、リーサはラオのことを待っていた。

 

今やってきたラオを見て、リーサはあることに気づく。

彼はその背中に、大きなリュックを背負っていたのだ。彼女は、それを見ながら尋ねる。

 

「ねえ、その後ろのリュック、何が入ってるの?」

 

リーサにそう聞かれ、ラオはリュックを下に下ろす。

そしてチャックを開けると、彼女にその中身を見せた。


リュックの中には、緑がかった布のようなものと、中ぐらいの小包がいくつか入っている。

リーサは緑の布を指差した。

 

「それは?」

 

「こいつは昨日購入した、特別な成分の入った包帯……らしい。

買った店の店主が言うには、傷のある箇所に巻くだけで、傷の治りを良くしてくれるんだと。

骨折でさえも治ると言っていたが、まあ、正直全く信用できない。

だが、それでも無いよりはマシだろうと思って買ってきた」

 

ラオはそう言うと、中から小包を一つ取り出す。

 

「その店で、救急キットも購入した。この中には、応急手当て用の道具一式が入っている」

 

「なら、怪我をしてもすぐに対処できるってことね」

 

ラオは頷き、リュックから緑の束のようなものを取り出した。

 

「それと野草をさっき摘んできた。こいつはそのままでも食べることができる。

もし食料が底を尽きたとしても、これでしばらくは保つはずだ」

 

ラオが持ってきた便利な道具達に対し、リーサは感嘆の声を上げる。

 

「すごいわ、街にはこういうのも売っているのね。

それに、野草についても詳しいなんて……」

 

リーサはその野草を眺めていると、ふと思い立ったようにラオに言う。

 

「ねえ、その野草、少し手を加えれば薬になって、よりお腹も膨れさせることができるようになるわ。ちょっといいかしら」

 

手を差し出すリーサに、ラオは持っていた野草の束を渡す。

リーサは受け取ると、それを一本ずつ折りたたみ、こねながら丸めた。

すると球体になった野草から、緑色の液体が出てくる。リーサはそれの上に、自分のリュックから出した水を数滴垂らした。

 

「よし。これで丸一日置いておけば、中の植物の成分と混ざって、食べられる分量が多くなるわ。

それに、軽い胃痛なら、これで和らげることができる。

はい、ありがとうラオ」


リーサは塊を紙に包み、ラオに手渡した。

ラオはリーサからそれを受け取ると、リュックの中へ元のようにしまい込む。

 

「詳しいんだな」

 

「えっ?……えへへ、本で少し……」

 

リーサはどことなく照れくさそうに笑った。

 

二人がそうしている内に、周りには段々、人が集まり出していた。

おそらく彼らも、調査隊の募集要項を見て来た人達だろう。

少しずつ賑やかになっていく第二ホール周辺を眺めながら、リーサは言った。

 

「まだ時間は早いけれど、これって中に入れるのかしら」

 

「どうだろうな。……入り口は向こうにあるみたいだから、確認しに行くか」

 

ラオの言葉で、二人はそこを目指して歩き出す。

その場所へ行くにつれ、更に周りにいる人々が多くなっていく。

二人が第二ホールの出入り口——大きな赤いドアの近くまで来ると、人混みの中から、気だるげな男の声が聞こえた。

 

「えー、ただ今より、調査隊隊員として新しく入隊する方々への、説明会の受付を開始します。入隊を希望される方は、順番にお並び下さい」

 

周りをキョロキョロと見回しながら、リーサが言う。

 

「丁度始まったみたいね。ここにいる人達、全員がそうなのかしら」

 

二人は列ができている所を見つけ、同じようにそこに並んだ。

しばらくの間待っていると、ラオとリーサの順番まで来た。

次の人、と呼ばれ、二人は声のする方へ歩いていく。するとそこには、迷彩柄の服を着た男性が座っていた。

椅子に座っているその男は、二人のことをチラリと見ると、気だるそうに聞く。

 

「名はなんて言う?」

 

「俺はライオネル・ガロックナイツだ」

 

「私はリーサ・シルファーです」

 

