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魔導士嫌いな剣術流派の筆頭弟子ですが顔隠して魔女コス魔術配信してます  作者: にゃー


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 るるという名前を、聞いたことのある声で呼ばれた。

 芯の通った、けれどもどこかくたびれた色を纏う女性の声で。


「ぁ、ル、ルベラさんっ……」


 振り返った先、棚一つ分の距離を空けた先にいたのはルベラさんその人。この距離、この喧騒の中でもすっと声が耳に入ってきたのは、やはりその凛とした声質のお陰なのだろうか。


「後ろ姿と……それからブレスレットで、もしやと思いましたが」


「す、すごい偶然ですねっ……」


 わたしはもちろん、ルベラさんのほうもこんなところで会うとは思っていなかったんだろう。すぐ側まで近づいてきた彼女と二人して、少しの驚き顔を見合わせる形に。


 仕事帰りなのだろうか、前に会ったときよりもかっちりとしたスーツ姿。手に下げた買い物かごには……全体的に茶色の目立つお弁当と、お酒らしき缶やボトルがいくつか。わたしの視線に気付いたのか、魔導士協会の部長さんは少し恥ずかしそうに微笑んでみせた。


「こ、これはお恥ずかしいものを……」


「ぃいいえ……お、お仕事、お疲れ様ですっ……」


「ありがとうございます。今とてつもなく癒されました」


「そ、それは良かった、です……?」


 相変わらず、少し変わった褒めかたをしてくれる。

 直接会うのは前回ぶりだけど、変わりないようでなによりです。


 

「──んー、お姉さん。()()の知り合い?」


 

 ……ぁ、しまった、シュレーナさんをほったらかしにしてしまっていたっ……!

 い、いや、違くて……忘れていたとかでは当然ないんですけれどもっ、あの、陰キャは複数人での会話というのができない哀れな生き物でぇ……

 でで、でもそこはさすがのシュレーナさんっ。呼び名に気を遣いつつ、スムーズに会話に参加してくれる。ルベラさんのほうもごく自然に、切れ長な眼差しをすーっとシュレーナさんへ向けた。

 どちらもコミュニケーション強者の振る舞い、み、見習わなくてはっ……


「……ええ、初めまして。るるさんには、ルベラと呼んでいただいています。貴方は?」


「はじめましてー。あーしはぁ……この子の幼馴染、的な?」


「え、えっと、幼馴染のシューちゃんですっ。シューちゃんこちらは、いつもわたしの配信を見てくださっているルベラさんっ」


 わたしも置いていかれないよう、二人をそれぞれ紹介する形で会話に混ざり続ける。シュレーナさんの本名は隠しつつ。シュレーナさん発案の“外でなにかあったとき用のあだ名”がバッチリ役に立っていた。さ、さすシュレ……!


「幼馴染……シューちゃん……」


「どーも。まああーしのことは適当に呼んでもらって」


 わたしを挟む形で、ルベラさんとシュレーナさんが正面から向かい合う。形だけ見れば、まるでこれから決闘でも始まるんじゃないかという構図で少し面白い。


「しっかしるるのリスナーさんかぁ……配信頑張ってるんだねぇ」


「は、はい、頑張ってます……!」


 さすがにリスナーさんの手前とあってか、シュレーナさんもるるとしてのわたしを褒めてくれた。お世辞のようなものかもしれないけど、でもやっぱり、う、嬉しい。へへ……


「最初の配信からずっと観ていますが、るるさんは本当に素晴らしい配信者ですよ。もはや生き甲斐です」


「いや重……思ってたより熱心なリスナーさんがついてるみたいで。幼馴染としてあーしからもお礼をば」


「いえいえ、貴方に礼を言われるようなことではありませんよ」


「まあそー言わずに」


「いえいえ」


「あは」


「ふふ」


 ……も、もう打ち解けてる……!

 

 すごいなぁ……やっぱりデキる女性というのは、初対面でも円滑に会話を進められるものなんだなぁ……このお二人相手にすら永遠にどもっているわたしには、遥か遠い高みだ……

