13話 俺の気持ち
「ゆうちゃんは今の学園に通いたいんでしょ?だったら通いなさい。男になったことを隠して、女の子として通えばいいのよ」
「「......え!?」」
俺と好は驚いた。俺はもとよりそのつもりだったが、母さんに言われるとは思わなかった。ましてや、反対されると思った。
「どうしたのそんなに驚いて?」
「い、いや...反対されると思ってたから...」
「反対なんてしないよ。ゆうちゃんが通いたくて行ってるならそれを拒むわけないでしょ?それに...」
「それに?」
「もしばれても証拠はあるからね。病院でもらった診断書がね」
「あ...」
そうか、言われて気が付いた。入学したときは女だった。その事実があれば退学はないのかもしれない。もちろん、別室での勉強と化す可能性はある。でも...まだ学校に通える。
「で、でも!友ちゃん、もしそうだとしても後が大変なんじゃ...」
「後って?」
「学校卒業したら就職するわけでしょ?女学園なのに男子で卒業って大丈夫なのかな...?」
「それは大丈夫だよ」
「どうして!?」
「それは...ね?」
俺は母さんに目配せした。これは前々から考えていたことでもあったが、まだ誰にも言ったことがない。母さんにもだ。
「ゆうちゃん?...え、まさかよね?」
「そのまさかだよ。でもこれはお父さんに言わなきゃだめだと思ってるから、まずリビングに行こう」
俺は好と母さんにそう言ってみんなでリビングに行った。同時に入ってきたからだろうか、父さんは少し驚いた表情を見せたがすぐに戻った。
「みんな一緒に降りてきてどうしたんだ?」
「お父さん、さっき話した通りよ。ゆうちゃんはこのまま学園に通う」
「そうか、友樹も大変だろうがしっかりやれよ」
「うん、わかってるよ。それとね、お父さん...」
俺は父さんの言葉にうなずいた。そして、さっき話した卒業後のことを父さんに切り出す。
「僕、女学園を卒事業したらお父さんの所で働きたいんだ」
「ほう?なんでそう思ったんだ?」
「僕、今では女の子でいたいと思ってるけど前は違ったんだ。男に戻りたいって思ってた。その時からずっと考えてたんだ。お父さんの所なら性別なんて気にしなくてもいい。そう思ったんだ。でも、この間まではほかの道も考えてた、女の子の自分を肯定し始めたから。そしたら男に戻った。ましてや女学園にいるからなおさら性別のことを気にしちゃう。卒業しても女学園から男の人の応募が来たら困るでしょ?だからお父さんの所に行きたいと思ったの」
「なるほど...」
父さんは口元に手を当て考えていた。いや、たぶん考えているんじゃなくて迷っている。俺はそう感じた。
「お父さん、どうするの?」
「...」
母さんの問いに対しても父さんは無言で迷っていた。
「お父さん!私からもお願いします!」
「好ちゃん...」
好が頭を下げた。それを見て父さんは口元に置いていた手を避け、驚いた表情をした。だがそれも一瞬。そのまますぐに表情は戻った。そして答えをくれた。
「友樹」
「うん」
「お前はうちでは働かせない」
「...え?」
俺も好も、ましてや母さんも驚いた。予想外の答えが飛んできたからだ。
「お父さん!?せっかくゆうちゃんがうちに来るって言ってるのよ!?どうして断るの!」
「母さんも分かってるだろ?友樹は今1年。3年も待ってられるかわからない状態でOKを出すのは無責任だ」
「でも...!」
母さんも必死だった。でも、この会話は俺の耳には入っていなかった。俺は下を向いたまま、予想外の出来事に放心状態になっていた。
そのあとは簡単だった。と言うか何もなかった。俺は結局父さんに断られ、進路を改めて考えなきゃいけなくなったわけだ。まだ1年だし焦る必要はないけど、気が高まってるのか落ち着かないでいた。
それから数日。何事もなく日が進み、夏休みが終わった。今日は始業式だ。あの日から特に変わったことはない。変わったと言えば...