二人は自分の名を名乗った。

が、リーサの名を聞いた瞬間、ラオはリーサの方へと顔を向けた。


彼女の名はシルファーではなく、『シルフェンディ』のはずだ。

何故違う名前を名乗ったのかと、ラオがリーサに聞こうとすると、彼女はまるで何も聞かないでとでも言うように、静かに首を横に振った。

それを見て、ラオは開きかけた口を閉じる。


この間、二人の名前を聞いたその男は、作業台の上の紙に何かを書くと、下にあるバッグを二つ取り出した。

そして彼は、二人にそれを手渡す。


「このバッグの中に一日分の食料が入っている。これを持って中に入れ。次の人ー」

 

男の案内に従って、二人は会場の中へと歩を進める。

ラオはそこで、先程リーサが名乗った名前のことを聞いた。

 

「『リーサ・シルファー』?」

 

「ああ、えっと………私の家名であるシルフェンディっていうのはね、一部のところではかなり有名な家なの。

それで、名前をそのまま登録しちゃうと、後でややこしいことになるかもしれないから、念の為に名前を変えたの」

 

「それで偽名を使うのか」

 

「うん」

 

リーサはそう言って苦笑する。

気を紛らわせようと、彼女は歩きながら、なんとなく今もらったバッグを開けた。

 

「あれ?」

 

彼女はそれを見て眉をひそめる。


「ねえ、ラオ……。一日分の食料って言っていたけれど、これだけってあまりにも少ないんじゃないかしら」

 

「『これだけ』?」

 

リーサに言われて、ラオも中身を確認する。


小脇に抱えられるくらいの小さなバッグの中には、手のひらよりも少し小さなパンと、それと同じ大きさの皮袋の、二つが入っていた。

皮袋の方を見てみると、どうやらその中には水が入っているようだ。

しかし、その水も大した量は入っておらず、一口飲んだけですぐに空になってしまいそうな程少ない。

 

「……それどころか、俺がいつも食べている量よりも少ない。……どういうことだ?」

 

ゴツゴツした硬いパンを触りながら、ラオが言う。

 

「あの……」


そんな話を二人がしていると、突然後ろから声をかけられた。


二人が振り返ると、そこには二人の背丈の半分ほどしか無い、小柄な男性が立っていた。

 

「それを、下さいませんか……?」

 

か細い声でその人物は言った。彼はリーサとラオの持つ、今もらったばかりのバッグと、パンを指差している。


縋るように伸ばしてくる彼の腕を見てみると、その腕はまるで、骨に皮が張り付いているだけのように細く、それはボロボロになったズボンから見える足も同様に、酷く痩せ細っていた。


どうやらその人は、物乞いのようだった。


物乞いがどうしてこんな所にいるのかと、リーサは思わず辺りを見回した。

すると、あることに気づく。


会場の壁には、人一人が余裕で通れるくらいの穴がいくつも空いている。

そこからは、外の景色が若干見えており、穴をよく見てみれば、第二ホールの前を歩く人々の姿が時々映っていた。

彼はおそらく、そこから入ってきてしまったのだろうと、リーサは思った。


その物乞いは懇願するかのように、生気のない顔でこちらを見つめてくる。


(どうしよう……。渡してあげたいけど……)


リーサは思わず、パンに伸ばした手を止める。

 

「……そうか、ならこれを」

 

ラオは、迷わず手に持っていたパンと水を手渡した。

 

「ありがとう、本当にありがとう……」

 

物乞いの表情が一気に明るくなり、何度も礼を言いながら、それを受け取った。


そんな彼の姿を見て、どうしようかと迷っていたリーサも、自分も同じようにバッグからパンと水を取り出し、彼に手渡した。


「はい、どうぞ」

 

「ああ、こんなに……。ありがとう、ありがとう」

 

彼はまた同じように、何度も礼を言ってそれを受け取った。

 

しかし——彼はそれを受け取った瞬間、ニヤリと笑うと、まるで逃げるかのように急いで二人のそばから離れた。

そしてパンと皮袋を抱えながらバカにしたように笑うと、驚いている二人の前で叫んだ。

 

「バーカ!お前らとんだお人好しだな。食いもんをありがとよ!」

 

意地汚い笑い声を上げて、彼は人混みの中を押しのけ走り去って行った。

 

「なっ……!?」

 

