原初の孤島
俺達は最下層に来ていた。
現状使える全ての魔力を注いだ階層だからな。
メチャメチャでかい。
はず。
急いで作ったから【環境設定】をしてないんだよな。
だからただの洞窟だ。
せっかくだし今までとは違う環境がいいよなぁ。
と、スキルを確認するとこれまでなかった選択肢が登場していた。
「〈海〉と〈孤島〉か。ふむ」
〈海〉ってどうなるんだ?
この階層に入った瞬間、海で陸地はないのか?
気になるが、リスキーだよな。
ウチには海とか水中の魔物はいないし、陸地が消えたら溺れちまう。
まぁ、沈むだけで死にはしないだろうが。
呼吸してないし、俺。
それに俺、宙に浮いてるし。
水圧まで再現されてたら終わりだけどな。
だとしたら孤島か。
孤島ならいきなり沈むことも無い。
流石に島だけ作られて周りの海がないなんてことはないだろう。
それに孤島なら世界樹を植えるのにもぴったりな場所だ。
絶海の孤島に聳える伝説の木
みたいな。
一応念のため
「ルシフェル、俺を抱えててくれ」
「かしこまりました」
ルシフェルは俺を抱きかかえる。
それなりに大きいから大変そうだけど。
俺が浮いてる原理も分からないしな。
地面を基準に浮いているのか、それとも単純に浮いているのか。
地面が基準だと本当に海になった場合落ちる可能性があるし
「【迷宮支配・環境設定】〈孤島〉」
俺が選択すると、予想通り地面が消えた。
が、そこは海ではなく底の見えない真っ暗な暗闇だった。
上を見れば大空が広がり
階層の中央には大きな島が空中に浮いている。
「抱えられてなかったら落ちてたな。多分」
ルシフェルは地面が消えた瞬間に翼を広げ飛んだのだ。
〈孤島〉を選択して本当に孤島だけなんて事があるのかよ。
普通、海もセットだろ。
何だこの欠陥スキルは。
「とりあえず、あの島に向かってくれ」
島は外から見ても端がわからないほど大きい。
島がこのサイズってことは、この階層、相当でかいな。
これなら、世界樹を植えても根っこで埋め尽くされるとかはないだろう。
島の中央あたりに降りるとそこは何もない平原だった。
島の端まで全て平坦な土地。
「中から見ても端がわからないな。そして殺風景」
ここに世界樹一本だけ生えてるってのも、それはそれで絵になるが
やっぱり海とか他にも地形が欲しいよな。
〈海〉だと階層ごと変わりそうだし。
ピンポイントで使えれば良いのだが。
いや、やってみるか。まだ試してないし。
階層ごと変わっても戻せるし。
今度は島の端、崖になっている場所へ行き
暗闇へ目を向ける。
「【環境設定】〈海〉」
すると目の前の暗闇は一瞬にして海と変化した。
島は残したまま。
「おお。うまくいったな」
これなら他にも色々とできそうだ。
世界樹を植える前に地形を作っていこう。
孤島というだけあって島の端は崖や海岸線が広がっている。
中央は世界樹だとして、囲む様に森を配置するか。
他にも色々と地形を変更。
俺は島を俺の思う幻想的な空間へと作り上げていった。
「よし、完成!」
ふぅ。我ながら素晴らしい出来だ。
【環境設定】がピンポイントでできた事が一番の発見だな。
まぁ、人力で作ったせいか所々不自然だけど。
なんか、別々のものを無理やりくっつけたみたいな感じなんだよな。
修正は後でしよう。
他に追加すべき階層はないし……あれ?
【環境設定】をみるとまた新たに環境が追加されていた。
「〈原初の孤島〉?普通の孤島とは違うってことか?」
〈孤島〉の選択肢も消えてないし。
選択してみるか?
いやでも、せっかく作った島が消えるのもなぁ。
う〜む……えい!選択!
〈原初の孤島〉を選択しても特に何も変わっていない様に見える。
しかし、確実に変わっていた。
それは先ほどまで感じていた違和感。
自然な島を作ろうとしてできた環境の違和感が消え去り
まさしく理想としていた神秘の島へ姿を変えていたのだ。
えぇマジか。
最初からこれを選択できれば一発じゃねえか。
なんで、もう完成のタイミングで出てきたんだ?
いや、俺が環境を組み合わせて作ったから、新たに追加されたのか?
もしかして、環境を組み合わせることが前提のスキルなのか?
