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先輩、好きになってもいいですか。  作者: 雨宮ツムグ


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10/17

理想の先輩

結局、寝て覚めて触れ合って寝て、そんなことを繰り返していたらとっくに夜で。

「もうお前……呼ばない……」

「なっ、なんでですか」

「泣くなよばか」

ヘトヘト故に言えば、西宮が顔をしわくちゃにするから抱き寄せる。

そうしたら擦り寄ってくるのだから、こいつなんだかんだ図太いよなと思う。

「好きです、先輩」

「……俺も」

「えっ!!」

「うるせぇ」

西宮は俺がお兄さんぶって、好きだぞ、という言葉と共に輝かしい笑顔(当社比)を見せていた時より、こうして気持ちを不器用に返す方が嬉しそうにする。

お兄さんぶってた時も照れて嬉しそうではあったけれど、何か西宮には伝わるものがあるのだろうなと思う。

喜ばせたい好きと、本心の好きの差が。

「西宮……俺と付き合いたい?」

「えっ、はい、それはもう、もちろん」

「……そっか」

西宮を抱き寄せたまま、考える。

三ヶ月先の未来について考える。

こんなに好きで、好かれてもいて、大切にしたくて、もっと一緒に居たくて。

そんな西宮が願うなら叶えてやりたい。

付き合いたいと願ってくれるなら、叶えてやりたい。

けれどどうしてもチラつく別れに、どうしたって怖くなる。

いつかくるかもしれない別れじゃない。

俺の場合ほぼ確定で、三ヶ月経てばくる別れで。

その対策を島田と話して掴みかけているけれど、確証は無かった。

だって前例がないのだ。

三ヶ月以上も続けられた、前例が一つもない。

「……先輩?」

聞くだけ聞いて黙ってしまった俺を気にしてか、西宮が腕の中で動く。

けれど俺はその西宮を抱き締めたまま、言葉を零す。

「……かっこ悪いけどさ、俺、お付き合いが三ヶ月以上続いたことないんだよ」

「へ」

「だから西宮と付き合うのが怖い」

「……先輩」

「俺西宮と別れたくない」

腕の中で動く西宮を、押さえつけるように抱き締める。

今顔を見られたら、泣くと思ったから。

後輩に別れたくないなんて言って、無様に泣くのは嫌だった。

「先輩、先輩……顔見たいです、先輩」

「無理」

「むっ!?む、無理ですか……」

「……」

寂しそうな声に、つい腕の力が弱くなる。

西宮は少し迷ったような後、静かに顔を上げて。

「先輩……」

困り笑いを見せるから、胸が痛くなる。

俺のせいで困らせたくはないのに。

西宮にはいつも笑っていてほしいのに。

「俺、多分西宮が初恋なんだ。失いたくないって初めて思ってる。だから本当、嫌なんだよ」

「……」

「でも島田に相談したら、話し合いだって。なあ、西宮の理想ってどんな人?」

「へ、理想……ですか」

「うん」

少し上体を起こして、西宮の顔を見る。

西宮はどこか斜め上を見て、じっと考えていた。

「考えたことがなくて……直ぐには思い浮かばないです。でも……」

「でも?」

「でも、俺は先輩がうどん食べてる姿、ずっと見てたいです」

「……はあ?」

うどんんん?と思う。

確かにほぼ毎日ミニうどんを食ってはいるが。

それをずっと、って。

「お前俺を卒業させない気か?」

「いっ、いえいえいえ!」

「冗談だよ」

笑って西宮の額を柔く叩くと、西宮はぽかんとした後、照れたような顔で笑う。

「俺は先輩が何歳になっても、うどんでも、うどんじゃなくても。先輩の寝てる姿でも、歩いてる姿でも、なんでもいいです。俺はずっと先輩を見ていたい」

「……」

「答え……に、なってますかね」

へへ、と笑う西宮を、じっと見つめてからキスをする。

そうしたら、散々もっと深いキスもえろいこともしてきた癖に、真っ赤になるのだからズルいよなと思う。

それから西宮からもキスがくるから、俺はそっと目を閉じて受け入れた。

西宮からは、『理想の人』という像が出てこなかった。

すなわち俺は、理想を叶えようと、何かに寄せたりする必要がない、ということで。

西宮の理想は俺を見ていることだと言った。

俺が何をしていようが、その俺を見ていることが理想そのものなのだと。

それは難しいようでいて、要は俺は俺のままで良いということなのかと解釈する。

俺が俺のままで居られるなら、多分それはきっと、島田の言っていた『一生続く濃さ』なんて、意識せずとも叶えられることで。

「俺、お前と長く一緒にやっていきたい」

「っ、俺もです」

「……付き合うか、西宮」

「っはい……!」

まだ、三ヶ月先が怖いけれど。

長く一緒に、と心から思えたことが初めてだったから。

「大切にする」

三ヶ月先じゃなくて、今日を、明日を、西宮を。

「好きだぞ」

「っ、はい、俺も、大好きです」

泣いている西宮を抱き寄せて、その背中を軽く叩く。

だから俺を超えていくなよって笑えば、西宮が泣きながら笑うから、キスをした。


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