騙されたと気づいて、リーサはその人物を追おうと手を伸ばす。

しかしそんなリーサを制止して、ラオが言った。

 

「待て、リーサ」

 

「でも……!」

 

「彼のことはもういい。それよりも今は向こうだ。どうやら始まるみたいだぞ」

 

ラオは会場内の、ここより少し高くなっているステージの方を指差した。

そう言われリーサがステージへと視線を送ると、いつの間に居たのだろうか。


ステージの上には、迷彩柄の服を着て、それと同じ柄の帽子を被った恰幅のいい人物が立っていた。

そして、その人物の目元には、何やらバイザーのような目隠しが付けられており、それは上についたライトに照らされて、銀色に光っている。


ステージを照らすライトだけを残し、それ以外全ての明かりが消される。

辺りが突然暗くなり、それまで会場内で起こっていたざわめきも徐々に小さくなっていく。

自分達も含め、周りの人達もステージにいる人物の姿をじっと見ていた。


ステージにいる人物——男は薄ら笑いを浮かべながら、手元にある台の上に何枚かの紙を置くと、ひどく掴みどころの無い、特徴的な口調で話し出した。

 

「えー、本日はお集まりいただきありがとう。ではこれより、調査隊の説明をしていきますよ」


その男は、何か面白いことでもあるのか知らないが、薄ら笑いを浮かべたまま言葉を続ける。


「まず、調査隊の本分は、『依頼を受けて、それを達成して、報酬を受け取る』。ということにあります。そしてこの三つが基本の動きになりますね。

えーそんでえ、依頼を受ける為の受付所、即ち『調査隊依頼受付所』が世界各地にありますー。

詳しい場所については、あとで配る資料より確認してください。


で、君達には早速依頼を受けてもらおうと思うのですがあ、詳しい依頼内容についてはー、そおですねえ、それも後で渡す紙に書いてありますー。

あの、個人個人で全く違う依頼内容になってますのでーもらったらちゃんと確認してくださいね。


ちなみにその内容なんですがあ、君達にとっては初めての調査依頼なんで、調査隊の中では最も簡単で『安全』な内容の依頼として調査隊本部から割り振られていますよ。


それとその依頼報酬なんですがあ、さっきも言ったように簡単なものになってるのでー、通常より少なくなってます。その金額が『銅貨一枚』になりますね。

それで、調査隊に入るにあたって隊の制服を支給するのですがあ……」

 

「はあ!?どういうことだよ!」

 

男が話している最中、会場の中心付近から声があがった。

彼は話を止め、声のする方を見る。

 

「報酬金額が書いてあったことと違うだろ!俺がもらったチラシには、最低で銀貨二枚って書いてあったぞ!」

 

怒ったようにその声の主は言う。

そしてその声に呼応するように、また別のところからも、同じような怒りの声があがった。

 

「そうだ!それにチラシには『一日分の食料』って書いてあったのに、あの受付所でもらったバッグには、ひとかけらのパンと水しか入ってなかったぞ。どういうことだ!」

 

それを聞いて周りからも声があがる。

 

「そうだそうだー!」

 

「一日分の食料でこれだけって舐めてんのか!」

 

「こっちは銀貨二枚って書いてあったから来たんだぞー!」

 

壇上にいる男はやれやれというように、騒ぎ出した会場に向かって言う。

 

「まあ待って下さい。さっき言いました通りー、『最初の調査』はそれとは別なんですよ。

初回だけが銅貨一枚なんです。あとはちゃんと銀貨二枚以上ですよ」


すると言葉を止め、彼は小さな声でボソッと言う。


「まあ銅貨一枚の理由については、これから支給する隊服や、必要なもので引いた分になるのですが……。

それらを『無料でお渡しする』って書いちゃったし、何より今は、言わない方がいいでしょうね……」

 

そんな中、怒号ではなく、ある質問が会場の中から飛んできた。

 

「だったら、金貨数百枚っていう報酬の依頼は?

