訓練場の魔狼
訓練場では様々な魔物が訓練をできるようにしている。
そのため、施設が多く入っている。広場や的、ダミーの人形、プールなど
ダンジョン内で最も設備が充実した建物かもしれない。
工房や研究所は自分で何とかする連中が多いから、必然的に訓練場に労働力が集まっただけだが。
まぁ作ったはいいが使われていない設備も多いけれど。
特にプールなんかは顕著だ。
ダンジョン内に水場がある環境は最下層の孤島だけだし、それに水中で戦うような魔物もいないしな。
海月のティアマトぐらいだ。
で、訓練場に見学に来たわけだが何やら中が騒がしい。
特に中央に設置された闘技場に人が集まっているようだ。
「ようみんな。そんなに集まってどうした?」
俺に気付き挨拶してきた。
その中に珍しい人物を発見する。
オボロだ。
普段、ダンジョン内を飛び回ってルシフェルやミカエルの雑用で忙しいらしく、訓練場なんて来ていなかったが
「アヴィリル様」
「おう。珍しいな。訓練か?」
「はい。それもありますが現在問題が起こっているようでした」
と、オボロは闘技場へと顔を向ける。
続いて俺も見るとそこでは大きな狼と鬼人が戦っていた。
シュラとフェンだ。
模擬戦でもしているのだろうか、お互い傷だらけだ。
シュラの顔は真剣そのものだった。
「おぉ、シュラ対フェンか。白熱してるな」
その証拠にシュラの部下のミノタウロスを筆頭に、闘技場から目を離さず食い入るように見ている。
「模擬戦をしているようだが、何が問題なんだ?」
「はい、それがフェンがここ数日闘技場を占拠していまして」
占拠?誰かとずっと戦っていたということだろうか。
「まぁ、確かに譲らないのはまずいよな。いくら訓練でも」
「それが、訓練ではないのです」
「訓練じゃない?じゃあ占拠って何だ?」
訓練でもなく闘技場を占拠って、ずっと居座ってたってことか?闘技場に?
一体何のために。
闘技場は他の広場や施設よりも多少頑丈に作ってはいるが、特別なのは強度ぐらいで他にはない。
居座っても得をするような場所ではないのだが。
「それが闘技場のど真ん中でずっと寝ていまして、どけようとシュラの部下が近づいたところ寝ぼけたフェンが攻撃してしまい」
「あちゃーだな。怪我したのか?」
「いえ、ギリギリの所でシュラが間に入り止めました」
それは問題だな。シュラがいてよかった。
フェンめ、最近傲慢気味じゃないか?
もう一度よくフェンを見てみると、あることに気づく。
あれ、なんか前よりデカくね?
色味も若干変わってるし…
もしかしなくても進化したのか
演算機、ステータスを
——ステータス——
名前:フェン
種族:月夜の影狼
称号:なし
メインクラス:迅者
サブクラス:無頼漢
ユニークスキル
・唯我独尊
スキル
・完全隠形 ・瞬迅速 ・夜爪術 ・身体強化 ・潜影 ・強欲の種子 ・怠惰の種子 ・暴食の種子
—————————
やっぱり進化している…
ついにフェンも最高位か。
というか進化以上に気になるのがあるんですけど
何だこの三つの種子スキル。全部大罪じゃねえか
まさかこのスキルの影響で寝てたのか?
まぁ確かに最近フェンがよくご飯を食べていると聞いていたが
だが、強欲、暴食、怠惰で傲慢はないな。
いや【唯我独尊】か?
このスキルは確か精神攻撃に強くなるとかいうスキルだったはずだが
字面的には傲慢だ。
まさか四つも大罪を持っているとは
憤怒とか取ったら暴れるんじゃないだろうな。
『種子系スキルは所持者の適性により解放されます』
なに?
フェンはこの三つ、いや【唯我独尊】も含めたら四つの大罪の適性を持っていたからってことか。
てことは、残りの大罪は獲得しないのか?
