世界樹
現在俺は自分のダンジョンに戻っていた。
誰が倒しただの、エンシェント・トレントの素材はどうしただのと色々と追求されると面倒だからだ。
あと、重要なことだが俺たちはエンシェント・トレントを討伐しただけであのダンジョン自体は攻略していない。
ダンジョン・コアには何も触れなかったからな。
十年に一度のエンシェント・トレント討伐は無くなったが。
それにしても随分と久しぶりに自分のダンジョンに戻ってきた気がするなぁ。
大体一ヶ月ぶりか
因みに、どうやってあのバカでかいエンシェント・トレントを持ってきたかと言えば
答えはルシフェルだ。
ルシフェルの魔法を使った収納でまるっと持ってきた。
帰りもルシフェルに頼んで俺とアヴァロンだけ先に戻ってきた。
あの二人は現地対応だ。
面倒事を押し付けたとも言う。
「ルシフェル、素材の運搬ありがとな。後でアマクニの所にでも置いてきてくれ。それと俺がいない間、問題はなかったか?」
「素材の件、かしこまりました。それとダンジョンですが、問題なく運営できております。ですが最前線の冒険者が二二階層に到達しており、我々の生活圏へ迫っております」
「それはまずいな」
二二階層か…って事はツヴァイ達が倒されてしまったのか。
いや、このダンジョンはボスを倒さなくても次の階層に行けるからなぁ。
改めて思うと、割と欠陥設計だが。
名前もつけたし生きてるといいんだけど。
まぁ確認すれば済む話だけどね。
「ツヴァイとミセスは生きてるか?」
「はい。あの二匹は、倒されそうになった寸前で逃げましたので」
「なるほど」
逃げたのか。まさに脱兎のごとく。兎だしな。
「二二階層に着くのにどれくらいかかった?」
「約二週間ほど前でございます」
二十階層以降は森林だ。
それに一層一層も広くなってるからな。
迷いながらも進んでいるのか。
「ドライからは何か報告が来るか?」
ドライ、三十階層のボスだ。高位のドライアドだし何か報告があるのでは
「いえ、彼女からはとくに何も。あ、一つありました」
「なんだ?」
「森の木々が伐採されて悲しいと」
悲しいって言われてもな。
冒険者も悲しませる為に伐採してる訳じゃないし。
いやある意味、攻略しにきてるから俺にとっては悲しいが。
と言うか怖いが
「まぁ、ドライには強くなれとでも言っといてくれ」
「かしこまりました」
随分と無責任な発言になってしまうが、言える事ないしな。
…だけど、冒険者達が迫ってきてるのは見過ごせないよなぁ。
ドライだけでなく全体的な強化が必要なのは確かだ。
どうするかは後で考えるとして
今はひとまず階層を増やしておこう。一気に五十階層まで増やそうか。
「【階層追加】」
一気に追加していき、拠点の階層も移動した。
だが、あまり魔力は消費しなかった。
ん?
これだけ追加したら減った感覚があるはずなんだけど。
『現在、マスターの保有魔力量はルシフェルを超える程です。エンシェント・トレントとの戦闘で吸収した魔力が現在溜まっているのです』
マジか。
ルシフェルを超える量って、どんだけ吸い取ったんだ。
『この魔力は一時的なもので消費することにより消えていきます』
ま、だよな。
そんなに便利なものはなかったか。
四、五十階層のボスやら環境設定は後にして、世界樹の苗を植えに行くか。
俺たちの生活している階層は常に最下層になる様になっている。今ある生活階層は二階層。
最新の階層だと五一と五二階層が生活階層ってわけだ。
ここでいいかな。
俺とルシフェルがきたのは俺達が普段生活している階層の端っこだ。
実はこの階層も俺の成長に合わせてなのか、少しずつ広くなっているのだ。
最初は一キロ四方だったけど今じゃ三キロ四方ほどになっている。
さて、植えるか。
ひとまず、穴を掘って
「ルシフェル、世界樹の苗を出してくれ」
「はい」
ルシフェルは取り出した苗を穴に置いた。
それに土を被せれば終了だ。
苗木なんて育てたことはないから、あっているのかは怪しいが。
ちょこんと芽が出ていて可愛らしいが、どれくらいで育つんだ?
