鼻血の後輩
「先輩、デートしましょう」
「……カメラか?」
「はい!」
西宮を部屋に招き入れて早々に言われるから、とりあえず手洗ってこいと送り出してから考える。
あれから西宮は本当にカメラにハマったようで、いろんなところへカメラを持ち出してはひたすら撮っている。
主に、俺を。
「それで、今入っていける噴水があるみたいで!」
「終わってから話せ!」
どうしても待ちきれなかったのか、洗面所から西宮の張り上げた声が聞こえるからちょっと笑った。
「そ、それで」
「はいはい」
手洗いうがいを終えてこちらに来た西宮に巻き付かれながら、俺は西宮の体からカバンを外してやる。
外を歩いてきて、なんなら走ってきたのか、西宮の体は熱く、火照っていた。
「夜にはライトアップもされるらしくて」
「へぇえ」
「一緒に行きませんかっ」
「いいよ」
「えへ……」
嬉しそうに笑う西宮から、キスが降ってくる。
けれど俺はその唇を回避して、冷蔵庫へ向かう。
「っこら離せ」
「俺のキスより大事なものがあるんですかっ」
「あるだろそりゃ!」
お前の水取りに行くんだよ!と言うものの、腰から西宮の腕は離れなくて、そのまま引きずって冷蔵庫へと行く。
「重い、離せっ、ばか」
「一回、一回キスしましょう」
「先に水を飲め!お前顔真っ赤だぞ」
振り返ってみればやっぱり真っ赤で、帽子とか被った方がいいんじゃないかと思う。
でも被れって言っても被らなそうだしな。
勝手にプレゼントとして渡せば被るかな。
そんなことを考えていたら、隙ありとキスしてきた西宮に今度こそ捕まって、唇が触れる。
「ん、」
「っ先輩」
しょうがない、ここは年上の俺が一旦折れてやって、後からちゃんと水を。
「ん、ん……!?」
仕方なくキスに応じていたら、何かが、垂れてきて。
汗かと思いきや、目の前の西宮が、鼻血を出しているから引っ叩く。
「おまっ、ばか、だから言っただろ!」
「へ?」
「鼻血!」
「……あ」
暑さにやられた西宮は、先輩の色気で……えへ……とか照れていたけれど、家に着いたらまず水分補給、が今後俺たちの決まりになった。
「大丈夫か?」
「はい、もう大丈夫です。すみません」
「いやいいけど……」
「でももうちょっとこのままがいいです」
「……」
西宮の鼻血は割と直ぐに止まって、けれどちょっと頭がふらつくというので、その、膝枕を、していて。
男の膝枕なんて別によくないだろと言ったけれど、先輩の膝枕だからいいんですと言われたら、それ以上言い返せなくて大人しくしていた。
軽い熱中症か、と思いながら水のボトルを頬に当ててやって、それから頭を柔く撫でる。
気持ちよさそうに目を閉じた西宮は、いつもと違って大人しくて、なんだか少し調子が狂う。
「今度帽子買いに行こう」
「帽子、ですか?」
「そ。お前いつも俺の部屋に来てくれるだろ。だから日除け」
「……先輩やさしい」
「はあ?」
俺の膝の方を向いていた西宮が、俺の腹の方を向いてきて、腰に腕が回される。
お腹に西宮のおでこが当たってくすぐったくて、少し笑うと西宮も笑う吐息が聞こえた。
「先輩大好きです」
「……」
「俺いつもすぐ手を出しちゃうけど、本当に大好きです」
「……すぐ手を出す自覚はあったんだな」
「へへ」
暑さでバテて弱っているのか、少し眠そうな声で気持ちを伝えてくれる西宮。
その耳や頬を撫でてやると、手が掴まれて、キスされる。
「言った側から」
「……だって」
「今日は大人しくしとけ」
な、ってペットボトルを西宮の首に当てると、西宮は俺の手を掴んだまま、目を閉じる。
「あ、待て寝るならトイレ行かせろ」
「っふふ」
実はちょっと前から我慢していたから、西宮が退くのを待ってトイレへ行く。
ついでに冷えた新しい水を持っていくと、西宮が抱き付いてくるからそのまま倒れて、俺も一緒に少し眠った。
「先輩」
「おー、お疲れ」
西宮と食堂で合流して、カウンターに並んで座る。
いつぞやはスマホで操作を教えるために並んで座っていたけれど、最近は特に理由がなくてもこうして並んで座ることが多い。
カウンターだと人が少ないし、西宮は距離が近くて嬉しそうにするから、仕方なく。
「今日もうどんですか?」
「いや、今日は俺も定食にしようかな」
「えっっ!」
「うるせぇ」
お前の声はよく届くんだから自覚しろ、と軽く叩くと、その触れ合いすらも嬉しいみたいな顔で西宮が笑うから呆れる。
それから一緒に注文に行くと、西宮は普通サイズのうどんを頼むから驚いた。
「お前、定食じゃなくてよかったのか?」
「はい、今日は先輩と交換デーです」
「……なんだそれ」
なんだそれ、本当に。
ちょっと胸がきゅっとしたから悔しい。
たまには西宮のお気に入りを食べてみるか、と定食を選んだ気持ちまで見透かされているような気がして少しむずむずする。
だから胸を擦って高鳴りを散らしていたら、軽く西宮が二の腕に当たってくるから傍を見上げて。
その顔は誰が見ても分かるほど愛しいと書かれていて、目を逸らすついでに脇腹を突く。
「うぐっ」
「雑魚」
「……」
その夜仕返しとばかりに散々鳴かされたから、大変悔しいけれどもうしないと誓った。