 タイプの違うデキる女性オーラを左右から浴びて、思わず小さく縮こまってしまう。会話に混ざり続けるっ、などと調子に乗っていた一分前の自分が恥ずかしい。


 ……そんな陰気女の哀れな姿に気付いたのか。

 二人の会話が途切れた一瞬に、シュレーナさんはわたしへ視線を向けてから、ふっと笑ってくれた。


「……さて、と。なにやらラッキーなご対面だったみたいだけど……ごめんねぇお姉さん。るるはこれからあーしと用事があって────待った」


 そしてそのまま、巻き戻しのようにふっと笑みが消えた。


「……?」


「るる」


「は、はい……?」


 平坦な声。つい一週間ほど前に聞いたものとほど近い、静かな圧力を伴った言葉。

 突然ただならぬ雰囲気へと変貌したシュレーナさんに、背筋がひりつくのを感じる。


「……ルベラさん、だったっけ? なんでリアルのこの人知ってんの? ただのリスナーさんなんっしょ?」



「あ、以前に一度……直接お会いしてますので……?」


「………………は??」


 圧が、増した。

 より強大に、より鋭く。


「リスナーと? 直接? 会った? ……なんで? どーいうこと??」


「ぇ、ぇっと……ルベラさんのほうから、会ってお話してみたいって連絡をいただいて……わたしも気になっていたので、はい、と……」


 シュレーナさんの様子に困惑しつつも、わたしとしては話せる範囲で話すしかない。


 魔導士協会部長職は繋がりを作るには良い相手だと思った。文面から感じられる『るるチャンネル』への熱意も嬉しかったし。打算と本心混じりの、我ながら酷い振る舞い。 

 罪悪感がないとは言わないけれど、それで立ち止まれるような話でもない。だからわたしは、いろんな意味で、ルベラさんと出会えて良かったと思っている……ん、だけども。


 微笑むルベラさんに反して、どうしてだかシュレーナさんは「いや、いやいやいやいや……」と呻き声を漏らしている。さっきと同じように眉間に指を当て、しかしさっきとは逆に顔を俯かせながら。


「シューちゃん……?」


 心配になって覗き込んだ──その瞬間に、ぐっと顔を寄せられた。ちょ、ちょっとその、人目のあるところでそれは近すぎるのでは? というくらいの距離まで。いやあの、人目がなければ良いという話でもないけど……ぁっ、シュレーナさん、完全に目が据わっている……


「…………はぁーーーーーーーあのさ、ハ……るる。なにやってんの? 絶対駄目なやつじゃんそれ」


「ぇ、ぇ、その……?」


 駄目、とは。


 怒りのようなものは感じる。同時に、こちらを心配してくれているような雰囲気も。

 わたしがその真意へ考えを巡らせるよりも前に、シュレーナさんの口から爆弾が投下された。


 

「いや完全にヤリ目じゃん」


 

「……や、り……?」


 “やり”と“もく”。


 

「…………ヤリ!?!?」

 

 ヤリ目!?!?!?!?!?


 

「んなっ、ななに言ってるんですかシュルぇーーーーちゃんっ……!?」


「そ、そうですよっ、突然なにを……!」


 わたしにしては大きな声が出てしまって、慌てて周囲を見渡す。幸いお店自体がとても賑々しく、ほかのお客さんの喧騒も結構なものだったから、変に注目を集めることはなかったみたい。同じく声を上げてしまったルベラさん共々、ほっと胸をなでおろす。

 

 対して、元凶であるシュレーナさんはますます眉間にシワを寄せて、とてつもなく冷たい声をルベラさんへと向けてきた。


「いやお姉さんさ。流石に言い逃れのしようがないでしょコレ。うちのるるに変なことすんの止めてくれる?」


「い、いい、言いがかりです。私はただ純粋に、るるさんと魔術を語らいたいだけで……」


 シュレーナさんの、怒りの感情の向かう先が分かった。明確な敵意を帯びた声と視線が、ただルベラさんへのみ向けられている。打刀の切っ先すら幻視するほどの鋭さで。

 怒ったシュレーナさんというのは本当に怖くて、さしものルベラさんも気圧されてしまったのか、少し目が泳いでいる。というか、すみません、あいだに立ってるわたしも怖い……


「るる、こっちおいで」


「わっ、ぁっ」


 脚をすくませているあいだに、シュレーナさんに腕を引っ張られてしまった。引き寄せられたというか、あ、あの、ほぼ抱き寄せられたような格好になってしまっているんですがこれは大丈夫なのでしょうか……なんて言ってる場合ではない……!!


「な、あ、貴方こそっ、幼馴染とは言え随分と勝手な振る舞いではないですかっ」


「あーしにはこの子を守る責務がある。ま、この感じじゃ実際になにかしたってわけじゃなさそうだけど……なんにせよ、あんたをこれ以上、この子に近づけるわけにはいかないよね」


「……っ、ちょ、ちょちょ、っと、待ってくださいっ……!」


 どうにか割って入るように声を出しながら、わたしは肩を抱くシュレーナさんの手に自分の手を重ねた。痛くはないけれども、ぎゅっとこわばったその手指を落ち着けるように。ルベラさんの名誉のためにも、わたしが誤解を解かねば……!