『成長の早いものなら五〜十年程で木と言える大きさに成長します。エンシェント・トレント程でしたら数千年程度かかるでしょう』
マジか。
数年ならまだしも、数千年なんて待てないぞ。
て言うかエンシェント・トレントレベルで数千年って、あのダンジョンはできてからせいぜい六百年程度だったと思うが?
『エンシェント・トレントの場合、ダンジョン内という常に魔力に溢れた場所なことが影響しています。そもそもトレントと言う魔物ですので通常の木とは成長速度が全く違います』
魔物だから違うって、言われてみればそうだが。
ならこの世界樹の苗はどうなんだ?
絶対普通の木ではないはず。
それにダンジョン内だし。
『成長速度は未知数ですが通常のものよりも早いでしょう』
未知数か。
まぁ世界樹だしな。
俺のイメージだとあのエンシェント・トレントよりもでかいし。
とりあえず成長するまでは端っこに植えておいて問題ないだろう。
ただ待つのもなんだし魔力でも与えてみようかな。
エンシェント・トレントから奪った魔力がまだまだあるし。
ある意味ではコイツはあのトレントと言えるし元の持ち主に返そうか。
と、魔力を苗木に与えた瞬間。
俺の身体から一気に魔力が吸い取られた。
しかもキッチリエンシェント・トレントから奪った分だけ。
俺も使う予定だったから少しずつ与えるつもりだったんだけど。
これで成長するだろうか。
ミキッ
眺めていると枝が折れたかのような音が聞こえてくる。
そしてその音は徐々に強く、多くなっていく。
音に戸惑いながらも、苗木に目を向けると
「あれ?こんなに大きかったか?」
苗木が一回りほど成長していた。
なんだか不味い予感が…
「主様、今すぐ離れた方がよろしいかと」
ルシフェルが何か感じたのか俺に告げる。
だよね。俺も思った。
俺たちが離れると、苗木は待っていたと言わんばかりに目に見える速度で、成長を始める。
おいおい。ヤバいんじゃないか?
どんどん大きくなってるぞ
数年かかるって話はなんだったんだ。
そんな事を考えている間も成長は止まらない。
幹の太さは既にエンシェント・トレントに勝るほどになっている。
マジか、ここまでほんの数分だぞ
『警告。世界樹がこのままの速度で成長を続けた場合、マスターがいる階層が全て飲み込まれます。新たに階層を作り、移す事を推奨します』
階層全てかよ。
ていうか、そろそろ天井にも届きそうだ。
未だに成長を続ける世界樹が、丸ごと収まる階層か。
「ルシフェル、俺は今から全魔力を注いで新しい階層を作る。だから俺が合図したら、世界樹をその階層に持ってきてくれ」
「かしこまりました、主様」
ルシフェルは優雅にお辞儀をした。
頼もしい限りだ。
本来なら俺が直接転移させた方が抵抗もなく簡単にできるんだが、転移に使う魔力すら残せないからな。
どれだけ大きくなるか不明だし
よし、作るか
「【迷宮支配・階層追加】俺の全魔力を注ぐ」
身体からどんどんと魔力が抜けていく。
流石に一瞬では出来ないか。
数分後、新たな階層が出来上がった。
「ルシフェル。頼んだ」
「後のことはお任せください」
俺は魔力切れで眠りに落ちた。
——————
アヴィリルが眠りに落ちると同時に目の前にあった身体から、アヴィリルの気配が消えた。
魔力が尽きたことにより身体とのリンクが切れ意識が本体へと戻ったのだ。
「オボロ、主のお身体を上の階層にお連れしてください」
現れたオボロはロボットボディを抱えて上の階層へ移動した。
世界樹は既にルシフェルの視界を全て埋める程にまで成長していた。
「さて、これは骨が折れそうですね」
この階層にいた住人達は既に他の階層に避難させている。
その為どれだけ暴れても問題はない。
「主様からの命、果たさせていただきます。〈暗黒領域・完全展開〉」
展開された領域は世界樹を包む様に階層全体に広がっていく。
領域から伸びる大量の黒い手が世界樹を掴み引き摺り込む。
しかし
「流石は伝説級の素材。一筋縄ではいきませんか」
