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「異変があり、その後、お前が現れた」
いやがる私をむんずと掴んで、エリーレッドは私を餅団子のように持ち上げ、切れ長の目の前で、厳しい目を向ける。
この人は、世界でも一、二の魔法使いで、イントーン王家のお抱え魔術師。
王宮の中の魔法研究所で研究員をしながら、魔術指導もしている賢者。
王様にも一目置かれた魔法使い。年齢は千年とも、二千年とも言われる。
「我らが命をかけている戦場で、お前は何をする?国の命運が我らにかかっているのだぞ」
エリーレッドは怖ろしい目をする。
「答えろ。お前に何が出来る?」
「私は・・・私には、何でも取り出す万能袋。いえ、もっとそれ以上。そこらへんの万能袋には出来ない取り出しが出来るわ」
「他には?」
「分からない。何となく、他もできそうだけど、やり方が分からないわ」
慣れない戦場で、私も何かやれないかとはやってるわ。
それをそう疑いの目で見ないで欲しい。
「ルー、お前はこの隊になくてはならない存在だ この巾着、私にくれ。こいつは意志を持った。危険なやつだ。もしもお前に万一があっては困る」
「これは・・・・」
ルーは私を手に取り、どうしようか迷った。どうしたらいいかと、私に訪ねる目つきをしていたので、私はぶんぶんと首を振った。首はないからどこを振っても動かなかったけど。
「だめだ」
「本当に、役に立つ仲間なら、いいがな」
エリーレッドは私をじっと見つめ、気に入らない目つきで焚火の前の岩の上に戻した。
「我らは最後の一兵まで、魔王を倒すために戦う。お前が邪魔するなら、消えてもらう」
ええと、どうしてそこまで恨まれるの?
私は役に立ってるってば。
魔法弾薬も、回復薬も、食料も、私がいなければ、到底間に合わなかったわ。
魔法使いを張りましたい気持ち。
私にだって町で雑貨屋をやっている父母がいた、弟も。その彼らを失ったのよ。
大切な家族だった。城下町で、店を経営して、私の学費を出してくれて、そのおかげで、王宮の事務方の仕事に就くことが出来た。
家族を失ったままだなんて、いや。
もしも、取り戻せるなら、この戦いで、一瞬で消えた国の人々と共に、家族を取り戻したい。
イントーン国は、あの魔王の魔法で一夜にして消えた。
あの日の悪夢を思い出すと、私は正気ではいられない。
あれから、私はどうなったかは分からない。
けれど、あれから幾分してから、私はここに飛んで来たみたいだ。
「私だって、魔王が憎い。最後の一兵まで戦うなら、私も参戦する」
私は叫んだけれど、エリーレッド公は冷淡だった。
「どこまで出来るか、見せてもらおう」
何があろうと、私だってやってやるわ。
国一であり、大陸一の魔法使いエリーレッド・ロード。
博学多識の学者であり、白と黒の両方の魔法を使えるすごい魔法使い。
自分が賢いと思って、確かに賢いのだろうけど、私を邪魔者扱いするなんて。
素人ながら戦闘に奮闘している人間に、邪険な扱いしないでよ。
「もう、私たちだけになってしまった。最初、魔王との闘いに出たのは百十万の兵。それが、すでに今のメンバーだけになってしまった」
私が憤懣を抱えているのを見て、癒し手のアデルは、私の疑問に答えるように声を落として言った。
私はぞっとした。本当に、それほどの兵士が?
「魔王を倒すには、魔王を唯一倒せる白魔法術の封印魔法をかけるしかない。その呪文を実行できるのは、最強の魔法使いのエリーレッド・ロード公と、勇者ルー・ウェインしかいない。どちらも、神から神威を与えられた屈強な肉体を有するから、肉体を滅ぼすほどの世界最強の封印魔法が使えるの。私達は、魔王を倒す最後の手段、エリーレッド公と、勇者ルー・ウェインを、魔王との最後の戦いの場へ連れて行く守護者に過ぎない。聖女アデルという、国一の神託者も、召喚士という聖獣の使い手も、付き添いにすぎない。戦い尽きた一万の兵も、そうだった」
召喚士のガタックが付け添えた。
私は知らされた事実に、また驚いた。
なんですって?
魔王を倒せるのは、エリーレッド公と勇者ルーしかいないっての?
「多くの兵士がルーとエリーレッド公を守るため犠牲になった。我々が最後だ。もし、今後俺たちに何かあったら、もう、望みはない。我らの・・・人類の復興はない」
本当に、やばい状況だ。
もう、魔王たちと戦える人間は、私達だけ。
全人類もほとんど死んでしまった。
このまま魔王が呪いと魔力が増大したら、闇が増え、残りの人類も滅ぶだろう。
早く助けていかねば、全人類が滅びたら・・・復活するまで、相当な困難が予想される。
再び、人類が立ち上がる日が、本当に来るの?
「マリース。だから、武器弾薬を調達し、癒し薬を提供してくれる君の存在も重要だ。最後の最後まで、滅ぶなよ。頼む」
ガダックが言った。
この広い世界に・・・もう、わずか。
そう思うと、私の体はがくがくと震えた。