「その、シューちゃん? ルベラさんは本当に、そういう人ではなくって……!」


「…………」


 そ、そりゃあ、DMが届いた当初こそ少し怪しくも感じたけれど……でもそんなの、内容を読めば大丈夫だってすぐに判断できたし……! そんな、本当にいやらしい感じだったらわたしだってすぐ気付くし……!


 と、いうようなことを、必死に弁明する。かなりしどろもどろになりながら。


「……いや。あの格好を普通だと思ってるるるの“気付く”は一切信用できないから」


「ふ、普通ですよ格好も……!」


 なぜか衣装の話にまで戻ってきてしまった……! に、二重に責められているっ、なぜ……!?

 あ、そ、そうだ格好と言えば、これならっ!


「と、とにかくルベラさんは本当に、前に会ったときも魔術のことをいろいろ教えてくれただけで……ほらこのブレスレットだって、ルベラさんがオススメしてくれたんです……! 初心者用の良い補助魔導具だって……!」


「……へぇーーーーーー……」


 あれぇますます声が低くなってしまった……!?

 そしてルベラさん、急に勝ち誇った顔になるのはなぜ!?


「いかにも私がプレゼントしたものです。るるチャンネルのさらなる発展を願って。邪な意図は一切ありませんし……現にるるさんもこうして普段遣いしてくださっている様子」


「どうだかねぇ……」


「むしろ貴方のほうこそ、少々束縛が強過ぎるのではないですか? 幼馴染とはいえ、るるさんが自身で決めたことにこうも口を挟むなど」


「さっきも言ったっしょ。あーしにはこの子を守る責務がある」


「そのせいでるるさんが困っていても、ですか?」


「なっ、そ、れは……」


 な、なんということだろう……! 怒ったシュレーナさんを抑えられる人が師範代以外にいただなんて……!

 い、いやでも違うんですっ、わたしはルベラさんへの誤解を解きたいだけで、シュレーナさんを責めたいわけではないんです……! 困っているというか、その、たしかにちょっと困ってはいますけども、でも、あのぉ……!


「……そもそも、なぜ貴方たちはこんな場所に? このコーナーの衣装、幼馴染同士で物色するにはあまり相応しくないように思えますが」


 また衣装の話ぃ!?


「ぐっ……い、いやべつに……この子の配信衣装ここで買ったっていうから、一応、見に来てみただけだし……あわよくばなんか買ってこうとかまったく考えてなかったし」


「声が震えていますよ」


「てか“相応しくない”とか言っちゃうんだったらさ、それ着て配信してるこの子のこと、そういう目で見てるってワケじゃんね?」


「な、は、一体なにを言っているのかっ……私はただ、ローブという現代魔導士界隈では失われつつある伝統を重んじるるるさんの姿勢に感銘を受けただけであって」


「いや目ぇ泳ぎすぎでしょ」


 ……どうして、争いは起こってしまうのか。

 わたしが、うまく説明できないからか。うまく二人の間を取り成せないからか。


 それはつまり──


「──わ、わたしがぁ……コミュ力クソ雑魚髪へちょ声ぺしょ陰気女だからぁ……」


「「!?!?」」


 もう本当に、あり得ないくらい情けない声が出てしまった。

 こんなわたしに良くしてくれる二人を、無駄に言い争わせることしかできない。


「ちょっハr、るるっ!?」


「るるさん!?」


「ルベラさんはぁ゙っ、本当に良い人でぇ……っ゙! シューちゃんもぉ゙っ、ちょっと早とちりしてるだけでぇ……! ヴェッ……」


 泣いてない。泣いてはいないけど、自分の不甲斐なさに怒りが込み上げてきた。

 

「あーーーーーー待って、分かったごめんっ、ちょっとだけあーしが悪かったかもしんないっ……! うん、一回あのっ、ちゃんと話聞くから。ほんとごめんっ……!」


「すみません私も冷静ではなかったかもしれないですっ、決して、決してるるさんの落ち度では……!」


「ち、力が……力が欲しいぃ゙……! 全てを解決する圧倒的なコミュニケーション(ヂカラ)がぁ゙……!!」


「うわぁこれほんとにテンパってるときのやつだ……!」


「るるさん顔がっ、顔が闇堕ち寸前の女剣士みたいになっちゃってますっ」



 ドカアァァァアアアアアアンッッッ!!!!!

 


「「もうなに次はァ!!!」」



 …………なんか、店の外で大きな音がしたような??


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