ありふれた地獄
さて、四一階層を作っていこう。
まずは地形作りから。
うーん、この階層は地獄をイメージして作りたいんだが
土台の環境はどうしよう。
地獄のイメージは草のない土の大地に、ゴツゴツした岩、淀んだ空、尖った山なんだが…
〈平原〉にして【大地魔法】で凹凸を作るか。
環境を〈平原〉に設定し、俺は【大地魔法】にて、地面を掘り返し凹凸を作り、土を盛り上げ山を、地面を割って渓谷を作り、魔法で生成した岩を設置した。
で、天候を曇り固定に
作業後の様子はまるで掘削現場のようだった。
現場である。地獄ではない。
と、ここで役立つのがミラから貰ってきた二つの道具
栄養剤と溶岩ボールだ。
とりあえず溶岩ボールをポイっと窪みに投げる。
すると着弾した場所には溶岩が現れていた。
これでお手軽、溶岩池の完成だ。
あとは、山の頂上とかに投げて、火山っぽく作ればいい。
で、ミラ特製栄養剤は苗木にかけるといいらしい。
ドライから貰ってきた苗木を適当に植え、栄養剤をかける。
かける量を間違うと大変なことになるらしいから慎重に……
栄養剤が入った試験管から一滴落ち、苗木にかかる。
すると、苗木はたちまち成長していった。
しかし、自重に耐えきれないのか、枝や幹は曲がりくねり、地面につく程に折れ曲がっている。
一滴でこの性能。さすがミラ特製栄養剤。
感心していると、木の一部が突然燃えだした。
えっ!?
火の勢いは強くなり、木全体を包み込んでいた。
何故だ?
と思い考えると、至る所に溶岩があったことを思い出す。
まさか、自然発火するほどにこの階層は気温が高いのか?
調子に乗って、溶岩ボールを投げすぎたな。
俺は温度とか感じないから分からなかった。
ていうか、こんなに火の勢いが強いってどんだけ熱いんだ?
ここまできた冒険者は苦労しそうだ。
…このまま燃え尽きるかもなぁ
あれ?
木は未だに燃え続けており一向に燃え尽きる気配がない。
それどころか再生している。
まじか。燃えない木。まぁ地獄らしくていいか。
と、ここで【環境設定】を確認。
おし!出てるな。
新しく出てきたのは〈灼樹地獄〉か。
熱くて木が生えてる。
まんまだな。
では早速、【環境設定】〈灼樹地獄〉発動
発動すると景色はみるみるうちに変わっていく。
ただの溶岩溜まりだった場所は立派な池となり、山は溶岩吹き荒れる火山に、暗く澱んだ空、そこらじゅうに植えた木は、燃え盛る木や至る所に棘の生えた木など様々な種類に分かれ生えている。
まさに地獄として相応しい階層となった。
地獄だな。
感想が貧弱だが。
後は五十階層まで【環境設定】をして、魔物を召喚するだけだな。
流石にそう何度も何度も問題は起こらないだろう。
魔物の召喚と行こうか。
〈灼樹地獄〉では、どんな魔物が出てくるかな。
【召喚】
大小様々な召喚陣が現れる。
地獄だからな。予想としては鬼だ。つまりオボロやシュラと同じく鬼人系だと思う。
しかし、召喚陣から現れたのは俺の予想とは少し違う魔物だった。
ひどく背中が折れ曲がり頭が大きく、角が生えた餓鬼
燃え盛る車輪に人の顔が付いた火車
牛の頭に蜘蛛のような巨大な身体を持つ牛鬼
そんな多種多様な魔物たち——いや、妖怪たちであった。
中でも目立つのは下半身のない巨大な骸骨。
餓者髑髏だ。
…地獄といえば鬼、というか獄卒のイメージだったんだが
妖怪だらけだな。百鬼夜行かな。
でっかい骸骨がいるが、あれをボスにしようかな。
今は四一階層だから移動させなきゃいけないが。
『餓者髑髏は高位の魔物です。力が強く、その巨体に見合った体力もありますが、知性が低く本能に従い生者を攻撃します。そのためボスには不向きです』
確かに不向きか。
一応ボスはこの階層、〈灼樹地獄〉のまとめ役だ。
いくら強くても流石に暴れ回るだけはまずいな。
まぁ、ボス決めは一旦保留で
五十階層まで一気に作っていこう。
———一時間後
四九階層までの環境と魔物の召喚を終え、
そして今五十階層の環境設定を終えた。
結局ここまでボスに相応しいのは居なかったな。
何体か獄卒っぽい魔物もでたけど、なんか拷問官みたいな感じでボスには向かない奴が多かった。
後単純に怖いし。悪鬼羅刹だ。
同じ鬼人系なのにオボロやシュラとは大違いだ。
ゴブリンから進化したからだろうか。
じゃ、早速召喚と行こうか。
ボスらしい妖怪、もとい魔物を召喚できると良いが。
出なかったら暫定で獄卒の誰かだな。
召喚を発動させると
今までと同じく大小様々な召喚陣が現れる。
だが、今回はこれまでとは違い目立つ召喚陣が二つあった。
一つは禍々しく、狂気的な気配が溢れ出ており、もう一つは巨大な召喚陣だ。
あの神獣達ほどじゃないが結構な大きさだ。
こりゃ、ボス候補が出てきたな。
次々と魔物たちが現れ、目立った召喚陣の内、不気味な方が先に出てきた。
巨大なのはまだだ。
禍々しい召喚陣から現れたのは、死装束を纏い小面の能面を被った魔物だ。
右手には一振りのシンプルな刀が握られており、長い黒髪と体型から女性型だとわかる。
うわぁお。
怪談話に出てきそうな奴が来たぞ。鬼女って奴だな。多分。
人型だし、知性も高いだろう。
もうあいつがボスでいいんじゃないかな
他にそれらしいのも居ないし、でっかい召喚陣からはまだ何も出てきてないし。
声をかけようと近づくと鬼女が袖で顔を隠した。
…なんだ?
