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 嫌よ嫌、いやいやいや。


 どうして私が、こんな役目を負わされるの?


 戦うべきなのは分かってるけど、やっぱり、怖い。


 私は気分が一気に鬱になるまで落ち込んで、ひとことも物も言えず、ぴくりとも動けなくなった。


 巾着に命削られて、死ぬのは嫌。死んでも、昇天できず、永遠にずっと残り続けるなんて、さらに嫌。

 ああ、普通って何?なぜ、今、巾着なの、私。


 なんとかしなきゃ。この巾着、なんとかしなきゃ。


 この巾着め。いったい何をしてくれてんだ、こら。


 とにかく、逃げなければ。


 まずはこの巾着の外に出てーー


 そのあとのことは、あとで考えられるはず、と思ったの。


「マリース」


「うわあっと」


 木の下で巾着を脱ごうと格闘する私の元へ、ルー・ウェインが現れたので、私は仰天した。


 巾着で良かった。人間なら、回りの草を引き抜いたり、岩投げたり当たり散らしていたもの。


「エリーレッドは大丈夫か?」


「うん、岩の洞穴でしばらく休んで、体を回復させるって。アデルの置き結界で、防御はされているから、まあ大丈夫だろうって」


「そうか。明日はまた早いぞと言いに来たんだ。もう寝ろよ」


「うん」


「あの、さっきは、ありがとう。助かったよ」


「え?」


 私は、先ほどの戦いよりも凄さまじい話に心奪われて、その前何があったかなんて、忘れていたわ。


「君が俺のことを止めてくれなかったら、あの時、俺は死んでいた。あんなすげえ技、隠し持ってたんだな」


 そう言えば、あのときは、私、エリーレッドもルーも助けたんだった。私の命を削って、宝珠を与えて。


 あれから、ルーも私を対等に見てくれている気がする。


「そんなの当然よ。私に出来ることがあれば、やるって言ったでしょ」 


 私は心の中で泣きながら、そう言うだけは言った。


 確かにあの時は、皆を救いたい一心だったもの。


「君は君、本当に、王宮の出勤係だったの?」


「そうよ、毎日毎日、誰が出勤しているか、記録チェックにばかりかかっていたの。そのせいで、人が遅れて来るところとか、隠れて出勤したみたいな不正している人間を見抜きやすくなったわよ」


 饒舌なのは、逃げ出したい気持ちを隠したいためと、普通の会話に逃避して、まぎらわしたいためと、どっちもあったかもしれない。


「君、洞察力あるね。君みたいに度胸があって、冷静な人なかなかいないよ。俺の田舎の体育教師みたい。あ、俺の田舎、体育教師が厳しくて、まあ、そんなことはいいか。帰ったら、王様に、君にもっとマシな仕事を与えるように話してみるよ」


 言ってから、ルーはしんみりと付け加えた。


「もしも、また国が戻るようなことがあれば、だけどね」


(ああ、ルーって、意外と普通の会話する人なんだな)


 ルーって意外と、朴訥な一面があるのよね。


 王宮で取り巻きの中から見ていた時は、格好良くて、男らしい人にしか見えなかったけど。


 巾着になって、本当に良かったのは、勇者のそばにいられたことだ。


 国一の勇者のそばにいて、共に戦い、褒めてもらえる。そんな栄誉ある機会、私にはなかった。


 無茶苦茶な機会だけど、こんなに優しくされて、私はそれだけは、この機会に感謝したいわ。


「君の本当の姿ってどんなの?一度、見てみたいよ」


 私は頭の髪の毛が逆立つほど、ぎくぎくっとなり、後ろに後ずさった。毛があればだけど。


 私の元の姿って、やばい。


「だって、ずっといっしょにいて、助けてくれる人の姿を知りもしないなんて、失礼かなって思って」


 どうしよう。


 勇者がせっかく興味を持って近づいてくれたってのに、私ったら思い出したわ、元の姿。


 私、美人じゃない。


 あんなアデルみたいな美女がずっといっしょで、きっと勇者なんて美女が好きよね。


 おそらく勇者なんて、目も肥えているわ。興味持ってくれたのは嬉しいけど、実際見たら、幻滅する。


 でも、私は先ほどのエリーレッド公のルーを頼むと言われたことを思い出し、彼を心身ともに守らねばという思いから、私は現実とはかけ離れた言葉を口にした。


「そりゃあ、私、王宮でも評判の美人だったから、見たら驚くかもね」


 嘘を言ったら、もう後戻りは出来なかった。嘘をごまかそうと、嘘がさらに上塗りで、ごまかそうと嘘が出る。


「本当?」


「そりゃもう。もてもてだったんだから、私。王宮の男をぎったばった、王様まで倒したかもって言われているわ」


「へえ」


 ひー。


 王様まで?お后様に殺されそう。そういうとこ、あるから、王宮、しゃれになんないわ。平時なら。


 ひー、お后様、ごめんさない。悪気はなかったの。


 だって、理想を傷つけるのって悪いでしょう?想像しているのと違うのが出てきたら、勇者だって後悔するかもしれないもの。そうなるなら今は美人と思わせておいてたらいい。そのうち、私の姿のことなど、忘れる。


 どうせ、王宮の出勤係に戻ったら、会うことすら許されない人間だもの。


「そんなに凄い人だって、知らなかった」


 勇者のにこやかな笑顔が素敵過ぎて、私は心が痛んだ。

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