すぐ受けられるって書いてあったけど、あれは本当なんだよな?」

 

「今説明しますから」

 

たしなめるように男は言う。その間も、彼はずっと薄ら笑いを浮かべていた。

 

金貨数百枚、という単語を聞いて、会場内はまた静かになった。

自分達にとって興味があるその話を、彼らはおとなしく聞こうと耳を傾けているのだ。

壇上にいる男の言葉を、そこに集った人々が待っていると、男は話を再開した。


「えー、では報酬の話の前に、あなた達にはこの制度を先に知っていただく必要がありますのでえ、こちらからご説明しましょう!

まず、調査隊には『階級』というものが存在します。


その階級には五つありまして、一つ目は『新米隊員』。

つまり、これからあなた達がなるものですね。初めての……『一つ目』の依頼をこなすまでは、その階級が適用されます。


それをクリアしたら、次は二つ目、通常の一『隊員』としての階級になります。


その次の三つ目と四つ目、そして五つ目は、ここから少し違ったものになります。

それは……、『部隊』です。


調査隊には、『小部隊』、『中部隊』、『大部隊』という三つの大きな組織があります。

一隊員として活動していた者達が部隊へと集まり、一人ではなく部隊にいるメンバー全員で一つの依頼をこなすようになります。


今現在、調査隊隊員の半数以上は、その『部隊』というものに所属しています。

では、それになる為の詳しいやり方を説明していきますね。


一隊員としての功績を順調に上げていくと、まず調査隊の本部である『大部隊』から指令が出て、小部隊への昇格が認められます。

ちなみにこれは任意なので、ここで小部隊に入るか否かは、ご自身の判断に委ねられます。


まあとりあえず、一隊員になりましたらどんどん依頼を受けて、それをこなしていくといいでしょう。そしてその後は、小部隊に入ることをオススメしますよ。


それでまた、『小部隊』での任務を順調にこなしていくと、『中部隊』への昇格が認められます。

そしてそれらは『大部隊』でも同じです。認められれば、そこへ入る事ができる。

上手くいけば、大部隊の上役職まで上り詰めて、幹部になる事や……最高司令官である、『大部隊隊長』の座を得る事ができるかもしれません」


そこまで話した所で、また男は声のトーンを落とす。


「……まあ、それまでに死んでなきゃいいがな。

昇格する度に、依頼の難易度も上がっていく。

大部隊どころか、小部隊でさえも普通に全滅する可能性があるんだ。ククッ、こいつらはタフだといいな〜」


男が小さな声でそう呟いていると、報酬の話が待ちきれなくなったのか、会場からまた怒鳴り声が飛んできた。


「おい!さっさと報酬の話をしろよ!

金貨数百枚の話は!?すぐに依頼が受けられるんだろ!?」


男はまたやれやれというように、その声がした方を見る。

今も変わらず彼は、薄ら笑いを浮かべていた。

 

「金貨数百枚も手に入るような依頼はあ……。それは、大部隊になってからの報酬になりますねー」


「その大部隊っていうのは今すぐなれんのか?」


「うーんと、今ご説明した通り、然るべき手順を踏んで、一個一個昇格していけば、なれますよ」


するとまた別のところから質問が飛んでくる。


「あの、新米隊員や一隊員の状態で、金貨数百枚が手に入る依頼は受けられるんですか?それと、大部隊に入るにはどれくらいかかりますか?」


「新米隊員や一隊員の状態で、金貨数百枚が貰える依頼なんてのは、受ける事ができないですねえ……。

それと、大部隊に入るには、最低でも五年はかかると思います」


質問者の語気が、強まる。

 

「……じゃあ、チラシに書いてあった、金貨が貰える依頼を『すぐに』受ける事は、できないってこと?」

 

男は目を逸らす。

 

「……そういうことになりますね」

 

その瞬間、会場内から一斉に怒号が飛んできた。


罵詈雑言の嵐をその身に受けながら、男は変わらず薄ら笑いを浮かべて言う。

 

「えーっと、説明はこれで以上になります。本当に入りたいと思っている人は、あとで街の南側にある『依頼受付所』に来て下さいね。皆さん、それでは〜」

 

会場内の人々に手を振りながら、男は立ち去って行った。そんな彼に、より一層周囲の怒りの声が大きくなっていく。


そんな会場の雰囲気に押されて、リーサが呆然と立ち尽くしていると、突然ハッと我に帰り、隣でステージを見つめているラオに尋ねた。

 