『いえ、種子系スキルは一つ所持すると他六つのスキルも順次解放されていきます。解放の順序は適性順。適性が低いほど解放は遅くなります』
なるほど
フェンはどこかで種子を取得して、適性があった他のスキルもすぐ解放されたってことか。
厄介な方に進化しないといいが。
大罪を持つ伝説級なんてなったら厄介なんてもんじゃないぞ。
というか
二人とも傷だらけだと思ったが
よくよく見るとシュラの方が傷が深い。
フェンは最高位に進化したからな。
戦闘経験と技術の差でシュラが何とか抑えてはいるが、与えるダメージは少なそうだ。
流石に最高位の相手はキツイか。
かといって、止められるかどうか…
とりあえず声をかけるか。
「フェン、やめろ!一旦止まるんだ」
流石に無理か…
声をかけたが、聞こえていないのか戦闘は止まらない。
仕方ない、いつもの方法でいこう。
無理矢理止める。
フェンがシュラに向かい、大きく爪を振るう直前
フェンの爪を弾くように闘技場の地面から土の壁を生成する。
爪は弾かれ、フェンは後退する。
すると、フェンは周りを見渡し、俺に目が向く。
これまでのシュラとの戦闘が嘘だったかのように興味をなくし、フェンが駆け寄ってくる。
くっ、なんて可愛いんだ…
愛嬌がある。
尻尾もはずれるんじゃないかと思うほどに振っている。
この分だと色欲もすぐ獲得できそうだ。
闘技場に視線を戻すと、シュラがその場に座っていた。
フェンとの戦闘の集中が切れたんだろう。
「お疲れ、シュラ」
疲労困憊で聞こえているか怪しいが、一応労いの言葉をかけておく。
シュラは片手をあげて返事をした。
まだ聞こえてたか。
て、問題はフェンだ。
今もダンジョン・コアの身体をフェンは舐め回している。
最高位に舐め回される。
一歩間違えれば意図はなくとも壊されるのではなかろうか。
と、ちょっと恐怖を感じる。
「フェン、一旦やめてくれ」
フェンは離れ、キョトンとした顔で首を傾げる。
最高位になったから、知性も上がってるはずなのに。
「フェン、お前に聞きたいんだが、いつの間に大罪の種子なんてゲットしたんだ?」
フェンは話せないが一応聞いてみる。
これまでも俺の言葉を理解はしてたようだし。
もしかしたら進化したことで声帯を獲得したかも。
「ワン!」
く、狼のくせに犬みたいだなコイツ。
結局話せないか
まぁいい。
接触してみた感じは普通だし、これまでと変わったことなんて進化して色味の変化と身体が大きくなったぐらいだ。
寝て、食べてのように影響は出ているようだがそこまで心配もなさそうし。
もしかしたらさっきまでの戦闘もフェンにとっては遊びの延長だったのかもしれない。
迷惑な話だが。
「フェン、あんまりシュラ達に迷惑をかけたらダメだぞ。
沢山食べるのも、寝るのもいいが場所は選べ。
分かったか?」
「ワン!」
とフェンは吠える。
わかったと思いたい。
とりあえずフェンの一件は片付いたし、訓練場の他の施設を見に行こう。
本当はシュラに案内を頼もうと思っていたが、あの様子じゃ無理だし
オボロに頼むか。
アイツは役割上ダンジョン内のほぼ全ての施設の内容、構造を把握してるからな。
その役割———雑用のために。
雑用係か。
いい加減、ちゃんとした役割をオボロに与えたいが…
オボロが便利すぎるんだよな。スキルで影に潜ってどこにでも行けるし、ちょっとお使いを頼んでもすぐ戻ってくるし。
影に潜れるから、暗殺とか護衛、情報収集でも役立つ。
というかこっちが正しい使い方だな。
諜報機関とか作るか。
メンバーは今の所オボロ一人だが。
考え事をしているうちにオボロが俺の元へやってきた。
「アヴィリル様、フェンの件ありがとうございます」
「なに、気にするな。礼は案内でいいぞ」
こうして俺はオボロの案内の元、訓練場の見学を終えた。
次は四一階層を作りに行こう。




