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「やあだ、ルー、独り言かと思ったら、何してるの?」
ちょうど何か出て来そうに思った時、アデルが、私と勇者の二人きりの邪魔をしに入ってきた。
この前、いやあな気配漂わせてたの、やりにきたのね。メギツネ。
今、ちょっと隙間時間が空いたから、やって来たのね。
「なになに、二人きりで、甘く、甘い語らいを交わし合っているってわけ?」
この聖女、ほんと、無遠慮で困る。
「そんなことないよ、いきなり何だよ」
「そんなことないか、あんた、奥手だし、相手、巾着だものね」
そう、私は巾着。
ぽてっとした体、口から紐が伸びて、引っ張れば伸びる。おまけに中は、無限の異空間が広がっていて、何でも入るし、取り寄せも出来る。ああ、なんて素晴らしい体。
でも、とても寸胴。そりゃそうか。くびれはないもんね。
って。
アデルが大笑いで、思いっきり笑って、私は屈辱で打ち震えた。
まあ、確かに私だって、ぼろぼろの古びた袋に色気はないと分かってる。
こんなので、色気出せたら、すごいわよ。
「ね、巾着にあなたの故郷のこと話した?いつも帰りたい、帰りたいと言っている西の森の村のこと。ね、巾着さん、ルーの故郷のサンドスクのお菓子かママンの手作り料理かなにか、出してくれない?」
「やめろよ」
「巾着に故郷の何か頼みなさいよ」
聖女は嫌がる私を掴み、上下にふりふり。体を逆さまにし、何か出て来ないか振った。
やめさないよ、ほんと。どこから言葉喋ってるか分かんないけど、目が回るんだから。
「やめろよ」
「なんだ、つまんない。なんか、出してくれたら良かったのに。ね、マリース巾着さん、次は私の化粧道具出して頂戴ね。時間あるときで、いっから」
ルーがアデルから取り上げてくれて、アデルはきゃははと笑いながら去って言った。
誰があんたの化粧道具なんて、出すか。
私だって、人を選ぶんです。好きじゃない人のは、採用しません。
アデル、私をいじくってストレス解消してない?いや、してる。
まったく癒し手なくせに焼きもち焼きで、我がままで、無遠慮で、ぶしつけなんだから。
国一の美女が聞いて呆れるわ。
「あ、ごめん、大丈夫?」
気がつくと、勇者の胸の中にいた。アデルに取り上げられないように、私をしっかりと抱いていた。
わわわ。
アデル、ナイス。
訂正するわ。あんたそこのけ私が通るで強引に周囲にあたるからハプニング(嬉しい偶然)が起きるのよ。
あんた、ちょっとは聖女らしいかも。
勇者はぎこちない手つきで、私をすぐに離した。
「ルーの故郷、サンドスクだったよね。綺麗なところ?」
心臓がばくばくして、石の上に置かれながら、息を整えるため、私は話をした。息、どこから出てるか知らないけど、心臓もどこにあるか分からないけど。
「ああ、緑あふれる綺麗な村だった」
想い出と共に心は故郷を駆け巡っているのだろうか。ルーの表情は懐かしさに溢れていた。
その村も、もうないのね。魔王の闇がこの世界を包んだはずだから。土地は残っていたとしても、もう・・・
そう思うと、私もとても、さみしい。
「はい、これ」
「なに、これ?」
私は体の中を探り、ルーの故郷のモノを何か探した。そして、辿り着いた。
私の手を使って、見えない手だけど、取り出した。
すると、ルーの故郷のお菓子と思ったものは、四角い形の人形だった。
四角い顔で、そのまま体があって、鮮やかな民族衣装を着て、花を持っている、美人の女性の彫像。
励ますつもりで、嘘ついたお詫びで、精力削って出したけど、念じて取り出すのに先立つイメージが必要だから、漠然としたイメージでは、うまく取り出せなかった。王室の治癒玉は、神殿内部で唯一結界が張ってあって、残っている場所だから、私もイメージ強く残っていて、まだ取り寄せできたけど。
「サンドスクの手彫り人形だね。特産土産で、知る人は知るだよ。懐かしいよ。ありがとう」
中で鳴る小さな鈴の音を聴きながら、勇者ルーは涙を流した。
ああ、優しい顔。
勇者ルーは、故郷に帰って、ひとときを堪能しているのね。
その時、ああ、この人には、体育教師みたいに導いてくれる誰かが必要なのだと思った。
勇者がいくら最強でも、人類滅亡、仲間は数人という、崖っぷちでは、張りつめた緊張感の中、相当神経がやられる。
アデルだって、ああ見えて、本心では追い込まれていると思う。わざと人をからかったり、わざと意地悪なことしたり。
エリーレッド公も焦って、最大魔法を使って自ら傷ついてしまった。
ガダックはもう何日も前から、憮然としている。
私は唯一、従者的な立場で、周囲を見ていられる。どっちみち、命令を聞くか、手助けするかしか出来ないから、熱くならずにいられる。
一行の仲間が、世界滅亡の危機に際して、悩み、焦り、苦悩し、失敗する中、私だけが彼らたちに冷静な意見を言える立場の人間かもしれない。
少ない人数、私の役割も多くなるわ。
けれど・・・