「えーっと……。あの、ラオ。あの人最後になんて言っていたか、分かるかしら?」

 

「彼は『本当に入りたいと思っている人は、街の南にある依頼受付所に来い』と言っていた。

……彼の話は、チラシに書いてある事と違う事が、いくつかあったな」


「ラオ……。あなたはその話を聞いて、どう思ってるの?」


リーサが心配そうにラオに聞く。

ラオはステージから目を離し、リーサの方へと向き直る。

 

「……彼が言ったように、最初の依頼は銅貨が一枚なんだろうが……それでも俺はいいと思っている。

高額な報酬の依頼を受けるには、部隊とやらに入らなければならないらしいが……そんなことは、なんの問題もない。

それに入れるまで努力し続ければいい。それだけだ。

その為に最初の依頼をこなそうと思う」


「……そうなの」


リーサはどこか嬉しそうに言う。


「リーサ、さっきの内容を聞いても、君はついてくるか?」

 

「ええ、もちろん。ついていくわ」

 

それを聞いてラオは頷くと、言葉を続けた。

 

「なら、行こうか。

ただ、依頼を受けられる受付所は、街の南にあると言っていたが、詳しい場所については言っていなかった」


「あ、そう言えばそうね。……うーん、どうしたら……」


リーサが悩んでいると、ラオが言った。


「合っているかどうかは分からないが、実はそれらしい建物に、一つ心当たりがある。そこへ試しに行ってみよう」


「そうなの?良かったあ。じゃあそこへ行きましょう、ラオ」


「ああ」


ラオは頷くと、リーサと共に会場の出入り口へと歩きだした。

その間も、辺りからはずっと怒声が聞こえてきている。


しかしそこから離れていくにつれ、その声も少しずつ小さくなっていった。そのお陰からか、周りからはそれとは別の、様々な声が聞こえやすくなってくる。


その中、会場内を移動する内に、ラオとリーサの近くを歩いていた男二人の声が、はっきりと二人の耳に入ってきた。

 

「今回は随分人が多くて焦ったが、それでもちゃんとパンは貰えたな。

これこそ立派な『報酬』だろ」

 

「ははっ、違いねえ。

……に、してもだ。今回もそうだったけど、この『説明会』、本当にこれで隊員になろうとする奴がいるのかねえ。俺、例の隊服とやらを着てる奴、見た事無いんだけど」


「さあな。でも、俺達はタダでパンと水が貰えるから、もうどうだっていいだろ」

 

二人の男はそう言って笑った。

そんな彼らの周りでは、同じように笑顔を見せている人や、パンを貪っている人、苦い顔をして会場内を眺めている人、複雑そうに顔をしかめている人など——様々な人達が歩いている。


彼らと共に会場を後にし、そのまま外まで出ると、ラオはふと会場——第二ホールの周りを見た。


会場の周りには、今出てきた人達が居た。

——しかし、それだけでは無かった。


彼らの周りには、服がボロボロでひどく痩せ細った——そう、あの物乞い達が居た。

彼らはラオの時と同じく、会場から出てきた人に、食べ物を恵んでもらえるよう、その細い腕を伸ばしている。


しかし、彼らはその時とは違って、中々物を貰う事ができていないようだった。

物乞い達は、会場の人々から何も貰うことができないと分かると、憎々しげにその人達の事を見て、地面に唾を吐きつけている。


奥の方では、一人一人に過剰なくらい詰め寄って、無理やり物を奪い取るかのような勢いで、その手を伸ばしている物乞いも居た。


そして、そんな物乞い達以外にも、第二ホールの周りではガタイのいいごろつきのような男達が、そこでたむろしている。


彼らは会場から出てきた何人かの人物から、例の食料の入ったバッグを受け取り、その中身を確認していた。

男達はその中にあるものを見ると、何かを話し合っている。そしてそれが終わると、最後には笑い声をあげて、そこから立ち去って行った。


そうした人達が、説明会を終えたばかりの第二ホールの前に、たくさん集っていた。


ラオとリーサはそんな人達を背に、街の南側——

『調査隊依頼受付所』のある場所を目指して、歩みを進めていった。

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