今まではただ単に〈平原〉や〈森林〉とかしかしてなかったけど
今後も階層を作るときに色々と組み合わせたら〈原初の孤島〉みたいに新たな環境が追加されていくのかもしれない。
それはダンジョンがどんどんと多彩になっていくって事だ。
本格的に街を作ることもできるかもな。
今はただの平原だし
夢が広がるな。
と、まぁ今後のことは今はいいとして、本題の世界樹を植えようか。
「ルシフェル、世界樹を出してくれ」
島の中央に作った広場に世界樹を植える。
「かしこまりました。主様、森の方へ退避をお願いいたします」
「おう」
確かにもう苗じゃないしな。
ある程度大きくなってるし。
平原は余裕を持って作ったから埋まることはないと思いたい。
「では」
と、ルシフェルは〈暗黒領域〉を広げていく。
広がった領域から、山の様な何かが迫り上がってくる。
領域内に収まっていた世界樹だ。
「デカくね?」
俺が気絶した時よりも遥かにでかい。
世界樹が全て〈暗黒領域〉から出ると、世界樹は平原の半分ほどを埋める大きさだった。
見上げても上が見えないな。
これでまだ完全じゃないのか?
『現在も世界樹は魔力を吸収しています』
今もか。
まぁ、世界樹なんてデカいのは定番だけど。
ちょっとづつの成長なら対策に急く必要もないか
ふーむ。
こう見るとなかなかに幻想的で神話のような場所になったな。
ならやっぱり、守護者は必要だよな。
ダンジョンの守護者はアヴァロンだけど。
世界樹の守護者といえばやっぱり神獣。
何故か世界樹を出した瞬間にこの階層の魔力が溢れてるし。
召喚には問題ない。
最高位とは言わずとも、高位くらいの魔物が欲しい。
「て訳で、はい【召喚】」
三つの大きな召喚陣が現れる。
数は指定しなかったけど、三つか。
てか、いつもよりもデカいな。
ウォルターの時と同じぐらいの召喚陣の大きさだ。
三体。果たしてどんなのが出てくるか。
召喚陣から現れたのはそれぞれ、
巨大な魔物だ。
しかし、魔物と呼ぶにはあまりにも美しく神秘的なものだった。
一体は鹿のような魔物だ。
角には蔦のようなものが巻かれており、身体にも所々に草花が生えている。
二体目は鹿よりも大きな魔物。
その巨体は雲のように白く、そしてその大きさに見合わず、霧の様に存在が希薄な白鯨。
三体目は白鯨よりも更に大きい海月だ。
半透明で、青白く、触手が幾つも生えるその姿は見た目とは裏腹に恐怖心は湧いてこず、むしろ畏敬の念を覚えるほどだ。
それぞれ首を垂れている三体の姿は正しく神獣といえるものだった。
すげぇな。
本当に神獣召喚しちゃったか?
平原を広めに作ってよかったな。
世界樹とこの三体を含めてもまだ余裕がある。
世界樹が大きくなってるからいつまで余裕でいられるかは分からないが。
『この魔物達は神獣ではありません。そもそも神獣とは人々からの敬称ですので』
いやまぁそうなんだけれどもね。
「とりあえず名前をつけるか」
神獣、守り神に相応しい名前か。
全員デカいしな。
「よし、鹿はアメノカクノ。鯨はフリューゲル。海月はティアマトだ。どうだ?」
三体はそれぞれ反応を示す。
喜んでいるんだろう。
多分。
そういえばコイツらは位階的にはどれくらいなんだ?
見た目は神獣だけど
『アメノカクノとフリューゲルは高位、ティアマトは最高位の魔物です。
ですが、三体ともに未だ幼体です』
幼体でこのデカさ。
成体になったらどれだけデカいんだ?
それと、アメノカクノって改めて聞くと長いな。
フリューゲルとティアマトと文字数的には変わらないはずなのに。
普段はアメノでいいか。
大事な時だけアメノカクノと呼ぶ。
なんか真名っぽくてかっこいいし。
ていうか、高位以上が三体同時にくるとは。
そんなに魔力を消費した覚えはないけどなぁ
『世界樹の影響でしょう。ダンジョン内はマスターの領域ですので、世界樹により溢れた魔力を吸収したのです』
なるほど。
だとすると、完全に成長しきっていない世界樹でこれなら成長したら、俺は魔力の心配をしなくて済むのか?
だとしたらとんでもないメリットだ。
『マスターの魔力吸収量にも限界があるため、無限とは行きませんが余裕は持てます』
それでも十分だ。
でかい収穫だな。
「さて、じゃあ三体とも散らばっていいぞ。住みやすい場所を探してくれ。この階層でな」
三体はそれぞれ森、空、海へと散らばっていった。
見た目通りだな。
「じゃあ、ついでだし世界樹にも名前をつけてみるか。何か変わるかは不明だが」
世界樹。
やっぱり王道をつこう
「世界樹の名前はユグドラシルだ。
まんまだけどな」
名前をつけた世界樹は心なしか魔力の吸収が早まった気がした。
やったか?
また急に成長しないことを祈ろう。
「よし、とりあえずこの階層での用は済んだな。他の階層を作りに行こう」
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名前をつけられた世界樹の変化は魔力吸収量だけではなかった。
世界樹——ユグドラシルの洞に小さな芽が生えていた。
その事にアヴィリルが気づくのはもう少し後のこと。