包み込み暗黒領域に沈めようと蠢く手に抵抗する様に掴まれた箇所に淡い光が宿り黒い手が消滅していく。
「埒が明きませんね」
ルシフェルのすぐ側の領域から手が現れる。
その手には一本の杖が握られていた。
「まさか、早々に使う機会が訪れるとは主様に感謝せねばなりませんね」
ルシフェルの手元に来た杖を受け取り構える。
それはアヴィリルが不在中にこれまで使っていた簡素な杖を元にアマクニが作製した、ルシフェルの新たな杖。
「領域の杖、起動。俯瞰視点を表示、情報を把握しなさい」
ルシフェルの周りに複数の半透明のスクリーンが現れる。
そこにはルシフェルからの指示通り、世界樹の全体、頂上、根元など様々な視点からの映像が表示されている。
「ふむ。正常に機能している様ですね。…この光は神聖魔法でしょうか」
と、考えるルシフェルの側にもう一枚スクリーンが現れる。
しかしそこに表示されているのは世界樹ではなかった。
世界樹の解析結果が、雑多に情報が羅列され表示されていた。
ルシフェルはそのスクリーンを一瞥し
「なるほど」
理解した。
「あれはただの防衛反応でスキルではないのですね」
では
と、領域から大量に黒い手を出し世界樹を覆った。
覆った黒い手は端からどんどん消滅していっている。
しかし、それがルシフェルの狙いだった。
奇しくもそれはアヴィリルがエンシェント・トレントを倒す為に弄した作戦と同じだ。
「反撃の源は魔力です。それさえ無くなれば大人しく領域に収まってくれるでしょう」
力技だが現状これが最も有効な手だった。
「あまり時間をかけ過ぎてもいけませんね。〈影従〉」
次々と黒い兵士が現れる。しかし、人型のものだけではなく小鳥や鼠など小動物が大半を占めていた。
「〈収奪の衣〉」
現れた兵士全体へ魔法をかける。自身に触れた対象から力を奪う魔法だ。
「傷つけてはなりません。あくまで魔力を奪うのです」
兵士達はルシフェルの指示に従い、世界樹へと向かっていった。
根元についた兵士達は黒い手が届かない様な場所や隙間に入り込み消滅していった。
「〈闇夜のヴェール〉」
世界樹全体を上から薄い膜が覆う。
本来は視界を潰し行動制限をかける魔法だが、現在は殺傷能力もないため魔力を奪うのに役立っている。
数分後、世界樹の光が弱まり始め明らかに黒い手や兵士達の消滅の速度が落ち始める。
「どうやら、領域の杖の解析は正しかった様ですね。
アマクニには良い報告が出来そうです。ですが、私自身で情報を精査せねばならないのは少々面倒ですね」
ルシフェルはやる事は済んだとばかりに新たな杖の性能を評価していた。
さらに時間が経ち魔力が尽きた世界樹は防衛反応を止め、休眠状態へと入った。
世界樹の成長も魔力がなくなったと同時に止まった。
世界樹は領域から現れた黒い手により引き摺り込まれていった。
「収まりましたね」
ルシフェルは展開していた暗黒領域を全て閉じた。
「これは…主様がお目覚めになられたら、落ち込んでしまいそうな光景ですね」
世界樹があった場所の地面は大きく抉れ、この階層にあった建物の大半が崩れている。
しかし、中には傷一つなく立つ建物も存在した。
「流石はミカエル殿が建てさせた神殿ですね。私も魔法をかけた甲斐がありました」
この神殿の中にはアヴィリルの本体が安置されている。
その為万が一にも破壊されることがないよう、様々な魔法が掛けられており、中にはアヴァロンが常駐している。
ルシフェルが神殿内を確認するとアヴァロンがまるで精巧に作られた石像の様に神殿中央に位置するアヴィリルの前に鎮座していた。
その後も崩れた建物など被害状況を確認していると、ルシフェルの視界の端に見慣れないものが映り込む。
「おや?」
近づき確認してみると、そこには見慣れない魔物が三体いた。
猿の魔物、無数の虫が一つに固まった様な魔物、黒いモヤの魔物
一見、それぞれなんの特徴の一致もない違う種の魔物に見えるが
ルシフェルにとっては違った。
「貴方達は———悪魔、ですか?」
三体はそれぞれルシフェルに頭を下げていた。




