██ノ王
アヴィリル達が世界樹の事後処理をしている頃。
アヴィリル達により倒されたエンシェント・トレントの根本から一匹の黒い虫のようなものが這い出てくる。
「キキキッ。マサカコンナニモ早ク、エンシェント・トレントガ倒サレルトハ。
アノ者達は危険ダ」
虫は結果に対して何か思うところがあるのか、そのまま何処かへと移動しする。
が、その前に声をかけられる。
「今回の復活騒動はやはり貴方…いえ、貴方方の仕業でしたか」
「キッ!」
黒い虫は足を止め振り返る。
そこにいたのは青黒い燕尾服に身を包み顔には白い仮面をつけた男だった。
その男の輪郭はまるで陽炎のように揺らいでいて定まっていない。
虫はその男を見た瞬間、これまでの余裕が嘘だったかのように全力で距離を取ろうとする。
「流石に私も貴方方を見逃す訳にはいかないのですよ」
燕尾服の男は虫に一言声をかける
「貴方はここから逃げられない」
その一言と同時に、逃げ出そうとした虫の身体は完全に固定され動かなくなった。
否、完全に動かないのではない。逃げようと考え行動する事が出来ないのだ。
まるで逃げるという考え自体を、自分自身に否定されているような矛盾が身体を支配している
「何故ダ。何故干渉スル、何故ココニイル⁈
██ノ王!!」
男は一歩ずつ虫に近づいていく。
「ここにいる事自体は偶然です。何故干渉するかは……私の目と鼻の先にいたから。ですかね。何処か遠くでしていたなら私は干渉しませんよ。ですが目の前にいたものですから」
さらに近づく男に対し虫は後退しようとするが動かない。
「偶然⁈オ、オレヲ殺シテモ、無意味ダゾ。全部共有サレテルカラナ」
「そんな基本的な情報は当然知っています。
貴方の目的も、
貴方方が一体から増殖した単一の生命だという事も」
燕尾服の男はさも当然だとばかりに話す。
「さて。では安いセリフではありますが我が友████の敵討と行きましょう」
虫はさらに焦った様にどこかへ叫ぶ
「指揮個体!オレニ〈侵略〉ノ許可ヲ!」
そう叫んだ瞬間、先程までが嘘だったかの様に、全速力で後退し、逃げようとしていた。
虫は普段、痕跡を残さないために最小に抑えていた能力を使ったのだ。
「……まさか末端の個体に破られるとは」
燕尾服の男は少し驚いた様な態度をとるがすぐさま切り替えた。
「これ以上の力は今は出せないので、仕方がありませんね。
〈小さな嘘〉」
虫に向かい声をかける。
「貴方は『〈侵略〉の許可を得られなかった』貴方は『エンシェント・トレント復活に全生命を使い崩壊し、消滅する』」
その言葉と同時に虫の動きは再びピタリと止まった。
「ナ、ナ——!オ前ノ権能ニ、タダ嘘ヲツク権能に生死ガ操レルワケガナイ!!」
虫が強がる様に動かない身体で威張り暴れる。
「確かに私の権能では直接、生き死にを変えるのは難しいです。
しかし、要因があり、原因があり、条件が揃っているならば話は別です。
今の貴方の様に」
虫は己の身体をみる。
その身体は端から徐々に消えていっている。
気づいていなかったのか、見た瞬間に更に暴れる。
しかし、消滅は遅くなるどころか暴れる程に早くなっている。
そして、1分もたたずして虫は完全に消滅した。
「本来なら生け捕りが望ましかったのですが、残念です。
次に会う事があればまずは繋がりから断つことにしましょう」
燕尾服の男は虫には興味をなくしたかの様に、倒されたエンシェント・トレントの元へと歩んでいく。
「私もこの国の方には世話になっていますので」
燕尾服の男の手に一冊の本が現れる。
「偽典:万化の書架」
分厚い本が一人でにパラパラと開いていく
「出典、エルメエシア王国史より。【聖女エルメシアの救済】」
燕尾服の男の隣に一人の女性が現れる。白くシンプルな服を着たシスターだ。
しかし、どこか神々しく淡い光に包まれている。
まさしく、聖女と言うに相応しい女性だ。
その彼女が手を伸ばし一言。
「〈起死回生〉」
それだけで消滅しかけていたエンシェント・トレントに再び力が宿る。
「ありがとうございます。これでこのトレントは大丈夫でしょう。また十年後にはこれまでの様に再生しているはずです。貴方も嬉しいのではありませんか?」
女性は笑みを浮かべ光の粒子となって消えていった。
「さて、これからことが動きそうですね。大昔に滅んだ者が表立って行動を始めましたから」
ダンジョンの外へ歩みを進める。
「あの侵略者……いえ、今は別の名でしたね。
インフェスタ教国の御神体。
創世の女神でしたか」
——————
騒動が終わった王都を歩く男。
ふと、一つの舞台が目に入る。
それは鎮森祭にてアヴィリルも見入った演劇
昔実在したとされる世界を統一した王様の物語
世界を統一した王様が数多の種族を従え、世界を蝕む悪と対峙するという王道の物語だ。
物語の名は『威光の王伝説』
舞台では今まさにクライマックス。
王役が先頭に立ち、皆を鼓舞するシーンだ。
そして次々と立ち上がっていく仲間たち。
男が本を手に取り表紙を見る。
少しの間見つめ言葉を紡ぐ。
「『威光の王伝説』ですか。いささか大仰な名前ですが、あの方らしいですね」
もう一度舞台へ目を向ける。
予想以上に時間が経ったのか、舞台は敵を倒し、仲間で宴を、祭りを始めるラストシーンとなっていた。
人間、エルフ、ドワーフ、獣人、魔族からなる人類種だけでなく妖精、ドラゴン、魔人など様々な魔物が
皆で笑いあい、一つのテーブルを囲んでいる。
奥の席には王様とその後ろに控える様に魔法使いと
燕尾服の男が立っている。
「もう、伝説と呼ばれる程に時間が経ったのですね。
———アーサー王」
その男———ライアーは舞台に背を向け王都を歩く。




