強烈な敵
「くくく、とうとう、お前らの最後だな」
戦いの最中に、また、厄介な敵が現れた。
アンデッドの中でもいちばん頭が切れる魔物は、魔参謀と呼ばれた。名前が分からないから、勝手にこっちがそう呼んでいるのだけど。
鋼鉄の肌で全身鎧みたいに真っ黒、赤い目で、アンデッドが平衡感覚も失った死体であるのに対し、このアンデッドは体も機敏にきびきび動く。言葉もしゃべる。
「ぐあああ」
やられたふりをして、勇者たちを誘導するけど、追い詰めたら、潜伏している巨大なヒドラが出てきて、勇者たちを襲う。
魔獣の顔をした全身黒い男が、私たちを狡猾な罠で攻めてくるの。
前も待ち伏せにあって、取り囲まれたわ。
そうやって、厳しい攻めで私たちを何度も苦しめるの。
「ルー、危ない」
巨大な蛇の首がいくつもルーを襲うのを、聖女アデルが防御壁を作って止めた。
「魔参謀をやっつけろ」
召喚士ガタックが次々に魔法陣を描いて、聖獣を出し、魔物とアンデットを率いる総領魔参謀アンデッドを狙う。
みな、ルーを守ろうと必死だ。
最後にエリーレッド公とルー・ウェインが残っていなければ、戦いは勝利しないって、もう、いったい何なの?
私はもうパニックになって、いつもの調子も出やしない。
魔法の呪文を唱えられるのがエリーレッドとルーだけで、どちらかを残すために、残りのガタックとアデルは必死で自分らが犠牲になろうとしている。
本当に本当に、エリーレッドとルーのために、皆、犠牲にならないといけないの?
皆の人々を救いたい気持ちが分かる。
だから、文句も言えやしない。
(私は何をしたらいいの?)
この戦争で、私はいったい自分が何が出来るか、何をすべきかを考えた。
何故に、ここに出て来たのか。その理由も含めて。
狡猾な敵がまた、私たちにフェイク戦闘地へと導き、大勢に囲まれたときだった。
「みんな、聞いてくれ」
アンデッドの大群を前にして、エリーレッド公は言った。
(エリーレッド公?どうしたのかしら?冷静さを欠いているようだわ)
深遠な目つきのエリーレッド公が、心なしか浮ついた表情で、何をかを思い詰める様子で、私は変に思った。
「ここで、私の最大の魔法、魂交換魔法でケリをつける」
「なに?」
過酷な戦いの最中に、ガタックもルーも、アデルも手を止められず、敵を倒しながら振り向いた。
「私の最大奥義、魔王召喚で、あの城から魔王を引きずり出し、魔王の魔力を使い、魔物たちが潜むこのあたりを一掃する」
聞くだに危険な技だわ。
魔王の城から魔王を呼び寄せ、その魔王の魔力でこのあたりを一掃?
でも、そんなことしたら・・・あたりは一掃できるけど、魔王は殺せるの?
「止めろ、エリーレッド。魔王の魔力などに触れたら、お前が生きていられないぞ」
え?
エリーレッド公が死ぬ?そんな、頼りの防備と戦力が消えたら、私達どうなるの?
だって、魔王倒せるの、ルーとエリーレッドの二人だけしかいないんでしょ?
「あとのことは、任せたぞ、ルー」
エリーレッド公は、ルーを最後の一人にして、自分は犠牲になるつもりなんだ。
そう気づいた時は、遅かった。
もうエリーレッド公は、呪文に入っていた。
凄まじい気迫。
もう自分は果ててもと覚悟している。
やばい。これは、やばい。
だって、もう任務の舞台は、わずかに4人なのよ。私入れて5人だけど。
最も頼りになり、最も強い、魔王を倒せる者が消えてしまったら、ただ頼りはルーだけ。
万一、この後、何かあったらどーするの?
魔王の城は小さく見えていて、まだはるか先なのよ。
勇者ルーも、召喚士も、聖女も、誰もあんたに敵わないわ。
それを私らで補えってのは、無理よ。
それほどエリーレッドは追い詰められているんだ。
私ははっとした。
(この戦いに早く終止符を打ちたかったんだ)
私は反省した。私が疎外感を感じたり、怒ったりしたのは、角違いだ。
魔法使いエリーレッドは、早く人類を助けようとして、最大限の力を尽くしていたのだ。
嫌味な奴だなんて、思ってごめんなさい。




