理想の先輩
結局、寝て覚めて触れ合って寝て、そんなことを繰り返していたらとっくに夜で。
「もうお前……呼ばない……」
「なっ、なんでですか」
「泣くなよばか」
ヘトヘト故に言えば、西宮が顔をしわくちゃにするから抱き寄せる。
そうしたら擦り寄ってくるのだから、こいつなんだかんだ図太いよなと思う。
「好きです、先輩」
「……俺も」
「えっ!!」
「うるせぇ」
西宮は俺がお兄さんぶって、好きだぞ、という言葉と共に輝かしい笑顔(当社比)を見せていた時より、こうして気持ちを不器用に返す方が嬉しそうにする。
お兄さんぶってた時も照れて嬉しそうではあったけれど、何か西宮には伝わるものがあるのだろうなと思う。
喜ばせたい好きと、本心の好きの差が。
「西宮……俺と付き合いたい?」
「えっ、はい、それはもう、もちろん」
「……そっか」
西宮を抱き寄せたまま、考える。
三ヶ月先の未来について考える。
こんなに好きで、好かれてもいて、大切にしたくて、もっと一緒に居たくて。
そんな西宮が願うなら叶えてやりたい。
付き合いたいと願ってくれるなら、叶えてやりたい。
けれどどうしてもチラつく別れに、どうしたって怖くなる。
いつかくるかもしれない別れじゃない。
俺の場合ほぼ確定で、三ヶ月経てばくる別れで。
その対策を島田と話して掴みかけているけれど、確証は無かった。
だって前例がないのだ。
三ヶ月以上も続けられた、前例が一つもない。
「……先輩?」
聞くだけ聞いて黙ってしまった俺を気にしてか、西宮が腕の中で動く。
けれど俺はその西宮を抱き締めたまま、言葉を零す。
「……かっこ悪いけどさ、俺、お付き合いが三ヶ月以上続いたことないんだよ」
「へ」
「だから西宮と付き合うのが怖い」
「……先輩」
「俺西宮と別れたくない」
腕の中で動く西宮を、押さえつけるように抱き締める。
今顔を見られたら、泣くと思ったから。
後輩に別れたくないなんて言って、無様に泣くのは嫌だった。
「先輩、先輩……顔見たいです、先輩」
「無理」
「むっ!?む、無理ですか……」
「……」
寂しそうな声に、つい腕の力が弱くなる。
西宮は少し迷ったような後、静かに顔を上げて。
「先輩……」
困り笑いを見せるから、胸が痛くなる。
俺のせいで困らせたくはないのに。
西宮にはいつも笑っていてほしいのに。
「俺、多分西宮が初恋なんだ。失いたくないって初めて思ってる。だから本当、嫌なんだよ」
「……」
「でも島田に相談したら、話し合いだって。なあ、西宮の理想ってどんな人?」
「へ、理想……ですか」
「うん」
少し上体を起こして、西宮の顔を見る。
西宮はどこか斜め上を見て、じっと考えていた。
「考えたことがなくて……直ぐには思い浮かばないです。でも……」
「でも?」
「でも、俺は先輩がうどん食べてる姿、ずっと見てたいです」
「……はあ?」
うどんんん?と思う。
確かにほぼ毎日ミニうどんを食ってはいるが。
それをずっと、って。
「お前俺を卒業させない気か?」
「いっ、いえいえいえ!」
「冗談だよ」
笑って西宮の額を柔く叩くと、西宮はぽかんとした後、照れたような顔で笑う。
「俺は先輩が何歳になっても、うどんでも、うどんじゃなくても。先輩の寝てる姿でも、歩いてる姿でも、なんでもいいです。俺はずっと先輩を見ていたい」
「……」
「答え……に、なってますかね」
へへ、と笑う西宮を、じっと見つめてからキスをする。
そうしたら、散々もっと深いキスもえろいこともしてきた癖に、真っ赤になるのだからズルいよなと思う。
それから西宮からもキスがくるから、俺はそっと目を閉じて受け入れた。
西宮からは、『理想の人』という像が出てこなかった。
すなわち俺は、理想を叶えようと、何かに寄せたりする必要がない、ということで。
西宮の理想は俺を見ていることだと言った。
俺が何をしていようが、その俺を見ていることが理想そのものなのだと。
それは難しいようでいて、要は俺は俺のままで良いということなのかと解釈する。
俺が俺のままで居られるなら、多分それはきっと、島田の言っていた『一生続く濃さ』なんて、意識せずとも叶えられることで。
「俺、お前と長く一緒にやっていきたい」
「っ、俺もです」
「……付き合うか、西宮」
「っはい……!」
まだ、三ヶ月先が怖いけれど。
長く一緒に、と心から思えたことが初めてだったから。
「大切にする」
三ヶ月先じゃなくて、今日を、明日を、西宮を。
「好きだぞ」
「っ、はい、俺も、大好きです」
泣いている西宮を抱き寄せて、その背中を軽く叩く。
だから俺を超えていくなよって笑えば、西宮が泣きながら笑うから、キスをした。