「好ー、そろそろ行くぞー」
「うん!」
俺は口調が戻っていた。学校では前と変わらない口調で接するつもりだが、正直ボロが出そうで怖い。好が間に入ってくれるとは思うけど、あまり迷惑はかけたくないな。
そんなことを思いながら登校しているとあっという間につくものだ。好はお手洗いに行くとかで廊下で別れた。俺は教室に入る。いつも通り、ホームルームの10分前に席に着いた。ちなみにに言うが、始業式といっても午前の1時間目が始業式になっているだけでその後は通常授業になっている。
「あ、友樹さん!おはよう!久しぶり!」
「おはよう」
席に着くなり、前の席のクラスメイトが話しかけてきた。名前?いやー、クラスが俺と好含めて60人だからね、まだ覚えられてないんだ。俺の名前はなぜかクラス全員が知ってるっぽいけど。なんでそこまで覚えられるんだか...。
「友樹さん、声少し低くなった?」
「え?!そ、そうかな?」
「なんとなくそう感じるけど...気のせいかな」
「そ、そうだよ!夏休みの間会ってなかったから忘れてたんだよ!」
声が低くなった気がするといわれ、俺は冷や汗を流しながらそうごまかした。正直言うと声は少し低くなった。もちろん1回目の性転換の時に少しだけ高くなったからプラマイ0のレベルだ。でもこの学園には性転換前の俺を知っているのは好だけ。声が低くなったと感じるのも無理はない。声が低くなったのに気が付いたのは性転換してから2日後の昼頃だ。その前から少し感じる部分はあったが、好が
「友ちゃん、声が前に似てるね」
と言ったのが一番だろう。その一言で、俺は感じていたものが事実だと察した。
「あ、奏さん。おはよう。どうしたの?友ちゃんと話して」
「あ、好さん。おはよう。いやー、友樹さんの声が少し低くなった気がしてね」
冷や汗が止まらない中好が入ってきた。正直好がいるといないとじゃ、いくらクラスメイトが相手でも気の持ちようが違う。ちなみに奏と言われたのは話しかけてきたクラスメイトの名前だ。苗字までは覚えてない。
「友ちゃんの声が?気のせいじゃないかな?」
「好さんが言うならそうなのかなー」
「そうだよー。私はずっと一緒にいたけど低くなったなんて感じなかった?」
「そうなんだ?」
好は平気な顔をしてそう言った。もちろんのことながら嘘だ。さっきも言った通り好が気が付いたから俺も気が付いた。好って嘘つくの苦手なイメージがあったけどそんなことなかったみたいだ。長い間一緒にいるのに俺は好のことを知らないこと多いんだな。
「友ちゃん?」
「え!?ど、どうしたの?」
「いや、ぼーっとしてるからどうしたのかなって思って」
「な、なんでもない」
気が付けば好が俺の顔を覗き込むように見ていた。顔が近すぎて俺は驚いた。それと同時になんか気恥ずかしくなって顔をそらしてしまった。
「友ちゃん?」
「な、なんでもない!」
「ちょっと、友ちゃん!?」
そむけた顔をまた好は覗きこむようにして見てきた。逃げる場所も無く、これは席を立ち教室を出て行った。
俺は教室を出た後トイレに入っていた。
「はぁはぁ...なんなんだよ...」
俺は急いでいたせいか息切れをしていた。
「あれ?森さん?」
「え?」
声をかけられた俺は声のした方を見る。そこには東条先生が立っていた。
「どうしたの?トイレで息なんて切らして」
「あ、いや、その...」
「何かあったの?」
「た、大したことじゃないので大丈夫です!」
「あ、森さん!?」
俺はトイレを飛び出した。さすがに言えない。好を意識しちゃってるなんて。東条先生だって俺が元男だということ、今男に再び戻ったことを知らない。だから言ってしまえば同性愛と見られるのが普通。東条先生のことだし特に何も言ってはこないと思うがさすがに言えない。
トイレから飛び出した俺は再び教室に戻った。少し気まずくはあったが、いずれここに戻らなきゃいけないなら早い方がいいだろうと思ったからだ。
「あ、友ちゃんお帰り」
「う、うん」
やっぱり気まずい。でも、それを悟ってなのかあまり話しかけてくる様子はなかった。
「森さん森さん」
「え?」
肩をたたかれ顔を向けると、奏が小声で話しかけてきた。
「さっきはどうしたの?いきなり出て行って」
「い、いや、そのー...」