ちょっと嫌な予感が
鬼女が袖を避けると、能面は般若の面へと変わっていた。
こわ!
そして、手に持つ刀を鞘から抜き取り、目の前にいた魔物へ刀を振るった。
斬られた魔物はその場に倒れ込んでいる。
おい、おい、まずいぞこれ。
明らかに故意に斬ったよな。
『鬼女は怨鬼です。ダンジョンのルールを鬼女の怨念が上回り、仲間を殺さないというルールを無視しているのです』
餓者髑髏より厄介じゃねぇか!
しかも今召喚したばっかだぞ。
一体どこで怨念なんて溜まったんだよ。
『ダンジョン内で死亡した魔物、冒険者、盗賊など様々な者達の残滓でしょう。一度発散させてしまえば、後はダンジョンのルールで縛れます』
いやいや、発散させたら被害が大きいだろ。
「オボロ!」
「ここに」
オボロが俺の影から現れる。
よかった!居た。
さすが雑用係。俺の護衛も兼ねてるとは。
「オボロ、あの暴れてるのを抑えろ。お前と同じ高位の魔物だ。油断はするな」
「御意に」
多分俺に攻撃が来ることはないとは思うが
召喚した時点で俺の配下なわけだし。
最高位の俺の召喚のルールまで破れるとは思えない。
オボロが短剣を片手に鬼女の元へ向かう。
鬼女が気付き迎え撃つように刀をオボロめがけ振り下ろす。
オボロは短剣を前に出し、受け流す姿勢だ。
刀と短剣がぶつかり合う
寸前
鬼女の背後にあった巨大な召喚陣から腕が出てくる。
その腕が握り拳を作り、鬼女へと振り下ろされた。
鬼女は避けることすら許されず叩き潰された。
「やめんか、馬鹿もんが!」
その声と同時に腕の持ち主が召喚陣から現れる。
巨人と呼ぶには小さく、しかし十分に巨大な恰幅のいい爺さんだった。
髭は胸元まで生え、髪は白いが禿げている箇所はなく、逆立って生えている。
麻布でできた簡素な服を着ている。
「すまんなぁ。御方様よ」
爺さんは頭を下げる。
俺とオボロはその光景に呆気に取られていた。
すげえなあの爺さん。
オボロの活躍を掻っ攫って、鬼女を一撃で倒したぞ。
潰された鬼女に目を向けるが、死んだわけではなく気絶したようだ。
手加減をしたのか、もしくは本気でやって倒せなかったのか。
どちらにしても十分だが。
さてさてこの爺さんはどんな種族なのかな?
ステータスを見せてくれ
——ステータス——
名前:
種族:閻ノ御霊
称号:なし
メインクラス:裁判官
サブクラス:収集者
ユニークスキル
・五悪審判
—————————
ユニークスキルを持ってやがるぞ。
『閻ノ御霊は最高位の神霊系の魔物です』
最高位か。
しかも神霊って、もはや魔物じゃねえな。
どっちかっていうと精霊とかに近いのか。アイツらも区分的には魔物だし。
正直このレベルの魔物を階層のボスに置いとくのはなぁ。
ユニークスキルを持ってる時点で今の所はミカエルより優勢だし。
でも、コイツ以外にこの地獄の妖怪連中をまとめられる気がしない。
…まぁいいか。
悩んでいても仕方がない。
ミカエルだってそのうちユニークスキルを獲得するだろうし、他にもシュラやオボロ、フェンと優秀なやつは多いからな。
ミカエルはもしかしたらユニークとか関係なく破壊する可能性があるが。
「よし、閻ノ御霊。お前をこの五十階層のボスに任命する。四一階層からの妖怪連中をまとめてくれ」
「その任、承った」
「うむ。心強い返事だな。お前にも名前をやらないとな」
名前をつけよう。
パッと思いついたのはエンマだが、ここで問題があるのだ。
そう、これまでの階層ボスの名前付けのルールだ。アインス、ツヴァイ、ドライ、フィーアとこれまでは対応する階層の数字で名前をつけてきた。
クソっ。ドイツ語ってかっこいいよねという思いでつけたのが仇になるとは
この爺さんにフュンフはあわねぇ。
どう見ても閻魔様顔だもの。
だが、ここまできて命名ルールを破るのもなぁ…
…仕方ない。ここは苦肉の策だ。
「お前の名前はエンマ=フュンフだ。よろしく」
「いただいた名に恥じぬ働きをしましょうぞ」
これでいい。
フュンフというルールも守りつつ、本命の名前であるエンマをつける。
これで普段はエンマとだけ呼べばいい。
まさに苦肉の素晴らしい策だ。
「オボロもご苦労な」
「いえ」
「それにしても残念だったな。滅多にない活躍を奪われて」
「えっ?!」
今後に期待しよう。
機会はきっと来るさ。




