14話秘密の開封
「どうしたの?奏さんに美見さんに矢井さん」
「二人が勉強するっていうから一緒にしたいなと思って。どうかな?」
好が聞くと奏でがそう言いだした。俺としては正直断りたい。好と二人の方が居心地がいいからだ。それに、奏は今日の朝も話したからいいけど、美見さんと矢井さんは今名前を知ったし個人的に話したこともない。そんな人と勉強なんてできたもんじゃない。と思っていたのだが、
「いいよ!私わからないところ多いからみんなに教えても会えると嬉しいし!」
「え?」
好はそう言った。俺に確認もなしで。
「ちょ、ちょっと好!?」
俺は焦ったせいで大声でそう好を止めてしまった。思いっきり素で。
俺が素を出したせいか、今度は好が慌てて、俺を引っ張り教室を出た。
「ちょっと好!どうした!」
「どうしたじゃないよ!いきなり驚くじゃない!」
好は少し息を上げながらそう言ってきた。俺にはどうしてか分からない。
「まったく...いきなり前の友ちゃんを出すんだもん」
「え?前の...俺?......あ!」
言われて気が付いた。さっき好を止めた時。その時の声が昔の俺。つまり、男の時の声だった。
「もう...隠さなきゃいけないことなんだからもっと注意してよ」
「ご、ごめん。でも、それは好もじゃない?」
「え?どういうこと?」
好は何もわかっていないような顔で首を傾げながら俺の方を向いてきた。
「えっと...奏さんと美見さんと矢井さんだったっけ?家に呼んだらそれこそ男だってばれるかもしれないじゃん!」
「......あ」
「あ。じゃないよ!」
普段少し抜けているところがあるからまさかとは思っていたけど、やっぱりそこは気が付いていなかったみたいだ。
「全く...どうするのさ」
「えーっと...」
「好さーん?どうしたの?」
好が考えていると、後ろから奏が声をかけてきた。俺はさっきまでの話が聞かれていないか不安だった。きっと好もそうだろう。
「それで、今さっき友樹さんが男だとかなんとか言ってたけど...どういうこと?」
「「聞かれてたー!!!」」
俺と好は急いで奏の口をふさいだ。
「ふがふが!?」
「「家に来ていいからそのことは今は触れないで!」」
「ここが森さんの家かー」
「う、うん。どうぞ上がって」
「それじゃあ、お邪魔します」
あれから俺と好と奏の三人で家まで来た。美見さんと矢井さんには申し訳ないが、理由をつけて断った。もちろん奏にも断ったことにしているから今現状のことは秘密だ。
「そういえば好さん。好さんもここに住んでるんだよね?」
「うんそうだよ。それがどうかした?」
「......いや、なんでもない」
「?...あ、お茶入れてくるね!」
好はそう言ってリビングに向かった。
「好の部屋でいいんだよね?」
「うん!奏さんと一緒に待っててー!」
俺は好にそう確認し、好の部屋に入る。女の子らしい部屋...と言えるかはわからんが、好の部屋はいつもきれいに掃除されていて、いい香りもする。
「奏さん、好きなように座って」
「うん。ありがとう友樹さん」
そう言って奏は座布団に正座する。背筋もピンと張っている。見ただけで育ちがいいとわかるほどにきれいな正座だ。俺は奏の前にミニテーブルを出し、それを囲むように座布団を二つ置いた。そして俺も正座する。
「...友樹さん?」
「は、はい」
「なんでそんなに固くなってるの...?自宅でしょ?」
奏に指摘された通り、俺は緊張で固くなってしまっていた。それはそうだ。性別のことがばれてしまうかもしれない。それもあるが一番は不慣れだからだ。今までは幼馴染や親しい友人しか招かなかったが、今日名前を知ったような友人を招くのは初めてではないだろうか?正直好と一緒なら大丈夫だとは思うのだが、今は俺一人。すぐに好が戻ってくるとは言え、それを保つのもきつい。
「えっと...まぁ、たぶん後でわかると思う...」
「?」
奏は『なんで?』という顔をしているが何も言われなかったのでその表情をくみ取ることはしなかった。
「おまたせー」
と、好がお盆にお茶とクッキーを載せて部屋に入ってきた。
「好、そのクッキー昨日の?」
「え?うん、そうだけど...」
「そっか、じゃあ後でまた焼いておかなきゃね」
「そうだね」
好はお盆ごとミニテーブルに置き、座布団に正座する。そして、
「さてと...奏さん。食べながらでもいいから、どこまで聞いてたか教えてもらえる?」
と好が切り出した。俺としては適当に話して今日聞いたことを忘れて帰ってもらいたかったが、好はそんなことせずに、正面から解決しに行くつもりらしい。
「どこまでって聞かれると...好さんが『隠さなきゃいけないんだからもっと注意してよ』って言ったあたりから全部だけど」
「ってことは聞かれてるね...」
「男だってばれるかもしれないって言ってたこと?」
完全にアウトだった。奏は俺たちの会話を完全に覚えてる上に、聞かれてはいけない部分を完全に聞かれてる。