まただ。聞かれ方は違うが、東条先生と同じ内容を聞かれている。しかも今は隣に好がいる。小声とはいえ、答えれば確実に聞かれるだろう。いや、まず答えるという選択肢すらないに等しいが。
「あー、わかったよ森さん」
「え?」
奏では俺の肩に手を置き、うんうんとうなずいていた。そしたらとんでもない答えが返ってきた。
「実は二人付き合ってるんでしょ?それで恥ずかしくなって出て行っちゃったんでしょ?」
「え、いや、違うよ?」
流石の答えに俺は即座に否定した。だが奏はそれを聞こうとしなかった。
「いいんだよ隠さなくても。女の子同士でもそういうことあるもんね。私偏見は持たないから。応援するよ!」
そう言って親指を立て、グーサインを出した。もうこの際そういうことにしておこう。元々本音を言うつもりもなかったが。
「皆、おはようございます」
気が付けば時間が過ぎ、東条先生が教室に入ってきた。どうやらもうホームルームの時間のようだ。皆自分の席に着き始めた。先生が入ってくるとみんな何も言わずに自分の席に行くあたり育ちがいいと感じてしまう。これが普通な気もするけどな。
「それじゃあホームルームを始めるよー」
ホームルームが終り、授業が終わり昼休みになった。昼は中学同様好みと一緒に一つの弁当をつついている。クラスの大半は学食を食べに行っているので教室は意外と静かなものだ。
「友ちゃん、勉強追いついてる?」
「うーん、なんとかって感じかなー」
「やっぱり友ちゃんはすごいなー。私は結構厳しいよ」
「そうなの?言ってくれれば見てあげるのに」
「友ちゃんも大変そうにしてたから言えなかったの」
「確かに大変だけど何とか追いついてはいるから大丈夫。それより好の方が心配だよ」
「心配してくれるのはうれしいけどやっぱり友ちゃんは友ちゃんのことを優先してほしいから」
「ありがとう。でも本当にきつかったら言ってね?」
「うん!」
好は自分が大変でも、俺のことを先に考えてるから本当に心配だ。ましてやこの学校は有名なだけあって、他の学校よりも赤点ラインが少し高い。俺の知っているところじゃ普通は100点満点で30点未満だったり、平均の半分未満が赤点扱いだ。でもこの学校は満点の半分。つまり100点満点なら50点未満。50点満点なら25点未満が赤点になる。好は夏休み前の期末テストでぎりぎりの赤点回避だった。俺は全教科80以上取れていたので問題はなかった。もちろん結構勉強したが。そしてこの学校、新学期そうそうテストがある。学力を一定以上に保つため、長期休暇の後にテスト行うのがこの学校の古くからの伝統らしい。
「好は来週のテスト大丈夫そう?」
「テストの範囲ってこの前の期末テストと同じだったっけ?少し苦手なところが多いんだよね」
「なら今日一緒に勉強しようか、お...僕も勉強しなきゃだから」
「そう...だね。一緒に勉強しようか」
「うん」
言ってから気が付いた。一緒に勉強するってことは好と一緒の部屋に居るってことだよな?朝の出来事がぶり返さなきゃ大丈夫だとは思うが、正直気が持つか分かんねぇ。
「あ、もう少しで時間だね。食べちゃおうか」
「そうだね」
昼の時間が無くなりつつあるのに今気が付いて好が言った。急いで...というわけでもないが弁当に残っているおかずを食べ弁当箱をしまった。
午後の授業が終り、放課後になった。
「じゃあ友ちゃん、帰ろうか」
「うん、帰ろうか」
俺は好と一緒に教室を出ようと、席から立ち上がった。
「まって二人とも!」
「「え?」」
立ち上がった瞬間に話しかけられそちらを見る。そこには奏とあと2人のクラスメイトが立っていた。俺はその二人の名前を覚えていないが、顔は見たことある。まぁクラスメイトだしあたり前だけど。
「どうしたの?奏さんに美見さんに矢井さん」
「二人が勉強するっていうから一緒にしたいなと思って。どうかな?」
好が聞くと奏でがそう言いだした。俺としては正直断りたい。好と二人の方が居心地がいいからだ。それに、奏は今日の朝も話したからいいけど、美見さんと矢井さんは今名前を知ったし個人的に話したこともない。そんな人と勉強なんてできたもんじゃない。と思っていたのだが、
「いいよ!私わからないところ多いからみんなに教えても会えると嬉しいし!」
「え?」