「じゃあもう話すしかないね友ちゃん」
「はぁ...それしかないな好」
俺はもう諦めた。気が抜け完全にいつもの、家にいるときの俺に戻った。声自体はあまり変えていないので変わらないが、口調は全然違う。
「結論から言う。俺は今男なんだ」
「今?あたかも前は女だったみたいな言い方だけど...」
「その通りだ奏さん」
奏は驚いた。前は女だったという事実もそうだろうが、俺の口調が変わったことも影響しているだろう。
「...え?それはどういう...」
「この際だ、全部話すよ。他言無用で頼むよ?じゃないと学園にいられなくなるから」
俺は他言無用を絶対条件に詳しい話をした。ちなみにだが、母さんと父さんにはもう話してある。『もしかしたらばれたかもしれないから最悪の場合話す』と。二人とも『仕方ない』と言って許してくれた。もちろん話さないで済むことを祈ってるみたいな言い方ではあったけど。
「...ということだ」
「信じられない...」
詳しい話を話し終えて、奏は目を丸くして驚いていた。詳しい話と言っても一部分だけは話していない。
「そういうわけなの奏さん。それに...ね」
好の表情が暗くなり、俯き喋らなくなった。それだけで俺は察した。あの事を話すのだと。でも止める気はない。この事実があれば他言することはほぼなくなるだろう。
「...好さん?」
「...ううん、やっぱり何でもない」
好は無理やり表情を明るくし、奏に微笑んだ。俺はそれを見て心が締め付けられるように痛んだ。なんでかは分からない。でも好の顔を見た瞬間に痛んだ。この事実だけはわかっていた。
「奏さん。そういうことだから、俺が今男だってことは絶対他言無用でお願いね」
「うん、それはいいんだけど...二つ聞いてもいい?」
「何?」
奏は少し表情を暗くしてから言った。
「私の知り合いにも性転換しちゃった人がいるの。生活に問題はないんだけど、体力が劇的に落ちたって言ってて...友樹さんは大丈夫なの?」
「まぁ、確かにすごい体力は落ちた。でも生活に支障はないかな。全力疾走でもしない限りは大丈夫」
「そうなんだ...じゃあもう一つ。その...聞きにくいんだけど...」
そこでさらに奏の表情が暗くなった。それを見た俺は、あれを聞かれることを覚悟した。
「友樹さんに...命には問題はないの?」
「......」
覚悟したとはいえ、実際聞かれると改めて実感する。俺はいつ死んでもおかしくはないのだと。
「...問題がないわけじゃない。でも心配はないよ。病院の先生ももう性転換はしないって言ってたし」
「そうなんだ...ん?」
奏は何かを察したように眉間にしわを寄せた。
「それって、裏を返せば次の性転換で友樹さんが...」
「はぁ...やっぱりばれる?」
奏さんは女学園成績TOP3にいる人だ。これくらいの頭の回転は当たり前なんだろう。
「そういうこと。性転換をしないんじゃない。性転換をすれば俺の体が壊れる。つまり命が絶たれる」
「そんな...」
俺は今日奏の名前を覚えたっていうのに、こっちからすればただそれだけの中なのに、奏はあたかも親友を失ったかのような絶望的な顔をしていた。
「奏さん。友ちゃんはそれでも学園に通いたいって、強い意志を持ってたの。だからそれがばれると大騒ぎになるし、最悪退学。よくても個別の教室で授業を受けることになるから会えなくなるかもしれない。だから秘密にしてほしいの」
「うん...さすがにこんなこと言えないよ」
奏は橋上を変えずにそういった。驚きすぎて声も出なかったところを、無理やり反応したのだろう。
「まぁ、そういうことだから。とりあえず気持ち切り替えて勉強しようか。そのために家に呼んだってのもあるしな」
「そ、そうだね!じゃあ始めようか、奏さん!」
暗い空気を払ったわけではないが、勉強しないとやばいのも事実なので勉強を始めることにした。勉強中も奏は、さっきの話を気にしているのか暗い顔のままだった。
その後、気づけば夜になっていた。勉強に集中していて、窓も見ていなかったし時計も見ていなかった。
「あ、もうこんな時間!そろそろ帰らなきゃ」
「え?あ、もうそんな時間か」
最初に気が付いたのは奏だった。親からメッセージアプリで連絡が来たみたいで、気づいたみたいだった。
「もう外真っ暗だね」
「じゃあ俺は奏さんを送ってくるよ。さすがにこれだけくらいと一人にするのは危ないしね」
俺はそう言い立ち上がった。すると好に腕をつかまれた。
「好?」
「友ちゃんだって、今は男でも元々は女の子だったんだから一人では危ないよ」
「嫌だったらどうするって──」
「私も行くから!今準備するから!」
そう言って俺は部屋から出された。まぁ、俺も準備があるから別に良いが。
その後準備を済ませ、玄関に集まった。
「じゃあ行こうか」
俺たちは、夜の住宅街に出て行った。




